第八十九話
♢第二階層・市場
「んー……相も変わらず活気があるな。ここは。大丈夫か? 人酔いしてない?」
「そ、そこまで人見知りじゃ……ない……です……」
凪を連れて市場に来たのだが、凄く縮こまっている。うーん。どうすればいいものか。これじゃまともに買い物もできないな。
「金なら心配すん……な。好きなもんを選ぶといい。今日はチートデイだからな!」
「ちーとでい……?」
「さ! 欲しいものはあるか?」
「ベッド……ふかふかのベッドが欲しい……!」
「じゃ、行こうぜ。ベッドが好きなのは俺も同じだ」
初めて自分の意思を示した凪に嬉しく思い、近くの家具屋を探す。すると、意外と近くにあったので簡単に見つけられた。
いくつかベッドがあるけど、凪はどれを選ぶんだ? ふかふかに振り切ったこの羽毛布団か? それとも、ゲーム版トゥルー○リーパーか?
「これ……これがいい……!」
選ばれたのは、羽毛布団③だった。何だこれ。あったけ~。
「これの羽毛に……黄金蝶の鱗片がかかってる……体力の回復効果があるよ……!」
「? そんなのポップに書いて無いけど……」
「私、千里眼使えるから……」
「ッ!? はぁ!?」
周囲のプレイヤーから視線が集まる。少し恥ずかしそうに縮こまる凪と、驚愕する俺。せ、千里眼って……遠くまで見える奴だっけ? 透視も出来るのかよ!
「というか、黄金蝶の鱗片とは何ぞ」
「お母さんに教えてもらった……。近くにあるだけで、癒されるって」
「へー。白狐がねえ」
さすが幻獣。よく知ってるわ。
店員さんに声をかけ、十万ゴールドを支払ってベッドを入手した。心なしか凪も嬉しそうだ。次は何を買うか聞いたら、「今日はこれでいい」と返って来た。無欲すぎる。あの質素な部屋で必要なものはまさかのベッドオンリー。この女……強い……!
それからは早かった。帰ってベッドを設置して。凪が、「明日、モンスターと戦ってみたい……」と言い出すので、俺の買い物が終わったら行こう、と話した。
明日で四日目なわけだが、レヴィアタンは俺に何を買わせているんだ?
状態異常無効化ポーション、掌握魔手、小さな鏡、月桂樹の葉。関連性が見出せない。特に、月桂樹の葉に関しては何も知らない。冠でも作れってか?
「ま、気にしなくていいか。一応これはゲームなんだし」
多重奏世界、神界等の様々な不安要素はあるが、一応これはゲームなのだ。確かに、普通のゲームではありえないようなインフレが早々に始まっているが、まだこれは神ゲーのFFOなのだ。それに、週末には第三回イベントを控えている。準備をしていかなければならない。
「考えるのは後でいいか」
俺はログアウトし、ベッドに再度倒れこんだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「あ、おはよー! 昨日も長い間ログインしてたみたいだね。いつ勉強してるの?」
「してねえよ。授業聞いてるだけだ。課題は殆どしてないしな」
「殺していい?」
「だめ」
翌日の朝、通学中に理慧と優華に会ったので、そのまま一緒に登校していた。最近の話題は常にFFOだ。どこどこのダンジョンが~や、昨日ヤバいプレイヤーいた~とか。まあ、第三回イベントの話題も増えてるか。
「というか、今週末ようやくイベントじゃん? ちゃんと対策練ってるの?」
「いやー、今一つ……。ただ戦うだけだってんならどうにかなるんだけど、サバイバル要素も入るんだろ? 何をすればいいのかよく分からんからさ」
「奏は【unlimited materials《素材王国》】と【ultimate factory】を持ってるから、行った先のフィールドで家を造ることも出来そう」
「今回のイベントは〈魔王軍〉フルメンバーでしょー? だったらそうそう攻められない気がするんだけど」
「本当にどうしようもなくなったらここ姉の氷の城に籠城すればいいしな。広範囲殲滅スキルもみんな持ってるし」
「万全過ぎて準備することが無い」
今回のイベントが〈魔王軍〉の初イベントなわけだが……それがまさかの無人島サバイバルとはな。クラン参加型のイベントだが、もしかして同じ無人島にいくつかのクランが投下されるのか? それとも、一クラン一つの無人島とかか?
