第五十三話
……やっぱり上位層はずるい。
急に詠唱もなしに銀色の盾を作り出したり、大量の黒い鷹みたいな鳥を飛ばしてきたり。なんでそんなことができるのだ、と思わずキレてしまう。そこそこのダメージを負ったし。
だけど、そんな彼らと真っ当に戦える能力があるのもまた事実だ、と思い直した。私の狙撃能力と、彼女の特殊能力があれば、勝つこともできる。
「彼は……カナデ君が使っているのは、良くも悪くもハンドガンだから。これくらいの距離があれば攻撃は来ないはず」
「う、うん……。ところで、コルネちゃんって、あのカナデっていうプレイヤーと知り合いなの?」
「んー。まあ、そうだねー。友達だよっ! リアルの方は……彼は気が付いていないみたいだけどねー」
「ええっ、リアルでも知り合ってるんだ……。でも、楽しそうでいいね」
「あはは、知り合ってるんじゃなくて、一方的に知ってるだけだよー。っと、そろそろ集中し直さないと。きっと、また攻め上がって来るし」
「そ、そうだね……きちんと狙っておく」
隣にいる栗色の髪を持ち、本来は要らない眼鏡をかける隣の少女は、“演技”状態に入ると、とんでもない能力を発揮する。本人曰く、「演技をしている方が人と話しやすかったり、能力が上がったりする」らしい。ちょっと意味がよく分からない。
「今の演技状態は何ー?」
「そうだね、気分はシモ・ヘイヘかな」
なんだか視線も鋭くなっている気がする。もはや降霊術の一種かと疑いたくもなるほどの変わりようだ。先ほどの自信なさげな少女は何処へ行ったのだろうか。その持っているスナイパーライフルは、獲物を捕らえるためだけに構えられていた。
「いた」
「えっ」
呟いた少女は引き金を引いた。音を消すスキルを使っているので炸裂音は鳴らない。
撃った先をみた私は、それだけで驚いた。なぜなら、黒い装備を纏ったカナデが、弾丸を見た瞬間に避けているから。おかしいな。避けられるはずないんだけど。
「デバフをかけた方がいいよね? あと、視界を分けてあげる! 【死の重圧】! 【世界観察】!」
「ありがとう。よく見えるわ。全てがね。彼は見てから回避してるみたい。だったら、見えない一撃を……ッ!」
「【瞬影】」
「それはよかった……ん? えっ!? へえっ!?」
目の前に、遠くにいたはずのカナデがいつの間にか背後に転移してきた。弾丸が触れていないので、【空蝉】ではない。ならば、なぜ?
よく見れば、装備がいつもの魔王シリーズではない。これは……。
「アサシンシリーズ。靴装備『幽玄の影』付属のスキル、【瞬影】。超簡単に言えば誰にもバレない転移だ。まあ、正確に言うと超高速移動なんだけど」
「っ、【ピンポイント―――」
「遅い」
この至近距離でそれは無駄だ、と私のM24E1 ESRを握り、軌道を変えるカナデ君。流石に速度が違いすぎる……っ!
でも、私達だってそう甘くない!
「クリス!」
「任せて」
私に『黒龍』が突きつけられる直前、カナデ君の背後から相方であるクリスが飛び出す。持っている武器はサブマシンガンだ。それを見たカナデ君は流石に驚き、私たちに聞いて来た。乱射された弾丸は全て銀の盾で防いだようだ。やっぱり防御貫通じゃないとダメっぽい。
「……さっきはスナイパーライフルじゃなかったか? いつの間に別の武器に……というか、二種類の武器を持てるのか?」
「いいえ、持てないわ。だけど、私の持つユニーク装備は特殊なの」
「ほお。どんな能力だ?」
「『記憶連想』。これが、私の持つ装備の名前」
「記憶連想、ねえ……。そうだな……。武器が複数持てるというより、それ自体が変化するのか? いや、まさかな―――」
「「……」」
「あ、ごめん。本当にそうだったんだ」
まさかアイテム名だけで当てられるとは思わなかった。何なのこの人!?
というか、カナデ君はカナデ君で、なにやらクリスの方を見ている。何かに気付いているようだ。
はっ、これはもしかして、あれがバレている……!?
