第六十四話
残念ながらうちの高校は甲子園に届かず…昨日三回線で負けてしまいました。これから新チームへ移行し、二年生以下のチームになります。私達で先輩達の分も甲子園に行きたいと思いました。応援よろしくお願いします。
「うわぁ、かなちゃん、すっごく震えてるわぁ~」
「カナデを擽るのめっちゃ楽しいよぉ」
「お、お兄ちゃん……次は私だからね」
電車で来た道のりをわざわざ新幹線でとばしてきた三人。なぜかって? これしか理由は無い。
「「「今ならかなちゃん(奏)(お兄ちゃん)を好きにできる……!」」」
うひひひひひっ、と言いながら奏の体を弄ぶ従妹組。しかしそこに、バァンッ! と、ある二人が乱入してくる。
そう、理慧と優華だ。
「ちょぉっと待てぇい! そこの三人組! これ以上奏で遊ばせないよ!」
「沙紀さん。その手を離してください。じゃないと私がキレますよ」
「ええ~? なんで理慧ちゃんたちがここにいるのぉ~? ちゃんと鍵は閉めたのにぃ~?」
「私たちは従妹だからいいんです! 奏は弄られることを望んでいるはず―――」
「だったら起きている間にすればいいじゃん! 抵抗されるのが分かってるんでしょ?」
「早く離してあげて。さもなくば」
そういった優華は、左手に持っていた竹刀を両手で握る。部屋の雰囲気が変わり、心響、沙紀、凛の三人は冷や汗をかく。あ、これマズイわ、と。
「すっ、すみませんでしたぁ……」
「私だけお兄ちゃんで遊べてないんですけど……」
「凛ちゃん。何か言った?」
「何でもないです……」
優華の圧に潰される凛。あらぁ~、と、何か気付いたような様子の長女、心響。爆弾を投下することになった。
「もしかしてだけどぉ……理慧ちゃんも優華ちゃんも、この部屋の合鍵を持っているのかしらぁ?」
「「…………」」
「だって沙紀、カギ閉めたもんねぇ?」
「あ、うん。最後に私が入ってきたから、閉めたはずだよ。誰も入ってこないように、って」
「確かに怪しいですね……理慧さん、優華さん。教えてください。なぜ入れたのですか?」
「「…………」」
押し黙る二人。形勢逆転だ。にやにやとする心響を一発どつきまわそうかと無表情で考える優華だったが、それはよくないと止まる。理慧も、迂闊なことは話せん、と口をつぐむ。
そこに、渦中の人物が目を覚ます。
「ログアウト出来たァッ! ここ姉も沙紀姉も人が寝てるときに何してくれてんだっ!」
「あ! 起きたァっ!」「遅いぞ寝坊助」
「あっ、それよりも聞いてよかなちゃん~。この二人ね。この部屋の―――」
「ン゛ン゛っ! ところで、皆はどうしたの!? もう解散した!?」
「あ、ああ。二人がいなくなった後、皆でログアウトした。今日はもう無理だな、ってなって」
「私達も奏と一緒にFFOしたかったのに……残念だね……」
「お兄ちゃん……」
混沌とした部屋の中で、奏は状況を把握しようと頑張った。そして、無理だと悟った。早い。
今日はクランを作るのは無理そうだ、と分かり、頭を抱える。することねえ、と。
その時奏は視界の端で、端末を操作している理慧を捉える。誰かにメッセージを送っているようだ。
「あっ、返信来た! えっと……うんうん! 了解! 任されたし!」
「誰とのメッセージ?」
「クランの……まだ作ってないけど! みんなと! それで、クランホームは奏が決めてくれって言われた! 全部従うって!」
「クランリーダーだからそりゃそうだけど、一任されたのかよ。重大だな」
「ちょっと待ってください。お兄ちゃん、FFOでクランを作っているんですか?」
会話に割り込む凛。結構驚いているようだ。どうした?
