9話『便利屋の意味』
コンコンコン。
「失礼するぜ〜!」
白い部屋に入る便利屋Hand'sの2人。
ここは掃除屋本部・東棟。医療隊関連の施設……まぁ、言ってしまえば、病院である。その3つしかないVIP室に、件の人物は、入院と言う形で、監禁されていた。
「あぁ……!紅鈴さんっ!」
部屋の中には既に3名。紅鈴が怪我人を渡した医師・白衣 喜助。紅鈴にタオルを渡した看護師・人看 子々子。そして、紅鈴が助けた悪魔の手に呑まれた人間──。
「貴方が助けてくれたのか……ありがとう」
「……色々聞きたい事はあるがぁ、まずは自己紹介だなっ!俺はぁ……絡繰良 紅鈴。便利屋Hand'sの社員だ。よろしく頼むええっと……」
「崩壊信仰、三従士軍の1人、輝士 剣……。よろしく、紅鈴さん」
──輝士 剣は、ベッドに座りながら深々と紅鈴は頭を下げた。その姿は、つい数時間程前の怪物の片鱗すらも見せない綺麗な褐色肌で、まるで病人とは思えない程生命力を宿していた。
笑って片手を上げて反応した紅鈴の後ろから、ひょっこりと白髪が姿を現す。
「どうも〜!……僕が社長の命です。よろしくお願いします。少しお聞きしたいことがありましてこちらに伺いました。目覚めてすぐに面倒かもしれないですが、お話聞かせてください」
「あぁ……はい」と会釈をした剣。暴走した時の記憶も残っているのだろう苦虫を噛み潰した様な表情をしていた。
広めの室内に5人。ベッドに眠る1人とその周りの椅子に座り囲む4人。開いたカーテンからオレンジ色の光が入り込んでいた。
「貴方がたがいらっしゃる事は、イロリから聞き及んでおりました!……我々は退室した方がよろしいでしょうか?」
「ん〜?いや、別にいてもいいよな?」
「うん。特に不便はないよ。お心遣いありがとう」
「えっと……それで聞きたい事というのは?」
「応えれる事だけでも応えてくれると嬉しい。まずは……うん……長々と時間を取ってもあれだから単刀直入に聞くけど、引金薬の入手経路と他の引金薬の在処について教えてもらえる?」
「……」
目をつむり、3回の呼吸を経て目を開いた輝士 剣は静かにその口を開く。
「入手経路については俺は知らない……が、崩壊信仰の三従士なら知ってる……と思う。在処か……それなら分かる。貴方が……戦っていた……霧夜……が……持っている。全部……」
声を発する度に重くなる言葉。次第に少しずつ震える体に4人が気づいた頃には、彼は目から涙を落としていた。涙で色が染まる毛布。灰色に濡れていく白い布は彼の大きくも小さな手で、強く強く握りしめられる。
「お……おい……大丈夫かよ?……剣?」
最初に声を掛けたのは紅鈴だった。オロオロと戸惑いながらも、剣の背中を擦り、眉を寄せて心配する。
命は浴室からタオルを持ってきて剣に渡した。少し考えた後に、喜助と子々子を老化に連れ出した。
「そうだ……霧夜……が……俺の……俺……お……。……ぐっ……うぅ……」
「おぉ……大丈夫だぞ?話そうとしなくていいからなぁ……無理しなくていいからなぁ……?その……ごめんなぁ」
◇ ◆ ◇
「連れ出して……悪いな……」
「いぇ……今はそっとしてあげるのが最善かと……」
「は……はい!私もそう思います!」
長いなにもない廊下。オレンジ色の光に照らされて立つ3人。こちらを見る2人に目もくれず、窓の外を眺めて命は続けた。
「紅鈴は昔から人の気持ちに敏感で、横に寄り添ってやれる良い奴なんだ。良くしてやってくれると嬉しい……」
「も……勿論です!紅鈴さんの為なら例え……火の中!水の中!です!!!……あっ!おぉお……お恥ずかしい私ったらつい!」
子々子は顔を真っ赤にして、もじもじする。それはまるで恋する乙女のそれである。
