第六十九話
今回は、ラッキー要素がだいぶ重なっております。気に喰わなかったら、ごめん。
「う、うーん……本当に行けるのかしら……。ちょっと、自信は無いけど……」
第二階層で自由に散策していいと言われた私、クリスは、まだあまり探索されていないと掲示板で言われている、北の神殿に行くことにした。もっと言うと、クエストの対象がそこだったから。
「し、『こここそ神話最前線』……クエスト名に神話ってついてるんだし、難しいと思うんだけど……」
一人でダンジョンを踏破すること、つまりそれはユニーク装備を取得しに行くことを示している。第二回時のアオイとコルネとの会話でユニーク装備を取ろうと思ったのだった。しかし、通常ならば条件が分からないので取得しづらい。そこで、このクエストだ。
「本当に、『単身でパルテノン神殿を攻略する』だけでユニーク装備が手に入るのかしら……いやそもそも、神殿でダンジョンってどういうことなの……?」
あの吹き抜けの構造でダンジョンとかあるの? モンスターが湧き出るだけ? と考えていると、神殿に着いた。クエストの項目を見てみると、『神殿に行く』から、『神界に行く』となっていた。
「中に何かあるのかし……らぁ!?」
中に足を踏み入れたクリス。すると、突如としてテレポートし、周囲の景色が変わった。なんとも不思議な空間だ。クリスは、綿あめが固められて壁になったみたい、と思った。
「あ、足音が聞こえる……ちょっと、演技状態に入らないと。スゥー……」
今回は誰になろうか、と考える。そして、ある一人に決めた。超接近戦も中距離戦も難なくこなし、基本的にどの戦いでも負けることは無い彼を。
「『記憶連想』“黒龍”“白龍”!」
手に持ったルービックキューブが光り、二つのハンドガンとなった。
やっぱり『白龍』の性能だけは完全に再現できない……と呟きながら目の前に現れた騎士と相対する。銀の鎧を纏っており、ゲームでなければ銃器相手にそれは無くない? と思うほどだ。
「来いやガラクタ共が! 手先如きが俺を止められると思うなよ!」
おそらく他の人が見たら、「お前誰だよ!?」と言いたくなるような豹変っぷりだが、本人は今は気にしない。どうせ終わったら恥ずかしくなるし。
クリスのステータスは、全て等しい。配分の仕方が全部同じなのだ。ゲームを始めるとき、「全部に割り振ってたら……どうにかはなる……よね?」と思っていたからである。
「そんなもんかよ! 【連】!!!」
『!!! ガッ』
激しい戦いの末、クリスは無傷の勝利を得た。二丁拳銃を完全に上手く扱えているのは、やはりカナデをトレースしているからだろうか。
「初っ端からこれは、面倒くさいな……。ま、いいや。進んどけば何とかなるだろ」
カナデを演技しているクリスは、そのまま神界(?)の奥に行くことにした。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「また騎士かよ……懲りねえな。このダンジョンも」
道の途中で何度も何度も戦ってきた騎士だ。既に戦い方は洗練されている。時折『白龍』を『終ノ刃』に変えて使ったりと、遊んでもいる。
はぁ~、と溜息をつきながら『黒龍』を前方に構えるクリス。しかし、今度現れた騎士は今までとスペックが違った。
バシュンッ!
