第六十一話
翌日 教室
今日の登校は少し遅くなってしまった。別に遅刻したわけではないのだが、上手く起きることが出来ずに電車を一本逃してしまった。惜しいことをした。
「おっはよー奏! 今日いつもより遅かったじゃん! もしかして、ゲームの疲れ?」
「ああ……起きたら頭がズキズキして……もうヤバかった。多分、一瞬に凝縮された【神々の権能】がだいぶダメージを与えたんだろうな」
「なんかごめん。あんなの作って」
「うんにゃ。アレのおかげで何度も生きていけたんだ。あれが無かったら今回のイベントでも三位まで入れてないさ」
「奏……」
そこで俺は視界の隅に人を見つける。あいつは……。
「ちょっと俺、あいつに話しかけて来るから。またな」
「えっ? 誰と話すの?」
「……あー」
教室の隅の方。俺は白峰 葵の席に近づいた。座っている女子は、次の授業のセットを取り出している。
「……アオイ、だよな?」
「……人違いです」
「お前ゲームの中で言ってたじゃん。私は白峰葵だって。何でここで嘘つくんだよ」
「……いや、本当に話しかけて来ると思わなくて」
確かに一瞬脳から抜けていた。あの体感四日間が濃密すぎて、初日に話していたことを一瞬忘れていたのだ。
「けどさ、マジで一瞬焦ったから、ちゃんと認めてくれよ。ビビったじゃねえか。で、お前はユカが誰かは知ってるんだよな?」
「……クラスメイトの柳 優華でしょ。前リアルでも話した」
「うんうん。じゃあ、リエは?」
「……ゲームで一度も会ったことないけど、あのー……由水さん?」
「そうそう。由水 理恵。で、昨日言ったクランの話なんだけど」
ここで俺は声のボリュームを落とす。あまり周りに聞かれたくないからだ。
「……クリスのことなんだが、クランメンバーになろうとしている奴に話しているんだ。だから必然的に優華と理慧にも説明することになるんだが……。その話し合いに参加してくれないか?」
「……別にいいけど、まずはコルネに会わないの? 彼女たちと話してからにするべきじゃないの?」
「つっても、コルネのリアルを知らねえしな……いや待って。ちょっと待って。あ、待って。あぁ~、同じ学校だって言ってたような……。探してみるかなぁ……」
ひとまず、教室をぐるりと見渡す。似てる人いねえかな、と。残念ながらいなかった。
少し、優華たちにも聞いてみようと思う。
「あっ、そうだ、葵。連絡先交換しようぜ。ゲームでしか繋がってないだろ?」
「……知らないの? FFOのアプリを入れれば、フレンドと自由に連絡取れるんだよ?」
「なにそれ知らない。ちょっと入れてみる」
それは帰ってからするとしよう。まずはコルネ探しだ。トイレに行こうとしていた二人を呼び止め、ダメもとで聞いてみる。
「なあ、この学校にさ、コルネいると思うか?」
「「は??」」
「ほら、スナイパーのコルネ。あいつが、リアルはこの学校らしいんだよ。けど、誰かは皆目見当もつかなくて」
「えぇ……流石に知らないんだけど。私、顔をまじまじと見たわけではないし」
「別に私も深く交流があったわけではないし。本当にいるの?」
「だよなぁ……。ま、今日だけは探してみるわ」
「頑張ってねー」「この人かも、と思ったら連絡する」
手掛かりはゼロだ。いや、顔と声のみか。中々に難しいぞ。仕方ない、と頭を振り、俺もトイレに行こうとトイレに向かう。すると、女子トイレから出てきた二人の女子とぶつかりそうになってしまった。
「う゛ぇあ!? っと、すまん。大丈夫か?」
「あ、あ、あ、はい。だ、大丈夫です……」
「そいつはよかっ…………ん?」
見覚えのあるピンク縁の眼鏡。流れるようで綺麗な栗色の髪。うん? いやー、まさかだけど……。
「えっ、なに!? 恋に落ちちゃったタイ……ゑ?」
隣にいた、長髪を持つ女子。髪色こそ違えど、ゲームの中でその顔は何度も見た。やっぱそうか……。
「クリスと、コルネか?」
「うわぁ~、本当に現実で遭うとは思わなかったよ~! だって気付いてなかったもんね! ずっと!」
「はぁ? だって、一度も関わったことねえだろ?」
「ええ!? ひどくない!? 一年生の頃同じクラスだったのに!?」
「……カナデ君……」
「やめろ、そんな目で見るな。あの時は他者にあんまり興味が無かったんだから!」
「「……」」
「ちっ、何を言っても墓穴を掘っちまう」
だがとりあえず、この学校に二人がいることが分かった。これで話し合うことができる。
この学校にタキオンとカリノ以外のメンバーがいることが分かったので、話し合いを開くことに。今日たまたま全員に放課後に予定がないことが分かったので、今日開くことにする。ゲームもアプデ中だしな。教室の使用許可を取ろうか。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「じゃ、アプデ明けに追加される『クラン機能』についての話し合いを始めまーす」
「いえーい!」「わー」「……おー」「お、おー……」「いやっふー!」
「今日話すことは二つ。クラン名と、その……アレだ。分かるやつは分かるだろ?」
「……うん」「う、うん……」「まあねー」
「さて、どっちを先に話す?」
