第八十七話
トップランカーと、最強クラスのボスが美味しい肉について話し始めます。
あれから、三人に凪をクランホームに連れて行ってもらい、その間に俺はレヴィアタンの店に行くことにした。三日目の今日買わなきゃさ。ここでクエスト失敗は痛すぎる。
カランカラン……
「あ、いらっしゃい……。お金……あるの……?」
「ああ、命を賭けながら稼いできたぞ。今日は何を買えばいい?」
「えーっと……今日はこれでいい、かな……」
レヴィアタンの細長い指に指された物は、鏡だった。アクセサリーを身に着けるときとかに使いそうなくらいのサイズの。
「それと、これ……」
「えっと……『月桂樹の葉』、か? なんか今までと趣向が変わったな。超高級品ではないだろ?」
「……二つで、二万ゴールド」
「楽で助かった。なんで急にこんなに安く?」
「私は、意味のないものを売らない」
店を追い出された俺は、二つのアイテムを眺める。鏡と、葉っぱ。【鑑定】を持っていないので詳細が分からないが、何かに使うのだろう。知らんけど。
「あ、一応凪に何か買っていってやるか……何喰うんだろ? 肉とか?」
狐の生態系をあまり知らないので、何を食べているのか知らない。そもそも普通の狐と幻獣の生態が同じなのかは分からないが。
「普通の肉屋で買うのも微妙だな……俺たちの仲間になってくれたんだし、高級な肉あげるか。マモンに返済したら狩りに行こう」
もてなすならば全力で。新しく仲間になってくれたのだから、どうせならば高級な肉をあげたい。
そうだな、これもマモンに聞いてみるか。美味い肉があるか否か。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「知らぬ」
「えー。興味あるのは金銀財宝だけかよー」
「いや、出される肉に興味を持ったことが無いだけだ。腹に入れば何でも構わぬ」
「暴食が泣くぞ」
「確かに奴なら知っていそうだ。が、今どこにいるのかすら知らぬ。ここは自力で調べた方がよいだろう」
「そいつは残念」
マモンに五千万を返済しながら美味い肉の在処を聞いてみるが、あいにく食事に興味は無いという。なんでだよ。もっと欲張れよ。とか言ってたら斥力で潰されそうだから黙っとこ。
そんな俺を見たマモンは一つ、ポツリとつぶやいた。
「……そうだな。一つ記憶に残っているとすれば、第一階層から第二階層に来るための門があるだろう。あの門を守護している鹿。あの鹿肉は美味かった」
「鹿肉か……確かにうめえだろうな。俺も何回か食ったことがあるが、高級な牛肉を食っているようだった。まー食いすぎて腹下したんだけど」
「あの鹿肉……様々な耐性を持った奴の肉ならば、腹を下すことも無くなる。それに、選択した状態異常耐性を一つ持つことができる。我の知る中で最も旨い肉は、奴だろうな」
「状態異常耐性か……俺あと一つ、【魅了耐性】がねえんだよな。それもあるし、あいつらに美味い肉を食わせたい。というわけで、あいつを狩ろう」
早速第一階層にレッツゴー……と言いたいところだったのだが、よく考えたらおかしいことがある。俺達プレイヤーが狩ったらモンスターは、光の粒子となって消えていく。それでも肉を食うとはどういうことだろうか。
「特殊なクエストを受けることで、【狩猟】スキルを入手することができる。【狩猟】スキルは、特定の種類のモンスターを素材として狩ることができる、というものだ。魔術師以外が魔法を使うために通うクエスト『魔法学院』と同じようなものだな」
「専門的なスキルを入手するために、専用のクエストを攻略するのか。今からやってもすぐに終わるか? それ」
「ふむ。才能のあるものは一時間程度で済むと聞いたが、どうであろうな? 内容で言えば、解体の方法なども習うらしいが……」
「ちょっと行ってくる!」
どこでそのクエストを受けるのかは分かっている。掲示板だ。前、アオイが「『魔法学院』のクエストを受けたのは掲示板だった」と言っていたのを思い出したからだ。そういう職業系統のスキルは掲示板で受けられるのかもしれないな。
第二階層の掲示板に到着。ギルドメンバー募集中! が大半を占めているが、いくつかクエストの依頼も出ている。へえ、プレイヤーからプレイヤーに出すこともできるのか。NPCからだけじゃないんだな。
「あっ、『魔法学院』……いや、機会があったら、かな。そろそろイベントが始まるからあんまり余裕ないし」
そんなわけですぐ近くに張り出されていた。『狩人への一歩』。別に狩人になるつもりはありません。
クエストを受諾すると、すぐに転送され、目の前には黄色い三角コー……尖った帽子を被った無口そうな男性がいた。
『……君が新人君か』
「あ、はい。【狩猟】スキルについて教えてほしくて来ました。早速教えてください」
『まあ待て、新人君。君は、動物を捕まえるほどの技量があるのかい?』
「捕まえる? ならまあ、できると思いますけど……」
