第七十五話
第二階層の中央付近の街。めちゃくちゃ普通の雑貨屋に向かうカナデ。なぜかって? 特に必要なものもない。クエストを受けるためだ。
「『嫉妬』……っていうと、レヴィアタンか。蛇とか出てくんのかな」
大罪シリーズを進めようということだ。一つの階層に居る人数が少ないのならば、さっさと終わらせるに限る。それに、一つ一つ進めるのが遅くなるし。難しくて。
「あ、この店か。……すみませーん」
なぜか陰気な雰囲気を放っている雑貨屋に着いたので中に入ってみると、濃い紫の髪を持った女性が中にいた。片目が隠れている。
「え……何……誰……? いらっしゃいませ……」
「あ、カナデです。七つの大罪のレヴィアタンに会いに来ました」
「あ……あ……私……」
「さて、どんなクエストが?」
どうやら会話が成立するかすら怪しい領域だ。というか、紫と黒のオーラが溢れ出ている。え、飲み込まれそう。怖い。
「もしかして、だけど……ベルフェゴールに言われて……来た……?」
「あ、はい。彼女なら君を気に入るだろう、って」
「あいつ……そんなことを……全く……面倒くさい……」
「え、これどうなったら進展すんの?」
すごい。着地点が何も見つからない。どの会話もきっと宙に舞う。俺はそう感じた。
「そうだった……力を……継承してほしいんでしょ……?」
「あ、はい。【嫉妬】をくれたら助かります」
「だったら……一つ……条件がある……」
あ、進展した。と思いながらも、次の言葉に耳を傾ける。聞き直すとか面倒だし。すると、簡単そうな話が出てきた。
「これから五日間……毎日……私の指定した……アイテムを買って……」
「え? それだけですか?」
「多分……できない……だろうから……」
「???」
ギルドホーム……というか、第二階層の街にある時点でアクセスができないわけでもない。通いやすく、置いてあるアイテムを見たところ、三十万くらいだ。安い。ゲーム内ならね。
というか、二階層になってから物の値段が爆上がりになった気がする。一部のプレイヤーが大量に金を持っているせいだろうか。
「分かったなら……帰って」
「あ、はい。お邪魔しました」
これでクエストを受けたことになるのか? なら、これから五日間ここに来ればいいわけだ。金を持って。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「今日時間余ったな……どっかのダンジョン潜るか」
前は採掘場行ったから、今度はそれを加工する場所にでも行こうかと思った。すると、街の中央にあるマップに、工場型のダンジョンがあるというのが目に入った。ここに行こう。
「もうユニークは取られたみたいだが……まあ、いいや。スキルとかゲット出来れば」
既に単独攻略者がいたようで、ユニーク装備は無いようだが、それでもスキルを入手できれば十分だ。工場というのだから、【unlimited materials】を加工できるようなものを渡して欲しい。
それから歩き続けることニ十分。前と似たような道を発見し、ロボットを倒す。前回と変わらないような奴らだった。ただ、ショットガンのやつらはマジで許さん。少し触れたら大ダメージなんだが。
「はー、地味に疲れた。やっぱ【対物理特攻】取りたいな。アオイとかクリスに聞いておこう。さ、工場攻略するか!」
すでに錆びた扉を開き、中に入る。まず出迎えてくれたのは、大量のベルトコンベアだった。あれか? 流れ作業のやつか?
