神楽の世界
― 焼け野原 ―
あんなのおかしいよ。アサヒ君は死んでもおかしくない程の傷を負っている。なのにまだ戦う意志があるなんて…。
左腕から折れた骨がたくさん出ていたのを思い出す。あんな酷い怪我、初めて見た。笑顔で大丈夫だなんて嘘だ。きっと作戦があると言ったのも嘘なんだ。今ならトモエさんがアサヒ君を心配する気持ちが分かる。確かに皆を守る為に仕方がないとはいえ…
でも逆の立場なら私もしていた筈だ。たまたま私がマカナちゃんを救う立場になったからアサヒ君が自己犠牲にならざる得なくなったんだ…
私が弱いせいだ。それにマカナちゃんの事も私がしっかりしていればきっとあんな事にはならなかった筈だ。だけど後悔する時間は無い。今は速くマカナちゃんを救わないと!
マカナ「ハァハァ…」
マカナちゃんが旭道のリバウンドで苦しそうに横たわっている。
トモエ「それじゃあ始めるわよ。アキナちゃん」
アキナ「うん!」
私は元気よく返事をしたら、トモエさんの龍が私達の周りを円のように囲み、光出した。私はあまりの眩しさに目を瞑った。
アキナ「こ、ここは…」
目を開けるとそこには桜の世界が広がっていた。まるで桃源郷のように美しい風景に目を奪われる。
アキナ「綺麗…」
桜の匂いが心地良い。これが神楽…もっと近くで桜を見たい。一歩足を前に出る。
ギシッ
アキナ「あっ」
木が軋む音に驚いて下を見た。古い板張りの上に私は立っていた。辺りを見回すと神社でよく見る場所にいた。
アキナ「えっとぉ〜確かこの場所は〜」
トモエ「神楽殿よ」
アキナ「そう!それだよトモエさん!!」
私はトモエさんの声のする方へ身体を向けたらトモエさんはいつの間にか巫女の格好をしていた。右手には神楽鈴、左手には扇、頭には前天冠を付けていた。
アキナ「えぇ!?トモエさんその格好は!?」
トモエ「これは祭具形成によって作られた服よ。勿論この両手に持っているものもね。」
アキナ「そうなんだ…それにしても凄いねトモエさん。こんな大きくて綺麗な結界を作れるなんて…まるで桃源郷だよ」
トモエ「そうね。ただこれは結界を作るのにも維持するのにも多くの寿量が必要なの。だからすぐに始めるわよ…アキナちゃん?」
アキナ「うぇ!?何か言った!?」
私はトモエさんの巫女装束に見惚れてしまって話を聞いていなかった。
トモエ「アキナちゃん…」
アキナ「ご、ごめんなさい!聞いてませんでした!!」
トモエさんが呆れた顔をしたので私は申し訳ない顔でごめんなさいポーズをした。
トモエ「要するに私の寿量が残り少ないから急ぐわよ!!」
アキナ「わ、分かりました!じゃあマカナちゃんのところへ行ってきます!頑張ってねトモエさん!!」
私はトモエさんに怒られてしまったので急いで神楽殿の舞台裏へ行き、階段を駆け降りる。そして鳥居が沢山並んでいる方へ走った。不意に神楽殿を見てみたらトモエさんは笑顔で私を見送ってくれた。
トモエ「アキナちゃんも頑張ってね!」
鳥居は1列にたくさん並んでいる。鳥居の左右には桜が広がっていて、私は鳥居の中を走って潜り抜けていく。この走っている時は何故か凄く楽しくて笑ってしまった。
鳥居を潜り抜けたら湖に着いた。
アキナ「わぁ、凄いなぁ」
綺麗な湖で鏡のように周りの桜が映っていた。絶景な風景に見惚れていたら中央には4つの大きい鳥居に囲まれている小さい神社が湖の上にポツンと建っていた。
アサヒ君がマカナちゃんと戦っている時にトモエさんから私のやる事を聞いた。
まずあの神社の中にはマカナちゃんがいて、身動きが出来ないように結界の中にいる。中央の神社に行く道は無いけどトモエさんが神楽舞を始めたら道が出来てそこを通る。神使の心を鎮めた後に勝手に神社の扉の鍵が開くから、そしたら神社の中へ入ってマカナちゃんの魂へ干渉する。
アキナ「何だか暖かくて眠くなってきたなぁ…ずっとここにいたいなぁ」
周りに人がいないからつい独り言を言って座ってしまった。でもそうなる程心地良い場所。
笛の音が聞こえる。
アキナ「始まった!」
私はすぐに立ち上がって後ろを見た。笛の音と一緒に風が吹いて桜の花びらが散っていく。確かトモエさんが神楽舞をして楽器は神使の龍が奏でるらしい。楽器は神楽舞をする神術士の神使が必ず使用しなければいけないとか何とか…
アキナ「龍が楽器を使うところ見たかったなぁ」
三味線の音が聞こえた…そして
チリン
トモエさんの神楽鈴の音が世界に響き渡る…
神楽舞が始まった。
ゴゴゴゴゴゴ
私の目の前に湖の中から岩の道が出て来た。
アキナ「まだ出て来てる途中だけど走ろ!」
私は前から順番ずつ出て来る岩の道を駆ける。岩は濡れているので気を付けないと滑って転んでしまう。
アキナ「ハァハァ…待っててね、マカナちゃん!」
私は大きい鳥居を通って短い階段を登る。そして小さい神社の扉の前に辿り着いた。
アキナ「あとは鍵が開くのを待っ」
カチャン
アキナ「え?」
扉の鍵が突然開いた。トモエさんはもう大天狗の心を鎮めたんだ。速い…
アキナ「流石トモエさんだ…」
私はトモエさんに感心しつつ扉を開けた。
ギィイイイ…
