一難去ってまた一難
アサヒ「モニュモニュ、うめぇ」
マカナ「う〜ん…」
私はアサヒと一緒に帰路を手を繋いで歩いている。アサヒは目を輝かせながらドブガエルの邪神の肉と臓器をリスのように美味しそうに食べている。どうやらアサヒの服を買った時に入れたビニール袋に、ドブガエルの邪神の肉と臓器を詰め込んでいたようだ。
あんな不味い、というか毒物を美味しそうに食べるなんてアサヒのお腹の中はブラックホールのようになっているのだろうか?
マカナ「そういえばアサヒは何故ドブガエルとの戦いの時に光輝弾を使わなかったんだ?あれを使えば苦戦はしなかっただろ?」
私は思い出したかのようにアサヒに話しかける。
アサヒ「え!?それは…」
アサヒが苦笑いをして考えていた。何か拙い事でも聞いたのだろうか?
マカナ「別に言いたくなければ言わなくていいぞ?」
アサヒ「いや、隠すような事じゃないんだけどさ。何というか、我ながら情け無い事に光輝弾は燃費が悪いし使い辛いんだよ。だから出来ればあまり使いたく無いんだ」
マカナ「そうだったのか」
それは知らなかった。私から見たらアサヒは光輝弾を簡単に出してバリエーションをすぐに増やしていたから、てっきり使い易いものかと思っていた。
アサヒ「あ、ヒマリだ」
アサヒが邪神の臓器を持ちながら歩道橋へ指を指す。ヒマリは放心状態で、走る車をじっと見ていた。
アサヒ「なんかヒマリ、元気が無さそうだな…そうだ。マカナ、ヒマリの所に行って挨拶しに行こうぜ」
マカナ「そうだな。ただアサヒ、もう少し綺麗に食べないと駄目だぞ?」
私はハンカチをズボンから出してアサヒの口の周りに付いている邪神の血を拭いた。
― 歩道橋 ―
アサヒ「ようヒマリ!奇遇だな!」
ヒマリ「あ、アサヒとマカナ…え?」
アサヒの挨拶にヒマリが反応したが、アサヒを見た途端にヒマリは固まった。そして笑顔になってとんでもない事を言い始めた。
ヒマリ「なるほどーアサヒはマカナにメス堕ちしたのかー」
アサヒ・マカナ「違う!!」
私とアサヒは全力で否定したが、ヒマリは話を続けた。
ヒマリ「えー、別に恥ずかしがらなくていいよ?アサヒがまるで悪い人に分からされて如何わしい女の子の格好をする事になった、みたいで似合ってるよー」
マカナ「如何わしい!?」
アサヒ「メス堕ちが似合うなんて嬉しくないんだけど…」
私とアサヒはショックを受けていた。私のカッコいいと思っていた服が如何わしい服だったなんて…
マカナ「アサヒ、やはり買い直した方が良いのでは?」
アサヒ「嫌だね」
私は悲しい顔でアサヒに買い直すように言うが、アサヒは断った。
マカナ「しかし」
アサヒ「これはマカナが初めて俺の為に買ってくれた服だ。周りの人間がどう思うかなんて関係無い、大事なのは気持ちだ」
アサヒは腕を組んで頷いていた。
マカナ「うぅ、アサヒ…」
私はまた泣きそうになる。アサヒはアキナみたいな良い子なんだな。
ヒマリ「気持ちか…」
ヒマリが少し下を向いて遠い目をしていた。
アサヒ「そうそう、だから周りが俺を如何わしい子だと思っていても俺は脱ぐつもりは無いし、マカナから頼まれても断る」
アサヒは誇らしげに話すが、私から見ればただ可愛いだけだ。
ヒマリ「なんだか、アサヒがどういう子なのか少し分かった気がするよ」
ヒマリが笑顔になって恋人のようにアサヒの右腕を組んだ。
ヒマリ「でももっとアサヒの事知りたいなー」
アサヒ「わわ!顔近い」
アサヒは赤を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。ヒマリに少し嫉妬してしまったが、私にはアサヒを独り占めをする資格は無い。
アサヒ「俺の事を知りたいかぁ…逆に俺が知りたいよ」
