第八十四話
それから約五分後。アスカは苦労しながらようやく降りてきた。
「や、やっと着いたー。って、どうしたの? みんな~?」
「いや……巻貝を探してたんだが……まさかあれじゃねえよな? って思って」
「? ど……れ……ぇ?」
ココ姉の能力で透明になった氷から見えたのは、巨大な巻貝型のモンスター。最初は岩かと思ったほどだが、HPバーも見えるし、こいつはモンスターだ。地味に遠いし、もっと言えば海の中だ。殺せるはずもない。
「北に進むだけだから、無視して行っちゃう~? トンネルを作りながらならいけると思うわよぉ?」
「え? できるんだったら言うこと無いんだけど」
「でも、水があるから……トンネルは無理ねぇ~。くりぬいてくれるんなら別だけど」
そこで、俺とアスカ、カリノは再度見合わせる。第三回イベントに向けてアイテムを揃えているので、ピッケルやシャベルくらいは持っている。それに、本気を出せば武器で破壊できるしな。
「それじゃ、大丈夫ね。行くよぉ~? 【氷河造形】!」
「「「おお~」」」
目の前の空間から、氷がニョキニョキと伸びる。というか、こちらから順番に凍っていってるだけだが。
その氷を、ピッケルを使ってせっせと掘る俺達。ペースとしては悪くないが、流石に時間が掛かりすぎてるな……。それに、STR依存だからカリノに関してはほぼ掘れてないし。
ガン! ガン! という音が響く中、俺は二丁のハンドガンを構えていた。
「ココ姉。限界距離まで氷を伸ばしてくれ。あと、氷の厚さを広げてくれると助かる。もう一つ言うなら、頑強に」
「え、ええ? できなくは無いけど、掘りにくくなるわよぉ~?」
「大丈夫大丈夫。なんなら過剰に壊れっから」
「「あー」」
「【氷河造形】【純氷化】【範囲増加】!」
「『神龍起動』」
バヂッ! バヂバヂッ!! と電撃を纏いながら変形していくハンドガンたち。二匹の黒龍は、一匹の神龍へとなった。
「あれ? こんなにバッチバチしてたっけな? もうちょいオーラは少なかった気がするが……気のせいか」
俺の記憶違いか? と考えながらも引き金を引くと、ドッパァァンッ! という音と共に凶悪な弾丸が射出された。うん。反動が前よりも強い。『白龍』……【連奏】の記憶云々のせいか?
「え、ちょっ、え? そ、そんな勢いで破壊される?」
「『神龍』の一撃だから。『黒龍』とか『白龍』じゃ太刀打ちできないやつも、一撃で葬れる」
「それは卑怯だと思うわぁ~。防ぎようがないし~」
創られる傍から破壊していく弾丸に冷や汗をかくココネ。なんとかトンネルの形を保とうと、必死になって氷を作り出していた。そして、超巨大な巻貝の場所まで来た。曲がるつもりだったのに、直線出来ちゃった♡
「というか、どれだけ巨大でも即死を使えば倒せるんじゃないの? カナデ君の【極刑】とかでさ!」
「私は攻撃的なスキルを持っていないので、皆さんにお任せします。一度くらい試してみては?」
「私も即死は持ってるけどぉ~。海の中だったら全生物が死んじゃうから、使えないわぁ~」
「何て凶悪な力だよ……我が姉ながら恐ろしい」
「えへぇ~」
それからはゆっくりトンネルを広げてもらい、巻貝まで三十センチほどになった。ナイフを構え、極刑を発動する。氷を突き破り、その殻にナイフを突き刺す。すると、HPバーが一瞬で消し飛んだ。一枚目は。
「あれー? なんで死なないの? この巻貝」
「私が見るに、魔法でできた殻のようなものがありますね。それも、生物判定を持っているものを。巻貝の一部という判定なんでしょうね」
「じゃー、私がやろうかー? ナイフと違って一撃で全部破壊できると思うけど」
「マジで? できるんなら頼む」
「行っくよー! 【パワーアタック】【ピンポイントアタック】【精密射撃】【渾身の一撃】【対物理特攻】【絶対貫通】!!!」
「……あ、これ私でも止められませんね。確実に死にます」
狙撃銃『朧』を構えるアスカに、カリノは退いた。流石に私でも無理! と。というか、こいつで無理なら俺たち全員無理じゃね?
