17話『少女は知っている』
コンコンコン!
「悪ぃ……!邪魔していいか……?」
「はっ……はい!?」
驚きベッドから立ち上がる少女・人看 子々子は、あわあわと身なりを正す。それもそうだ。ついさっきまでは部屋に置かれていた無垢の枕を抱え横になっていた。ベッドも髪も乱れていた。
仕方ない事である。彼女は確かに掃除屋医療隊の一員であり、霊術──霊気を用いて誰もが扱えるように研究された術──は、扱えるのだが、悲しい事に霊気自体がそこまで多く持っているわけではなく、調子が良くても1日に回復の術を2〜3回ほどしか扱えない。それも1度使うだけでどっと披露するほどにである。
ガチャリと扉を開けて入ってきた紅髪。独特なクセ毛は荒々しさを纏っている。目付きが悪いのも相まって、目の前にいるだけでも「潰す……!」と圧を掛けられている様に感じる……のだろう何も知らない人が見れば。
しかし、子々子は知っていた。
彼が空虚の神の適合者であるという事を。
彼が自分の不甲斐なさを嫌っている事を。
そして、彼が、見ず知らずの少女を助けて、代わりに自分が苦しむ道を選ぶ程、優しさに満ちた人物だという事を。
「あ……えっと……回復された……みたいですね?良かったです!……すごく……心配しました」
困り眉で微笑みかける子々子。
「あぁ……その件で、助かった。ありがとうっ!正直今回ばっかりは死ぬかと思った……。本当になんと感謝すればいいのか……!あっ……それと、あと、タオルは必ず……洗って返すから……もうちょっとだけ待っててくれると……助かる!」
「ふふっ……。気にしないでください。紅鈴さんはいつも凄く大変そうですもんね?……いつか返してくだされば……私はそれで。……なんならあげちゃってもいいくらいですから!……はい」
「……」
「……」
子々子は常々思う。悔しい。こう言うときに言葉が続かないのが……苦しい。心の中で何か続けなきゃと思ってはいるのだが、えっ……と……。そのぉ……。と思考が白く染まって消えてしまう。
「それで……あのご飯できたみたいなんで……一緒に食べません……か?」
「良いんですか……!?」
「はい。皆で食べたほうが美味しいですから」
そんな個人的な苦悩も吹き飛ぶほどの幸せな提案に身を委ね、紅鈴が開けて開けて待っている扉に寄っていくのであった。
◇ ◆ ◆
「お〜……言わなくても分かるもんだねぇ!」
既に卓上にお皿を2人分並べた命は洗い物の手を止めて、タオルで手を拭った。
「まぁ……いるのに一緒に食べないって……悲しいだろ?」
「し……失礼しまぁ……す」
席についた2人の前に白銀のお米の乗った茶碗を出し、命も席に着く。その様子に違和感を持つ者が1人。子々子である。
「あのっ!……ミ……コトさんは食べないん……です……か?」
「「……え?」」
そう。2人は驚いた。今の今までそれが普通になってしまっていた。当たり前になってしまっていた。ごくありふれた毎日の景色で、良く知った日常の一端の光景であった。
もう……慣れてしまっていたのだ。
「あっ……なにか余計なこといいました……か?」
「あぁ……いや。全然っ!ただ……久しぶりに聞いたので……。」
「……?」
「え〜っとなぁ……。なんて言えばいいんだろうなぁ?こいつは……ちょっと体質的に特別でな……。食べる事と寝る事が難しいんだよ……」
「それってちゃんと栄養はとっているんですか!?」
流石は医療隊である。健康面に関しては絶対的な揺るぎない芯がある。その事が強く伝わった。
「とっては……無いけど。死なないというか……死ねないというか……」
静まる食卓。
その静寂にポツリと身を刺す言葉が落とされた。
「……空虚の神ですか?」
「「……!?」」
便利屋の2人は困惑していた。想像もしていなかった人物から出てきた空虚の神の名前。彼女に視線が集まった。
泳ぐ瞳。……というより顔。あわあわとする彼女はなんとか次の言葉を繋ぐ。
「え……えっと……私は……その……紅鈴さんに……いえ……お二人に……助けられたことがあって……」
過去の話だ。これは、命がまだ、便利屋の居候の頃の、紅鈴がまだ孤児院に住む少年だった頃の話。