「ッ! どこ行っ―――」
その瞬間、クリスは背中に痛みを感じた。バッ、と振り返ると、そこには先ほどの騎士がいた。こいつ……速いな。
次も来たら対処する! と決めていると、今度は真正面から斬り伏せに来た。反応速度を上回ろうとしているのか。
「【連】!」
電磁加速銃には反応ができていないようでまともに喰い、HPバーの二割を削ることができた。自身のMPを見ると残り5。ラスト一発だ、と思ったのでまずは一撃撃ってから武器を変える。
「【連】! 『記憶連想』“終ノ刃”!」
一度電磁加速銃での威嚇を挟み、即死を狙って『終ノ刃』を出す。ナイフを逆手に持ったクリスは、騎士に肉薄すると、「【極刑】」と言いながら切り裂いた。
「うわっ、完全即死ってすっげえな……いつも俺はこんな技を使ってたのか……」
一度同じ系統の武器でスキルを使えば、同じクールタイム分その武器は使えない。つまり、ナイフ系統の武器でスキルは三十分間使えないというわけだ。
「『記憶連想』“冥影鷹虚”」
カナデ状態の演技から、アオイ状態になったクリス。先ほどよりも精神が凪いだ気がする。
「……行こう」
これほどスペックの高い騎士が出てきたのだから、次くらいが中ボスだろう、と考えながら進むことにした。
十五分後。もう二人ぐらいの騎士を散らし、ちょっと大きめの扉の前に立つ。
「……どのゲームも基本的には変わらない。ダンジョンに潜って、敵を倒して、中ボスを倒して、もっと進んで、ラスボスを倒す。普遍的で不変的。展開的に行き詰まったら作者はどうするつもりだろう」
クリスは考えてもいないことを喋ってしまった。つまり、今の呟きはアオイの本心が漏れ出したものと同義である。深層心理まで反映できるクリスの演技は、全てを包み隠さない。
「……考えても仕方がない」
キィー、とゆっくりと扉を開く。すると、玉座があったのにそこには誰も座っておらず、柱の影から赤い騎士が現れた。ちょっと大きい。
「……キャバリエ・コマンダンテ……イタリア語……? ……騎士団長?」
今までの兵士の長だろうか、と思い『冥影鷹虚』を構える。すると、大剣を目の前に構え、礼をしてきた。思わずお辞儀を返すクリス。それから仁義なき戦いが始まる。
先手を打ったのはクリス。STRの高い一撃を何度も撃ち放つが、なんと騎士団長は全て大剣で斬り伏せてしまった。……え、と乾いた声が漏れた。しかし、そんな暇も与えられない。
ギュンッ! と急激に加速してきた騎士団長が横薙ぎをすると、クリスは伏せることで回避をする。すると、騎士団長はそれを読んでいたのかそこから大上段斬りに派生してきた。それはまずい、と飛び退き、クリスは連射する。
「……【星の枷】【破壊の一射】【対物理特攻】」
ドドドドドドォォッ!!! という先ほどよりも大きな炸裂音がし、騎士団長に襲い掛かる。また切り捨てようとした騎士団長だが、今度は出来なかった。
『!』
「……【星の枷】であなたのスピードは落ちた。【破壊の一射】で、大剣で斬り伏せようとしても反動が大きくなって、【対物理特攻】であなたの大剣にも斬られにくく、あなたにダメージを与えやすくなった」
クリスが保有しているスキル量はカナデと並んで二十四個。状態異常系統を抜けば、十八個と、〈魔王軍〉内で最大量を保有している。その分手数と出来ることが多いのが、彼女の強みだ。
「……一応確認。【冥府葬送】」
即死スキルを発動してドドドドドドッ! と放つクリス。当然のように防がれ―――はしなかった。
「……え?」
そのまま騎士団長は仰向けに倒れ、光となって消えた。
「こういうボスって、【即死無効】を持っているんじゃないの? それとも、私の勘違い……?」
思わず演技状態が解けるほど驚いたクリス。しかし、すぐに気を取り直すと演技状態の反動を喰らい、一人で恥ずかしがりながら時間を潰していったのだった。
騎士団長は【即死無効】を持っていました。しかし、即死しました。
【冥府葬送】は即死の攻撃ですが、【極刑】や【陰呑】などとは意味あいが大きく変わります。”冥府に引きずり込む”がコンセプトの【冥府葬送】なので、魂魄状態の神界の騎士団長には効いたのです。
意味が分からないですよね。大丈夫。いつか分かります。全てが明かされる頃に。