「……そんなまるで紅鈴の事がす──」
かぁーーーっと一層赤く染まる頬。顔を伏せているため、見えないが、目が泳いでることは手に取るように分かる。
「──野暮ですよ。命さん」
喜助の助けに更に顔を下に向ける子々子だった。
「嬉しいよ……紅鈴の事をそうやって想ってくれる人がいて……ね。随分と長い付き合いなんだ。紅鈴が幸せにだと僕も嬉しい……」
ポンポッポポポン♪ポンポッポポポン♪
ポンポッポポポン♪ポンポッポポポン♪
力の抜ける音。着信音。平板連絡機には黄金色商団守銭奴・泡 芥と表示されている。
実は命は、イロリの部屋を出た際に一度、芥に電話を掛けていた。勿論、引金薬の回収を急ぐ為だ。しかし、残念な事に受け取られることが無く、通信が切れた。それが今返ってきたのだろう。
命は2人に「少し離れる」と伝えて、耳への刺激に備えて電話を取った。
「はい。こちら便利屋Hand'sです」
「黄金色商団・守銭奴の泡 芥です。お電話お返し致しました。どうかされましたか?」
本来はこれが正しいのだが、朝の件もあり、肩の力が抜ける命。ふぅ〜……と息を吐いて答えた。
「お忙しいところすいません。引金薬の場所ってもう見つかったりしてませんかね?」
「あぁ!丁度そちらの話をする為にもお電話を返したところです。恐らくお察しだと思いますが、今回の一件は崩壊信仰が主犯です。今、こちらで崩壊信仰の教会を監視していますが、怪しい動きがあったので調べていたところ、2点……不審な場所を見つけました」
「それは……何処ですか?」
「クズレ街の路地裏にある飲食店・曙ともう1つが……その言いづらいんですが……実は……掃除屋本部でして……」
「……は?」
ドゴォォォン!!!
掃除屋本部に爆発音が響いた。
◇ ◆ ◇
「……ごめん……辛い事を……思い出してしまって……」
「別にそんなこと謝らなくていいんだよぉ……。俺は便利屋だぁ!苦しんでる人を助けるのが使命だからなっ!」
サムズアップで紅鈴が笑う。そのさんさんとした明るさに、剣もまた顔が緩んだ。
「紅鈴さんは……なんで便利屋してるんですか……?」
「ん〜……。そんな面白い話じゃねぇんだぜ?……。んぁ〜〜〜……そのな?……命を助けたいんだよ……。」
「命さんを……?」
「あぁ……。あいつはな……魂を食われちまったんだ。……何言ってるか……分かんねぇよな……?まっ……なんつぅーんだ……俺たちが普通は持ってるモノ……奪われちまったんだよ。魂とか……霊気とか……あとは……生き方……とかなぁ……」
命について語る紅鈴は妙に湿っぽくて、優しげで、痛々しそうな顔をしていた。まるで、舞台劇での独白のシーンだ。自分とそれ以外の誰かに言い聞かせるように1つ1つの言葉を考えながら話していた。
「そんな状態でな……あいつは俺を救ってくれたんだ。馬鹿なことしてた俺を……かばって……守ってくれたんだ……だから俺はあいつの力になりてぇ……!借りがあるとかじゃないっ!恩があるとかじゃないっ!!社員として……!仲間として……!何より友達として……!あいつを救ってやるんだ……!!!まっ……今んところしてやれることなんて、あいつの……社長の……為に働くことぐらいなんだけどなぁ……?」
クシャッとした寂しそうな笑顔で、剣の瞳を見つめ返す。漏れた吐息が、何故か剣の胸を締め付けた。
(これ……は……?)
剣はその感情の形がすぐに分かった。これは共感なんだ……と……。彼は……自分に似ているんだ……と。
「だから……良かったら……で良いんだけどよ。教えてくれないかぁ……?……剣お前に何があったのか?……お前が何に苦しんでんのか?俺なら……俺たちなら……力になれるかも……しれないぜ?」
ドゴォォォン!!!
病室内に爆発音が響いた。




