失敗は成功のもと
― 放課後 保険室 ―
サイモリ「この馬鹿野郎!!誰が武器形成をしろと言った!!勝手なことをするな!!」
アサヒ「ご、ごめんなさい…」
俺はスケベジジィから物凄く怒られている。
どうやらあの事故が起きた後にアキナがスケベジジィとミドリを呼びに行ったらしく、ミドリの不死鳥で俺の両手は再生して傷も回復したらしい。ただ情けない事に両手が吹き飛んだ痛みのショックで気を失って、放課後まで保険室のベットでぐっすり寝てしまった。
サイモリ「どうやらわしはお前を買い被りすぎたようだな。次また勝手な事をしたらお前を退学させて家から出て行ってもらう。」
アサヒ「はい…」
スケベジジィが俺を睨んでくるが、俺は俯く事しか出来なかった。
これに関しては俺が悪い。スケベジジィの言う通りに素振りだけすれば良かった。
スケベジジィは立ち上がってカーテンを開けた。
サイモリ「ん」
スケベジジィが何かに気付いた。そして何かを思い出したのか、俺に背中を向けながらアキナの事を話し始めた。
サイモリ「アサヒ。アキナがな、泣きながらわしらを呼びに来たんだ。私のせいでアサヒ君の両手が無くなったと言ってな。」
俺は顔を上げてスケベジジィの背中を見た。
サイモリ「お前、アキナに惚れてるんだろ?男なら惚れた女を悲しませるな。分かったな。」
スケベジジィが保険室から出て行った。
アサヒ「なんだよ…知ってたのかよ」
― 保険室前 ―
ガラガラ、バタン
わしは保険室のドアを閉めた時、アキナが近寄って来た。どうやらわしの説教を廊下から盗み聞きしていたらしいな。
アキナ「あの、サイモリ先生…」
アキナは今にも泣き出しそうな顔をしておる。この子の事だ。きっとアサヒが怪我をしたのは自分のせいだと思っているのだろう。
アキナ「アサヒ君は悪くありません。わた、私がアサヒ君に武器形成をやってみようって言ったんです。だから…」
サイモリ「それはアサヒが土下座して頼んだからだろ?お前はただそれに応えてやっただけだ。まったく、わしの言う事を守らず、アキナを巻き込んで自爆するとは。そのおかげでアキナが余計に気を使う羽目になったわ。自爆するなら一人でしてろっての。だからアキナは気にする必要は無い。」
アキナ「でも…」
サイモリ「アキナ、余り自分を責めるな。それはアサヒの為にはならんぞ。」
アキナ「え?」
アキナが驚いた顔をしていた。
サイモリ「あいつはお前に憧れておる。その憧れの人が、自分のせいで悲しむ。そんなところをアサヒは見たくないはずだ。」
アサヒは惚れた女が悲しむ顔を見たくないだろ。とはいえ流石にアサヒがアキナに惚れている事は言えないから憧れにしといたが…
しかしアサヒから事情は聞いたが、アキナはお人好しだ。困った人がいるとほっとけないのだろう。こういう子は結局大人達に都合良く利用される。
だからこそ、この子のような優しい子達を守る為にあいつら三馬鹿を選んだというのに…アサヒの馬鹿野郎、早速迷惑かけてんじゃねぇ!
まぁ、わしも子供を都合良く利用してる側か…。
アキナ「そう、ですね…」
アサヒが俯いた。やはりまだ自分を責めてるな…
サイモリ「なぁに、あいつはこの程度で病む男ではない。ミドリとシュンに愚痴ってしばらく時間が経ったらスッキリするだろ。あいつら仲良いからな。」
わしは笑いながら職員室へ向かった。このまま話してもアキナにとっては無駄だろう。やはりわしにはアキナの気持ちを楽にする事は出来ないな。それもそうだろう。わしも子供を都合良く利用する大人だ。そんな奴がアキナを支える事なんて出来るわけが無い。
だからこそ…頼んだぞアサヒ
― 保険室 ―
アサヒ「おかしい」
俺は自分の顎に手を当てて今回の事故について考え事をしていた。石ころの爆発の威力が旭道二段状態の俺の両腕を吹き飛ばす程強いとは思わなかった。旭道二段はマカナの分身に対して無双でき、岩を軽々と持ち上げたり地面をモグラのように掘ることも出来る。何より天狗の腹を貫く程の力があるんだ。その旭道二段の力をもってしても、両腕が吹き飛ばされた。
アサヒ(あの石ころ…あれをコントロール出来れば新たな技を生み出す事が出来る。)
ガラガラ、バタン
誰かが入って来た。シュンとミドリかな…いや今は放課後だし帰ってるか。じゃあ誰だ?
