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第七十六話

 次の部屋に進むと、そこは純白の空間だった。何もない。「まるで俺の心の中のよう」なんて戯言を言っていると、目の前にメッセージウィンドが開かれた。


『対象の保持スキルに【unlimited(不滅の) materials(素材王国)】を確認しました。

対象の保持スキルに【ビルド】を確認できませんでした。

この場での強制取得試練を始めます』


「……へ?」


 その瞬間、白い四角の空間が、ゴキゴキゴキンッ! と組み替えられていった。そして、組み換えが終わると、そこには作業場が構築されていた。ユカのところにある工房を彷彿とさせる。どこをどうしたらそうなるんだよ。


 というか、【ビルド】ってことは、全ての制作系スキルを取らなきゃいけないんだろ? いや、流石にそれは無理。俺が断定してやろう。ムリ。


「で? 俺はこれからどうすればいいの?」


 反応してもらえると思っていなかったが、目の前にメッセージウィンドが現れる。あ、会話できる。


『まず、目の前の『革命後の作業台』で、基本スキルの【作成】、【木材加工】、【金属加工】を取りましょう。手順は簡単です。右の『四次元チェスト』に入っているアイテムを用いて、素材を加工するだけで結構です。まずは机と椅子を一セット作りましょう』


「随分大雑把な話だな。まあ、やってみるわ」


 目の前に現れるお手本映像を見ながら、何とか加工を繰り返していく。あっ、すっげえムズイ。

 体感一時間以上机と椅子を作った後、次の指令はベッドを作れ、だった。嘗めてんの? 殺すぞ?


「あぁ、家具職人になれちまうよ。この領域までくると、悟り開けるって……」


 ただひたすらに、心を虚無にして気を削り、組み合わせ家具を作る。ノルマを達成したようで、次のミッションは剣を作る、だった。木材加工系統は終わったのか? 人生で初めての鍛冶に悪戦苦闘しながらも不格好な剣を量産する。後半になるにつれ、形が整い、表示されるSTRも上がっていった。この時点で体感十二時間ほど経っていた。


「あっ、剣終わっ―――」


 ははっ……次は盾と鎧一式だってさ……



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「えっと……爆弾を作るには……硝石、硫黄、炭粉から火薬を作って……え? 時限発火式と遠隔発火式の二種類作るの? マジで……?」


 あれからさらに五十三時間後。これで最後のはずだ。【錬金】スキル。これから爆弾を大量につくることになる。さっきは石を油に変えた。ゲームなら何でもできていいねェ!


「で……こことここを繋いで……出来たァッ!」


 これで二種類完成。まあ、量産が始まる。頭おかしくなりそう。量産したら、次のレシピが来た。それを見た瞬間、俺の脳は覚醒した。


「TNT……trinitrotoluene(トリニトロトルエン)……作っていいのかよ!!」


 オタクが溢れ出てしまうので超平たく言うと、トルエンに3つのニトロ基が結合した有機化合物のことだ。もっともっと簡単に言えば、強い爆弾だ。


「一回ぐらい作ってみた方んだよな……! やる気出て来たァ!」


 それから何度も試行錯誤を重ね、時折ダメージを負いながらもようやく一つ完成させることができた。同じように作っていこうとすると、爆発してしまった。なんでだ? 原因を探り、もう一つ作ることができた。


 人は失敗して学習し、経験を糧に成長する。そして、経験を高く積み重ねてようやく、他者には崩すことのできない壁を作ることができるのだ。この空間で積み上げた経験は、いつか必ず俺を助ける砦となるだろう。


『コングラッチュレイション! おめでとうございます、カナデさん! 今あなたの保有している制作系スキルは全て一つにまとまり、【ビルド】となりました! これにて、全条件が満たされたので、カナデさんにスキルを贈呈します! お疲れさまでした!』


「妙にハイテンションなメッセージウィンドだな……ま、祝福は素直に受けておこう。で、スキルは何をくれるんだ?」


 おそらくこのゲームを始めて最高に疲れた試練だったので、それなりにいいものをくれるのだろうと思う。すると、ピロンッ! と通知が来た。


『スキル:【ultimate(超産業) factory(革命)】を獲得しました』


ultimate(超産業) factory(革命)

