第八十二話
マモンは意外と阿呆です。
「魔王、か。よい」
目の前のマモンから威圧感が放たれる。物理的な重さを伴ったように感じる。キッツ……。
「お前がその称号に足る存在が、我が見極めてやる」
「泥棒云々の話はァ!?」
「【薙ぎ払い】」
ゴォッ! と尻尾が迫るが、これくらいならば、と飛び越えて接近する。すると、尻尾がカクンと曲がり、こちらに迫って来た。どんな筋力してやがる!
「【憤怒】【怠惰】! 【邪淵の災呪】!」
「ほぉ……あの二人の力を既に保有していると……。何があったかは知らんが、なかなかだ。それに、災厄持ちとはな」
「【連奏】ッ!」
電磁加速された上に、記憶を積み重ねた弾丸がマモンに迫る。多少はダメージ入るんじゃねえかな……と思っていたが、マモンが「足りぬ」というと、弾丸は見えない何かの力によって潰されてしまった。ちょい待てよ。それは聞いてねえぞ。
「我の権能、【孤独な王冠】だ。我が認めぬものを重力にて潰す力。この力の範囲は広大だが、狭く絞ることで圧縮され、かなりの力を出せる。便利だろう?」
「そうだな。【業渦災炎】!」
「話してる最中だというのに」
火災旋風がマモンに襲い掛かるが、今回は潰されなかった。スキルの強制力が【孤独な王冠】よりも強かったのかもしれない。それに関しては分からない。だが、今がチャンスだ。
「【災獄旧海】“海”!」
「! これは……あの日の……」
領域に引きずり込み、世界の終末を浴びせようとする。すると―――
「もうよい。これで十分だ」
地面から水が溢れ出し、世界を呑み込もうとした瞬間、マモンのスキルによって上書きされてしまった。ナニコレ!?
周囲が、というか俺の領域がどんどん狭くなっていき、代わりに1900年代のロンドンのような世界が構築されていく。上書きにしても、拮抗すらしないのかよ!
「領域系スキル。【世界強奪】だ。このスキルは、相手が領域系統のスキルを発動させたときにのみ発動可能でな。中々に機会が無かったが……お前が使ってくれて助かったぞ」
「この街はなんだ!? 何か特殊な効果があるのか?」
「さて……この領域はなんだったか。なんせ、数百年ぶりの領域だ。覚えてもおらぬ」
「この領域……? って何!?」
「かつて上書きした領域を再構築するスキルなもんでな。相手の説明が無かったので、効果を覚えておらぬ」
「惨い」
完全に領域が飲み込まれると、俺はマモンの気配を取ることができなくなった。どこに行ったんだ……?
「ああ、思い出した。これは暗殺系統の領域だったか」
「ッ!?」
背後から聞こえた声に振り替えると、さらにその背後。つまり、先程の正面からマモンが飛び出てきて、俺の首を掻き切った。
「なぁっ……!?」
「寸でのところで思い出せてよかったぞ。で、貴様の先ほどの領域の効果はなんだ? 次に使うときの参考にしようと思ってな」
「……」
「死んでいないのは分かっているぞ。【邪淵の災呪】を持っているのだ。生き返るのだろう?」
「……チッ。何か教えたくねえな。泥棒って思われてんだし」
「領域は強者の証。もう疑うことはせぬ」
「さっさと出せばよかった」
「それに、先程の領域……旧世界の滅びとまったく同じ景色だった。つまり、そういうことなのだろう?」
「うん」
もう面倒になって頷いちゃった。面倒で。
にしても、旧世界の滅亡を知っているということは、やはり七つの大罪は元神だったんだな。ベルフェゴールの話に確証が持てた。
「これで疑いは晴れた。もう帰ってよいぞ」
「あ、その前に。スキルの【強欲】を継承してくれない?」
「なぜ? なぜ我がそんなことをせねばならん?」
「……七つの大罪。その全てのスキルを集めなきゃいけないんだ。そのために、『嫉妬』のクエストをしてるんだし」
「レヴィアタンの、ということは、金がかかるな。分かった。貸してやる」
