第五十六話
昨日野球の試合があり、成績がダメだったのでめっちゃ萎えてます。
「えっと……アイクって、あいつだろ? 一位の」
「そうそう。そいつや」
「はい」
「……え、妹? 誘拐したのか?」
「せやさかいなんでやねん! ちゃうわ! この子がイベント前に助けを求めて来たんや!」
「助け?」
「はい……」
話を聞いてみると、こうだ。
アイクはリアルでは、財閥の御曹司。そして、この子は奴の妹。この子がこのゲームを始めた理由は、アイクの暴走を止めるため。
「暴走? いや、暴走はしてるが……」
「はい。兄は今、ゲーム内で手に入れた力を使ってだいぶ好き勝手しています」
「まあ、してる」
「それを止めるため……いえ、そこまでは言いませんが、もう少しは現実に帰ってきて、人間としての生活を送ってほしいのです。父も母も、皆心配していて」
「あー……なるほどな……。俺も結構長い時間ログインしているからあまり強くは言えないが、あの変た―――ゴホンッ! あいつは心配してくれるやつのためにもう少しログアウトするべきだと思う。話はしたのか?」
「話そうとはしたのですが……その、部屋に籠ってVRをするか、外に出歩いてナンパをするしかないので……」
それを聞いた俺は思わず目を細める。そいつは重症だな。こんな可愛い妹さんを無視して自分はゲームとナンパか。ほーん。なるほどなぁ……。
「うん。分かった。あいつは一回叩き潰す。いや、何回でも叩き潰す。プライドを徹底的にへし折って、このゲームが嫌だと思うくらいにしてやる」
「え……」
「だが、今はそれができない。力の差があるからな。だが、いつか絶対にする。決めた。俺のプライドにかけて」
「え……」
「おおっ、ええこと言うなー。わいも協力するわ。フレンドなろうや!」
「いいっすよ。こちらこそお願いします」
「あっ、私も!」
そうして三人でフレンドになり、そのままバイバイすることになった。少女はカリノというらしい。イタリア語で『可愛い』だったな。そんな思惑があるかは知らないが。
にしても、久しぶりの男性フレンドか……。溢れ出る喜びを隠せない。
「……で、何をにやにやしているの?」
「……んっ!?」
何の前触れもなく背後に現れたアオイ。普通にビビった。スキル……【影結び】だな。
「びっくりしたぁ……。どうしたんだよ。普通に来ればよかったのに」
「……いや……スキルを使い慣れるようにしたいのと、これを見せたくて」
「ん?」
アオイがインベントリから何かを取り出す。それは地図だった。ん? 地図?
「……そう。多分、宝の地図。だけど、ここのマップには合わない。そして、元の世界のマップにも合わない」
「は? じゃあどこだよ」
「……このイベントが終わったら実装される第二階層か、次回イベントのフィールド」
「なるほどな。確かにそれが考えられるな。ところで、その地図どこで見つけたんだ?」
「……私が籠っていた家にあった地下室の宝箱で。床から出る音がおかしいと思って破壊したら、地下室があった」
「いや、音がおかしくて見つけたってすげえな。というか、俺が見つけた地図然り、見つけさせる気ねえ気がする」
「……そもそもの地図を見つけられないという悲劇」
これはすげえアイテムを期待するしかないな。じゃないと割に合わない。
「あれ? そういえば、このイベントって何日間あるんだっけ?」
「……合計四日間。あと二日。だけど、さっき二人とも無傷で大量に虐殺したから、ポイントが大量に入って来た。迂闊なことをしなければ二十一位以下は無さそう」
「あっ、ホントじゃん。今三位じゃねえか。二位がリンチミンチとトミカ。一位がアイクとレオナルド……」
「……? カナデ?」
さっきあんなことを聞いたばかりだ。元から悪かった印象がどん底まで叩き落されている。というより……。
「一位……獲るか?」
