第十四話 第一回イベント開始
イベント当日。俺達プレイヤー(参加者)はリスポーン地点付近の宇宙ステーションみたいな空間、通称、中央広場に集まっていた。ここで説明が行われるそうだが、数百、否、数千を超えるプレイヤーを収容する空間ではないため、いくつかの部屋に分かれている。
メニューから時間を確認する。残り五秒、四、三、二、一……
途端、中央の液晶に可愛らしい少女が映る。誰だこれ。
『それではみなさん! 第一回イベントを開始します!』
瞬間、あちらこちらから、うおおおおおおっ! という怒号が響く。比較的ノリのいいカナデも腕を突き上げ、おおおお! と叫んでいた。
『では、イベントを取り仕切らせていただきます! リンカです! よろしくね!』
「「「「「おおおおおおっ!!」」」」」
急に現れた少女は、まさかの解説兼実況者らしい。なるほど。こういうのがいるなら、今後のイベントに参加したいと思う人も増えるだろうな。知らんけど。
『今回はみんなも知っての通り、完全なバトルロワイヤル! マップはイベント専用の新マップ! 自分以外は全て敵! 出会ったならば即殺せ! 時間は三時間。キル数、与ダメージ、被ダメージの三観点からポイントを算出して順位を決めるよ! 上位二十人には、SPカードをあげるよ!』
少しだけ、ルール説明は続いた。その間、プレイヤー(男性)の視線はリンカとやらの胸に集まっている。だから、周囲の女性の冷たい視線はその男性たちに集まるわけだが……中々に面白い光景だ。
『そして、デスは二回まで! 三回目には観戦ルームに帰ってくることになるよ! つまり、三回死ぬまでに何人キルできるかが大切だね!』
なるほど。流石に開けた地形で戦うわけじゃないと思うが……スナイパーによる一方的な蹂躙は防がないとな。
どこにいるか分からない敵にボコられるのは腹が立つ。周囲を注意深く探るしかないな。
『それじゃ、始めるよー! 5! 4! 3! 2! 1! スタートっ!!」
その場にいる全員が光に包まれてバトルフィールドに転移させられた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
光が止むと、そこは見たことの無い家だった。少し古びている。
「やっぱ市街戦か。まあ、遮蔽物が少なかったら銃同士の戦いなんてクソだもんな」
一人納得しながら周囲を見渡す。それほど近くにはいないようだ。ぱっと見だが。
地形で言えば、荒廃した住宅街。恐らくだが、このフィールドも広く、自然豊かな場所もあるのだろうな。
「まずは敵探しかな……って、うん?」
右斜め前の方で何かが光った気がした。そして、そこからいくつかの黒い物体が顔面に飛来する。一応視認できたので、首を振って回避をする。
「……いた」
家の中に一人いる。見つけた。
「撃つんだったら確実に当てるべきだったなァ……!」
「何だこいつ……ッ! 銃弾だぞ! 躱せるわけが……」
「自分から位置を明かしたんだ。さっさと逃げとけばよかったものを」
「ッ!?」
速攻で肉薄し、黒龍を突きつける。M4を装備している男の表情は少し引き攣っていた。
急いでこちらに照準を合わせようとするが、そんなので間に合うわけがない。
パァァァァァンッ!!
「うあっ……」
「ちょうどよかったか。やっぱ、五発は必要だよな」
カナデのステータスの振り方が異質なだけで、通常、HPとDEFに多めに振る。なぜなら、銃に撃たれまくるからだ。カナデのように、一撃喰らったら危ないよね、みたいなステータスをしている者はあまりいない。また、装備品や装飾品でHPも増やす者も多い。
なので、三百発以上撃ってSTRが33になった黒龍でも五発必要だった。
「これで、キルが1になって、デスが0か。うんうん。だいぶ理解してきた」
人がいねえなーと歩き回る。堂々と道路の真ん中を。どっかから撃ってくれたら楽なんだが、と一人呟くと、目の前に二人の女性が現れた。
「あれ? これってソロですよね? なぜ二人で?」
「私たちは姉妹だから、協力しようって言ってるのよ。だから、二対一でも文句言わないでね」
「そういうことだから……」
二人がこちらに銃口を向ける。右の女性はショットガンを、左の女性はサブマシンガンを。近距離を絶達殺すという殺意を感じる。
「あっ、始めてプレイヤーと正面からやり合うかも。さっきのはアレだったし」
「くらえ!」「ごめんね!」
ドパァンッ!! ドドドドドド! という音が周囲に広がる。いかにも撃ち合ってるって感じがするな。だが、そう甘くない。
「……うーん。対象をきちんと見て撃とうな? あと、ちゃんと構えてから撃たねえと、エイムをミスってる」
「!? いつの間に後ろに……!」
「お姉さま! ッ【小規模障壁】!」
パァァァンッ!! と放たれた三発の弾丸は、目の前に生まれた半透明な壁に阻まれた。一発を除いて。
「くっ! なぜ!?」
「力は押し通すもんだ」
パァァンッ! もう二発弾丸が彼女らを襲う。そして、それは障壁のない妹の方だ。姉のために使ったスキルは、自分を守るまでにはいかない。
「くうううっ!! お姉さま! どうぞやつを倒してくださいっ!」
弾幕をばら撒く妹さん。飛び退いて回避する。確かに、近寄れないな。だが、所詮はサブマ。弾が尽きたら終わりだ。
「俺、そこまでエイム悪くないんだわ」
パァァァァンッ!!
