第五十二話
「…………ん、んぅ……。ん? 朝?」
今日、私は布団で目を覚ました。しかし、ここはゲームの中。イベント中なのだ。すぐに体を起こし、カナデを探す。そして、気が付いた。
「……ん? 私、起こされた?」
寝ていた間の記憶をたどる。勿論そんなものは無いのだが、それが故におかしい。だってずっと寝ているという意味なのだから。
「……交代交代で見張りをするはずじゃ……?」
だというのに、昨晩は一度も起こされていない。これは、つまり……。
バンッ!
「んー? ああ、起きたのか。おはよう」
「……おはよう……ッ、カナデ! 昨晩は……」
「よく眠れたか? 何件か襲撃が来たが、特にそっちに攻撃は行ってないみたいだな」
「……うん……。いや、見張りを……ずっとしてくれた?」
「ん? ああ。あまりにも可愛らしい顔で寝ていたからな。起こせるわけないだろ?」
「……かわっ……。いや、いい。ありがとう」
少し照れる私。あんまり褒められたことないし。照れ隠しに、こちらを覗いている四人を即死で撃ち抜く。頬を引き攣らせているカナデを無視し、外を見る。今のところ誰もいない。
「……カナデ、行こう。そろそろ南下した方がいい。中央付近なら敵も多いはず」
「あ、了解。それについてなんだがな……」
なにやらカナデが耳打ちをしてくる。そしてそこから放たれた言葉は、荒唐無稽な作戦だった。何言ってるのこの人……?
「……それでいけると思う?」
「俺はお前が花火をしたときにそう思った」
「……するしかない」
ここは……認めるしかないのか。私の花火大作戦も彼からは同じように聞こえていたとは。いやいや。私は敵を集めるためにしたこと。だから、別に変なことはない。いやでも、この作戦はカナデに触れることになってしまう。それは少し恥ずかしい。
「じゃ、おぶるぞ?」
「…………うん」
私は、彼に身を委ねた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「さて、ここら辺なら居そう……いたッ! 二時の方向!」
「……【冥影葬送】」
ドドドドドドッ! と放たれた弾丸は、こちらを狙っていた二人組を丁寧に撃ち抜いた。即死だ。
やはりこのイベントは2対2が多いので、各地で戦闘が始まり、終わる。そのため、接敵率が低いのだ。だったら駆けずり回って敵を探すしかないだろう。
だから、俺は今アサシンシリーズを纏って走り回っている。
「んっ! 足音が聞こえたぞォ! そこだぁっ!」
「……ん」
ドドドドドドッ! と、やはり放たれた弾丸は即座に敵を消してゆく。もとからSTRが高い『冥影鷹虚』は、数発弾丸が触れただけでプレイヤーのHPを吹き飛ばす。俺にはできない戦い方だ。
「……ん? っ! カナデ! 九時の方向に誰かがい―――」
ドパァァンッ!!
「んなっ―――」
左から放たれた紅い弾丸は、俺に迫って来た。体を捻って回避をしようとするも、それはガッツリ肩を撃ち抜いてしまった。痛い。
「って、でけえダメージだな。今のでHPの九割持ってかれるとか……」
「……急いで射線を切って。きっと今も狙ってる」
そんなことは分かっている。だが、実際にどこに身を隠せばいい? どこから撃たれたか正確な位置は分かっていないのだ。そんな状況で変な場所に隠れてしまっては、逆に格好の的だろう。
「【星の枷】! 【精密射撃】【ピンポイントショット】!」
「あ? この声とスキル……まさか!」
「……私も聞いたことある」
「一先ず防ぐっ!」
『無量メタル』を目の前に展開し、襲い来る弾丸を防いだ。しかし、なんの油断も安堵も出来ない。なぜなら、これを撃ったのは恐らくあいつだからだ。
「コルネェッ! あいつマジでエイム良すぎだろ!」
「……あのスナイパーの子か……。一度補足されたら逃げられない気がする」
「ああ。あいつはガチで撃ちミスらないからな。相方が誰かは知らないが、まずはあいつを潰さねえと」
俺達を狙っているスナイパーに睨まれたままだと何の行動も起こせない。一旦アオイを降ろした。そして、アオイに周囲を警戒しておくことをお願いし、俺はコルネと向き合うことにした。
先ほどの二発で大まかな位置は割れている。問題は、そこに近づけるかどうかだ。いや、近づかなくてもよいのだが、姿すら補足できていないまま百メートルクラスの狙撃をされては目も当てられない。そのため、まずは場所を把握するのだ。
「そういえばアイツ、【索敵】持ってたな……。俺の【隠匿】は無駄か?」
あえてもう一発撃たれるために身を晒す。すると、そこに二発の弾丸が迫って来た。なるほど。二人目も近くにいるのか。
来ると思っていた俺は即座に『無量メタル』を展開。事なきを得―――
バリイインッ!!!