アキナ「何…これ」
扉を開けたら目の前に黒いワープみたいなのが広がっていた。黒い渦巻きが蠢いていて不気味だ。
アキナ「もしかしてこの中に入れば、マカナちゃんの魂に干渉出来るって事?」
私は黒いワープの不気味さに怖くなって入るのに迷った。
マカナ「うぅぐあああああああ!!」
アキナ「マカナちゃん!?」
黒いワープの奥からマカナちゃんの苦しい叫び声が聞こえたので咄嗟にマカナちゃんの名前を叫んだ。そして空でa班とb班で誰がマカナちゃんの魂へ干渉するのかを皆が躊躇っていた時を思い出した。
アキナ「そうだ…私は友達は誰も見捨てないって誓ったんだ…それなら迷う事なんて無い!!」
私は黒い渦巻きの中へ飛び込んだ。
― 焼け野原 アサヒ メサプ 交戦 ―
俺はメサプと睨み合っている。
アサヒ「あの天変地異から生きていたとはな…しぶとい奴だ。」
サス「それはこっちの台詞だ!!」
サスが俺に怒りながら指を指す。
メデ「ただの人間の癖にwゴキブリかよw」
プナ「だがそれも終わり…あの身体では長くは保たない…」
メサプが手を広げてこっちに近い付いて来るが、それぞれの両手に擦り傷がある事に気付く。
アサヒ「何だ。お前ら再生し切れていないのか?どうやらお互い体力は限界みたいだな」
メデ「それがどうしたwお前を殺すには充分だわw」
プナ「片腕しかないのなら、最早敵ではない…」
サス「一瞬で終わらせてやる!!」
メデが大量のメス、サスがパドルを形成していく。その最中にプナが両手から大量の血を出そうとする。
メデ(旭道の使えないジョーカーはただのガキだw)
サス(それに片腕しかないし光輝弾も使えないみたいだな!!)
プナ(しかも避けたとしても後ろの結界に当たる…)
メサプ(…勝!ったw)
ブスッ!
プナ「ギャアアア!!」
サス「こいつ!?左腕を千切って投げやがった!!」
俺は左腕を千切ってプナの顔面に勢いよく投げつけた後、メサプの元へ走った。左腕からは骨がはみ出ていたから、その骨がプナの顔面に刺さったのだろう。プナは骨を抜こうとして両手で俺の左腕を掴んでいた。これで厄介な血の海は出せない。
旭道は身体能力や五感だけで無く集中力も上がり、記憶力が良くなる。メサプとは3回も戦っているし、旭道三段を使用したんだ。もういい加減こいつの動きは見切れる。
プナが倒れる直前にメデとサスが分裂した。
プナ「目に刺さって抜けな…」
ボキボキグチャッ!!
まずプナの顔面を俺の左腕ごと勢いよく踏み潰す。こいつらにはもう再生するだけの妖量は無いからこれで死ぬ。メデとサスは分裂した衝撃で俺の背後の上に飛んでいた。
サス「プナの仇!!」
メデ「こいつw」
パァンッ!!
メデ「え?」
俺は自分の右奥歯を2個折ってメデの両腕に投げた。メデの両腕に銃で撃たれたかのように穴が空いて大量のメスが落ちた。
メデ「な、何が起きたw」
サス「隙だらけだぜ!!」
俺の胸にサスが持っている二つのパドルが当たり、妖量の電流が全身に流れる。
サス「最大出力だ!喰らえ!!」
パドルから放電が放ち、更に出力が上がる。
サス「どうだ!いてぇだろ!!前みたいに泣き叫べよ!!」
アサヒ「いてぇだろが」
俺は真顔でサスの顔面に思いっ切りパンチした。そしたらサスの顔を貫いてしまった。
サスの空いた顔から噴水のように血が出て来る。
メデ「何で腕がw」
メデは自分の両腕に穴が空いた理由が分からず混乱している。
ザッザッザッ
俺はメデの方へ歩いて近付く。
アサヒ「貴様らだけは絶対に許さない」
メデを睨む。こいつには多くの酷い事をされたから絶対に殺す。
メデ「な、何だよwお前の方がよっぽど…邪神じゃねぇか!!」
両腕が使えないメデはメスを投げる事は出来ない。だから無様に怯えながら逃げ回る。
俺はジャンプしてメデの前に立ち塞がった。
メデ「ま…待て!そうだwもう2度と!お前達の前に現れない事を約束するwなんならあのお方…邪神王様について教えてやるよ!だから…」
メデは泣きながら懇願するが、俺には通じない。
アサヒ「どうせ貴様は命乞いをする人間を沢山殺して来たんだろ?自分だけ都合良く許されると思うなよ」
俺はメデの顔を鷲掴みする。そして…
メデ「ま…」
ブチブチッ!
メデ「ぎゃああああああ!!痛い痛い痛い!!!食べないでぇえええ!!!」
俺はメデの頭を食べていく。やはり生きている方が美味しい。両腕が使えないからメデは抵抗出来ず、足をバタバタしながら食われていった。メデの悲鳴が心地良い…
アサヒ「はぁ、美味かった…」
少し妖量が回復した。いつもなら邪神は不味かったのに今は美味しかった。また食べたいなぁ。
アサヒ「いや、何考えてんだ俺は!?今はマカナだろ!!」
俺はすぐに我に帰ってトモエが出した光の柱を見た。光の柱は範囲は小さいが先が見えない程の高さで空を突き抜けていた。
アサヒ「速く行かないと…うっ」
俺は結界へ行こうとしたが膝から崩れるようにうつ伏せに倒れた。少し妖量が回復したとはいえ、身体は既に限界を超えていたから動けない。
アサヒ「畜生、ここまでか…。もう、トモエとアキナに、任せるしかない…」