第八十六話
『あっはっはっは! 私は君たちを襲ったりしないよ! さっきも言ったように、この世界に干渉できないんだし』
先ほどまでの威圧感は何処へやら。白い狐はあっけらかんと言ってきた。すっげえ関わりやすい。
にしても、まだこの世界に干渉できないってのはどういうことだ?
『そうだな……私たちの存在を総括してなんて言うか知ってる?』
「動物」「狐じゃなぁい?」「んー、妖怪?」「物の怪」
『ひ、ひどくない? そこまで化け物じみてないんだけど……まあ、妖怪が近いかな。“幻獣”って言うんだけど』
「聞いたこと……というか見たことはあるわぁ。本屋に行った時に、『理外生物“幻獣”について』ってタイトルを見たのぉ。その、理外生物ってやつ?」
「俺もその本見かけたな。内容までは知らんが……まあ、その幻獣とやらがどうした?」
『えっと、ダンジョンを形成している存在、この世の秩序を司る存在は知ってる?』
そこで考える。ダンジョンを形成しているのは知らないが、秩序を司っているのは神だ。だって、普通にクリスが会ったことあるしな。だが、二つともまとめて聞くということは同一のはずだ。そして、会話の流れ的に……
「……”幻獣”?」
『そうだよ。で、その幻獣の役割なんだけど、住処であるダンジョンを形成すること、一部の秩序を司ることなんだ』
「その秩序を司るってのが曖昧過ぎて分からん。例えばどんな?」
『そうだなぁ……私の場合だったら、“速度”と“超越”、それと“未来”の三つを司ってる。秩序、というか概念を司ってるかな。他には、“力”を司っているのもいるし』
「『機械神の神殿』とかは“幻獣”が作ってないと思うんだが。あと、『果ての闇』とか」
『うん。確かに『機械神の神殿』は幻獣の力が及んでいないよ。あれはベータの終の住処だからね。だけど、『果ての闇』は幻獣の生息地域だよ。『ダークマター』は彼らの出す排出物だし』
「すげえ分からん」「んー? で、何が言いたいのかしらぁ?」「話が回りくどいですね」「質問したのはこっちのはずだけどねー」
『でも、そんな幻獣も顕界する方法はあるんだ。それが、“契約”。一生に一度だけの契約を用いて、その世界に降臨するの』
「契約したらどうなる?」
『その幻獣によるけど、力を与えるケースが多いかな。その秩序の力をね』
「ふーん……で、このダンジョンを攻略させて何がしたいんだ? 俺たちは金を盗りに来ただけなんだけど。マモンに言われて」
『あはは……いきなり飛ばすね……。っというか、マモン!? あの女、まだ生きてたの!? しぶといなァ……!!』
吹き荒れる殺気の嵐。マモンとどういう関係なんだ。
そもそも、七つの大罪は神界出身の七柱組。で、アグネルだったかなんだかの神のせいで堕とされて、人間界に来た。そして、幾つかの階層に散らばって生活している。さて、幻獣と関わる場所があったか?
『あの女、ココで金を盗って来いって言ったわけ!? どういう流れで!? 全部吐いて!』
「ぁい」
あまりの恐怖にキレイな「はい」が出なかった。疑問をぶつける暇もなかった。説明をしようとすると、そこに出てくるイベントについての説明が必要なため、結局『七つの大罪』クエストについて全て説明してしまった。
『なるほどね。サタンから力を継承したんだ……いいね。うん。いい! 私も手伝ってあげる! 五千万ゴールドは最奥の賽銭箱から取って行って。マモンに渡すのは癪だけど。あと、そこに勾玉があるから、それも持って行って』
「…………ん? 勾玉? それって何色だ?」
『黒色だよ? 何か気になった?』
「その勾玉って、白色のやつと対になってる?」
『よく知ってるね! それさえあればうちの子を預けられるんだけど……。まあ、その話は追々かな』
「それ持ってる」
「「「『…………えっ?』」」」
狐とココ姉、アスカ、カリノの声が一つに重なる。今までの会話の流れ的に、まだ入手できないアイテムだと思っていたからだ。しかし、恐らく俺はそれを持っている。第二回イベントの時に手に入れた奴だ。
「どうだ? これは」
『わ、わ、わ、私の勾玉……ちょ、付いてきて!』
何やら慌てたように爆速で消える九尾。速すぎて見えなかった。流石“速度”を司る幻獣だ。
ひとまず俺たち四人は、さっき言われていた奥に行くことにした。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「あ、いた」
『き、来たね。えっと、先に五千万ゴールドを渡して……。これ、アイテム合成してみて!』
俺に五千万ゴールドが送金されたことを確認すると、今度は神棚を指さす白狐。勾玉はいずこ。
あ、これか、と神棚に入っている勾玉を掴み取り、【ビルド】を発動する。すると、二つの勾玉が引き寄せられるようにして合体していく。それは一つの球になり、黒と白が混じり合った美しい宝石となった。
『本当に私のだった……。あ、ちょっと呼んでくる!』
「えーっと……何を? というか、誰を?」
『私の子だy』
最後の方は聞こえなくなってしまったが、私の子を連れて来るといった。マジか。急に他人の子供を預けられるのか。止めてよ。
脳が高速で周り続けているため、一瞬が長く感じられた。そして、奥からさっきの……白k……あれ? 別人が出て来たんだが?? ちょ、めっちゃ綺麗なお姉さんと、めっちゃ綺麗な少女が現れたんだが!?
