第八十話
ある意味、『変な家』ですよね。
「やっぱりここからの景色は最高だねぇー! めっちゃ綺麗なんだけど!」
「そして部屋が広いですね。まあ、四人部屋なので当然ですが。というか、改修を入れてもらいましたが」
「お風呂場とか、水回りも綺麗よぉ~? かなちゃんのためにキッチンは特に拘ったわぁ」
「…………俺はまだ理解が追い付いていない……」
え、荷物の運び出しもそういうこと? 荷物をここに動かすため?
ってか、向こうの家具とこっちの家具は被ってんだから……って、俺は別の部屋で寝るんだろうから、家具はいるか。
「あ、そういえばかなちゃん。ベッドは解体して売り出そうと思ってるんだけど、どお? あ、それと、ソファも。一部の家具を一新したくてねぇ~」
「ちょっと待って。え、待って。この部屋の間取り図はある? ちょっと一回確認したいんだけど」
「ええっと、沙紀ぃ~。玄関の方に置いてあると思うから取って来てくれるぅ~?」
「あーい!」
タッタッタッタと玄関まで小走りし、この部屋の間取り図を見る。ふむ。
「巨大なリビングは分かる。直結してるあそこのキッチンも。で、トイレ、お風呂場、物置。これの配置は問題ない」
「そうねぇ」
「まあ、普通のタワマンだよね」
「広さがおかしいですけどね」
「……各々の部屋があるのも分かる。面積も同じだ。けどさ、寝室が一つなのはどういうこと? これ、個人の部屋で寝るんじゃないのか?」
「え~? わざわざ部屋の使える空間を小さくする意味もないじゃない。だったら、寝室を一つ作ってみんなで寝た方が早くない? 大きなベッドを買って」
「……ふーん……ん……ん? 大きなベッドを買って? 一人一人にベッドを用意するんじゃ?」
「いいじゃん奏! 悪いことはしないからさ!」
「心臓に悪い」
……そして俺は考えるのを止めた。嘘。止めてない。
そもそも、思春期の男の子と一緒に寝る時点でヤバいだろ。情操教育どうなってんだ。
「まあいいや、寝室は。それより、もうちょっと家具を解放したら、夕飯にしね? ちょっと早いけど、この後FFOに潜りたいし」
「いいわよぉ~。私たちもサーバー変更しないといけないしねぇ~」
「あ、そうだ! 理慧ちゃんと優華ちゃんもこの家に呼ぼうよ! だいぶ広いから、パーティーがてら!」
「そうですね。んー……心お姉ちゃん次第ですけど、部屋の一つをパーティー専用ルームにしませんか? こんなに部屋が多いんですし」
「いいわよぉ~。凛ちゃんのお願いだしぃ~!」
というわけで、俺のスマホから幼馴染~ズに電話する。二人曰く、「すぐ来る」だそうだ。そしてそれから十五分後。本当に来た。この街では目立つタワマンなので、比較的早く来れたそうだ。やっぱすげえんだな。
「うっわー!! 本当にこんなマンションに入れるとは思わなかったよ!! すっごいです! 心響さん!」
「お呼びしていただき、ありがとうございます。そして心響さん、沙紀さん、凛ちゃん。引っ越し、おめでとうございます」
「ありがとぉ~。ささ、今日は何食べる? なんでも最高級にしちゃうわぁ~。今日はパーティーだからねぇ~」
「「「「「やったー!!」」」」」
少しの話し合いの後、今日は寿司にすることにした。ス○ローにする? くら○司にする? それとも、か・っ・○? のような話し合いをしていると、心姉はどこかに電話を掛けた。心姉は俺たちに、「あ、もう予約取ったけど、いい~?」みたいなことを言うので、コクリと頷く。スポンサーには負けるよね。
「で、どこに予約取ったの? 心姉、皆の好みを覚えてるわけ?」
「板前を呼んだのよ~。だっていちいち注文するなんて面倒じゃない」
「「「「「…………」」」」」
それから、家に訪ねてきた板前に握ってもらい、各々好きな寿司を食べながらパーティーを楽しんだ。雑談や、この後のFFOについても話し合い、俺たちは寿司をうまうました。新しい家も悪くないかもしれない。
……同居という点を除いて。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「おーん……明日になったらすることがあるんだけどな……。ちょっとすることねえなぁ~」
各々の部屋でFFOにログインした神崎家。優華、理慧は俺の部屋でログインしている。
明日になれば『嫉妬』を進めることができるのだが、今日はもう買い物をしている。今日は本当に何をしようか。
「……街のほうに行ってみるか」
特にレベルを上げようとも思っていなかったカナデは、第二階層の街へ繰り出すこととなった。
