第五十話
時を少し遡り、カナデサイド
「チッ。鬱陶しいんだよこの風!」
「ふっふーん! でっしょ! 地味にダメージ稼げるんだよねそれー。それに、今はユカの作ってくれた風属性のスキルの威力を上げるポーション飲んだし!」
「それほど上昇幅は大きくないけど。というか、なんでそれで耐えられるの……?」
「【不絶の混沌】さまさまだァ!」
先程遭遇したユカ&リエペアと応戦した俺。常時劣勢で、常に防御を強いられる。この風の刃をかいくぐって一撃入れようと、ユカが何らかのポーションを用いて傷を癒したり、MPを回復させたり、爆弾で俺を攻撃してきたりする。本当に厄介な二人組だ。互いのことをよく知っている。
「だが、お前たちのことを知らねえわけじゃねえんだぞぉ……!」
「いいや。何も知らない。カナデは、リエの持つスキルを殆ど知らない」
「そんなこと言わないでよ。泣いちゃう」
「でも、実際そうなんだよねー! もう終わらせるよ! 【氷河到来】!」
氷属性上級魔法。周囲を凍らせて相手の動きを止めるという技……らしい。『凍結』付与がメインだ。『束縛』もあるらしいが、両方とも俺の無効化範囲内だ。
「すぐ脱出……あれ? 壊れない!?」
「それは物理的な捕縛だから、【束縛無効】は意味無いよーっ! STR依存だからね!」
「んっだそりゃぁ!!」
「さあ、終わりだよ! 【業火弾】!」
同時に使われ、連続して増えた炎の弾が俺めがけて飛んでくる。おっと。一撃で殺し切るだなー? やめてよ。【不絶の混沌】が使えないじゃん。
「脱出は諦めた! 炎ごと燃やし尽くしてやるッ!! 【憤怒】【任務遂行】! 【業火災炎】!!」
MPは上げず、周囲のみに立ち上がる炎の竜巻は、迫りくる炎の塊も、俺を捕縛していた氷の大地も全て溶かして燃やし尽くした。あわよくば二人にも行かねえかな、と思ったが、範囲が足りなかった。MPポーション飲んでないとダメか。
「うわぁ、最悪なんだけど……。やっぱり災厄シリーズは反則だと思う!」
「うーん。一旦退こう。絶対倒さないといけないってわけじゃないし、【災獄旧海】が出てきたら厄介」
「そうだそうだ。使っちまうぞー。早く逃げろよー」
「うーん。でもなー」
考えている素振りを見せるリエ。さっさと去れ、と思う俺だったが、考えていたリエは唐突にスキルを使った。
「【世界天幕】!」「え」
「なんだそ―――」
その瞬間、リエとユカを含んだ空間が、ごっそりと無くなっていた。いや、周囲の景色に上書きされたように見える。というより、景色が動いているな。
『ふふっ! このスキルはー、世界を面として捉えて、色々と使うスキルだよーっ! これ使ったの二回目だからよく分かってないんだけどねー!!』
『魔女シリーズの杖、『蒼穹魔杖』付属のユニークスキル。強いでしょ。勝手に使ったのは許さないけど』
「姿が見えなくなるのは厄介だな……だが、それだけじゃないんだろ?」
『MPの消費量が頭おかしいことを除けば、便利なスキルだよ! 世界を盾に出来るし!』
「は? 世界を盾?」
『カナデ。こっちを撃ってみて』
ユカに言われた通り声のする方向を黒龍で撃つ。すると、弾丸は直進せず、カーブを描きながら俺に向かってくる。予想外すぎて回避できず、直撃し、結構なダメージを与えた。
「いだぁっ!?」
『ここの世界面をぐるって一回転させてるから、こっちへの攻撃は全部カナデに返るの! まあ、この状態では魔法が使えないんだけどねー!』
『んー……リエ、そろそろMPが切れる。戦わないなら、もう逃げよう』
『あ、りょうかーい。じゃあ、またねー。楽しかったよー!』
そんな声を残して二人は去ってしまった。もう直ってんのかな、と思い、さっきの場所を撃ってみると、今度は直進し、曲がって来ることも無かった。あいつがいなくなったら直るのか、あいつが解除しないとダメなのか……そこは分からないが、ひとまずは見逃したし見逃された。このチャンスを使わない手はあるまい。
「なんだかんだスキルも残り少ないしな……皆みたいに制限なしに使いたい。クールタイム長かったり、一日一回のばっかだし。面倒なものばっか(ピロンッ!)だよな……ん?」
今なんか聞こえたぞ? とメッセージ欄を見てみると、そこにはアオイからのメッセージが。合流場所が分からない、とかそんな感じか? そう考えながら開いてみると、そこには想定外の内容があった。
『ゴメン。死ぬかもしれない』
「…………嘘だろ?」
思わず頬が引き攣り、背筋を冷たい汗が伝う。ランキング四位の彼女を倒せるものはそうそういない。
トップの三人を除いて。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「さて、方向で言えばこっちらへんのはず……うん?」
俺自身がアオイに行けと言った場所に来てみた。そして、そのまま直進し続けてみる。すると、目の前に虹色の何かが現れた。何の前触れもなく。
「っ! びっくりした……。なんかこれどっかで見たことあるな……ほら、第一回イベントの切り抜きとかで。なんだっけ、名前」
この色合いと空中の絵。見たことがある……と唸っていると、目の前の虹色の何かが収縮し始めた。ああ、そうだ。レオナルドだった。あいつのスキルだったな。
「ってことは、この先にあいつがいんのか……進みたくねー。けど、死ぬかもって言われたら行くしかねえよな」
俺なりに覚悟を固め、ゆっくりと進む。すると、ある程度はっきりとした視界には、レオナルドともう一人、少し輝いている男がいた。あいつの名前ならすぐに出て来る。マイクだ。ムカつく面に、言動。溢れ出る醜悪な雰囲気(俺からしたら)。凄く印象に残っている。
「おん? あそこで虹色に捕まってんのは……アオイ、か?」
やべえ、人質がいる。しかも殺されたらダメなタイプの。
機会を見て、それっぽいタイミングで救出するのが最善だろうな……だが、行ける気がしない。というか、捕縛したんだったらさっさと殺せばいいものを……。
うん? なんだ? 雰囲気がおかしいぞ?
