第二十五話
今日高校の野球部の練習に参加してきました。疲れた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ! やっと勝ったぁ!」
先を行くリエ。そこそこのペースでこのボスたちを倒している。
そんなリエのプレイスタイルは、魔法の圧倒的弾幕によるゴリ押し。カナデが初期に戦った炎の猫や氷の犬が使ってきたような魔法の上位版をバンバン撃って来る。何だかんだトッププレイヤーの一人である。
そして、ボスを倒すこと九体。次で十体目だ。
「ようやくラスト……。流石にきついなぁ」
はぁ~、とため息をつきながら、ユカ印のMPポーションを飲む。それと、STR上昇も。
そして、扉をゆっくりと開いた。
「しっつれいしまーすっと。……ああ、そういう……最初の奴みたいだね~」
目の前にいたのは、片膝をついた巨大な騎士。黒い鎧を纏った騎士からは、異様な圧を感じる。
そして、その騎士はキィィンッ! という音と共に目を紅く光らせ、立ち上がった。戦闘開始だ。
「行っくよー! 【業火弾】! 【暴嵐刃】! 【激流弾】! そしてぇ~っ!」
三つの魔法を発動させながら、ある三つのスキルを発動させる。それは、リエがトッププレイヤーでいられる一つの理由だった。
「【同時発動】! 【連続発動】! 【自動発動】!」
そう。これらだ。つまり、自動で三つの魔法を同時に発動させ続けるという異様な光景が生まれる。なお、MPの消費速度は馬鹿にならない。が、消費を抑えるスキルもいくつか取ってある。そして、ユカのポーションを飲んだため、致命的な減り方はしない。
ゴオオオッ! ジジジジッ! ドドオオンッ! という悲惨な光景を生み出しながらも、リエは油断しない。騎士のHPバーの減りが悪いからだ。通常のボス程度ならば数分で死ぬ。しかし、目の前の騎士は余裕で耐えている。あの鎧には魔法緩和のスキルでもついているのだろうか。
「んもうっ! これするとMP足りなくなるのに! 早く倒れてよぉ!」
『ウオオオオオッ!!』
「キャーーーッ!!」
あまりAGIが高くないので、逃げるのに時間がかかる。そのため、大剣の振り下ろしを回避できなかった。
「【魔法障壁】! 【同時発動】! 【連続発動】ううぅぅ!」
パパパパパパリィンッ! とものすごい速度で破壊される障壁を、何枚もの障壁を何度も作りなおすことで耐えていた。
「【浮遊】っ!」
あ、このままじゃヤバイかも、と思ったリエは空中へ逃れた。MPが持つ限りずっと飛ぶことのできるスキルだ。またもとてつもない速度でMPが減る。またもポーションを一本使った。
「んー、やばいかも。この装備付属のスキルは使いたくないし……。どうしよ」
彼女の装備は一日に一回しか使えないスキルを二つ内包している。
そのうちの一つ、【希望星】というスキルは、一定時間魔法やスキルを無制限に放てるというものだが、その後のステータス低下が恐ろしい。使った分、自身はステータス低下を受けるのだ。
もう一つは【絶望星】。これは、純粋に高火力な隕石をぶつけるという物。一日に一回と言ったが、正確には、今日一日で貯まる予定のMPを前借りしてとんでもない量のMPを使うというスキル。故に、その後に魔法は使えない。
「この後に戦いがあったら死ぬしなぁ……。いや、いいや。どうせカナデがどうにかしてくれるっしょ!」
そう覚悟を決めたリエは、思い切って二つのスキルを発動する。こうすれば【絶望星】も連発できる。ステータス低下が、その日一日立ち上がれなくなるくらいだとしても。
「これで終わらせるよっ! 【希望星】! 【絶望星】! 【自動発動】! 【連続発動】! 【同時発動】!」
途端に、ボスの頭上にいくつもの隕石が延々と生まれて来る。そしてそれは、絶えることなく次々と落ちてきた。
『ウオオオオオッ!!』
「倒れろおおおおおおっっ!!!」
ドドドドドドッ!! といくつもの隕石が降り注ぐ。仮にこの騎士に物理・魔法耐性が無ければ、既にダメージ量は一万を超えている。しかし、その耐性はかなりレベルが高かった。現状与えたダメージは三千程度。しかし、それは止まらなかった。
「私はッ! お前がッ消えるまでこのスキルを止めないぃぃぃっ!!」
『ウガアアアアッ! オオオオオオッ!!』
どこかのジョジ○のようなことを言いながら連続で発動させ続けるリエ。少々頭痛がしてきたが、それを気にせず、隕石を落とし続ける。そしてついに、騎士の残りHPを全て削り切った。
『アッ、オ、オオ……』
「うりいいいいっ!! 勝ちいっ!!!」
っしゃらあっ! と拳を天に突き上げるリエ。浮遊したまま扉の奥へ行き、ダンジョン完全攻略となった。
「あっ、ヤバ、意識が―――」
リエはそのまま目の前を黒く染め、洞窟の床に倒れこんだ。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「……あれ? また騎士? え、ループしてね? 異変探さないとダメなやつ?」
ここは○番出口か? と思いながら黒龍と終ノ刃を構える。完全即死は残しているため、ここも即死させるかー、そう楽観的に考えていた。しかし、運営だってそう簡単に終わらせる気は無い。
【即死無効】
『ウオオオオオッ!!』
「……ここだっ! 【極刑】!」
