第八話
ヤバない? 二話出すって言って二話とも遅れたんだぜ?
「ユカ~~!!!! 見てこれ! カッコよくね!?」
「……かっこいい。けど、どうしたのそれ?」
「ダンジョン攻略したらゲット出来た! ユニークシリーズ!」
「……初めて何日目?」
「二日目だけど?」
「もう知らない」
あの後、俺は入手した魔王シリーズを装備してユカの店まで来ていた。勿論、自慢するためだ。
それぞれのスキルの確認もしたかったが、それは帰ってからでいいだろう、と思ったので、まずはこの店に来た。というか知り合いこいつしかいねえし。
「で? スキルの確認はしたの?」
「今からする。なんか、名称からやばそうなんだよ」
「例えばどんなの?」
「んー、【極刑】とか、【不絶の混沌】とか」
「……どこかで聞いたことがあるような気がする」
「え、そうなの? これって一般的なスキルなの?」
「いや、運営からのメッセージで……」
うーんうーん、と唸るユカ。頑張れ。頑張って思い出すんだ。
「あっ、あれだ。このゲームにあるユニークシリーズの中でも最上級クラスの装備がいくつかあるんだけど、そのうちの一つがそれ。確か、魔王シリーズじゃなかった?」
「ああ、それそれ。魔王シリーズ……」
……………………
「「ええええええっっっ!!!???」」
まさかの想定外。想定外中の想定外。確かにめっちゃ頑張って取ったとはいえ、そんな大それたものだとは思わなかった。
まあ、何はともあれ、まずはスキルの確認だ。うん。
「じゃあ、【闇沌ノ纏】から」
【魔王降臨】
※使用不可
使用条件:七つのクエストの完遂『傲慢』・『強欲』・『嫉妬』・『憤怒』・『色欲』・『暴食』・『怠惰』
「なるほど。これはまだ使えないと」「強いんじゃない?」
【不絶の混沌】
一秒毎に自身のステータス(STR・DEF・AGI・TECのいずれか)の五割分HPを回復する。パッシブスキル。
「自動回復ってことか?」「いまのAGIは?」「合計70くらい」
「次、【森羅ノ糾刻】」
【王権】
20%の確立で相手の防御スキルを貫通する。パッシブスキル。
「力を押し通す魔王の力ってとこか」「怖いね」
「後は、【終ノ刃】についてる【極刑】と、全部についてる進化とか不可のやつだな」
【極刑】
発動後、ナイフによる攻撃が完全即死となる。クールタイム三十分。
「完全即死かぁ……」「確かに魔王の極刑だね」「ところで完全即死って?」「知らない」
【破壊進化】
壊れれば壊れるだけ、より強力になって修復される。修復は一瞬で行われるため、破損時の数値的な影響は無い。
【銃撃進化】
撃てば撃つだけ、より強力になる。二百発撃つ毎にSTR+1。
【破壊不可】
壊れない。
『スキルスロット』
一つの装備につき、二つまでスキルをセットできる。
「あ、生産職の仕事を無くしに来てる」「ユニークシリーズだからじゃね?」
ふー、これで、全ての装備の確認が出来たな。うん。言いたいことは一つだ。
「強すぎねぇ?」
「うん」
恐らく他にもユニーク装備があるのだろう。もしくは、強力なスキル。しかし、さすがにこれはその中でも強いというのはよく分かる。
「自動回復……これを活かすために、HPを増やしてみるのがいいと思う。それで、一発喰らっても一秒ごとに30ずつ回復し続ける……みたいな。DEFは【闇沌ノ纏】に任せるとして、カナデは回避能力を上げるのがいい」
「あ、ハイ。分かりました。ありがとうございます」
「ちょっと想定外……。分かった。私ももうちょっと強くなる」
「え、なんで? お前生産職だろ?」
「もちろん、物づくりの方をだよ。カナデの魔王シリーズに見合うものを作っていくよ」
「じゃ、こっちもお前に負けないくらい強くなるわ。魔王の如く、全てを蹂躙するくらい、な」
「カッコつけんな」「はい」
ハハハハハハ。という笑い声が溢れ出る。後にアサルトライフルを買いに来たプレイヤーにひかれてしまったが、俺は気にしない。
そして、『災厄シリーズ』という存在を知り、また驚くこととなった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
運営・最果ての地
FFOの運営は、FFO世界に潜ってメンテナンス等をしている。無論、プレイヤーに干渉できないような別空間だ。眼が疲れないし、何よりもシステムと直結している地だからこそ、調整しやすい。
そして、ユニーク装備、ユニークスキル、隠しイベントの攻略等が発生した場合、この場に通知が行くようになっている。それほど希少だからだ。
「うわああああっっ!!!!」
「おい、うるさいぞ~。黙ってプログラム組めー」
「魔王シリーズが取られたァ!!!!!」
………………
「えっ?」
「「「「「はあああああっっっっ!!!!????」」」」」
最果ての地に運営全員の声が響き渡る。全員、驚愕の表情を浮かべている。
「おい、確認ミスか? それとも、通知がバグったか……!?」
「いや、間違いない! 『混成魔獣の巣』にあった魔王シリーズが無くなってる……!」
「待て待て待て。アレの入手条件覚えてるだろ?」
「ああ、ノーダメージが大前提で、状態異常無効を七個以上保持、クリアタイムが一時間以内、だろ? その上、ユニークの取得条件のソロかつ初挑戦攻略が必要だ」
「よく分かってんじゃん。ちょっと攻略映像見ようぜ」
運営全員が空間の中央を見る。そこには、ハンドガンを使って戦い、途中からナイフに切り替えて超接近戦を挑む少年の姿があった。
「「「「「ほんとに何してんの!!??」」」」」
そもそもハンドガンを使う人っていたんだ……という表情になる運営一同。【狩人の血鷲】を使っているのを見て、涙を流しそうになっている人もいた。
ナイフにより超高速で減っていくキメラのHPバーを眺めながら、運営は感嘆の声を漏らした。
「……なるほどなぁ……。ナイフを使って高速で削ったのか……。そんなことする奴がいたとはなぁ」
「ああ。あくまで、銃が使えなくなった時用として置いてあっただけだしな。遠距離で戦うゲームで近距離のナイフを使うんだから、STRは高くしようってなってたんだが……」
「こいつ、AGIが50を超えてるんだな。だからあの攻撃を回避できたのか……。ってか、怖くねえのかな、こいつ」
「……なあ、みんな。こいつが足元に広げてる魔法陣ってさ、もしかして、【災厄伝播】か?」
「「「「「……エッ!!??」」」」」
全員、そんなっ、嘘だろ!? といった表情だ。それはそうだろう。通常、プレイヤーに与えるスキルではないのだから。得られるスキルではないのだから。
「まさか、『災厄シリーズ』を取ってるのか……?」
「いくつ!? いくつ取ってる!?」
「えーっと……二つだな。【災厄伝播】と、【天災への反抗】」
「まあ、その二つならまだいいか……。いや、良くねえわ。何で取れてんだ」
「普通は、何もできずにボコボコにされる状況のはずなんですけどねぇ……それで生き残ったら強い力が手に入るのは当然ですけど、これはちょっと……」
「……まあ、初心者のようだし、いつかは痛い目見るだろ。それまでは、優しく見守ってようぜ」
「「「「「おー……」」」」」
最果ての地に、力ない返事が響いたのだった。
魔王がいるんなら、勇者もいるぞ?