10話『崩壊信仰の崩壊進行』
「……今の音は?」
電話越しに動揺の声が聞こえる。命は冷や汗を、袖で拭いながら答える。
「実は今……掃除屋本部に居るんだが……掃除屋本部で爆発が起きた……!悪い切るよ……!」
「命っ!待ってくだ……」
ピーーー。ピーーー。ピーーー。
言葉半ばに電話を切ってしまい申し訳ないとスマートフォンを見つめる命。
ドゴォォォン!!!
生憎、悠長に折り返しの電話をしている暇はなさそうだ。ここの高さは5階。飛び降りれば、普通は死ぬだろう……命は腰のベルトについたアタッチメントから十手を引き抜いて、窓枠を蹴りつけ、飛び出した。
◇ ◆ ◇
「おいっ!今の音はなんだ!?」
病室から駆け出した紅鈴が、扉を開けるとともに問いを投げかける。……がそれは思いも寄らない形で返ってきた。
「き……すけ……さん………。なん……で……?」
「あ……あぁ?」
強靭なゴツゴツとした男の腕が細い少女の首を掴み、宙へ浮かせている。眼鏡がオレンジ色の光を強く受け、目元を隠している。あまりにも一方的な暴行のシーンに──
「おや……紅鈴さん。出てきてしまいましたか……。はぁ……全く……めんど……うぅっ!?」
「うぉぉぉらぁぁぉ!!!」
──紅鈴は迷わず、眼鏡の男へ飛び蹴りを叩き込んだ。
「医者が何してんだ……てめぇ……?」
地面に落ちる子々子を片手で抱き締めて、紅鈴は力強く地面に着地する。
白衣を揺らして、地面へ飛ばされた喜助は2、3度跳ねた後、地面を叩き、華麗に一回転をして着地した。
「ふ……紅鈴さん。貴方の血気盛んな点……私は好きですよ……ふふふ……」
「何のつもりだって言ってんだよぉ……!」
「崩壊信仰を狙っているようですね……?そんなことされたら……霊気と魂の研究が出来ないんですよ……。それは掃除屋にとって非常に……クソで、馬鹿げていて、阿呆な事なんですよ……!分かりますか?このクズレの國に置いて、貴方がた程無知で、邪魔な存在はいないんですよ……便利屋Hand's……!」
「……。……命は……どうした?」
「先程の爆発は私が起こしたものではありません。崩壊信仰の三従士軍の襲撃です。恐らく貴方とその病室にいるゴミの回収へ来たのでは……?……まぁ、なんにせよ……命さんはそちらの対処へ向かったようですよ?」
「……いったい……何が起きてる?今日だけで、事が転びすぎだろ……?なんなんだ……これ……追いつけねぇっつぅんだよ!」
◇ ◆ ◇
「さァ………てェ……!命をどうやって探すかネェ……?」
「暴れていたら出てくるんじゃないか?」
「キヒヒヒ……そりャァ名案だゼェェェェェェっ!!!」
美しい立ち姿でロングコートを着こなし、後ろ手で手を組む男と腹や脇などやたらと露出の多い格好でヤンキー座りをしながら雄叫びを上げた女。
「うぉぉぉぉぉっ!!!」
「んん?上から誰か来ますよ……拳……!構えてください……」
「わぁーーーてるわ!んなこといちいち報告してんじゃねぇ!……弓っ!」
既に掃除屋本部の入口はボロボロに成り果てており、無数の人間が転がっている。その見るも無残な状況に白髪の青年が降り立った。
辺りに伝わる衝撃。命が十手を地面に打ち、その身を2人の元へ飛ばしたのだ。拳と呼ばれた女は、ギザ歯を見せる笑みを放ち、命と相対した。
「【一撃必殺】ォォォ!!!うらぁ!」
「おぉぉぉぉ!はぁっ!!!」
拳の手に纏わりつく紅い輝き、燃える様にうごめくそれは、拳が十手と打つかると爆発を起こし、十手ごと十 命を吹き飛びした。
「いっテェェェ!おい!アイツ……!ツェェぞ!十 命カァ……!?」
「黒い甚平。白い十手。後ろで束ねた白い髪。傷一つ無い美しい白い肌。はい……恐らく、十中八九、おおよそ……十 命かと?」
「長ったらしい!YESかNOでいいんだよ!ばぁ〜かっ!」
掃除屋本部の壁に打つかる命。壁に大きなクレーターができ、命は口から血を流した。少しヨロヨロと立ち歩くとすぐに、その足の運びを安定させる。まるで何事も無かったかのようなその素振りは、表すなら……命の無い人間と言った所だろう。
「おいおい……あいつはぁ……不死身かなんかの魔の手持ってんのか?」
「お前は霧夜 様の話を聞いていなかったのか?あいつは霊気を持たないんだ。推測するに、恐らく……十中八九……「あぁ!手っ取り早く言え!」……。ふぅ……ん。単純な身体能力の高いタイプだと思えばいいと考える」
「な〜るほどォ〜!そいツァ……殺りがいのありそうなヤツだァ〜!」
「おらぁ!来いよぉ!」と手をクイクイ……と動かす拳。余裕の笑みとこれから行う戦闘への興奮……霧夜と非常に似たその表情は、刹那のものであった。
ドォゴォン!