改めて見てみると、第一階層よりも装飾が綺麗になっている店が多い。より進化したような空間も増えている。その中にある、小さな店に入ってみることにした。
「おじゃましまーす……」
中は少しだけ古びた本屋だった。掃除は隅々まで行き届いており、清潔感もあって綺麗だった。
気になった本をいくつか手に取る。内容は主に、この世界についての本だった。現実に置いてある本は無いようだな。
「何か、お探しでしょうか?」
「!? えっ!? いえ、別に……。少し見てみようと。入っただけです」
「そうですか。ごゆっくりお探しください。急かしは致しません」
「そうですか。ありがとうございます」
この老紳士……全く気配を感じられなかった。マジでビビったじゃねえか。お化け屋敷でMVP取れるぞ。
店の端の方にあった本を取ってみる。黒い本。いや、金色の装飾が施されている。いや、うちのクランメンバーの装備みたいだな。
「『解放の記録』……? んだそりゃ。タイトルで何も分からん本だな」
「ああ、それはおやめになった方がよろしいかと」
またも背後からひょっこりと老紳士が現れる。心臓に悪い。【気配隠匿Ⅹ】とか持ってんのかな。
「それは古代ルーン文字で書かれています。それを理解するための勉強を始めなければ―――」
「一時間ください」
「……はい?」
首をコキッ、コキッと鳴らす。ペラペラと『解放の記録』を捲りながら老紳士に告げた。
「解読は得意なので」
そこからの一時間は、本屋の奥を借りて古代ルーン文字の解読をすることになった。
最初は形から文字を推測しようとしたが、それよりも出てきた文字の回数や、置いてある場所、それが示す図などから割り出すことにした。そして、理解した。
「計五十文字出てきてる……漢字と平仮名みたいなものか? アルファベットと数字ってわけでもないだろうし……」
ブツブツと呟きながら、紙に殴り書きする俺。たのちい。
「どうですかな? 解読は。進みましたか?」
「最初のニ十ページは済みました。これは、かつて起きた『神話大戦』について書かれているんですね」
「……ほう?」
「『いずれこれを読む英雄たちに捧ぐ。名前なんていらない。ただ簡潔に記録を残そうと思う』」
「!?」
「『今日はついに空が割れた。巨大な瞳が隙間から覗いている。これを読んだ君たちはどう思うだろうか? 俺たちは存在を知っているから言える。冥府の門番達だろうな。ちょうどいい。俺のヘッタクソなスケッチを見せておいてやろう。どうだ? イメージしやすいか?』」
「ほっほっほ。もういい。結構です。その本はお譲りいたします」
「……『黒い角の生えた奴らと目が合った。次元が違うから手が―――』って、え?」
「それ以上は結構です。その本は、あなたが持つべきです」
「あ、ありがとうございます……?」
店主から無償で『解放の記録』を貰うと、その解説を読んだ。アイテムの解説は一応見ておくタイプだし。それは本も例外ではない。
古書:『解放の記録』
使用すると、十五分間あらゆる制限を受け付けなくなる。
「へー、あらゆる、ねえ……どっかのダンジョンとかにスキル禁止とかあるんかね。その時は役立ちそうだ」
本をインベントリにしまいながら、ダンジョンへ繰り出す。頭を使ったので、やる気が出てきたのだ。ちょっと意味が分からないだろうが。
一方その頃。〈聖王勇者隊〉では。
「で、どうだい? 他のギルドについての情報は、集まったか?」
「まだ。イベント情報については多少集まったんだけど。流石にもう何もない気がするんだよね」
「っつーかよ。次のイベントに向けて準備をするべきじゃねえのか? 俺達、最強だろ?」
「驕るんじゃない。今までの二つのイベントは、ただ戦闘をこなすだけだった。しかし今回行うことには何か違和感がある……。なにせ、どうすれば、何を得られるのかが教えられてないのだから」
「ったく。面倒くせえことをチマチマと……力で薙ぎ倒せばいいんだよ! 力で!」
「ちょっとライア。もういいじゃない。クランマスターの言うことに従うようにすれば。そうすれば、勝ち抜けるんでしょう?」
その場の全員の視線がクランマスターであるアイクに集まる。アイクは、「フッ」と微笑を浮かべると、堂々と言い放った。
「当然だ。このイベントも一位で勝ち抜く。私たちが最強だ。そうだろう?」
「「「おうっ!!!」」」
あらゆるですよ。世界がそれを指定しているんですから、ねぇ。
あ、最後の〈聖王勇者隊〉の会話は、中身の伴っていない馬鹿どもの会話です。