ヒマリ「そっか、アサヒは記憶喪失なんだっけ?でもアキナとアカリから聞いたけど、アケミとユミコの事は思い出したんだよね」
アサヒ「そうだけど、別れた時しか思い出していないから彼女達とはどんな関係かは分からないんだ」
ヒマリ「ふーん、でも彼女達とは関係があったんだ。しかも1人の少女を守れなかったって言ってたらしいよね?ひょっとして実はアサヒが大邪神を倒したんじゃない?」
マカナ「そ、そんな馬鹿な!!?」
突然ヒマリが変な事を言うものだから思わず大声で驚いてしまった。
アサヒ「ははは!ヒマリは変な事を言うな!大天狗状態のマカナにコテンパンにされた俺がどうやって邪神のボスに勝つんだよ」
ヒマリ「そうだよねー!アサヒの言う通りだよ!」
アサヒとヒマリがお互い笑い合っていた。ヒマリは冗談のように言っていたが、私にとっては面白くない。そういえばアサヒの手刀と謎の男、そうだ…仮面の男の手刀と似ていたな。いや、きっと私の勘違いだ。
アキナ「あ!マカナちゃんとヒマリちゃんだ!!あとアサヒ君!」
アキナが笑顔で走って私達に近づいて来た。
ヒマリ「奇遇だねーアキナー」
マカナ「まさかアキナとも出会えるとはな」
アキナ「そうだね!あ、そういえばこの猫見た事ある?」
アキナがスカートのポケットから折り畳んでいる紙を広げてポスターを私達に見せた。
ヒマリ「なになに、猫を探しています」
マカナ「茶色いキジトラ猫だな」
アサヒ「デケェ、ボス猫みたい」
アキナ「それでどうかな?」
私達はお互い見合った後に首を横に振った。
ヒマリ「見てないねー」
マカナ「私もだ」
アサヒ「俺も」
アキナ「そっかぁ、分かった!ありがとうね!」
アサヒ「ちょい待ち!」
アキナがポスターを折り畳んで走り出そうとした時アサヒが呼び止めた。
アサヒ「旭道三段を使って第六感が解放されれば何とかなるかもしれない」
アキナ「第六感?」
マカナ「やれやれ、勘で何とかなる訳がないだろ」
私はアサヒの提案に呆れていたがアサヒはノリノリだった。きっと好きな人の前だからカッコつけたいのだろう。
アサヒ「やってみなきゃ分からないだろ?ほらマカナとヒマリは離れて」
私とヒマリはアサヒから離れた。
アサヒ「よし、旭道三段!!」
アサヒの全身から緑色のオーラが出て来た。
ヒマリ「わぁ、凄い寿量を感じる…」
ヒマリがまるで火で温まるかのようにアサヒの緑色のオーラに両手の手のひらを向けた。
アサヒ「来た!あそこだ!!」
マカナ・ヒマリ・アキナ「はやっ!!」
シュンッ
アサヒがまるでテレポートしたかのように消えた。私達はパニックになった。
マカナ「しまった!アサヒが消えてしまった!!」
アキナ「ど、どうしよう!」
ヒマリ「と、取り敢えず待っていればいずれ戻って来るんじゃないかな?」
― 橋梁の下 ―
キジトラ猫「ニャァ」
アサヒ「ヨシヨシ良い子だ」
俺は旭道三段の第六感でアキナが探していた猫を勘で見つけて抱っこした。あとはこのまま歩道橋へ戻るだけだ。だけど俺は僅かな殺気を背後から感じた。
ドォン!
俺は猫を抱っこしたままジャンプして攻撃を避けた。
スタッ
着地と同時にしゃがんで攻撃して来た白い蛇を睨む。
???「わたくしの白蛇の素早い攻撃を避けるとはなかなかやりますわね」
アサヒ「何者だ!」
俺は橋脚に声がしたのでそこへ向かって叫ぶ。
???「白蛇の素早い攻撃を背後から避けたのです。せめてもの敬意として出て来て姿を見せて差しあげますわ。光栄に思いなさい」
そう言って橋脚から山吹色の縦ロールの髪型をした女性が姿を現した。その姿はどこかの貴族のお嬢様のような赤いドレスを着ていて、白い鞭を持っていた。
レイコ「わたくしは山吹レイコ!山吹ヒマリのお姉様でしてよ!!」
アサヒ「な、なんだってー!?」
俺は思わず大声で驚いた。まさかこいつがあの、のんびりしているヒマリの姉だと!?