「あっ……」
「ああっ! 由愛! ……許さないわッ! あなた!」
「許されるつもりもない。これはゲーム。恨みっこなしだ」
再度放たれたショットガンを左斜め前に駆け出すことで回避。そして、すれ違いざまに【終ノ刃】にて切り裂く。
「あっ、あう、あ……」
「ばいばーい」
消えていく姉妹。恨まれたけど俺は気にしない。だってゲームだもん。
にしても、やっぱハンドガンじゃdps低いな。サブマを見てると特にそう思う。それに、【バーストアタック】を使うと、少し頭が疲れる。イメージの具現化は相当きついみたいだな。
まあ、少しくらい休憩するか。家の中にでも隠れよう。
「はあ、疲れた」
どたっ、と床に座り込む。相手も銃を使っている戦いだと、めちゃくちゃ緊張するな。自分は殺意を向けられているのだとより自覚する。精神をすり減らしながら戦っているのがよく分かる。
「五分くらい休憩を……」
その時、ドォパァンッ! という音が聞こえるや否や、右足に痛みを感じた。何かが撃ち込まれたようだ。痛い。見ると、HPが残り5になっていた。レベル上げて結構HP増やしたはずなんだけどな……。あとポーションで。
幸い、一撃死じゃない限り【不絶の混沌】が癒してくれる。今は何処から撃たれたのかを考えるべきだ。
「狙ったやつは、この家を狙い撃てる場所にいて、さっきの戦闘を見ていた。そして、俺が休むのを待っていた、ということになるか」
でなければ、俺が休んですぐのタイミングで撃ち抜けるはずがない。
「……駄目だな。情報が少なすぎる。ここは、自分を囮にするか……」
仕方ない、と言わんばかりに外へ駆け出す。そこそこの速度で走っていれば、撃ち抜かれないはず……そう高を括っていた。
「【星の枷】!」
「!? 足……いや、全身が重いっ! これは……」
一瞬聞こえたスキル発動の声。これは、移動速度低下のデバフか。AGIに結構振っている俺にはキツイ。今までの七割ほどになった気がする。
「【精密射撃】【ピンポイントアタック】【渾身の一撃】!」
「おっと? 確実に俺を殺そうという声が聞こえるぞ……? さすがに許せねませんねえ!」
声のした方向を見る。するとそこには、自身の身長より少し小さい程度のスナイパーライフルを持つ、豊満な肉体を持った少女がいた。いや、胸よりも注目すべきはスナイパーライフルだ。あれは……
「マジか! このゲーム、M24E1 ESRあんのかよ! 随分と新しいのを持ってきたもんだな! 運営すげえわ!」
すると、その少女がピクッ、と揺れた。そして、少し躊躇いながら引き金を引いた。しかし、ここで俺は神業を生み出すことになる。
自分を撃って来るということは、銃口はこちらに向いているということ。つまり、相手の銃口と自分の銃口は同一直線状にあるということ。まあ、完全に同一直線状になくとも、大まかにこちらを向いていたらこちらで持って行ける。
そして原則、弾丸はその銃口の向いている方向に射出される。ならば、理論上
「迎え撃てるはず……っ!」
ドォパァンッ!! という音と、パァンッ! という音が同時に鳴る。そして、俺も、少女もHPは一ミリも減っていない。
つまり、弾は上空で対消滅した。やったね。
「チャ~ンスッ!」
「! 待って!」
「は? やだよ」
聞く耳を持たず銃口を向ける。しかし、少女の懇願したような表情によって少し躊躇ってしまった。
「君、この銃が分かるの!?」
「…………まあ、銃にはそこそこ詳しいからな。従来のM24を改良して作られたM24E1。アメリカ陸軍に正式採用された新時代のスナイパーライフル。チタン合金を用いることで軽量化と耐久力の向上を同時に果たし、7.62mmのNATO弾に代わって300ウィンチェスターマグナムを採用した……ぐらいか? まあ、スナイパーはあんまり調べてないから何とも言えねえけどな。あと、それちょっと見た目が違って自信なかったし」
「……十分……十分だよ! それほどこの銃を理解してくれる人がいるなんて……! 銃が好きでこのゲーム始めたけど、あんまり銃について語り合える人がいなくて……。ちょっと寂しかったの。よ、よかったら、フレンド登録しない?」
「え? あ、ああ。別にいいけど」
「ありがとう!」
さっきまでめっちゃ殺し合いしてたのに、なんか変な気分だな……。
フレンド登録を済ませ、名前を互いに知った。彼女はコルネと言うらしい。チョココルネから取ったそうだ。
さあ別れよう、と思った時、彼女は殺してほしいとお願いしてきた。
「は? なんで?」
「一度決着はついたから。フレンドになって見逃してもらおうなんて甘いことはしないよー!」
「それはそれは。見上げた覚悟だ」
時間のかからないように、『終ノ刃』にて切り裂いた。流石に、STR200には耐えられなかったようだ。当然か。
「さて、キル数は4と。うーん。ペースが悪いな。もっと敵を探していかないとか」
はー、もっと敵寄ってこないかな~、と一人ごちながら、カナデは荒廃した住宅街を歩いていた。
改めて見返すと、ここが始まりかー、となります。




