6話『手がない者』
「十 命、便利屋Hand'sの2代目社長。1代目社長である十 手綱の拾い子であり、過去に幾度となくクズレの國の危機を救ってきた青年。霊気を持たないと言う異質な特性からか魔の手を持たず、あの人の域を出かねない身体能力は全て自力によるもの」
「説明助かるよ、真昼」
下で今起きている霧夜と命の戦いを傾いたビルの鉄柵に座り眺める2人組。
「ん。私、助力したほうが良い?」
「い〜〜〜や……今回の目的はあくまで全勢力の大体の実力や能力の把握だ。無理に行動を起こして姿を見られる方が厄介だ。特に……私はね?」
「うん。分かった」
丁度、霧夜が投げた鋏を命が弾く。かなり無茶な動きだ。常人ならまず反応できないであろう、反応できたとしても対処ができないであろう一撃への反抗。
横にいる少女を真昼と呼んだ金髪の男が、思わず体を前に出した。
「おぉ……!今のは喰らうと思ったが、今のを弾くか……聞いた話に尾ひれは付いてないみたいだ。確かに掃除屋の方が圧倒に総戦力で言えば上だろうが……タイマンなら……あるいは……」
「そう言えば、紅鈴はどうするの?」
「ん?あぁ……。捕まえて来いと言われていたか……。面倒だな。そもそもあれはアイツ個人が独断で出した命令で、且つ霧夜に投げつけられた命令だ。……私達がやらなくてもいいだろう」
「後で文句言われるよ?」
「構わんだろう。霧夜が半殺しにされるだけだ。……ほら、当の本人は、戦いを愉しみだした様だぞ?」
金髪の男が、霧夜を指差した。
◇ ◆ ◇
「クフッ……フフ……フヒ……フフフフフフ!!!」
「……?」
「命くぅん。良いですよ。良い!非常に良いっっっ!!!約束しましょう僕に血を流させることができたなら!大人しくここは引き下がりましょうっ!!!もちろん!絡繰良 紅鈴も諦めましょう。ですから!!!さぁ……!もっともっっっと!!!殺す気で来いっっっ!!!!!」
高々と両手を広げた霧夜。ニヤケ顔が変わっていく。次第に目が開かれていく。血で紅く染まった白髪の青年に囚われていく。顔の紅潮、増す吐息。その興奮は今、全力で、十 命に注がれた。
「……生憎、こっちは魔の手どころか霊気も持たないもんでなぁ……!これでも全力なんだよぉぉぉ!!!」
駆ける命。タンッ!と一足大きく踏み切り、宙に飛ぶ。くるりと身を翻し、一撃霧夜へ突きを放った。
「良いぞぉ……!それを続けろぉ!!!十 命ォォォ!!!!!」
吠える霧夜。右手に持った鋏の片割れを横にして、盾のように構えた。
ガキィィィンッ!!!
鳴り響く金属音。コンクリートの道に跡を残して、突きの衝撃を殺した霧夜。ニヤリと歪んで笑うと──。
「【頭/体】ッッッ!!!」
──弾んだ声で魔の手を呼び起こした。
先程十手によって吹き飛ばされた鋏の片割れが揺れる。刹那、地面を切り裂き、回転して、鋏は元の形へと戻り始めた。
その導線上に命が立つ。強打を放ち、呼吸を整える数秒。背後から刃が迫っている事など気付くわけもなく。
「あ……?腕……が……」
鋏が命の胴体に突き刺さり、そのまま左腕を切り飛ばす。血で染まっていた体から血が噴き出した。
体が前に倒れて行き、コンクリートが目前に迫る。
「ぐぅぁぁぁ……!……くっ!ま……だ……だぁぁぁ!」
だが、一足強く地面を踏み、十手を地面に叩きつけ、その体のバランスを保つ。片腕からは血が出ているというのに、倒れない、諦めない、まだ命の魂は折れていない。
「フフフフフフ……!すごい気概だぁ!ほら……攻撃して来いっ!十 命ぉぉぉ!!!」
「無茶……言うなよ……!」
◇ ◆ ◇
「ん。あそこまでして、戦う理由って何?あの人にとって絡繰良 紅鈴はそんなに大切なの?」
「……かなりね」
「そう」
「……真昼……帰るぞ」
片腕を失った命を眺める金髪がはぁ……と1つため息を吐くと鉄柵から立ち上がった。
「見ていかないの?」
「霧夜回収してこい」
「……回収って?まるで霧夜が倒れそうな物言──」
ドゴォォォン!!!
廃ビルの崩壊。立つのも辛い振動が2人に伝わる。2人の今立っているビルに大きな衝撃が加わったのは明白であった。2人は身軽に横のビルへ飛び移り、砂煙立つ下方を見る。
白い長髪。白い十手。片腕を失った青年が、霧夜をビルに押し付けていた。