カーテンが開いたら、そこには涙を流しているアキナが立っていた。
アサヒ「アキナ!?」
俺は驚いていたが、アキナがベットの上に乗って来て泣きながら俺を抱きしめた。
アキナ「アサヒ君ごめん!武器形成は寿量が不安定だと爆発する事を私がちゃんと思い出して、しっかり伝えていればこんな事にはならなかったのに!」
うおおおおおおおおおお!!アキナに抱かれてる!!体がめっちゃあったかいし、トモエ程ではないが意外に胸がある!ハッ!冷静になれ俺!!これじゃあトモエと同じ変態みたいじゃないか!!
アサヒ「そう、だったんだ。でも忘れていたのは仕方がないよ。神術士は武器形成は神使に任せているんだろ?ならこういう事故が起きる事なんて無いんだから誰だって忘れるよ。」
俺もアキナを抱きしめようとした時に、ある事を思い出してアキナの腕を振り解いて肩を掴んだ。
アサヒ「そういえばお腹大丈夫!?旭道使用しながら蹴ったから跡になってるかも!!」
アキナはキョトンとしていたがすぐに笑顔になった。
アキナ「平気だよ。鬼さんを召喚していたから、体も勝手に頑丈になるんだよ。だから跡は残ってないよ。ほら」
アキナは制服のブレザーをワイシャツごと上げてお腹を出して見せて来た。アキナのお腹はスレンダーで綺麗だった。
アサヒ「本当だ…エッチ…」
アキナ「エッチ?」
俺は思わず心の声が漏れてしまい、それを聞いたアキナはまたキョトンとしていた。
アサヒ「だー!!えっとぉ、つまりとてもいい体してるね。じゃなくて!えーと!!」
俺は弁解をしようとしていたが、パニックになっているからいい言葉が思いつかなかった。
アキナ「フフッ」
俺があたふたしているとアキナが急に笑い出した。
アキナ「アサヒ君、なんだか変だよ?」
アサヒ「そ、そうだな。変だな。ハハハ…」
俺は苦笑いをした。良かったー、アキナに変態とか言われて嫌われたらもう死ぬわ。
アキナ「心配させてごめんね。アサヒ君の方が痛かったのに…」
アキナが俯いた。やばい、せっかく笑顔になったのに…。そうだ!
俺はアキナの両手を握った。
アサヒ「はい!げ、元気を注入!」
アキナ「え?」
アキナがびっくりしていたが、俺は両手を胸のところまで上げた。
アサヒ「俺のせいで辛い思いをさせてごめん。だけどアキナから教わった事は無駄じゃないし、今回の事故のおかげで新しい発見もあった。だから、その…」
アキナ「アサヒ君?」
アサヒ「元気で笑っていて欲しい!!」
俺は恥ずかしくて顔を真っ赤にして言った。ていうか手も真っ赤だ。
アキナ「アサヒ君…うん、分かった。」
アキナが優しく笑った。
アサヒ「良かったぁ。ハッ!ごめん!」
俺は両手をすぐに離した。
アキナ「大丈夫だよー。それよりさっき新しい発見があったって言ってだけど、それって何かな?」
アキナが不思議そうな顔をしていた。俺はニヤニヤしながら答えた。
アサヒ「新技を思いついたんだよ」
アキナ「新技!?」
アキナが目を輝かせて俺に顔を近づけた。
アサヒ「近い近い」
俺はアキナの肩を掴んで距離をとった。
アサヒ「今回の事故で武器形成は出来ないことが分かったけど、石ころ爆弾は作れるからあれを元に新技を作ろうと思う。」
俺はアキナの肩から手を離して、右手の手のひらを見た。
アサヒ「妖量を圧縮してあの石ころよりも大きいものを生成。そして爆発しないように維持しつつ、相手にぶつけて吹き飛ばした後に爆発するように調整。これが出来れば多数の敵や硬い敵に大打撃を与える事が出来る。」
アキナ「す、凄いねアサヒ君…なんか開発者さんみたい…」
アサヒ「そうかな?あと、技名も決めたんだ。」
アキナ「何かな?何かな?」
アキナがまた目を輝かせていた。それに対して俺は自慢げに答えた。
アサヒ「光輝弾」