「止められなくは無いけど……丸一日氷が使えなくなっちゃうから駄目ねぇ~。流石アスカちゃん!」
「ありがとーございます!」
正確に弱点を見抜いたアスカは、一ミリのブレもなく巻貝を撃ち抜いた。一枚目の殻は弾丸に触れる前に破壊され、十層目に至る頃にも弾速が落ちることは無かった。
それから二百三十八層破った後、ようやく本体が出てきた。その瞬間、弾の効力が消えた。
「んーっ! おっしいなぁ……。最後は二人が持って行っていいよ!」
「あ、私これ攻略できないので、どうぞ。破壊してください」
「えぇ~? 私だってSTRが高いわけじゃないんだけど……。あ、でもぉ~、直接触れることが出来たら簡単に破壊できるかもぉ~」
「すっげえ嫌な予感がする」
殻を大量に破壊して満足したアスカは、本体の破壊をココ姉に任せた。しかし、通常の体力が多く、DEFの高いこいつを破壊するには時間が掛かる。並のプレイヤーならば。
「【内部凍結】」
ココ姉が巻貝に触れると、途端に巻貝が凍った。外部が、ではない。体内からだ。
「【絶壊の業氷】」
パキンッ
「え?」
「エ?」
「ゑ?」
「あらぁ~。意外と脆くて助かったわぁ。ほら、行きましょ~?」
「「「何があった!?」」」
ちゃんと説明を聞くと、二つのスキルが原因だった。
一つ。ココ姉が保持しているスキル、【内部凍結】。直接触れた対象の内部にある水分を全て凍らせるというスキルだ。クールタイムが長いのと、直接触れる、という点から使い勝手はあまりよくない。
二つ。ココ姉の装備品についているスキル、【絶壊の業氷】。触れた氷を全て破壊するスキル。これもまたクールタイムが長いスキルだが、破壊性能は抜群だ。
これら二つのスキルを合わせれば、どんな敵でも大体は死ぬ。しかも、これは『即死』ではない。いわば、普通のスキルによる攻撃。そのため、【即死無効】を持っている敵でさえも殺すことができるのだ。
「ちょっと、ココ姉強すぎない? 銃と魔法の世界で、魔法に力が傾倒してる気がするんだが……」
「でもぉ、カナちゃんとかクリスちゃんとか、アイク? とかが銃の力を底上げしてるからさぁ……」
「でも、リエさんとかもいますよね。魔術師のエキスパートが」
「どっちもつえーんだよ。それでいいじゃん」
こうやって銃と魔法のパワーバランスが釣り合っていくんだなァ、と考えていると、さらに氷が作られる。あ、トンネルを作れと。うい。
「さぁ~、掘って掘って~! 氷ならいくらでも作れるからぁ~!」
「「はーい」」
「頑張ってください」
こうしてもう一発『神龍』を使い、ようやく北の洞穴にたどり着いた。その空間は水が入らない空間で、入口には鳥居も置いてあった。頭を下げて入るアスカ。俺とカリノ、それにココ姉は特に頭を下げなかった。すると、
『ウヤマエ』
という声と共に奥からレーザーが飛んでくる。アスカのみ飛んでこなかった。
俺はとっさの『無量メタル』で。カリノは持ち前のDEFと【防御形態】で。ココ姉は……なにそれ!? 空中で飛んでくるレーザーを凍結させていた。地面に落ちることも無く、その場に留まっている。説明しきれない現象だ。
「これぇ~? これは、【権能:凍結】よぉ~。氷の神から貰ったのぉ」
「……聞いたか? これで魔法と銃のパワーバランスが平等だと?」
「いや、神の権能だったらカナデ君も三つ持ってるよね……?」
「…………さあ、奥へ進もうか。礼儀に気をつけながら」
「誤魔化しましたね」
俺、氷系統の能力好きなんだよね。




