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第八十八話

 第一階層到着。第二階層に通ずる門に近づくと、ピロンッ! とウィンドウが出てきた。どうやら、一同攻略したら門番と戦うかどうかは自由のようだ。なるほど。これならそこら辺の生産職でも他のパーティーにくっついて行けば自由に階層を行き来できるな。


「まー勿論挑戦するんだけど。【狩猟】スキルってパッシブだよな? 倒す瞬間に宣言しなきゃいけないとかないよな?」


 何せクエストを終えてから直接来たので、一回も試していない。スキルがどのように作用するかも知らない。丁半博打と言ったところだ。


 それはさておき、前回ここに八人で入った時は変な猪の熱烈な歓迎があった。そろそろ来る頃だと思うが……。と考えていると、案の定ドドドドドドッ……という足音が前方から聞こえて来る。何の躊躇いもなく『黒龍』と『白龍』を連発すると、その姿を視認されることも無く猪は死んでいた。ちょっと無惨……。

 光になって消えてないってことは、【狩猟】スキルは正常に働いているな。ちっとばっかしグロいが、そこに目を瞑ればいいスキルだ。


「あ、死骸はインベントリに入るのか。ちょっと嫌だけどまあ仕方ない。弾薬とか入れてる場所に猪の死骸が入ってるのはすっげえ嫌だけども」


 いわば鞄に死骸を入れて運んでるようなもんだし。まあ、別の空間に入れている状態でもあるから良しとする。


「さて、あんまり距離は無かったはずだが……。そろそろか?」


 と考えていると、前回も見た、模様の掘ってある扉にたどり着く。これを開いたら戦闘開始だ。

 まずは頭の果実を撃ち抜かなければまともな戦闘にならない。俺一人でタゲを集めて、かつ果実を破壊。【即死無効】さえ無ければ、『終ノ刃』で終わる。大した傷も無く倒せると思う。


 バーン! と扉を開くと、眠っていた黒い鹿が起き上がる。眼が紅く染まり、全身から「起こしやがって……」という殺気を感じる。俺もそうだから気持ち分かる。


「生憎だけど、自分がされるのは嫌だけど人にするのは好きなんだ」


 初手の木の根による突き刺しを『無量メタル』で防ぎ、ピタリと止まったその根を駆ける。これで一気に肉薄できる……んがっ!?


 意気揚々と駆け上がっていたら、何か透明な壁に阻まれてしまった。おでこが痛い。

もしかして、どっかの果実を落とさないと接近すらできない……?


 ああああ~と落ちていく俺に対し、無慈悲に木の根を突き刺しに来る鹿。お前マジで許せねえな。空中で体勢を直し、襲い来る木の根を『黒龍』で捌く。このくらいなら片手でいけるッ! だから、撃つべきはあの果実!


「【連奏】! 【ピンポイントアタック】!」


ドパァァァンッ!!


 空中での早撃ちという、かなり高度な技を見せる俺。全弾ヒットとはいかなかったが、二発当たってくれた。剥奪した能力は“超再生”と“攻撃力上昇”。理不尽に回復することは無くなったし、一撃で死ぬ確率も下がった。


 またも体勢を立て直し、足から着地。【静着】の効果により落下ダメージを無効化した。すると今度は、天井から岩が崩れ落ちて来る。なんでやねんと思ったら、木の根で天井を内側から破壊していたようだ。


「チッ。『無量メタ―――」


 バキィッ!!


