第五十四話
クリスに促されたので、ひとまず安全な場所に移動することに。アオイにメッセージを入れた。
『驚愕の事実を聞いたから少し喋って来る』
『……は? 今私戦ってるんだけど』
『すぐ戻るって。多分』
『急速に信用がなくなった』
取り敢えず許可は貰えたので、近くのガレージのような場所に入り、対話を続行することにした。本来敵のはずなのに。まあ、しょうがないよね。友達だから。
「で、今俺が聞きたいのは、なぜ朝比奈さんが顔を青くして蹲ってるかなんだけど」
「…………」
「無理はしなくてもいいが、俺の罪悪感が募るから少しは説明してほしい」
アオイは一言も言葉を発さない。クリスも固まったままだ。時間のみが無情に過ぎてゆく。
それから五分ほど経ったくらいに俺が痺れを切らして、動画の検索をかけた。何の動画かと言うと、美少女コンテストの優勝スピーチ動画だ。
「……あったあった。これだ」
「…………」
「あっ、それ……」
『Thank you very much. It is an honor to receive such a great award……』
「えっと、カナデ君。これ、なんて言ってるの?」
「んー、『ありがとうございます。このような素晴らしい賞を受賞出来て光栄です』だな。これほどまでにハキハキ喋ってる姿を見てるから、想像つかねえんだよな、今の姿」
そう言ってからクリスの方を見ると、ガッチガチに固まっていた姿から、少しずつ動き始めてきた。解凍してるみたい。
「…………ひ、人前に出るときとか、テレビに映る時とかは、演技をしているの……」
「演技? というと?」
「こんな人間になりたい、こんな姿を見せたい、っていう理想像になり切って喋るの……。だから、ハキハキ喋っているように見えるだけでっ」
「あぁ、なるほどな。これが“素”か」
演技ってのは怖えもんだな。いや、プラシーボか? 少しの思い込みでこれだけ人間が変わるんだから。
「ま、知りたいことは知れた。あとなんか聞きたいことも……特に無いな」
「……え?」
「へえ~」
「……え? 逆になんだよその反応。なんか間抜けだぞ」
「いや……なんか、珍しくて……」
「ねー。ちょっとびっくりしたかも」
彼女ら曰く、クリスは今まで身バレしたらその瞬間に追っかけに合ったりするくらいには有名らしい。写真をねだるだけならともかく、質問攻めにするために『束縛』を付与してきた人もいたり、あげくこのゲームの無駄にリアルなところを利用して、服を破壊しようとしてきたり……。
ちょっと待て、最後のは本当にダメだろ。運営、しっかりしろよ。
「なんか、盗撮に慣れるくらいにはされたらしいよ~」
「ううぇ……美少女ってのも楽じゃねえんだな。ちょっと同情するかも。一生その思いを共有することは無いと思うが、同情くらいはしておこう」
「ふふっ……ありがとう。その……優しいんだね。カナデ君って。今まで私を見た男性って基本的に、その……変な人が多かったから」
「あ~、まあ、分からんでもない。が、俺の身の回りには可愛い女子がいっぱいいるんだ。流石にお前ほどではないが、まあ、耐性はついてる」
「た、耐性……。そう。なら、よかった」
そろそろ頃合いだ、と別れを切り出す。すると、二人ともそれを呑んだ。そして、前のように自殺を志願してきた。「一回負けたから」と。
なので、クリスと相互フレンド登録してから『終ノ刃』で切り裂いて殺した。あんまり苦しまないように。
にしても、あのクリスの武器やべえな。自在に変化するとか。流石に見たことない系統の武器だわ。近接戦闘していると思ったら狙撃も出来るんだからな……。
「ま、そろそろアイツんとこに帰るか。怒ってそうだし……」
「……そうだね。確かに怒ってるよ」
「…………ン?」
おや? 何やら背後から声が聞こえるぞ……? それも、最近ずっと聞いていたような……。
「フンッ!」
「うごぁっ!?」
ドカッ! と、強烈な前蹴りを喰らう俺。起き上がって見てみると、背後に立っていたのはアオイだった。
「痛った……。どうだったんだ?」
「……十人ほどいたから、殲滅してきた」