「……んえ?」
途端にアオイがボケたような顔をする。なぜかって? たった今、このままキープしたらランキングに入るだろうって話をしてたからね。
「……なんで?」
「一位がムカつくから。こいつは叩き潰したい」
「……そう」
アオイが、どっ、と疲れたような顔をする。なんだよ。そんな理由で、じゃねえよ。
「……私はやらないからね。来た敵を倒すだけにして、あの家に籠ろうと思う」
「そうかー……。まあ、そうだな。無理はしない方がいいか……」
「……そう。なら、行きましょ」
「あーい」
大人しく聞いて、てくてくとアオイに付いて行く。どうやら、地図を見つけた地下が比較的広かったようで、そこに籠ろうというのだ。
「でも、流石に二日間何もなく籠るのはきつくないか? 二十四時間じゃないにしろ……」
「……それなら大丈夫。ゲームを持ってきた」
「なんでゲームの中でゲームしようとしてんの?」
「……確かに」
そう言いながらもアオイはインベントリからオソロを……いや、ボードゲームセットを取り出す。どうやら、面を自由に変えることができ、将棋やチェス、やろうと思えばエアホッケーやビリヤードまでできるとのこと。なんでサイズも変わるんだよ。
「すっげ。VRの利点だな。なんでもできるじゃん。で、したいゲームは? 一通りできるが」
「……リバーシで。私が白を使う」
「任せろ。全面黒にしてやるから」
「は? 調子に乗らないで」
そうやってゲームスタート。先手はアオイに譲ったので、俺が後手になった。
「……絶対勝ってやる……!」
「やってみろ」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
パチンッ。
「……うぇあ……!? な、なんで……!?」
「はい。同点。さあ、もう一回するか?」
「……う、嘘……も、もう一回……」
「いいよー」
初戦の結果は白と黒で二極化された盤面で終わった。綺麗にできて良かった。いやー、アオイさん強いなー。勝てなかったかー。
次の戦いは、どうしようか。
二回戦。今度は、斜めに二色を断った。アオイはぐぬぬぬ、と唸っている。
三回戦。4×4の塊を四つ作るタイプの引き分け。「……なんで?」
四回戦。2×2の塊を十六個作って交互に置くタイプの終結だった。「綺麗だけど複雑」だそうです。
五回戦。今度は勝った。白でハートマークを作り、黒が十枚差で勝った。「……馬鹿にしてる?」「シテナイヨー」
「……どうして!? どうして勝てないの!?」
「さあ……俺が賢すぎるから?」
「……」ガチャッ
「やめろ。銃口をこちらに向けるな。怖い」
「……次は、将棋」
「うわー、苦手だなー」
「……ふっ。叩き潰す」
目の前に盤面が現れる。そして、外に敵も現れたので、準備はアオイに任せて俺は敵をボコしてくる。生憎と先に気が付いたのは俺なので、急接近して『終ノ刃』で切り裂いた。どうやら、【索敵】でこちらの大まかな位置は分かっても、正確な位置が分からず苦労していたようだ。すまんね。
帰ってきて盤面の前に座る。そして、駒を置いて行くと、いくつか足りないことに気が付いた。
「……ん? 飛車、角がねえぞ? あと金も」
「……ふっ、そ奴らは我が手中に落ちた」
「いや、なんでだよ。だから俺は将棋は得意じゃないってのに」
「……いざ尋常に」
「あいあい」
こうして俺とアオイの戦いはまたも始まった。そして、三十分以内に決着はついた。早い。
そして、結果は―――
「……ど、どうして……」
「だいぶボコボコにできたわ。あの程度のハンデは余裕なんだな」
現在アオイ陣地に残っている駒は玉と銀、桂馬、香車が一枚ずつ。それと、歩兵が六枚だ。
「……とりあえず、カナデが強いことは分かった」
「いや、お前も大概弱いぞ?」
その後俺が蹴られたのは言うまでもない。