「……っ、え?」
唐突な助力宣言に驚く俺。フッ、と見下して来るマモン。ぶん殴りてえな。
「つまりは、金がないからこの場に盗みに来たのだろう? そのクエストをクリアするために」
「いやー? 別に、そんなつもりは無かったですよぉ?」
「まあ、その真偽はどうでもいい。あの女のクエストに失敗すると、貴様だけでなく我も面倒なことになる。だから、貸してやるのだ。金とスキルを」
「なんか増えた?」
「担保はお前の心臓だ」
「わぁ」
つまり、命を懸けてクエストをクリアしろと? ってか、返せっかな……。少しばかり悩んでいると、マモンが目の前に地図を出してきた。
「いいダンジョンを紹介してやる。四人で侵入する場所だが、金はよく手に入る。そこに行くといい」
「了解」
『スキル:【強欲】を獲得しました』
『マモンから、五千万ゴールド送られてきました』
『クエスト:『海賊のアジト(???)』が発生しました』
「ご、五千万……そんなのポンと出せるんだな……」
「気にするな。財宝ならばいくらでもある。ちゃんと貴様が返すのならば、貸してやるのみだ」
担保として心臓に呪いを掛けられた。返さねえな、こいつ。となった時点で呪いが発動し、キャラ削除にまで追い込まれる。うわ、マジで命懸けるじゃん。
「では、また会おう」
「あっ……」
マモンが指を鳴らすと、いつの間にか俺はクランホームの自室にいた。え!? いつの間に……。
新しいクエストも追加されている。へー。俺、『嫉妬』を攻略する前に『強欲』を終わらせちまったみたいだ。部屋から出ると、リビングで本を読んでいるアスカがいた。ゲームの中で読書って……。
「あれ? カナデ君じゃん。どーしたの?」
「さあ? いつの間にかここにいたから知らね」
「なにそれー? あ、そうそう。タキオンさんから伝言があるんだけど」
「?」
「えーっと、『スマンが、カリノの面倒を見てくれんか? 新しい力を試したそうにしとるが、俺にはどうにもならんからな』だっけ? ちょっと違うような?」
「はー? まあ、『城塞シリーズ』に慣れてくれるのが一番だから付き合うけどさ……意外とイベントまで近いから、準備を整えてかねーと」
「確かに。再来週だっけ?」
「そう。今までとは趣向が違うみたいだし、万全は期さないと」
「了解っ! じゃ、カリノちゃんとダンジョンに行く? この本もキリがいいし」
「じゃあ、ちょっと行ってみたいダンジョンがあるんだけど、行くか? 四人で行けって言われたけど」
俺、アスカ、カリノ。あと一人足りない。今現在ログインしているクランメンバーを確認してみるが、皆ダンジョンに潜っている。呼び出すのも悪いな……。ん?
「あらぁ? カナちゃんじゃない! まだログインしてたのねぇ。良かった!」
「え゛っ、ココ姉!? なんで今ここに……さっき見た時は、もうログアウトしてただろ?」
「えぇ~? みんなの部屋に入って見てみたらまだログインしてたからぁ~。入って来たのよぉ」
「……そうか。まあ、丁度いいや。これからダンジョンに行こうと思ってんだけど、一人足りなくて困ってたんだ。一緒に行く?」
「え!? 行く行く~! やったぁー! めっちゃ嬉しいんだけどぉ~!」
「あ、ココネさん、よろしくお願いします」
「よろしくねぇ~」
こうして、俺、カリノ、アスカ、ココネの異質な四人パーティーでのダンジョン攻略が始まるのだった。
初めて心響の戦闘を見せますね。
最近ずっと投稿できず、申し訳ありません。以前にも書いたように、書き溜めはあるのでいつでも投稿できるのですが、投稿媒体であるパソコンに向かう機会が減ってしまい、筆記どころか投稿すらしていませんでした。これからは部活がオフの度に書いて行こうと思いますので、応援よろしくお願いいたします。




