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第十九話

 夕闇の湖


「さて、ここか……本当に大丈夫なんだろうな? アプデが始まった瞬間に強制ログアウトだと思うんだが……」


 湖に先に着いた俺は一人呟いた。どうしても信じられなかったから。いくらゲームをしない俺といえど、さすがにアプデ中にゲームに入れないことぐらい知っている。

 っと、二人が来たな。


「……お待たせ」「お待たせ」


「いや、別に今来たばっかだから特に待ってないぞ。ところで、アイテムは?」


「……そんなに焦らないで。はい、これ」


 俺とユカに渡されたのは青い薔薇。アイテム名は……


「『不可能の架け橋』……花言葉か。かつての」


「そうだと思う。これを『奇跡』にしたいね。青薔薇のように」


「……神の祝福でもいい」


「あとは、神秘的とかもある。喝采とか」


「よく知ってるね。花好きだっけ」


「一部の花はな。青薔薇とか黒薔薇とかが好きだから」


「……黒薔薇……『あなたは私の物』とか『永遠の死』とか。怖い意味が多いはず」


「まあ、そうだな。深い愛情を示すときもあるけど」


 残念だけど、憎悪とか、死ぬまで憎むという意味もある。見た目は綺麗なんだがな。黒ってだけで避けられるのは悲しくないか?


「……そろそろ時間。メンテナンスの十五分前に使わないと意味が無い」


「さて、どうなるのか……」


 いや、薔薇を使うってどういうことだよ。なんだ、食うのか? と思い、リリィの方を見ると、本当にその薔薇を食べていた。花びらを一枚一枚千切って食べていた。


「えっ、ガチで食うのかよ」


「おいしいの……?」


「……ちょっと美味しい。ブルーベリーケーキみたいな味」


「「へえ~」」


 そう言われたので花弁を千切って口に入れる。すると、本当にブルーベリーケーキのような味がしてびっくりした。なんだ、ここの運営って味までつけてくれるのかよ。


「……ん? んんっ!?」


「……落ち着いて。世界の裏側に潜るだけ」


「世界の裏側に潜るって何? 私も聞いてないんだけど」


「というか、世界の裏側とかあるんだ……。いや、プレイヤーの至る場所じゃない気がするんだが」


 体が青く半透明になっていく。浮遊感も感じるが徐々に慣れ、この状態の体でも普通に動けるようになった。


「……そろそろ時間」


「ああ、メンテの時間―――」


 途端に世界を白い光が包む。何も見えなくなり、音も聞こえない。しかし、そこにリリィとユカがいるのは分かる。


『……こっち』


『いや声は聞こえるんかい。なんか、俺達だけ存在が違うみたいな感じだな』


『確かに。あと、メンテナンス中の世界ってこんな風になってるんだね』


 そんなことを話しながら、湖があった場所へ潜った。

深く、深く沈む。するとやがて、真っ白だった視界が暗くなってきた。深海のように、光が届いていないようだ。


『……この先の暗い穴に入る。その先はいつもと同じように動けるから』


『了解。普通にモンスターも出るのか?』


『……出る。ただ、違和感のある世界だから、気を付けて』


『私はどうすればいいの? 戦闘方法持ってないんだけど』


『は? 使用武器は?』


『スナイパーライフル……だけど、初期用のしか……』


『いやマジかよ』


 おいおい、と言いながらも、リリィに付いて行き、穴に入る。そこは、藍色の壁にライトグリーンの光の線が入った四角い空間だった。


「あ、普通に声出せる。ところで、この空間は? 水の中に潜ってたんだよな?」


「……ここは、システムの部屋。やろうと思えば君の装備のプログラムも見れる」


「は? なんだそれ……。チートとかバグとかか?」


「それは分からないけど……モンスターが置いてあるから、そうじゃないと思う」


「作られた想定外の空間か……。サタンと同じようなもんか? だとしたら、七つの大罪も……プログラムされてないと思っているプログラムをされているのかもな」


「考えてばっかいないで、進もうよ。なんかこの空間ゾワゾワする」


「……行こう。少し進めばモンスターが出て来る」


 言われた通りに進んで行くと、ネオンな景色は変わらずとも、モンスター……モンスター? が出てきた。いや、これは……


「……ロボットじゃね?」


「……ロボット。でも、敵だからモンスター」「そうですか……」


「じゃあ、私は後ろで待ってるから、二人頑張っ―――」


 その時、出てきたロボットの眼が紅く光る。あ、これはビームの流れだ。


『排除する』


「初っ端からユカ狙ってんじゃねえええっ!!!」


 急いでユカの盾になり、ビームを防ぐ。よく考えたらDEFが10の俺がビーム喰らうわけにはいかなかったのだが、そんなことを考えている暇はなかった。しかし、HPは一ミリも減っていない。その代わりに装備が壊れ、一瞬で修復される。


「あ? これが、装備破壊のビームか?」


「……そう。眼から出て来る赤いビームが装備破壊の一撃。プレイヤーにダメージはない」


「なるほどな。じゃあ、このビームは俺が受けるってことでいいんだな!」


「……任せた。【会心必至】【パワーアタック】」


 リリィはこちらを一瞥しながら目の前に五発撃ち放つ。その一撃は動きが鈍かったロボットに突き刺さる。普通のプレイヤーならばこれだけで死にそうなものだが、目の前のロボットはHPバーの五分の一ほどを下げるだけで済んだ。


「硬いんだな。これは俺も参戦した方がいいか。【災厄伝播】」


 どうやらこの魔法陣はパーティーメンバー全員に効果があるようだ。隣にいるリリィと【虎王ノ牙】のSTRが倍になった。当然、ダメージ量も倍近くなる。


「……なにこれ」


「ただの災厄だよ」


「普通に考えてぶっ壊れな気がする。あのスキル」


 一体しかいなかったため、あっさりと戦闘が終わる。あ、このまま魔法陣を広げ続けたらこの先のダンジョン全部埋められそう、と思い、交換時間が切れるまで広げ続ける。

途中何度もロボットが出てきたが、一体や二体程度しか出てこなかったので、あっさり制圧できた。流石STR二倍。そして高火力のリリィ。


 そして、そのまま奥に進み続けると大きな扉が。明らかだな。


「……ここは中ボス。巨大なロボット。そして、私が詰んだ場所」


「どんなふうに積んだんだ? そうそうリリィが詰まるとは思えないんだが……」


「……時間切れ。前のメンテナンスでは時間が足りなかった。私一人では一時間かけてもHPバーの十分の一しか減らなくて」


「えっ、一時間かけて十分の一だけ? 随分とDEFとHPが高いんだね」


「結構骨が折れそうだな……」


 ゆっくりと扉を開く。すると、そこには言っていた通りの巨大なロボがいた。二体(・・)


「え、二体いんの!? いや、ちょっとそれは聞いてない」


「……挑戦人数で変わると思う。だから、三人で二体出てきたと」


「私戦えないんだけど。カナデ」


「ん?」


「よろしく」


「ぶっ殺すぞ」


『『排除スル』』


 こうして、俺&リリィ&ユカVS巨大ロボット二体の火蓋が切って落とされた。

メンテナンス中の世界が本当にあるとでも? いやいや。世界は存在するが、運営がそこに立ち入らせるとは思えん。『不可能の架け橋』だって? 運営の知らないアイテムだ。

この世界は、本当に運営が一から作ったのか?

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