第三十二話
高校生になるので、その準備で二日間投稿できませんでした。ですので、連続で四話投稿します。
醜い言い争いのせいで、不快に感じる人がいるかもしれません。そんな人は後半の戦闘のみを読んでください。
その後も進んだカナデとコルネ。そして、ようやく次のボス部屋にたどり着いた。だいぶ歩いたため、二人とも精神的に疲れている。一旦休憩をしよう、と軽く座り、十分ちょっとの休憩をしようということになった。
「敵も絶妙に強いが……やっぱこのゲーム、プレイヤー側の力が強くなってきたな。あんまり手古摺らねえもん」
「だから二階層が追加されるんだろうねー。このままだったらつまらない作業ゲームになるから」
「そうだな。ま、このゲームの本質はPvPだろう? だったら、イベントを楽しむしかねえんじゃねえのかな」
「一応ランクマッチってのはあるけど、したことはあるの?」
「何だそれ。初めて聞いた」
「中央広場から始められるよ。いつか機会があれば教えてあげるね」
「ランクマッチねえ……」
雑談をする二人だったが、そこにまたも光の穴が現れる。今度は話を聞いてやろうとコルネに言っておく。すると、中から人が現れた。
「さっきも言ったが……お前がカナデで、そっちがコルネだな?」
「ああ、そうだ。誰だお前?」
「そうだよ。なぁに?」
「単刀直入に言おう。『ハジマリ』を返して欲しい」
「うん。で? お前は誰だ? こっちが質問したんだ。ちゃんと答えろ」
まあ、返して欲しいっていうくらいなんだから、こいつは運営だろうな。だが、プレイヤーにお前とかいう運営がいるのか? いや、もっと言えばこんな風に接触してくるのか?
「……俺はFFO運営の一人だ。その『ハジマリ』を返してもらうために派遣された」
「そうなのか。返してあげてもいいが、対価は何かあるのか?」
「……は?」
「対価」
今コルネは、黙って道の隅に体を寄せている。存在感を消しているようだが、消し切れていない。その豊満なボディのせいで。俺は誤魔化すように運営の男と向き合った。
「なぜこちらが対価を支払う必要がある? そもそも『ハジマリ』はプレイヤーに行くはずの無かったアイテムだ。それが元の場所になければこのゲームのシステムが全て遮断されて人々の脳が焼き切れることになる」
「それは怖いな。だが、世は常に平等であり、何かを求めるには等価の何かが必要だ。ゲームに支障は出したくないし、運営には感謝しているが、それだけは納得いかないな」
「本来渡るはずの無かったアイテムだと言っている」
「だが結果として渡った。俺の命と長い時間と大量の弾薬によってな」
「今こうしている間にもこの世界は崩壊を始めている。返せ」
「すっげえ返したいけど、俺を曲げないためにも嫌だ」
途端にブチギレた運営の男は、ナイフ片手に突っ込んでくる。おいおい。単細胞かよ。それに、銃じゃないのか。いやこの距離ならナイフの方が強いときもあるけど。
突き出されたナイフを最小限の動きで回避し、足を引っかけて転ばせる。「いでっ」という男に『黒龍』を突きつけた。
「なぜキレた? 俺は至極真っ当なことを言っているつもりなんだがな」
「だったら早く返せッ! 『ハジマリ』が無ければこのゲームは壊れるんだッ!」
「だから対価を用意しろってんだ。今お前が言っているのは、客が買った物に対して『本来売るはずなかったから返せ。返金はしない』って言ってるようなもんだぞ。今回のケースだったら買った物が『ハジマリ』、金が俺の命とか労力とか時間、店側がお前だ。つまり、客のあらゆることを否定したんだよ。お前は」
「カナデ君が静かにキレてるよ……」
俺の中の価値観として、『万物は平等であり、何かを求めるには対価が必要』という物がある。そのため、こいつの言っていることがムカつくのだ。
「ま、この楽しいゲームを壊したいわけじゃないし、別に返してもいいが……」
そういうとカナデは唐突に頭上を見る。何もない虚空の空間に、コルネも新開も首を傾げた。そして、それを見ていた運営は目が合い、とても驚いた。
「もっとまともなやつ寄越せよ運営。見てるんだろ、今この瞬間を。そんで真正面から話し合おうぜ」
「んなっ……! このガ―――」
「キ、か。確かに言っていることはガキだが、自分の価値観を持っておらず、話し合いができないお前には言われたくないな」
「~~~ッ!!!」
するとまた新しく光の穴が作られ、そこから厳つい顔をしたおっさんが出てきた。思わず威圧されそうになってしまった。
「すまない、カナデ君。私はこの男の上司に当たる者だ」
「そうですか」