「カナちゃん……あれが、さっきの白狐さん? というかぁ、あの隣の子がお子さんかしらぁ?」
「ということは、あの子を預けられるんですか? カナデさんは」
「つ、ついにお父さんになるんだね~。カナデ君」
「ちょっとやめてくれ。今頭がオーバーヒートしそうだから」
大人なお姉さん(白狐?)がこちらにニコっと微笑むと、女性はいつの間にか正面にいた。ああ、この速さ。白狐で間違いない。
『人間態の維持は苦手なんだよね~。早く話し合いを済ませちゃお!』
「いや話し合いも何も、え? 結局お前は何がしたいんだ? 勾玉が二つ揃ったら何が起きるんだよ?」
『確かに説明が少なかったかもね。いいよ。丁寧に説明してあげる』
さて、この説明を全て描写すれば読者が減ってしまいそうなので、簡潔に要約しておこう。
・俺が集めた二つの勾玉は、幻獣“白狐”の子供である極禍幻獣“九尾”を現世へ繋ぎ止めるもの。
・極禍幻獣とは、通常の幻獣とは違い、溢れ出る厄災級の力を持っているので、現世にも存在できる。
・生まれたばかりでかなり危うい状態の九尾を育成して、安定した子に成長させてほしい。
・白狐はこれから秩序の維持のために少し遠出をするらしい。
「……どうしろと? どうやって育成すればいいんだ。そもそも、プレイヤーみたいに扱ってもいいのか?」
『そうだね。限りなく人間に近いと思うよ。ただ違いがあるとすれば……うーん。やっぱり力かなぁ』
「力ー? 厄災級のエネルギーとかなんとかでしたっけ?」
『そうそう。今のこの子、プレイヤーで表すなら、『レベル1で装備も初期だけど、スキルは災厄シリーズを持っている』みたいな状態だから』
「強い」「わー、強いね」「強いわねぇ」「最後の一言が偉大過ぎですね」
『というわけで、よろしくお願いできる? 本当に申し訳ないんだけど……』
すると俺達全員の目の前にクエスト発生のウィンドが現れる。決定権は俺にあるようだ。
「……………………分かった。その依頼を受けよう。だが、あまり期待はしないで欲しい……。っつーか、そろそろ第三回イベントが始まるから、九尾一人には時間を割けない……。いや、〈魔王軍〉のみんなで協力すればあるいは……か」
『決めたんだね! ありがとうぅ!! この恩は、私が帰ってきてからするから! それまで、うちの子をよろしくお願いね!』
「いやだから、育て方を聞いてるん―――」
『必要な情報は後で送るから! ちょっとこれからアポロン達とのミーティングがあるの! ゴメンね! 入口に転送してあげるから、そこから帰るといいよ! じゃあね!』
「いや、ちょ、はぁああああ!?」
一瞬にして景色が変わると、そこは入ってくる前のビーチだった。こんなに壮大なクエストになるとは思わなかったし、まさか子供を預けられるとは思わなかった。
と、預けられた子供、九尾がじっとこちらを見てくる。整った顔立ちなので、俺が何か悪いことをしたような感覚に陥る。
「……こ、これからよろしくお願いします……」
「うわー! か~わ~い~い~! 名前は何て言うの!?」
「……個体名の九尾しか……持ってなくて……」
「じゃー私達で名付けよう! どんなのがいいかな!?」
軽くハイテンションになっているアスカを尻目に、俺はポツリと呟いた。
「凪……とかは? 落ち着いてるし、このダンジョンのモチーフは神社だろ? だから、巫のなぎから取ってみた。どう?」
「いい……すごくいいです……! これからよろしくお願いします……!」
こうして、〈魔王軍〉のメンバーが一人増えたのだった。




