エヴォルヴァー・アサヒ
― 国会議事堂前 ―
警察の盾が並び、国会前の広場は緊張に包まれていた。
スピーカーから響く怒声と、報道ドローンの羽音が空を騒がせる。
群衆は膨れ上がり、怒りと希望が入り混じった熱気が渦巻いていた。
市民A「子供を兵器にするな!旭道を認めろ!!」
市民B「税金を無駄使いするな!!」
市民C「創造神主義を終わらせろ!!」
報道陣は柵の外からカメラを構えていた。だが一部のメディアは政府寄りの報道を流していた。
「軍国主義による暴動」「旭道は危険思想」——そんな見出しがネットを埋め尽くす。
扇動者「おい!みんな知ってるか!?」
突然メガホンを握った男が台に立ち、群衆に向かって叫ぶ。
扇動者「ダイダラボッチを倒したのは大巫女じゃなくて、アサヒって言う男の子なんだってよ!だけど政府が神術団体のメンツを守る為に、その男の子に責任を押し付け、死刑にしようと企んでいたんだ!!」
市民D「な、なんだって!」
市民E「大巫女が倒したってのはデマだったのか!!」
扇動者「そうだ!それだけじゃない!
アサヒは旭道の開発に携わり、人類で初めて旭道を使った少年なんだとよ!そのおかげで普通の人でも旭道を修得できるようになったんだって!!」
市民F「俺は見たことあるぞ!創造神を守った英雄、ユミコ様とアケミ様と一緒にいた子だろ!?政治家共は女性至上主義を守る為に揉み消したんだ!!」
市民G「子供が命をかけて戦ってるのに、まだ性別に拘るのか!!」
扇動者「アサヒは賞賛されなくても人々の為に戦い、旭道を開発していた!俺たちを守るだけでなく、戦う術も教えてくれようとしたんだ!人類の希望は大巫女ではない!彼は言った!『大人が胸を張り、子供が夢を見れる世界にしたい』と!!
それで俺たちはどうする!?このまま黙って見てるのか!?」
市民H「俺たちも戦うぞ!!」
市民I「私もだ!!」
扇動者「エヴォルヴァー・アサヒ!!」
市民J「エヴォルヴァー!アサヒ!!」
市民K「エヴォルヴァー!アサヒ!!」
群衆「エヴォルヴァー!!アサヒ!!エヴォルヴァー!!アサヒ!!」
デモの群衆の隣には、創造神主義たちが集まっていた。
創造神主義A「罰当たり共が!神の秩序を守れ!」
創造神主義B「今まで人類が生きていられたのは、創造神様のおかげなんだぞ!!」
市民J「人間の自由を取り戻せ!!」
群衆「エヴォルヴァー!!アサヒ!!エヴォルヴァー!!アサヒ!!」
スピーカーから響く声が、荒れた土地にこだまする。
創造神主義たちの怒声は群衆の叫びに掻き消されていく。
そして——限界を超えた瞬間、火花が散った。
創造神主義C「黙れ!!神を侮辱するな!!」
怒りに駆られた老人が群衆に突撃し、他の創造神主義者たちも続く。
拳が振るわれ、旗が引き裂かれ、地面に倒れた若者の叫びが空気を裂いた。
警察官「やめろ!暴力はやめろ!!」
警察が制止に入るが、すでに群衆は波のように議事堂へと押し寄せていた。
柵が倒れ、警備線が崩れ、報道ドローンが空を逃げる。
警察隊長「総員下がれ!神術士たちが出てくるぞ!!」
議事堂の扉が開き、神術士たちが姿を現す。
彼らは創造神主義の象徴として、群衆の前に立ちはだかる。
市民K「神術士を出すのか!?俺たちはただ声を上げてるだけだぞ!!」
市民L「また子供を盾にするのか!?これが“神の秩序”かよ…!」
市民M「巫女服で戦うのか!?ふざけんな!ここは舞踏会じゃないんだぞ!!」
報道カメラがその姿を捉え、ネットに拡散されていく。
「子供を兵器にするな」「神術士による弾圧」——そんなタグが瞬く間にトレンド入りする。
そしてその中心で、群衆は叫び続ける。
群衆「エヴォルヴァー!!アサヒ!!エヴォルヴァー!!アサヒ!!」
― 輸送機 ―
薄暗い作戦室。外の騒ぎとは対照的に、ここには静寂と冷気が漂っていた。
窓の外には森が広がり、輸送機が静かに着陸するのが見える。
長拓は椅子に腰掛け、指先でペンを転がしながら部下の報告を聞いていた。
兵士「…工作員の誘導は成功しました。暴動は日本全国へと広がり、激化しています。その中には、群衆が“エヴォルヴァー・アサヒ”と叫び始めています」
長拓「よしよ〜し。順調だな」
兵士「ですが、高木大尉に許可を得ずにこのような情報操作を行うのは…」
長拓はペンを止め、静かに笑った。
長拓「高木大尉は“正々堂々”を信じている。だがそれは、もはや戦場の美学ではない。今の戦場は銃でも剣でもない。“情報”だ。誰が真実を語るかではなく、誰が先に“信じさせるか”が勝敗を分ける」
兵士は黙って頷いた。長拓は立ち上がり、窓辺に歩み寄る。
森の向こう、輸送機のハッチが開き、アサヒの到着を待っている。
長拓(春風アサヒ…)
両親を殺され、人体実験、娼館、友の死——地獄を歩いてなお、世界を憎まず、変革を望むとは。
大巫女と同じように年齢不相応な心を持つ者。
だが、違う。彼には“覚悟”がある。
長拓(汚名を背負い、友を殺す覚悟。それを12歳で持っているとは…)
微笑が漏れる。だがその笑みは感情ではなく評価の証だった。
長拓「…素晴らしい。実に、素晴らしい。
正義でも復讐でもない。“構造そのもの”を変えようとする者は、常に孤独だ。
だが孤独を恐れず、血を浴びてでも進む者こそが、革命の器だ」
兵士「…革命の器、ですか」
長拓「大巫女のような英雄ではない。彼は物語の外側から来た革命者だ。
神々の物語に属さない者だけが神々の秩序を壊せる。
そして今の時代に必要なのは、“物語を握る者”だ。
正々堂々?そんなものは、戦場では飾りだよ」
彼は窓の外を見つめながら、静かに言った。
長拓「春風アサヒ。彼が魔王になるなら、私はその魔王の手足になろう。
世界を壊す者には、壊し方を教えてやらねばな」
兵士は背筋を伸ばし、無言で敬礼した。
ー 小川山 ー
サイモリ(……アサヒ、のはずじゃが……)
目の前に立つ男は確かに春風アサヒの顔をしていた。
だが、その身長は成人男性。声も低く、背筋も伸びている。
何よりも、あの“気配”が違う。少年のものではない。
サイモリ(おそらく…20代前半。だが、顔は…いや、顔だけじゃない。仕草も、目の奥も、あの子だ)
双斧を構える。
それほどまでに目の前の存在が“異質”だった。
サイモリ(これは…偶然か?いや、そんな筈はない。見た目は完全に春風アサヒ。だが、あの子はまだ12歳のはず…)
心臓が跳ねる。
まるで“神術では説明できない何か”が、目の前に立っているような感覚。
サイモリ「お前…一体、何者だ!」
声が震えた。
怒りでも恐怖でもない。
それは、師としての“直感”が叫んだ問いだった。