「詳しい説明があんまりないんだよねー……。なんか、今回のイベントから設定があやふやすぎない?」
「というより、階層が一つ上がっただけで設定が増えすぎだ。なんだ幻獣って。って感じ」
「インフレの早さがおかしい気がする。これほど丁寧に作られたゲームなのに、戦力の上昇幅が大きすぎる」
「……まあ、ゲームだしいいんじゃね? いつまでも楽しめるわけではないしな。楽しいうちに楽しめればいい」
そんなこんなで学校へ到着。そこで、二時間目と三時間目の間の休憩時間にアスカに呼ばれて今は空き教室に来ていた。
「何かね? これから物理で移動教室なんだが」
「んーごめん。ちょっとFFOで話があるんだけど」
「拝聴しよう」
「私の装備品の『盈月』とクリスの『背理』っていう耳飾りあるじゃん? あれのスキルに『月読』と『治癒神』『全能神』ってあるんだけど」
「ああ、あったな。そんなの。確か使用禁止じゃなかったか?」
「それがー、昨日使えるようになったんだよね~」
「……はあ?」
飛鳥の内容をまとめると、こうだ。
昨日、クリスが神話のクエストを受けた場所に再度行ってみたそうだ。当時暇だったアスカと共に。だがそこには前回のような神殿は無く、代わりに紙が一枚落ちていた。
そこにはクエストの依頼が書かれており、報酬は一部装備品の封印解放。願ったり叶ったりだ! と思った二人は飛びついた。
その内容が意外と過酷で、第一階層含めた五十か所を巡ってモンスターを狩りまくるとかいう、恐ろしい拷問ゲームだったそうだ。だが、昨晩それを攻略し終えたと。
「そしたら耳飾りの封印が解けて、各スキルが使えるようになった……ということか?」
「そう。スキルの内容もーバカみたいに強いし……というか、なんか進展しすぎじゃなぁい?」
「おっ、朝の俺達と同じようなこと言ってる」
「クリスも、「なんで急に……? それに、奏君とかの魔王シリーズの方が先に入手してるんだから、そっちのクエストが先に出るんじゃないの……?」って言ってたよー」
「まあ、確かにな。結構爆速で手に入れたし」
何か運営が急いているような……気のせいか? 最近はこういうことが増えて来たな。急増する設定、インフレする戦力、挙句の果てには未解禁だった能力が解放され始めた。ほんとになんなんだ……?
「あ、能力は放課後のプレイで見せてあげるねー。じゃ、バイバイ!」
「おう。じゃあな」
物理の時間こっそりとスマホを弄り、FFOの掲示板を見てみた。すると、色々なプレイヤーの愚痴が書き込まれていた。一部抜粋すると、
『なんか一部のプレイヤーがこのゲームを独占してるよな』
『ほんそれ。運が良くてユニーク装備を手に入れただけのくせに、何イキってんだろうな。俺等にも装備があれば簡単に倒せるってのに』
『まあでも、カナデとかリエちゃんは許す。可愛い。かっこいい』
『おいおい。うちのリンチミンチはどうだよ。ショタだぞ、ショタ!』
『↑見た目はな。でもやっぱ、ユカさんだろ! 装備品を一回作ってもらった時は、金と心を奪われちまったぜ!』
『だけどさー、やっぱ運営も悪くねえか? 最近急にコンテンツが増えたろ』
『君たちもそう思う? 私もよ。今まで使用不可だった装備品付属のスキルが、急に使えるようになったもの』
『なんだかなー、初期のFFOのが好きだったかも』
『いや今も十分楽しいだろ』
……すげえな。魔境じゃん。みんなユニーク持ちに色々溜まってんたんだな。なんかスマン。
ってか、この会話でクリスが上がらないってことは、眼鏡の力はしっかり発揮してるっぽい。素晴らしい。
あまり他のゲームを遊んだことが無いので断言はできないが、こういったタイプのゲームは攻略の概念が無いんじゃないのか? なんで進めれば進めるほど謎が増えるんだよ……。
はぁ、とため息をつきながら、物理の授業を受けるのだった。
一旦ここまで。続きはまた明日とか明後日とか。