この時点でインベントリに手を伸ばす。『ハジマリ』を取り出すために。すると、それを見た厳つい人は静止した。
「少し待ってくれないか。まだこちらの対価を示していない」
「……ほお。この男とは言うことが違うんだな。何をくれるんだ?」
「この『ハジマリ』内に含まれるシステムのうちの一部分を取り出し、それをアイテム化してメールに送ろう。どうだい? システムの力を内包したアイテムなら、君も満足するかな?」
「別に何でもいいが、すぐに返すよ。これは面白いゲームだからな。これからも、頑張ってくれ」
「フッ、言われなくともそうするさ……おい、帰るぞ新開。お前は後で班長会議で処罰を言い渡す」
「え……はい……」
こうして俺は『ハジマリ』を厳つい男に渡し、男は光の穴に入って帰っていった。新開と呼ばれた男は四つん這いになりながら急いで出て行った。
残される俺とコルネ。最初は沈黙が下りたが、それを破ったのはコルネだった。
「なんか、自分の価値観を持っているのっていいね。人によってはこれがいいか悪いか迷う人もいると思うけど」
「まあ、素直に返せばいいだけだからな。今回はただ捻くれた少年だよ」
「それもそっか」
「そこは否定してくれよ」
簡単な漫才をしながら、俺たちは扉を開いた。そこは果てしなく広い空間であり、地平線が見えるような場所だった。『果ての闇』に果ての無い空間があっていいのか。
「うーん、ブラックボールの時とは真逆だね……あっちは狭かったし、暗かったじゃん?」
「そうだな……ん? 真逆?」
すると、目の前に白い穴が現れる。今度は運営じゃないと悟った俺は、即座に『黒龍』を構えた。その穴からは赤、青、緑の三つのブロック状の何かが溢れ出し、何かを形作る。それは、モンスターの形になった。
「スライム……ワイルドボアもスカルゾンビもいる……これは、殲滅戦になるのかな?」
「殲滅戦っていうと、あれか? めっちゃ出て来る敵をボコボコにしろってやつか?」
「それだよー。ただ、最初はスキルとかは温存してくれると助かるかな」
「了解」
そうして動き出したモンスターたちに対して俺が『黒龍』を連射したところで戦いは始まった。
大量のモンスター、というが、ほぼ二発で死ぬようなものばかりであり、コルネに関してはもはや一撃で何体も倒している。流石スナイパー。
「で、もっ、だいぶ余裕、だなっ! これな、らっ、乗り切れ、そうだぞッ!」
「落ち着いてから喋ってくれる!? というか、こういうのは何ウェーブもあるに決まってるよ!」
「げえええっ」
コルネの言うことは正しかった。全ての敵を殲滅したと思ったら、いつの間にか次のモンスターが形成されていた。それを撃ってみるが、ダメージは通らない。ダメか。
「集団に効くスキルっていうんだったら……【業渦災炎】くらいか? あ、待って」
そこでスキル欄を見ると、ここに来る前に手に入れた【災獄旧海】があった。うっは。忘れてたわ。
丁度いい。どんなスキルかはいろんなモンスターがいるここで試すに限る。
「コルネェっ! このウェーブは自力で乗り切って、第三ウェーブになったら【業渦災炎】で纏めて蹴散らす! そんで、第四ウェーブになったら【災獄旧海】を使ってみる! もしかしたら一体にしか効かないかもしれないけど、そん時はよろしく!」
「あはは~。任せといて! 尻拭いはするから!」
尻拭いって言うなよ。と呟きながら、第三ウェーブを待つ。確かに第二は第一よりも敵が強くなっていた。硬かったし、攻撃の弾速が速かった。
休憩をする間も少ししかなく、次の敵が形成されていく。あ、この間隔は長くなってる気がする。気がするだけかもしれんが。
「【星の枷】! 今のうちにポーション飲んで!」
「任された!」
STR上昇、MP上昇のポーションを呑み、【業渦災炎】の火力と範囲を上げる。
いつもより【星の枷】の出力が高い気がするが、そのおかげで時間は稼がれているので、ありがたいとしよう。
「準備完了! 【業渦災炎】ッッ!」
『ウオオオオオッ!!』『アアアアッ!!』『キエエエエアアアアッ!!!』
俺を中心に炎の竜巻が巻き上がり、大量のモンスターを飲み込み、溶かしていく。強い。災厄シリーズの火力はやはり高い。そして、【災獄旧海】の期待も上がっていく。
第三ウェーブがあっさり終わったので、第四ウェーブをゆったりと待つ。そして、さっきよりも大量のモンスターが形成された後、奴らは動き出した。
「広い……多い……どんな能力になるか分からない。だが、成せばなるだろう」
軽く深呼吸をし、俺は呟いた。
「【災獄旧海】“海”」
――厄災は海より来る――




