0話『手を──』
序章:『崩壊した國』開幕
白き月光が差し込む廃ビルの中。
壊れた外壁から空を見上げる者が2人。揺れる白髪の青年が、美しい黄金に手を伸ばし、その手の中に確かに掴んだ。
「良い夜風だねぇ……。今日みたいな落ち着いた日くらい……何も起きないでほしいんだけど……」
「無理だろぉ……。犯行予告まで届いてんだぞ……?」
「……あっ。サボる?」
「いや、仕事仕事!」
「はぁ……休みほしぃ……!」
夜風を浴びて靡く白髪と紅髪。静かな廃ビル街に響く笑い声。天と地を繋ぐそれ等の建物には一切の光が灯っていない。
当然だ。何故ならここは──。
ダダダダダンッ!!!
響く銃声。
安寧の静寂は、悲しい事に無慈悲に奪われる。光の無い廃都市に痛いほど輝く爆発物。
「あ〜……!始めやがったぁねぇ!……行くか」
「おぉ……。切り替えはや……!」
「まっ!これでも社長ですから〜。んじゃ!……よろしく〜」
紅髪を見つめ、背中から落ちる白髪。
「んぁっ!?ちょ……!待ってぇぇぇ!!!」
遅れて外壁から飛び出す紅髪。
先程まで居た場所、その高さ10階以上。
普通の人なら、まず間違いなく落ちたら死ぬ高さ。
その高さを今まさに落下しているというのに白髪の顔には一切の恐怖がない。寧ろ遊園地のアトラクションを楽しむかの様な笑顔だ。
落ちる中、白髪が紅髪の手を握る。
紅髪は口を緩ませ、小さく言葉を呟いた。
「──【傀儡傀儡】」
その手から突如として現れる無数の紅い糸。紅髪が手を突き出す。伸びていく紅い糸。その先には、かつてネオンカラーに輝いていたであろう看板が1つ。看板の根元に紅い糸は付着し、地面スレスレで2人を宙に浮留めた。
2人はその脚で、黒きコンクリートを歩いていく。目前の騒々しい現場に向けて、一歩一歩、確実に。
腰から白い十手を引き抜いて。
片手に紅い糸を絡ませて。
2人は静寂の歪に向かって行く。
錆びた臭いが支配する空の街。
法や正しさを失った荒れた場所。
人が人ならざる力を得て、混沌に染まった箱庭。
何もかもが過去になった、全てが壊れた退廃都市。
そう、ここは。
──クズレの國。