絶望の淵で生まれた光
― 精神世界 ―
目を覚ませ、星の声を聴く者よ…
図太い男の声が脳内に響く。
アサヒ(遺跡地区で聞いた声だ…)
俺は謎の声の通りに目を開けようとする。
アサヒ「んん…あれ?」
目を開けると何故か暗い畳の部屋に立っていた。
アサヒ「ここは?」
そうだ。ここはかつてパパとママが殺された場所。そして足元にはパパとママの死体が転がっていた。あの頃が再現されている。
アサヒ「何だこれ!?俺は遺跡地区にいた筈だ!」
俺はパニックになりながら周りを見渡した。そしたら巨大な岩石の顔を見つけた。
ダイダラボッチ「我名はダイダラボッチ。天照大神様によって創造された神使である」
岩石の顔は話す時に口は開かなかったが、その代わり両目がチカチカ光っていた。
アサヒ「ダイダラボッチ!?何故ここに?ていうかここどこ?」
俺は訳が分からず混乱していたが、ダイダラボッチは構わず話を続けた。
ダイダラボッチ「ここは汝の精神世界である」
アサヒ「俺の精神世界?」
ダイダラボッチ「左様。汝は世界を憎んでいる。その憎悪はミツキを超越している」
アサヒ「世界を憎んでいる?何を言ってるんだ?俺は世界を憎んでいない。いや、そもそも憎んでいる人なんていないぞ?」
ダイダラボッチ「否、汝は世界を憎んでいる。この精神世界が何よりも答えである」
場所が切り替わる。そこは竹綱達を殺した実験場だった。
ダイダラボッチ「汝は憎悪を自己嫌悪による自己責任によって強制的に抑えているに過ぎない。真の心は怒りと復讐である」
次は無数の城が並び建っている空間だ。宙に浮かぶ広大な畳の上に俺は立っていた。周りにはアケミとユミコの死体が倒れていて、全身から血を流しながら俺を見つめている。
アサヒ「…」
これが俺の精神世界か…ここまで腐っていたとは気付かなかった。違うな。気付かないフリをしていたんだ。自分のせいにして、なんとか理性を保っていただけ。本当は何度も世界をぶっ壊したいと思っていた。今だって俺を苦しめたミツを嬲り殺しにしてやりたいと思っている。
アサヒ「良く分かったな。でも人の心に土足に入るのはやめて欲しいんだが。プライバシーの侵害だよ」
俺はダイダラボッチを睨み付ける。だけどこいつは気にせず話を続けた。
ダイダラボッチ「その憤怒、憎悪を我と共に果たさぬか?」
アサヒ「俺に神術士になれと!?」
俺は一瞬喜んだが、憤怒と憎悪という言葉に異変を感じてダイダラボッチを疑う。
アサヒ「何を企んでる?」
ダイダラボッチ「創造神への復讐である」
アサヒ「創造神にだと?」
俺は眉をひそめる。何故なら歴史の授業では創造神が誰かに憎まれるような事を聞いていないからだ。
ダイダラボッチ「創造神は元は冴えない人間であった。しかし天照大神様と須佐男の力を奪い、殺めたのだ。そうして創造神となり、日本を支配している」
アサヒ「嘘だろ!?」
俺は衝撃の真実を聞いてショックを受けた。
スケベジジィからは、創造神は天照の子供で長く日本の神々のリーダーとして神使を作ってきたと授業で習った。それがまさか創造神が元は人間だったなんて…
ダイダラボッチ「昭和初期に、突如奴はやって来た。我は天照大神様と須佐男様、そして12支と共に創造神へ戦ったが敗北し、天照大神様と須佐男様は殺められ、12支と我はそれぞれ封印された。そして我は怒り、誓った。復活した時、創造神を殺し、奴が創造した世界を破壊すると」
ダイダラボッチはロボットのように語るが、俺にはこいつの怒りが伝わって来た。自分の母親を殺されて守っていた国を乗っ取られたんだ。復讐したい気持ちは分かる。
アサヒ「だけど何故俺なんだ?もしかして同じ復讐のよしみか?」
ダイダラボッチ「左様。ミツキとは契約していたが、奴は邪神化を決意した為、契約を切った。ミツキと共に邪神化しては私の願いが成就出来ぬ」
アサヒ「ミツキが邪神化だと!?いや、お前ミツキといつの間に契約していたのかよ!?」
ダイダラボッチ「然り、神術士がいれば神使は巨大な力を発揮出来、創造神に対抗が可能」
アサヒ「だけどミツキが邪神化したか…」
おそらく神武拳の使い過ぎだろう。だがそれはあいつが追い詰められている証拠だ。
アサヒ(でも状況が分からない…)
ダイダラボッチ「そのような事を気にする必要するのは疑問である」
アサヒ「な、何を言ってるだお前」
友達を心配するのは当たり前だ。それを疑問されるなんて、それこそ疑問だ。
ダイダラボッチ「汝に我の寿量を譲渡している為、脳内を把握出来る。また、契約の為の分の寿量を既に汝へ送り終えた。後は汝が契約を了承すれば完了である」
アサヒ「契約だと?まさか一緒に創造神を殺して世界を破壊しようって事か?」
ダイダラボッチ「然り、これが汝の憎悪と憤怒を果たす最後の機会である」
アサヒ「断る。俺には守らなければならない人達と使命がある」
俺は胸を張ってキッパリ即断った。しかしダイダラボッチは俺の本心を見抜く。
ダイダラボッチ「また自分に嘘を吐くのか?」
アサヒ「え?」
俺は訳も分からず唖然としていた。だがダイダラボッチはそのまま話を続けた。
ダイダラボッチ「言った筈だ。我には汝の真の心を理解していると。汝は愛よりも怒りと憎しみが勝っている」
アサヒ「自分に嘘を吐く、か…」
ダイダラボッチ「汝の憎悪と憤怒は神使では耐えられぬ程深いもの。しかし我ならば受け止める事が出来る。さぁ、共に全てを破壊しよう、春風アサヒ」
もう何も言っても無駄だと悟った。それと同時に俺は何故神使になれなかったのか今理解した。神使達は感じ取っていたんだ、俺のこの煮えたぎる呪いを。
もし世界を破壊すれば、この怨恨と憤怒が晴れるだろうか?