拳の腹へ容赦なく叩き込まれた十手の刺突。痛みに顔を歪め、ツバを吐きながら今度は拳が掃除屋の壁へと叩きつけられるのだった。
「今からでも帰るなら、これ以上攻撃はしない。……どうする?」
「生憎ですが……こちらも仕事ですので……!【百発百中】っ!!!」
その手には何も持たれていない。されど、弓は矢をつがえる。そこに弓を持っているかのように、姿勢を正し、命を睨み付け、弦を引く。
「……そうか……残念だよ。はぁぁぁっ!!!」
静かに言葉を漏らす。何かを変えることもなくこの場の空気に言葉が吸い込まれると同時に、消える命の姿。
(透明化……?いや、魔の手は持たないはずだ。ならば……こちらの認識よりも速く動いてるのか……?生身の身体能力でか……?何にせよ……打てば問題ない。そうだ。このつがえた空気を放てば問題ないっ!)
「ふっ……!喰らえっ!『空気矢』っ!!!」
ドパァン!
乾いた木の反発の音。長弓が引かれた音が響けば、確かにそこにある矢。見えないが分かる。分からないが分かる。確実にそこに存在する。見えない空気の矢。その矢は本来、弓で放った際にする矢の軌道など知ったことかとただ一直線に命へ向かって行く。
血が溢れる。弓の視界のギリギリ右側に飛び散る血飛沫。胸元……心臓の位置から血を流す白髪の青年がそこにいた。
(なるほど……見えない速度でこちらへ迫っていた訳では無い。ましてや透明化していた訳でも無い。たった一瞬、瞬きをしたそのコンマに合わせて、視界の外へ出たのか……どちらにしても身体能力が化け物なのには変わり無いな……!)
「ぬぅ……ぐぅ……!」
足を止め、その場で甚平の胸元を握り締める命。確かに苦しそうに顔を歪ませている。痛覚がある。ダメージは入る。されど、時間が少し流れると共にその傷を与えた弓を嘲笑うかの如く治っていく体。
その体には確実に命という概念が刻まれていない。いや、あるいは……忘却してしまっているのだろうか?
「全く……折角実験体にならずに済んだというのに……。これは……厄介な仕事を押し付けるたものです……ねぇっ!!!」
ドパァン!
放たれる二撃目。今度は十手を握る右腕の肩を貫く。血は流れる。命が苦痛の声を上げる。だが、やはり体は治っていく。
「……化け物がぁっ!」
冷たい瞳で見つめられる弓から不満の言葉が漏れ出るのだった。
◇ ◆ ◇
「紅鈴……さん……私……また……」
「変な事に巻き込んで悪いなぁ……!もう一切の手出しはさせねぇ……!安心しなぁ!」
「……結構ですよ。なんなら邪魔になるので、病室の中にでもしまって置いてください。折角の戦闘データを得るチャンスをそんな小娘に邪魔されてはたまったものじゃありませんので……!」
しばしの睨み合いをした後、喜助を睨みながら、ゆっくりと病室のドアを開ける。
「悪いっ!剣……!怪我人に頼むことじゃないかもしれねぇが……!そいつのこと見てってやってくれ!……ちょっとばかし面倒な事になった!」
そそくさと子々子を病室へ入れ込み、剣へと声を掛ける紅鈴。最後に「お前達は絶対に俺が守るっ……!」と言い放ち、乱暴に扉を閉めた。
「さぁ……てぇ……!さっさと片付けさせてもらうぞ……?命の方へいかなきゃならねぇんでなぁぁぁ……!【傀儡傀儡】っ!」
紅鈴の右腕が紅く染まる。無数の糸が絡まり、連なるその腕から……数本……真紅の糸が解れ、垂れ下がった。
窓から入り込む夕日の色が溶け、炎の様に輝く糸は明確な敵意と殺意を宿して、目前の排除対象へと燃え盛った。