「いえ、珍しいと思いまして。だって、お兄ちゃんはいつも誰かの後ろを走っていたじゃないですか。先頭というのは珍しくて」
「確かに~。かなちゃん、リーダーを嫌ったものねぇ。どうしてそんな心変わりをしたのぉ?」
「……」
そう言われ、俺は考え始める。いや別に、俺はリーダーを嫌ったわけじゃない。いつもなれなかっただけだ。なりたいわけじゃないけど。
自分で立候補してまでリーダーになりたいわけじゃない。いつもはナンバーツーを好いた。だが、なれる機会があればなりたい。そういうことなのだろう。
ああ、あと、俺が魔王である、という認識をしているからかもしれないな。
「じゃあ、クランホームを探しに行くか。そもそも、これが無かったら作れないんだろ?」
「うん。クランホームに名前が追加されていくから。だから、クランホームが無い限り、クランは創れない」
「そういうことだから、ログインしたい……んだが、姉ちゃんたちが心配で潜れない」
ちらりと従妹たちを見ながら俺は言う。前科は数えきれないほど多い。迂闊な行動は出来ないだろう。すると、ここ姉は「名案!」とばかりに提案をしてくる。
「あらぁ~、だったら、私たちも一緒に潜りましょうかぁ~? FFOに」
「いいね! 私たちも奏と一緒にプレイできるし」
「お兄ちゃんがそれでいいのなら、私はそれでいいです」
「……まあ、現実で色々されるよりはマシか……。けど、俺たちはもう第二階層にいるぞ? 一緒にはプレイできないな」
「じゃあ、私達三人で第二階層に行く。ちょっと時間は掛かるだろうけど、ここ姉と凛と一緒ならいけるわ」
「えっ!? 三人ってそんなに強いんですか!?」
「まあ、多少は。何だかんだずっと遊んでいるので」
「えへへぇ~。でもこれでも一応大学は出てるしぃ~? 時間は余ってるからぁ~。いいのよぉ~」
「そうですか。頑張ってください。私たちは奏とクランホームを探すので」
「じゃあ、お互い頑張ろうねぇ~」
そういうと、従妹三人組は床に寝転んでログインしてしまった。なんでだよ。
姉ちゃんたちが泊まりに来る用の敷布団があるので、それを用意する。そして、既にログインしてしまった三人を優華が持ち上げながら理慧と二人で布団を敷いた。
「よし。これでいいな。じゃあ、二人ともうちに帰ってログインしてくれ。さっさとギルドホームを探そう」
「え? ヘッドギア持ってきたよ?」「ん、私も」
「……でも床は全部使われてるから」
「でも、ベッドは空いてるよね?」「奏一人には広すぎる」
「……俺寝相悪いから」
「ゲームの中だから動かないよ」「やったね」
優華が強引に俺をお姫様抱っこする。何だこいつ!? 見た目と力が釣り合ってないって!
そしてそのまま優華は俺をベッドに投げ捨てる。思わず「ぐえっ」と変な声が漏れた。
「ひえっ」
「理慧。先に奥で寝て」
「了解! うわっ、このベッド広いねえ! やっぱり!」
「快眠するためにここ姉に買ってもらったんだよ! あ、おいこら! 優華も入ってくんな!」
「はい、ログインログイン」
がぽっ! とヘッドギアを強制的に被らされる俺。ひどい。俺が何をしたって言うんだ。一度被ってしまったらゲームは強制で始まる。目の前にタイトルが表示されると同時、俺の意識はゲームの中に投入されていった。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「あ゛-、ひどい目にあった。で? クランホームってどうやって買えるんだ?」
「んっとねー……相場は五千万ゴールドで一つ買えるみたい! 売却しても一ゴールドも返ってこないみたいだよー!」
「うわっ、慎重に選ばねえとじゃん。面倒だな」
「まあまあ。歩いて行けばどっかしら見つかるでしょ!」
「……時間かかりそう。ほら、奏って一度探し始めたらお気に入りの物を見つけるまで終わらないし」
「……ま、まあ、長引いたら終わればいいだけだし! ね!」
「そんなに長引かせるつもりも無いし、大丈夫だろ。というわけで、レッツゴー!」
「「おー!!」」
こうして俺たちはクランホーム探しの旅(笑)に出る。どうやら、中心の町付近は全てクランホームに出来るそうだ。あ、既に購入されていたら無理だが。
まずは北上してみた。そこには、ちょっとした豪邸があった。なんか白っぽくて城っぽい。
扉の前に行ってみると、クラン名とすでに所有されているよ! マークがあった。なんだよ。というか、ここ〈聖王勇者隊〉のクランホームなのかよ。
「こんなとこ二度と寄らねえ。次は時計回りに……東に行こう」
「あー、第一階層と違って東に海があるんだね。うーん。だったら……もしかしたら」
「もしかして、アレのことを考えてる?」
「うん……だとしたら、時間的に早いかな?」
「だいぶ早いでしょ。ちょっと暗くなってきた程度だから、もう四時間くらいは掛かるはず」
「そっかぁ……」
「何の話をしているんだ? 何にも分からないんだが」
本当に何もつかめなかったので、聞いてみる。すると、だいぶ心惹かれることを聞くことができた。
「運営が、『第二階層は景色が綺麗な地点が多い』って発信してるの。だから、夜の海とかきれいじゃないかなーと思って」
「へえ。そりゃいいな。このゲームの中って一日十二時間だから……ああ、三、四時間後っていったら夜明けくらいか? そりゃいいな」
「なんでぇ!? それだけで全部分かるのォ!?」「キッショ。なんで分かるんだよ」
というわけで、まずはその夜の海とやらを見に行くことにした。夜明けだけじゃなくても、普通に見てみたいし。