鎧にガキン! と刃が触れる。これで騎士は光となって消える―――
『オアアアアアッ!!』
「んなっ!? お前完全に消える流れだったじゃねえか! なんで普通に生きてんだ!」
しっかり一太刀入れられ、そこそこのダメージを受ける。やっば、結構ピンチかも。42しかないHPのうち三十を持っていかれてしまった。一度退いて回復に専念する。
今まで何体かのボスとの交戦を経て、カナデは少し学んだ。それは、ボスには一定の行動パターンがあるという点だ。
『憤怒』であるサタンは違ったが、キメラやキューブ、それからここで戦ったゴーレムや騎士やタコ。そのあたりのボスは一定の行動パターンがあった。なので、それさえ理解していればダメージを喰らうことは無いのだ。いつもみたいにギリギリの回避をする必要はなかった。悲しい。
「騎士たちは初手、瞬間移動から大上段斬りが基本か。そっから横への薙ぎ払い、踏みつぶしへと派生していく……。なるほど。それから……っ!」
振りかぶったと思ったら、今度は地面に引きずらせながら斬撃を飛ばしてきた。地面ごと切って来るなんて新時代な攻撃方法だ。ただ、斬撃自体は直線なので、横に跳んで回避する。
「一回一回解析とかめんどくせえ! やっぱアドリブ最強ぅ!」
黒龍を連射しながら騎士と相対する。弾丸は全て剣で弾かれてしまった。なにその反応速度。こっわ。AIが強化されていやがる。
仕方ない。【業渦災炎】で吹っ飛ばすしかないか。
「ポーションがぶ飲みしてぇっ、【任務遂行】してぇっ! 【憤怒】してぇっ! ……攻撃が来てェ!?」
いつの間にか背後にいた騎士に串刺しにされてしまう。串刺しなので当然初発の大ダメージに加え、継続的にダメージが入る。地味に痛い。自動回復を上回ってんじゃねえよ。
そして、俺のHPは0になりかけた。
「【空蝉】っ! か~ら~のォ……ッ!」
急に消えると同時、騎士の背後に転移。手を伸ばせば触れる距離にて
「【業渦災炎】ッ!」
炎の竜巻が騎士を包む。強制的に『火傷』を付与する炎は騎士を丁寧に焼いた。超至近距離の焔はよく効いたようだ。普通に銃弾を撃ち込むよりもはるかに速くHPを削っていく。
それから二分ほど待っていると、結構あっさりと倒すことができた。この鎧についているのは物理耐性、魔法耐性だけで、状態異常耐性は持っていなかったようだ。
「よし、攻略! さて、リエはもう出てってるかな……」
力強く扉を開けると、目の前に少女が倒れていた。当然ここで倒れるような奴は一人しかおらず、リエだった。
「ん……? リエ!?」
このゲームに気絶って概念あるんだ……と感動したのも束の間。一応こいつが目覚めるまでは傍にいておこう、と待っておくことにした。
「ん、んん……んっ!? ここは誰!? 私は何処!?」
「逆だ逆。ここは湖の下。お前はリエ。あと、目ぇ覚めたんならさっさとここ出るぞ。時間も時間だし」
「えっ、あ、うん。ごめんよ~、気絶して」
「そうそう、それ。何で気絶したんだ? このゲームってそんなに気絶する要素あるか?」
「うーん、脳みそさんを直接稼働するゲームだから、高稼働させまくったら頭痛くなるの。そういうことない?」
「無いかな……。いやあったわ。ハンドガン使うのに【バーストアタック】使ってるから時々頭痛くなるわ。五連発でも充分痛くなるもん」
「やっぱり、脳に負担が多いからだねー。さ! 装備取って帰ろっか!」
「おう」
見てみると、金色の巨大な宝箱と銀色の箱が。見た目からしてそれっぽいので、俺が銀色を空ける。まあ、力技だしな。俺のやり方。あんま褒められた攻略法じゃないし。
「んー、こっちはスキル……【夢幻】か。対になるスキルもあるようだが……いつか探してみるかなー」
「こっち! こっちはユニークだよ! やったね!ついに私にユニークが! いや、この装備もユニークだけど使い勝手が悪くて。あと、見た目が恥ずかしい」
「魔法少女☆リエ! だもんな。こっちの眼に悪い」
「それはどういう意味だぁ? ああん?」
「ごめん」
取り出した装備は全身黒色の装備。それに白や金の装飾がされていた。基本的な形は現在の魔法少女と変わらず、胸元に大きなリボンが付いている。相変わらずの足元の露出度だが、慣れれば問題ない。
「やっばやばヤバ! めっちゃ可愛いじゃん! だけど、露出が激しい! より恥ずかしくなったぁ! なんでぇ!?」
「……日頃の行いが祟ったんじゃねえの? それと、大して変わらねえだろ、見た目は。色は変わったけど」
「うーん。前の装備が『聖女シリーズ』で、今回のが『魔女シリーズ』らしいよ。ステータスの配分が少し多くなって……あ! 武器の性能がめっちゃ上がってる! ぃやったあ!」
「おー、おめでとう。いい装備じゃん。あー、【破壊進化】は付いて無いけど、それでも充分だろ」
「うん! ありがとう!」
付属スキルである【終焉の月】、【黎明の陽】は、【希望星】と【絶望星】の上位互換だ。まあ、大して変わらないが。それでも、気絶という醜態は晒さないだろう。
未だそれについて知らない二人は、彼女がどのような力を振るうか知らなかった。
「お、魔法陣が出てきた。ユカの店に行ってログアウトするかー」
「うん! 今日はありがと! 楽しかったよ!」
「途中ずっと別行動だったんだが……」
魔法陣の光に攫われながら、俺たちは微笑み合ったのだった。