「カぁナデ君! ちょっとこっちに来てくれる!?」
「は? なんでだよ。まさか、密かに殺す気じゃ……」
「もう、それはないから! ちょっと説明することがあって」
「?」
訝しみながらこちらに来てくれる彼。めっちゃ素直なんだよね。
「……もしかして、気付いた?」
「ん? いや、まだ確証は持ってないんだが……多分、って段階だ」
「でも、だいぶ近づいてるんだね……。真実を、知っとく? いや、それはクリスに相談してからか……」
「いや、真実ってレベルの話でもない気がするんだが……」
「いやいやいや! 真実ってレベルの話でしょ! 何言ってるのかなぁ!?」
「え、だって、別に違ったとしてもなんだ似てただけかー、で済むじゃん。別にそんなに大層な話でもないだろ」
「……ッ! クリスがどんな思いで顔を隠しながらこのゲームをプレイしてるか知らないの!?」
「知らない。え、マジで? 俺一人が話しかけるのにそんなレベルの高い話になんの?」
すごい。会話がかみ合っている気がしない。どこかしらでズレている気がする。だが、それがどこか分からない。俺的にはこの少女、俺が最初にログインした時に森の場所を聞いた少女に似ていると思ったのだが、それだけだ。それ以外には何も思わない。
「で、ここで勘違いを正しておくが、彼女は俺が初ログインした時に、俺に試し撃ちとして森の位置を教えてくれた人だ。そんだけ」
「……えっ? 本当に? えっ、それだけだったの!?」
「だから俺は聞いただろうに。真実ってレベルの話か? って」
「ぬぅ~……じゃあ、話してきてもいいよ」
これで誤解は解けたようなので、あの時の感謝を伝えに行く。何だかんだあの時、森で試し撃ちができるってことを知れたので、今の俺があると言っても過言ではない。
「あ、帰って来た。話は終わり?」
「うん。ごめんね。勘違いしてたみたいで」
「いいのよ。コルネが私を守ってくれようとしたのは知ってるし」
「クリス~」
よく分からないが百合が始まった。が、とりあえず和解をしたのでクリスとやらに感謝を述べる。
「あー、俺が最初にログインした時、どこに行けばいいか教えてくれてありがとう。アレのおかげで今の俺があるからさ」
「えっ、えっ……あ、あの時の……」
「あっ、演技が終わってる! いつものクリスだー!」
「ん? え? 二重人格なのか? もしかして」
「いや……その、私、誰かと話すときとか人前に出るときは、いつも演技をしているの。こんな自分はみんなに見せられないから……」
「いや、別に構わないと思うが……。そんなもんなのか?」
「……あれ? アオイ。もしかして、この人私のこと気付いてない……?」
「うん。多分バカだから」
私はひどく傷つきました。ってか、なんだよ私のこと気付いていないって。そんな有名人なのか? いや、いくら世間に疎い俺でも、有名人くらいは知っている。だからそういった類ではないはずなんだが……。
「アオイ。もう、教えちゃおう。噛み合わない会話がもどかしいし、この人なら多分大丈夫だから」
「クリス……。本当にいいのね? 本当に?」
「うん……」
目の前の少女は眼鏡を外し、その素顔を露わにした。ふわりと栗色の髪が舞い、周囲の雰囲気が一変する。
人間、想像もしていなかったものを見ると息を呑むらしい。俺がそうだった。
星が瞬きそうなつぶらな瞳に、整った顔立ち。改めて見ると、髪は三つ編みがされていた。
驚く俺とは対照的に、彼女は急いで眼鏡を装備し直し、顔を背けながら言った。
「……私は、クリス。朝比奈クリス。一応……モデルとかも、してるわ……」
「んー? あー、あー? 待って、もうちょっとで思い出しそう。二年前のニュースで……えっと……」
「い、いや、二年前のニュースって……覚えてるわけが―――」
「思い出した! 『美少女コンテスト優勝者、朝比奈クリス。最強の“可愛い”が日本から排出!!!』だっけな?」
「おうふっ」
「クリスー!?」
そうだったそうだった。二年前見たわ。世界一の美女を決めるコンテストで見事優勝を果たした少女。あの時は流石に、へー、と驚いたものだ。それしか知らなかったが、まさか彼女とは。
「えっと……ひ、ひとまず……安全な場所行かない?」
「「賛成」」