 大量の岩によって巻き上がった砂埃。それにより悪くなった視界では、高速で振るわれる鞭のような木の根を回避できなかった。天井から落ちて来る岩対策の『無量メタル』は、真横から接近してきた太い根を防げなかった。というか、これ即死……


「【邪淵の災呪】……ッ! 【憤怒】【怠惰】【強欲】ッ! 【権能:迎撃】ィッ!」


 青紫の光が鹿を呪う。STR、DEF、AGIが30%低下し、強制的にHPが半減した。しかし俺は、STRが合計30、DEFが合計60、その他のステータスも10ずつ増えた。そして背後に二門の機関銃を召喚し、あらゆる攻撃を排除する状態になる。完全に戦闘形態だ。


「あっ、【任務遂行】」


 一応MPに振っておき、【連奏】を撃ちまくれるようにしておく。完全に準備が整った後、俺は鹿と相対した。


 振り下ろされる木の根は全て背後のブローニングが破壊する。あくまで迎撃だけなので、果実を撃ち抜いてはくれない。向こうだって防御壁を出して来るし、きちんと背後を取らなければならない。AGIの暴力に任せて鹿の股下を通り抜け、背後から頭にぶら下がっている果実を撃ち抜く。その際剥奪した能力に、【即死無効】があった。よし。ここまで行ったら簡単に終わるっ!


 【権能:迎撃】を解除し、あえて木の根に身を晒す。そして俺に触れる瞬間、俺は叫んだ。


「【空蝉】っ」


 ちょうど鹿の背中にテレポートし、そのままナイフを突き刺しながら高らかに宣言した。


「【極刑】っ!」


 刺した瞬間、木の根の動きは完全に停止。おっ……これは、完全に死んだな? 超巨大な鹿の死骸をインベントリに入れながら、どこで解体するかを考えていた。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「たっだいまぁ!」


 勢いよく玄関を開けると、リビングにはリエとユカがいた。何か動画を見ているのかと思ったら、まさかの前回大会の切り抜き。俺VSリエ&ユカの部分だ。注目のマッチアップの一つだったんだな。ちょっと懐かしい。


「あっ! おかえりー! どこ行ってたの? レヴィアタンのとこにしては長くない?」


「一階層。みんなにいいものを食わせてやりたくてな。わざわざクエストを一つ攻略したんだぜ?」


「ということは、『狩人への一歩』? まさか、【狩猟】スキルを手に入れたの?」


「ああ。それで、動物を狩ってきた」


「えー、何を狩ってきたの? 猪? 牛? スライム?」


「ま、それはみんなが揃ってからのお楽しみな。今、凪はどうしてる?」


「自室にいるけど……あんまり反応を示してくれないから、何をしてあげればいいのか分からないんだよね」


「ふーん……一応顔を出してみるか」


 いくら凪のために肉を獲ってきたとはいえ、あいつがみんなと話せなければあまり面白くないだろう。美味い肉でも不味く感じるだろうし。

 先ほど全員にメールを送ったところ、明日ならば全員揃うということが分かった。つまるところ、今日は暇だ。もう一度言う。暇だ。軽く仕込みの時間にしたり、ダンジョンに潜ったりしてもいいが、今は凪とのコミュニケーションを優先する。


「シャイな子とのコミュニケーションは何も知らないんだけどなぁ……」


 コンコンコン、と三回ノックをし、凪に入っていいか聞く。すると、「……ど、どうぞ……」と返事が返って来た。さて、くっそ緊張するぜ!


「あー、えっと……こ、ココはどうだ? 楽しいか?」


「あ、はい……。皆さん優しくしてくれて、いい場所です……はぃ……」


「そ、そうか。それなら良かった……」


「はい……」


「……」


 気まずさで切腹できそうな重苦しい雰囲気。何か話題となるものは無いか、とキョロキョロするが、何も無いと諦めて項垂れる。

 いや待て、何もないだって? 本当に何も無いな。シンプルな家具しかない。


「なあ、凪。ちょっと買い物行かないか?」


「……へ?」


 「さっきまでクソキョドっとったやんけ」みたいな目を向けられた。だが、この部屋には最低限の家具しかないんだ。仕方あるまい。


「こんな質素な部屋で過ごすのも切ないだろ。ほら、行こうぜ」


「え……ええっと……行きます……」


 こうして、俺と凪とで家具の買い物に行くことになったのだった(次のイベントに向けたサバイバル用品も)。

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