第十話
「えー、再生するのかよお前。ふざけんなよマジで」
自動再生を持つやつが何を言う、といった雰囲気だが、一度死んでもなお蘇るという反則技は、見逃せなかったようだ。この調子だと、いくら倒そうと強くなって帰って来る。それが、このダンジョンの踏破者がいない理由の一つだった。
「いやー……ちょっとな。流石に強い気がするんだが……」
メニューを開き、チラッとある項目を見る。それを確認すると、ため息をつきながら不死鳥から距離を取った。無論、負ける気などない。
本来、このダンジョンでこの不死鳥を倒すには、いくつかのイベントを経由して、『邪神の聖水』というアイテムを得る必要があった。それにより、不死鳥の復活を止めるはずだったのだ。しかし、カナデはそんなこと知る由もない。
『ヴォオオオオオアッ!!』
「っ、広範囲になってんな……このブレス。それに、ちょっとこれは一撃で死にそうな匂いがする……」
壁際まで後退し、寸前炎を回避する。殺傷力高めだ。
それを見た不死鳥は赤い瞳を光らせると、先程のような弾幕カーニバルを始めようとする。もちろん、黒色の炎で。殺意マシマシぃ。
『ヴァアアアッ! ヴァアッ! ヴォアッ!!』
「さっきまでの鳴き声の方が俺は好きだったがな! 【ピンポイントショット】!」
パァァンッ! と二発の弾丸が発射されるが、それは不死鳥の身に届かず、全て溶けてしまう。いや、一発届きはしたが、これは【王権】の効果だろう。つまり、それが無ければ攻撃は届いていない。
……なんだこいつ。全てを溶かす炎の壁とか最強じゃん。幸い、俺自身は溶かされないっぽい。自動回復が炎のダメージを相殺しているようだ。流石魔王。
ならば、やりようはある、と、左手にナイフを持って駆け出す。不死鳥は目を光らせ、突進の体勢に移る。先ほどよりも体から溢れる黒い炎が多いので、炎の内側の肉体を斬りつけるためには奴の即死よりも先に即死をさせる必要がある。
…………一か八か。
『ヴァオオオオオオッ!!!!』
「……【極刑】ッ!」
不死鳥の嘴と俺のナイフが衝突する。ガガ、ガ、ピピーという不穏な音がするが、気にすることなくそのまま力を込める。
「オオオオオオオッッ!」
『ヴォオオオオオッ!!』
ゴウゴウっと燃え上がる黒炎と、ナイフから溢れ出す黒い何かが拮抗する。バチバチッ! と火花が散る。それよりも熱い炎が目の前にあるんだけどなァ……!
しかし、そんな状態にも決着の時が来た。
バチュンッ!
『ヴァッ……ヴォア゛ァ……』
即死の黒炎と即死の極刑は、生身か道具かの差で、俺が勝った。拳に【極刑】が付いてるとしたら、負けてたかもな。
「……何故俺はいつもこれほどまでにギリギリの戦いをしているのかね。……ああ、疲れた」
しかし今回は寝転ばず、『不死の焔羽×5』を回収して帰路に就く。クエスト『憤怒』はまた後で。先にこの羽をユカに渡す。
「うん? 宝箱? ってことは……ユニーク装備か!?」
急いで開ける。するとそこには巻物が置いてあった。なんだ、装備じゃないのか、と落胆しながらも巻物を読む。いや、装備だとしても『魔王シリーズ』は超えないと思うんだけど。スキルを入手できる書物のようだな。まあ、ゲットしといて悪いもんじゃないだろ。
【業渦災炎】
炎の竜巻とダメージを負うフィールド(炎)を生成。範囲は使用者の最大MP量に比例する。威力は使用者の現在STR値に比例する。強制『火傷』付与。クールタイム十分。
入手条件:火傷無効スキル保持状態で『状態異常:火傷』にかかり、炎による即死攻撃を耐える。
「いや、これ取らせる気ねえだろ。欠片も。というか落胆したこと謝るわ」
【火傷無効】の俺が『火傷』になるほどの熱を持っていた再生後の不死鳥と戦い、全ての攻撃が即死になっているくせに、その即死を絶えろって? 馬鹿じゃねえの? というか、即死を絶える方法って同時に殺すことだけだろ。運営カスだな。
実は、即死を耐える方法はいくつかある。先ほどしたような同時討伐が特殊なだけで、一度だけ即死を無効にするアイテムや、一日に一回だけ即死を無効化するスキルだってある。さらに、防御貫通アイテム、スキルもある。『邪神の聖水』が無い場合、それを用いて攻略するしかない。それでもできないくらい難度が高いが。
ただ、カナデのした不死鳥の攻略の仕方が想定外だっただけだ。
通常の即死攻撃でも不死鳥は再生する。しかし、今回は【極刑】による完全即死。再生もされず死ぬ。まさに、魔王の極刑にふさわしい一撃だった。
「ま、今度こそ帰ろ」
魔方陣に乗ったカナデは、光と共に街へ消えた。
運営・最果ての地
ピロンッ!
「ん~? 今度はなんだ~? 誰か通知見てくれー」
「りょうかーい」
運営の一人が端末を操作し通知を受け取る。そこには、南のダンジョンが一つ攻略されたことが載っていた。そして、その内容も。
「は? 不死鳥がやられた!?」
「いや別に、それはおかしいことじゃねえだろ~。イベントに向けて調整始めとけよ~」
「違う! 『邪神の聖水』は盗られてない!」
「「「「「…………はぁ?」」」」」
混乱する運営一同。それはそうだろう。それ以外の攻略法があるとは思えないからだ。
「誰がどうやったんだ!?」
「映像を映すぞ……」
そこには、溢れ出る黒いエネルギーと、不死鳥の最終形態での突進が拮抗している場面が映った。周囲から、ガガ、ピピッ、ピーーピーーーーーーーーという音が響いている。プログラムがエラーを出しているのだ。
「「「「「あいつかよ!!」」」」」
つい最近魔王になり、災厄の原因となった少年がそこに映っていた。
「うわぁ……。即死と完全即死のぶつかり合いとか想定してないんだけどなぁ……」
「即死する前に完全即死させたら生き残るやろ! とか、頭おかしくないか!?」
「というか、初めて三日目のくせになんでここに入ってんだよ……」
はあ、とため息をつく運営一同。あらゆる想定外に打ちのめされてしまったのだ。もう何も考えたくない……という雰囲気が蔓延する。
「ん? 待てよ? ということは、災炎取られたのか???」
「え? なんで?」
「だって、一階層で火傷無効を貫通する炎、炎による即死、この二つを満たすのって不死鳥だけじゃん」
「「「……ァ……」」」
災害シリーズの一つ、【業渦災炎】。炎系統の災厄だ。それが、またもプレイヤーの手に渡ってしまった。災厄を三つ持つ魔王。
「いや、でも……そんな奇跡的なこと……起きない……よな?」
「「「「「起きてないだろ……」」」」」
そろそろ調整入れようかな? と本気で考え始める運営。しかし、一人のプレイヤーのために調整するのは……ちょっと。といったような感じだ。
皆、憂鬱な気持ちで仕事に戻ったのは言うまでもない。
『絶対生き返る』と『完全に存在を消す』という能力が拮抗して生まれたバグです。
即死は『絶対殺す』ですが、完全即死は『完全に殺しきる』という能力なので。