「さっすが~。やっぱ純粋に火力が高いやつってすげえよな」
「……それほどでも」
少し照れるあおい。ふっ、ちょろいぜ! そんなことを口にしたら現実でも呪い殺されそうなので、黙っておくが。
さっき、「衝撃の事実」と言ってしまったが、むやみやたらと他者の秘密をばらすわけにはいかない。そのため、さっきの会話内容は秘密としておいた。
「……まあ、その人の秘密だって言うなら別に言わなくていいけど。それより、このペースだったら二十位以内に入れない。だから、さっきの作戦の継続を勧める」
「さっきの作戦……? ああ、おんぶ?」
「……そう」
まあ、確かに索敵として最も適している方法ではある。マップ全体を見ようとしているんだからな。ただ、あれの残念な点として、トラップを回避しにくいという点がある。ここら一帯はリンチミンチとやらのトラップが大量にあり、その中には一定以上の速度に反応して発動するトラップもある。ああ、本当に面倒だ。
「じゃ、行くか」
「……切り替え早っ」
装備は代えてあったので、このままでいける。疲労も少しくらいしかない。ならば、あとは敵を倒すために動くべきだろう。にしても、
「なんでこんなにプレイヤーの数が少ないんだ……? 第一回はゴキブリみたいにいただろ……?」
「……多分、だけど」
そう前置きを置いてからアオイの考えを話し始めた。それを聞いた俺はなるほどな、と思った。
「……南の方で、アイクを含めたトッププレイヤーが暴れていて、プレイヤーの数が減っている」
「はぁ? アイクなんかさっき戦ったばっかだろ。それが南で暴れてるなんて、それはなくないか?」
「……さっき狩ってきたプレイヤーが言っていた。『なんでこっちにもトッププレイヤーがいんだよ!』って」
「おんおん」
「……そのプレイヤーたちは南から来ていた。つまり、そちらの方でトッププレイヤーが暴れまわっているということ」
「確かにそうなるな」
前回のイベントで出た順位。そのうちの五位までは覚えているが、それ以外は特に見ていない。つまり、俺の知らないトップクラスのプレイヤーが十五人いるということ。そんな人数で暴れまわっていたら、そりゃ一般プレイヤーは大量に死ぬだろう。俺も嫌だ。そんな奴らと戦うの。
「あれ? その理論だったら、漏れてきたやつらがこっちに来るんじゃ?」
「……だから、大量に集まってきている。さっき行ったときに確認した」
「マジかよ。あー、大量殲滅なら方法はいくつかあるが……どうする? どのくらいの人数なんだ?」
「……大体、二百程」
「…………はぁ!?」
ちょっと待て! それは流石に聞いてない! その数は【災獄旧海】の海で吸収できる数は超えているはずだ。だって、前樹海に行った時に実験したら、百が限界だったから。あ、ハンドガンが完成した時に行った時とは別の日だぞ。
「……どうする?」
「そりゃあ迎え撃ちたい……が、いくらか減らさないと蜂の巣だろうな。流石に。ここは、俺の【業渦災炎】、【災獄旧海】の“波”と、アオイの【鷹使い】で纏めて潰してからか」
「……【鷹使い】はまだ使えない。クールタイムがある」
「おー、そりゃそうか」
「……それと、二百人は集団では来ない。ある程度バラバラで来る」
「おぉーん。そりゃそうか……。そうか……」
だとすれば、本当に辛い。MPポーション爆飲みしなきゃなんねーじゃん。超広範囲かー、と思っていたら超超広範囲に変わった。クソが。
「……私は背後から隠れながら狙撃してサポートする。だから、カナデは突撃してみんなまとめて倒してきて」
「んー。まあ、そうするしかないか……」
確かに現時点でそれしかない。というか、向こうがこちらを認識していないのならば、奇襲として成功するかもしれない。
「相手が子供とかじゃなければ、全力で叩き潰しに行くスタイルだからな、俺。相手が女子だろうと老人だろうと殺しに来るんだったら問答無用だから」
「……でも、友達とか趣味が合う人は躊躇したり見逃したりする」
「スゥー……時と場合という物があってだな」
「コルネ、だっけ?」
「おぐおおぉぉ……」