「特に敵の気配もなし……いや待て。ロボットが出て来るんじゃ?」
そう呟いた瞬間、全てのベルトコンベアが一斉に稼動した。ウイーン……という音がうるさい。
何が流れて来る、と身構えていると、アームだけのロボットが流れてきた。うわ、動いてる。
「組み立て中のやつなのか……それとも、これ自体が組み立てる側なのか? いや、それがベルトコンベアはおかしいか……うんっ!?」
見送っていると突然アームが伸び、俺の首を絞めつけてきた。苦しい。「う……ぐ……」と声が漏れる。足が浮き、悶え苦しむ。クソッたれめ。
「ふ……【憤怒】っ! 【怠惰】ァ! 【任務遂行】!」
強引にSTRとDEFを上げ、腕をもぎ取る。少し離れると拳の連打で破壊した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……っ、はぁ……マジで全ての存在に気をつけねえと、迂闊にしてると死ぬぞ……」
すると、ボトッ、という音が背後から聞こえる。思わず、うぇ、と声が漏れた。振り返ると、上半身だけのロボットがそこにあった。テケテケみたい。
『ガ、ガガッ、ピーー……』
「……壊れてんな。せめて楽にしてやろう。【連】」
『ア゛ッ―――』
バヂインッ! という音を盛大にならしながら壊れるテケテケ。虚しい。
このダンジョン……『退廃の最終工場』では、壊れたロボットが主に出て来るのではないだろうか。いや、二種類のロボットだけで決めつけるのは微妙だけど、そうかもしれない。
少し進化した科学が滅んだ証……。嫌なもんだな。
「ってか、ベルトコンベアの迷宮止めてくれねえかな。そろそろ次の場所に……おっ、いや、そういう意味じゃない」
ウイーン、と動いたベルトコンベアは、俺の全方位に欠損したロボットを連れてきた。右腕が無いもの、頭の一部が無いもの、脇腹が抉れているもの。様々だ。というか、軽いホラー。
『壊、ス。コわス……壊セ、コワせ……!』
『コロス。コロ、コロ、殺ス。コワ、コろス……』
『シね。死……ネネネネネネネネ』
「いや軽いじゃねえ。重度のホラーだ。【連】」
残りのMPを使い切り、四発の電磁加速弾を撃ち放つ。それでようやく一個殺した。いや、一人にしとくか。こいつらを物として扱うのは悲しすぎる。しかし、ウァァ~とゾンビのようにすり寄って来るロボットはいただけない。怖すぎ。
「ッ、クソが! もう切り札一つ切るからな! 【業渦災炎】ッ!」
俺に群がるロボットたちを炎で燃やし尽くすと、ベルトコンベアがぬるぬると消えていき、奥への扉が開いた。こんな序盤で災厄シリーズを使ったのは痛いな。一時間待たねば。
「……にしても、第二階層はキツイな。【連】を使ってもそうそう倒せないし……。【銃撃進化】を使って『黒龍』のSTR上げるかな……」
ハンドガンによる火力不足を悩む。『白龍』に関してはユカに相談してみるか。
次の部屋は、部屋の左右に巨大なクレーンが置いてあるだけだった。え? と驚いていると、クレーンが起動。巨大な立方体のブロックを俺の頭上に持ち上げてきた。いや、どっから出てきたんだ、それ。
すると、何のためらいもなく落とされるブロック。自由落下する巨大なブロックは、流石に潰されたら死ぬ、と思い、即時離脱する。目の前にズドオオオオッ!! と落ちるブロック。え、マジで危ないじゃん。
「って、それ雨みたいに降らせるもんじゃねえだろ……!」
周囲にズドドドドドドドッ! と降り注ぐブロック。ギリギリの隙間を見極めて回避する。飽和攻撃じゃなくてよかったァ!
それを繰り返すこと三十分。そろそろ疲れてきた。脳が。そうなると人は集中を切らすものだ。実際の俺がそうだった。
「あっ、やべっ」
回避した先のブロック。既に脳天から三センチのとこにブロックがある。あ、死ん―――
ゴシャッ
「うっ、【空蝉】っ!」
はぁー、はぁー、はぁーと息を吐く。冷や汗をかき、眼が泳ぐ。
「……(今……頭を潰されたのか? いや、そんな姿を幻視しちまっただけか……)ああ、怖かった」
【空蝉】にてクレーンの上に瞬間移動すると、落ちて来る物もない。最初からここに来ればよかったな、と考えたが、瞬間移動でなければここに来れないようだ。一方通行のバリアが張られている。もう十五分待ち、全てのブロックが落ちた後、俺は地面に降り、次の部屋に向かった。
「地下じゃねえか」
なんで工場に地下があるんだよ……と言いそうになったが、これはゲームであり、それが無ければ場所が足りないことも分かっている。それよりも早く攻略することが大切だ。
カナデは、序盤から【業渦災炎】と【空蝉】を使わされたことに焦りながら、これからのスキル配分を考えるのだった。
ここのダンジョンは普通に難しいです。推奨レベル65ですから。カナデは59です。