素材とエネルギーがある限り、自動で指定したものを作り続ける。品質は使用者の【ビルド】に依存する。


「………………は、はは…………サイッコーじゃねえか……」


 だから【ビルド】がいるのか……苦労に見合った報酬だ。

にしても、『無制限の素材』で『不滅の素材王国』とか、『究極の工場』で『超産業革命』とか、意味が違いすぎない? まあいいけど。


「まあなんにせよ、この二つのスキルと『白龍』……いや、『神龍』で、完全自動工場ができるようになった。これは、皆に報告しなきゃだな……」


 カナデは、とてつもない疲労感からその場に寝転がり、喜びを噛みしめながら眠るのだった。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



運営・最果ての間



 さて、この場所はシステムと直結しており、レア装備やスキルが入手されると通知が行くようになっていた。当然、ユニークスキルが取られた場合もスキル担当のL班に通知が行く。


「あ、班長~。『超科学シリーズ』取られました~」


「そうか。二つともか?」


「はい~。素材王国も産業革命もです~」


「ふむ……ああ、N、O、P班! 最上級発電機のレシピは既に解放されているか?」


「まだですね。ユカもまだ解放できていません」

「クランホーム付属の物もまだみたいですよ」

「中級でも十分ですからねー」


「ならば大丈夫だな。過剰にエネルギーを供給できる物なんて発電機の他に無―――あるじゃねえか」


「?」


 班長の発言に首を傾げる部下。最上級発電機を超えたら最上級じゃないやんけ、と。


「最悪は想定しておこう。まあ、『機械神の心臓デウス・エクス・マキナ』と【unlimited(不滅の) materials(素材王国)】と【ultimate(超産業) factory(革命)】が揃うとは思えぬがな……」


 そこで部下は考えた。というより、思い出した。


「ええっと……全部カナデでは……?」


「「「…………」」」


 全員気付かないふりをしながら仕事に戻るのだった。



♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「……え? ……え? ええっ!? そんなチートみたいなスキルがあるの!? ちょっとカナデ君、それはマズくない……?」


「いや、これ両方稼働するにはかなりのエネルギーがいるぞ? 『機械神の心臓デウス・エクス・マキナ』を全力で稼働させてようやくってところだ。しかも、それを使ってる間は『白龍』が一切使えないというおまけつき」


「……あと、品質とか作れるものはカナデの【ビルド】に左右される。随分と使いづらそうなスキルだね」


「えーっ、そんな面白そうなスキルを使えないなんて、残念過ぎない!? ちょっとー、カぁナぁデぇ~どうにかしてよぉ~」


「いやそういうのはユカに聞いてくれ」


「んー、ユカちゃん。エネルギー関連の話はよく分からないんだけど、どうにかできないのかなぁ? 思ったんだけど、最近スキルショップに新しいスキル追加されたよね?」


「あー、【効率強化】? でもスキルスロットは全部埋まってるし……」


 議論が白熱する。俺のために……!(感動)

 ……さて、そんな戯言は置いておいて、俺以外の話だ。


「うちの従妹三姉妹は、明後日からうちの近くに引っ越すことになって、一緒にゲームできるようになったから。最ア―――まあ、みんなで頑張ろうぜ」


「今、最悪って言おうとしてなかった!?」


「で、第三回イベントについてだが」


 うん。都合の悪い情報は全て遮断する俺の耳がしっかり働いているな。また話を戻す。


「なんか今日、運営から新しい情報来たじゃん? イベントについての。そこに書かれてた、『運営による監視は付きませんが、イベント後、ダイジェストで見どころをピックアップします』ってやつさ、どう思う?」


「どう、ってのはどういうことや? 感想か?」


「まあ、感想だ。どう思うか、ってとこだな」


「う、うーん……今までのイベントも大して見られなかったような気がするけど……どういうことなのかしら……」


「何をしてもいい、ということではないんですか? ルールの穴を突いたことをしてもいいし、あるいは、エ……」


「「「「「「「……え……?」」」」」」」


 「え」の次はなんだ? と七人で疑問に思っていると、カリノはとてつもない勢いで口に手を置いた。あっぶね、と言った表情だ。


「あー、そういうことか。はっはっは! ませとるなぁ。お前は」


「黙ってください。押しつぶしますよ」


「おぉ、銃を撃ち合うゲームで押しつぶすは初めて聞いた」


 カナデは、『城塞』カリノでしか言えないセリフを聞き流しながら、運営の考えていることを見破らんとしていた。

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