「いや、ただ殺すだけじゃ面白くないな。君ほどの美女だ。手に入れたくなるというのが男の性だろう」
「おっと? アイク。それは先ほどの会話に戻りますよ? 変態になりたいのですか?」
これを聞いた時点で俺は駆け始めていた。AGI強化のポーションも飲んである。ついでにDEFも。
こいつはダメだ。さっさと殺すに限る。
「君はもう、俺のモ―――」
間に合ったっ!!
「なァに言ってんだこのクソ変態野郎ッ!!!!!」
「「「!!??」」」
刹那の間に、パァァァァァンッ!! というだいぶ間延びした炸裂音と、ドンッ! という何かがぶつかった音がした。そしてその間にアオイを攫う。
「……カ、カナデ?」
「ああ。間に合ってよかった。その虹色のやつは……まあ、どうにかしてくれ」
急いで距離を取った俺は、近くにアオイを下ろす。そして、二人と相対した。
ランキング一位、マイク。第二位レオナルド。最強の二人が並んでいるが、そんなこと今はどうでもいい。今考えているのはこの一点、
この変態を叩き潰す。
「やれやれ。邪魔が入ってしまったようだ。以前も戦ったね。その時君は手も足も出なかったが、それでも立ち向かうのかい?」
「は? 遠い昔の話をすんな。というか、変態から女子を守るのは不変の理だろ」
「ほほっ。変態と言われてますよ。言ったではないですか」
「……そうだね。だから、君を殺して、ゆっくり楽しませてもらう。レオナルド」
「ええ。準備は出来ていますよ」
「行くよ。【パワーアタック】【聖弾・追】【聖弾・剛】」
「っ、来たな!」
あの後切り抜き等を見てみると、こいつの【聖弾】シリーズとやらは、射出した弾に特殊な効果を持たせるようなスキルらしい。前回喰らった弾の特性は分かりやすかった。
【聖弾・追】なんか、弾がこちらを追いかけて来るってのが凄く分かりやすいだろう。【聖弾・剛】も、ダメージ量を上げ、ノックバックを付与するものだし、聞いただけで意外とわかるかもしれない。
「おらあッ!」
「へえ、撃ち落とすなんて、器用なことをするものだね。すごいすごい」
「彼も捕縛しますか? それとも、普通に倒しますか?」
「いや、レオナルドはリリィの見張りに行ってくれるかい? 脱出されたら面倒そうだからね。なに、すぐ終わらせる」
「分かりました。あまり時間はかけないでください」
こうやって、いかにも自分が勝つ前提で話しているというのが余計に腹立つ。一泡くらい吹かせてやろうじゃねえの。
「そうだね、手始めに……【流星群】」
「は?」
斜め上を見てみると、いくつかの岩石が浮かび上がっているのが見える。なるほど。疑似的な隕石か。あれくらいならリエもできそうだ。
「これくらいの回避なら―――ッ!」
「私自身が出ないはずないだろう?」
ゴウッ! と肉薄してきたマイクに白龍を突きつける。それを見たマイクは驚いていたが、すぐに首を捻ると銃口を逸らし、横蹴りを放つ。軽く吹き飛ばされた俺は着地ダメージを無効化するために足から壁に着地し、体勢を整える。前を見ると、アイクがサブマシンガンを連射していた。
それに対して俺は最低限の『無量メタル』を出すことによって対応。破壊不可なのだ。これならばいけるだろう。眩暈なんて気にしている場合ではない。
「へえ、そんな防御スキルを持っていたんだね。流石に、防御スキル無効の弾丸は持ってはないかな。力では突破できないだろうけど……そういったスキルは無限に展開できない」
「どうだろうな。存外、無限にいけるかもよ?」
「それはない。ゲームとしてそれはありえないだろう」
残念だが、それが可能なんだなー、『創メタル』使ってるから、脳にダメージを与えながら使える。だけど、流石にこれ以上はマズイと思ったので、消す。
「ほらね。じゃあ、再開だ」
「……しゃーねえな」
「とはいえ……レオナルドにあまり時間はかけないと言ったんだよね。だから、私も本気を出すよ」
「【勇者顕現】か?」
「いや……まだプレイヤーがたどり着いたことの無いスキルだ」
そう言ったマイクは、あるスキルを発動させようとするので威嚇として『白龍』を撃つ。わざわざ待ってやる義理も義務もねえ。
「【連】ッ!」
「【小規模結界】。君にこれは突破できない。わざわざ時間を使わせたことには腹が立つが、まあいい」
連射と【王権】による突破も考えたが、それよりも先にスキルを使われてしまった。
「【断罪核羅】」
その瞬間、俺とマイクのみが世界から隔離された。