「んなっ―――」
紫色の光を纏った弾丸が俺の腹部に深々と突き刺さり、貫通した。これは……防御スキル貫通か!?
「グハッ……!」
「……!? カナデ!」
「っ、近寄んな! お前はあっちの方向を撃ってくれ……!」
「……分かった」
こちらに来てはただの的だと、アオイに、俺が撃たれた方向を乱射するように言う。威嚇の意を込めてだ。それを聞いたアオイは、躊躇いながらも俺が指さした方向へ乱射した。そして、乱射しながらアオイはこちらへ寄って来る。
「……絶対に壊れないんじゃなかったの?」
「『無量メタル』は防御スキル貫通で壊れるんだ。あの紫の弾丸は、防御スキル貫通っぽいぞ」
「……じゃあ、【小規模障壁】も無駄?」
「そのスキルを何回使えるかが分かんねえんだよな……。一回使ったから大丈夫だと思うが……」
「……カナデ。MPポーションを頂戴。たくさん」
「え? なんで? いいから早く」
この会話の間にも、アオイはマガジンを五つ消費している。何か違う手を打たねば、すぐに弾切れになってしまうのだろう。戦闘中の弾切れが一番致命的だと、俺はこのゲームを始めて二日で学んでいる。
俺は黙ってポーションを差し出すと、アオイは受け取らなかった。
「? え、これだろ?」
「……両手が塞がってる。飲ませて」
「え゛……」
つい最近クラスメイトだと分かったばかりの女子に飲ませてあげるのはキツイ……っ! 体感で昨日だぞ!
だが、今はそんなこと言っている場合ではない。何だかんだピンチなのだ。
「しゃーねえ。口開けろ!」
「……(すごく間抜けに見えるんだけど)」
「はい行くぞー。ドバドバー」
「オゴゴゴッ、ウグッ、ゴゴボホッ!」
「あっ、スマン」
三本を一気飲みさせてしまったが、なんとかアオイは飲み切った。そして、銃の乱射を止めると一つのスキルを発動させた。
「んっ、【鷹使い】っ!」
「……んんっ!? なにそれぇ!?」
「……シャドウシリーズの体部分装備【陰ノ櫻】に付属してるスキル。私の影から大量の鷹を呼び出して相手にぶつけるスキル。威力はそこそこある」
「へえ~……確かにこの数の鷹を喰らったら誰でも死ぬわ」
アオイの影が広がり、そこから数えるのも烏滸がましいほどの数の鷹が溢れ出てくる。それらはものすごい勢いで、撃ってきた方向に襲い掛かった。
ババババドドドドッ!!! と大量の黒い鷹が林の奥地へ着弾した。ひとたまりもないだろうが……。
そんなことを考えていると、目の前の砂埃が晴れた。勿論、すでに身を隠しながらその様子をうかがっている。
「……なあ、アオイ。ちょっとおかしくないか?」
「……うん。なんか、体が重い……」
「【星の枷】じゃねえな……。何なんだこれ……」
ハッとして先ほどの方向を見ていると、そこから甘ったるい香りが漂ってきた。原因はこれか?
だが、アオイはこういった系統のスキルを持っていなかったはず……。もしかして、相方の能力?
「分からないことばっかだな……だが、攻略法は見えた」
「……え?」
「あいつらは俺がやる。アオイは、背後から頑張って接近してきている奴らを対応してくれ」
「……また?」
「ああ。俺には分かる。またこんなことを頼むのは気がひけるが―――」
「……大丈夫。これは信頼が故の言葉」
「大丈夫そうだな。それじゃ、行くぞ!」
こうして、俺VSコルネ&誰かの戦いが始まったのだった。