「いやいや! どう考えてもその、アレってやつでしょ! めっっっちゃ知りたいんだけど!?」
「少し察しはつく。けど、具体的には分からない。多分だけど、クリスに関連すること?」
「「「「ヴェッ」」」」
俺達四人が優華に視線を向ける。何だこいつ、と。俺が来る前に五人は自己紹介を済ませているようだ。会話に何の違和感もなかった。
一応デリケートな話なので、クリス本人から話してもらうことにしようと思い、視線を送る。すると、その視線に気が付いたクリスが絶妙に嫌そうな顔をしながら本当の自己紹介を始めた。
「え、えっと……その……私は、クリスなんだけど……本名は、朝比奈。朝比奈クリスなの……」
勇気を振り絞っての告白。それを聞いた優華と理慧は、時が止まったかのように口を開いたまま固まってしまった。すげえ。このまま固めたら千年残りそう。
「えっと……朝比奈クリスって……朝比奈クリス? 世界一の美少女の?」
「確かにこれは重大な秘密だね。テレビで見た時とは印象が違うけど」
理慧は未だ現実を受け入れられないように呟き、優華はいつも通り淡々と思ったことを話す。それを聞いたクリスは、「そうよね……」と呟き、そのピンクの縁の眼鏡に手をかける。
「……あっ! そうだこの顔! よくテレビで見る! っていうか、昨日も見た!」
「あ、確かに可愛い。これは本物だわ」
「…………もう駄目っ!」
がばっ! と音が付きそうなほどの速度で眼鏡をかけるクリス。余程恥ずかしかったんだな。というか、こんななのによく芸能界に足を踏み入れたな。
「えっと……お父さんが、「お前に足りないのは自信だけだ。一回これに行ってみなさい」っていうから……勝手に応募されていたコンテストのためにイギリスに行ったの……。そ、それで……優勝しちゃって……」
「優勝しちゃって、って初めて聞いた。凄いんだね。それで、次は? クラン名でしょ?」
「そうだよ! しっかり決めなきゃ!」
「「「「……えっ……」」」」
またも俺達四人は驚く。なぜって? めっちゃあっさりしてるから。急に話題がぶっ飛んだから。
それに気づいた優華は、微笑みながら俺たちに告げる。
「確かにとても可愛い。惚れちゃいそう。だけど、私たちだって自分たちがそこまで可愛くないと思っているわけじゃない。だから、キャーキャー熱狂するほどでもないかな」
「んー、私は結構テレビで視たら目を離せなくなるくらいは好きだけど、だったら猶更そんな好きな人に迷惑は掛けられないからねー! 本人が黙っているってことは、バレたくないんでしょ? だったら、騒ぎまくるわけにはいかないよっ!」
「……みんな……ありがとう……初めて……そんなこと言われた……」
「へぇ……お前ら、そんなこと考えてたんだ。なんか、いいな」
優華の考え方はだいぶ自画自賛だと思うかもしれないが、幼馴染という目から見てもこいつらは可愛い。クリスには劣るといえ、そこら辺のモデルとは張り合えると思っている。ああ、個人の感想です。
「で、この話題が終わったから次に行くが……クラン名、どうする? 俺はもう何も考えられない。一人一人案を出していってくれ」
「うーん。私も特に案は無いかなぁ……あ! そういえば、アイクが作るクラン、〈聖王勇者隊〉っていうらしいよ。なんか、トップランカーを集めてるって話! まだ結成はしてないけど、ムカつかない!? 名前が!」
「それ私もフレンドから聞いたよー、リエちゃん。噂ではアイクさん、『この勇者隊は、常に頂点に立ち続け、魔王を討伐するためにある』って言ってるらしいよー。なんか、誰を想定してるか分かりやすいよね」
「……向こうが魔王を討伐する勇者隊なんだったら、こっちは魔王軍で良くない? 完全に対になる様に名前を置けば」
「い、いいと思う! ええっと、〈聖王勇者隊〉だから、聖王の反対と勇者隊の反対……あれ? 聖王の反対って?」
ここでみんなが首を傾げる。この話し合いが詰まって停滞する前に助け舟を出しておこう。
「聖王の対義語は魔王だ。徳を持ってていい感じの政治をするのが聖王だから、それの反対だな。暴君とは違うみたい」
「うわっ、じゃあ、〈魔王魔王軍〉になっちゃうじゃん! それは流石にヤなんだけど!?」
「それだったらもう〈魔王軍〉でよくない? 飾ることなく、シンプルに。やろうと思えば変えれるんじゃないの? 名前」
「私もそれでいい気がするよ。結局、魔王軍ってことに変わりはないんだし」
「……確かに。結局どうあろうと最後に魔王軍があるんだから、魔王軍単体でもいいかな!」
話題が収束してきたので、まとめに入る。コキッ、コキッ、と首を鳴らしながら、さっき出た意見を一つにまとめる。
「じゃあ、クラン名は〈魔王軍〉でいいんだな? 本当にいいんだな? 悔いはねえな?」
「「「「「意義なーし」」」」」
こうして、俺たちは明日から〈魔王軍〉として活動を始めることになるのだった。
再投稿遅くなってしまい申し訳ございません。
もう少し書き溜めてから連続で投稿しようと思ったのですが、高校生活が忙しく、あまり執筆できていません。
なので、既に書いていた残りの二十五話を毎週月曜日の八時一分にゆっくり投稿させていただきます。
これからもFFOをよろしくお願いします。