『一切傷をつけることなく、捕まえるんだ。すぐに銃を使うような野蛮な人には、まずできないかな?』
「……じゃあやって見せますよ!」
すると、目の前に光の粒子で構成された猪が現れた。銃を使わず、純粋なフィジカルのみで捕まえるってのか……。ちときついな。まさかこういう時にSTRとAGIが要求されるとは思わなかった。
『始めろ』
「はいっ!」
開始と同時に飛びかかるが、当然のように回避された。まあ、今ので捕まえられるなんて思っていない。次だ次。
俺は持ちうるAGIをふんだんに活かしていつの間にか形成されていた草原を駆け巡った。だだっ広い草原で一匹の猪を捕えるのはなかなか骨が折れる。ましてや捕縛など……。
「つっかまえ……たぁ!?」
『フンッ』
「おまっ……寸前で方向転換だなんて……。中々機動力があるな!」
楽しくなってきた俺だが、あまり時間を掛けてはいられない。インベントリにしまっていた二丁のハンドガンを取り出した。
『結局銃を使うのか。ああ、威嚇射撃は意味が無いから止めた方がいいぞ』
「この銃の使い道はそれだけじゃない! 『神龍起動』ッ!」
バラバラに分解された二丁のハンドガン、『黒龍』『白龍』がインベントリから飛び出したシリンダーに結合していく。そうして、一丁の破壊しか考えていないようなハンドガンが生まれた。
「【効率強化】! 【変換炉】! からのぉ~【unlimited materials】【ultimate factory】ッッ!!」
爆発的なエネルギーを用いて数多の素材を生産。そしてその素材を用いて、自動で作られる痺れ玉。大量に作られた痺れ玉は、インベントリに吸収されていった。
「鬼ごっこってぇ~、逃げる側の足が止まればぁ~、くっそ簡単なんだよねぇッ!」
オラァッ! という声を漏らしながら痺れ玉を遠投した。すると、見事に猪の目の前に落下。猪は痺れ玉から吐き出される煙を吸って動けなくなり、パタンッ! と転げてしまった。
「捕まえましたよー」
『かなりズルかった気もするが……結果捕まえたのだから良しとしよう。じゃあ、本格的に授業を始める』
「あ、今のウォームアップだったんだ……」
スキルを解除し、『神龍』を回収。『黒龍』と『白龍』に戻しながら解説は始まった。まずは獲物の捕らえ方だってよ。
どうやらこのクエストは、授業→実践→改善→実践、というのを繰り返していくようだ。一度で終わらせられたら時短にもなるし、なるべく詰まることなく済ませたい。
……っつーか、しっかり狩猟なんだな……。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
『……次に解体だ。やったことはあるか?』
「何回かだけ。一応できますけど」
『ならば即実践に移ろう。先ほどの実践で捉えた猪を使うといい』
授業が繋がっているので、捕らえ方の授業で捕まえた猪を使うことができる。解体をするのはあまり気が載らないが、美味しい肉のためだ。仕方ない。
『よろしい。完璧だな。最後に流通の仕方だが、これはいくつかリストにまとめてある。それを確認するといい。これで、授業は終了だ。よく頑張ったな』
「あっ、意外と短めで終わった……」
『スキル:【狩猟】を獲得しました』
『クエスト:『狩人への一歩』を達成しました。帰還しますか?』
目の前のウィンドに『はい』と『いいえ』が現れる。急いでいるので『はい』を押してもいいものだが、一つ聞いてみたいことがあるので一旦『いいえ』を押す。
「すみません。先ほど、『すぐ銃を使うような野蛮人』と言っていましたけど、先生はどうやって狩りをするんですか?」
『これを使う』
男性が目の前の虚空に手を伸ばすと、そこには黒い何かの鱗で作られた弓と、鏃がこれまた黒い鱗でできた矢が出てきた。かっけえ。
『貫通させない上に、この黒い鱗は黒龍の鱗だ。自然との親和性が高いので自然に害も与えないし、肉の品質を上げてくれるという利点もある。だから弓矢を使う』
「なるほど。では、対人ではどうしても負けてしまいますよね? 失礼なことをお聞きしますが」
『……何かを極めた人というのは、何人にも超えられない業を持っているものだ。君も何かあるだろう。これだけは負けないというものが』
「かっけえっす。先生。本当にありがとうございました」
言い学びの時間だった……と少しじんわりしながら帰る俺。【狩猟】スキルを手に入れたので、今からでも鹿を狩れる……が、一人でアレを狩れるものだろうか? 少し不安だが、まあやるしかない。最近は一人でボスと相対する機会が減っていたから、こういうタイミングを大事にしたい。
「さ、晩飯の材料を獲りに行くかー!」
カナデ「何人にも負けない業……? そんなの無いが……?」
皆さんお久しぶりです! 高校生活もあと少し、来年には受験ということで、また忙しくなってしまうので、今のうちにいくつか溜めてあった分を投下しようという所存です。これからもFFOをよろしくお願いします。