アサヒ「く、くくくく…あははははは!!」
俺は悪魔のように声高らかに笑い出す。
ダイダラボッチ「これは!?」
無反応だったダイダラボッチが驚く。どうやら俺の心を読んだようだ。
アサヒ「理解したな!?だが敢えて言おうダイダラボッチ!!お前の言う通り、俺はこの世界に対して怒り、憎んでいる!!それはアケミやアキナへの愛よりも深い!しかし、世界を破壊する程度では足りない!!」
ダイダラボッチ「だから創り変えるのか!?世界を!!」
動揺するダイダラボッチに対して俺は両手を広げて本心を打ち開ける。
アサヒ「そうだ!!俺は世界を破壊して自分の理想の世界を創る…そして理すらも変えて全ての神と人間に俺が正しいと認めさせる!!屈服させてやるのさ!!」
血まみれな2人の少女が消え去り、眩しく輝く太陽と澄み渡る草原の背景が広がっていった。
ダイダラボッチ「そんな事が、出来る訳が無い!!」
ダイダラボッチから全力で否定される。それもそうだろう。だけど…
―――――――
アキナ・ユミコ「「アサヒ君の人生はアサヒ君のものでしょ?」」
―――――――
不意にアキナとユミコの言葉を思い出した。アキナとユミコの言う通りだ。これは俺が決めた事だ。だからそんなのは関係無い。俺の復讐はそれくらいしないと満足出来ない。
アサヒ「それならお前との契約は無しになるがどうする?単身で創造神に挑みまた敗北するか。それともこの俺の神使となり、創造神へ復讐した後に世界を手に入れる修羅の道へ突き進むか…さぁ、選べ!!ダイダラボッチ!!」
ダイダラボッチ「ぬぅ〜」
ダイダラボッチが悔しそうに悩む。完全に羽目が外れたようだ。だが考えてる暇なんか与えない。このまま押し切れば、俺が有利となりダイダラボッチを完全に従わせる事が出来る!!
アサヒ「悩む必要は無い筈だが?まさかお前の復讐はその程度だったのか?」
ダイダラボッチ「な、何だと!!」
ダイダラボッチは怒ったように声を出したが、それが俺の思い通りである事に気が付く。
ダイダラボッチ「ふん!生意気な男よ!まさかこの我が逆に契約を迫られるとはな。よかろう…汝の修羅の道、付き合ってやろう!!」
ダイダラボッチが強い口調で硬く決意した。
アサヒ「良く言ったぞダイダラボッチ!!これで俺とお前の運命は今一つとなった!!」
俺は快くダイダラボッチを歓迎する。
アサヒ「では早速だが俺の元へ入って貰おうか」
そして早速ダイダラボッチに指示を出した。
ダイダラボッチ「何?それでは創造神に復讐が出来ないではないか」
不安そうにしているダイダラボッチに、俺は悪巧みをする悪党のようにニヤリと笑った。
アサヒ「安心しろ、必ず復讐の時は来る。ただ今は駄目だ。確実に創造神を倒したければ時を待て」
正直、創造神を倒す事になるとは思わなかった。だけど嬉しかった。だって創造神は端から気に入らなかったからだ。巫女に拘る神共々…潰してやる。
俺は昇って行く太陽を見る。
この世界が俺の精神世界なら、今俺が決意した事が本心なのだろう。だがこれはアキナやトモエ達と戦うという事だ。きっとアキナやトモエ、ヒマリはこれを予想していたのだろう。だからこそ、俺に戦って欲しくなかったんだ。
アサヒ「もう、戻る事は無いな」
必ず決別の日はやって来る。俺は大好きな友達を裏切り、世界を敵に回す覚悟を決めた。
こうして俺は夢であった神術士となった。
アサヒ「アキナに離れないって約束したのに、破る事になっちゃったな…」
遠い目で青空を見つめながら呟く。
破壊するのは神の世界、創造するのは人間の世界