第九話
魔王シリーズをとった翌日もまたログインしていた。楽しすぎて。そして、今日はユカからの依頼を受けている。
『素材が足りなくて……新しいポーションを作りたいんだけど、不死鳥の羽が入手できないの。結構いろんな人に依頼したけど、誰も取れなかったのよね』
『分かった。無効化ポーションのお礼だ。行ってくる』
『よろしく』
……ということがあったのだ。なので、今日はいきなり、高レベルランカーが行くような場所に行く。えっと、マップマップ。
メニューを開き、マップを確認する。こういう操作にもだいぶ慣れてきた。
「えっと……南の火山か。確かに不死鳥って燃えてるイメージだしな。うん」
また山かー、と呟きながら、南へと走る。
しかし、急遽止まった。「う、うぅ……」という呻き声が聞こえたからだ。
「どこだ? ……あ、ここだ」
路地でおじいさんが倒れていた。大丈夫かな? と思いながら、パンと水を渡す。すると、おじいさんはそれを一心不乱に食べ始めた。昨日ユカから貰っといてよかった。
それを眺めること五分。全てを食べ終えたおじいさんは、ふう、と息をつきながら木箱に腰を掛ける。
「ありがとうな、若いの」
「いえいえ、困ったときはお互い様ですよ」
「そうじゃな。ならば、一つ昔話をしてやろう」
「そうはならんやろ」
とか言いつつ、特に急いでいるというわけでもないので、こちらも木箱に腰を掛け、話を聞く体勢に移る。それを見たおじいさんは話を始める。
「このまま南に行くと火山があるじゃろう。その火山の火口付近には不死鳥が住んでいるというのは知っているな?」
「まあ、はい。これから行くんで」
「そこには、地下があるんじゃ。ある隠しギミックを解き明かせば行ける」
「すげえ、おじいさんの口からギミックって単語が出ると思わなかった」
「うむ。そこには『憤怒』と呼ばれる怪物がおる。そやつの封印がいつか解けると、世界は滅びの一途を辿るだろう。その前に、倒さねばならないのじゃ。儂には出来そうにないがな」
「ああ、そういう……」
「お前に託す。どうか、世界各地の怪物たちを討伐してくれ」
『クエスト:『憤怒』が発生しました』
「やっぱそうか。ああ、任されたよおじいさん。いい情報ありがとうな」
「どうか、世界各地の怪物たちを討伐してくれ」
こうして、もう一つのクエストを受注しながら南の火山へ向かうこととなったのだった。
「おー、さすがに俺速いな。結構すぐ着いちまった」
ステータスポイントの残りもAGIに振った。結構な速度でフィールドを駆けることとなり、誰かに迷惑をかけたかもしれない。
「さて、このダンジョンだな。ラスボスが不死鳥っぽいし、頑張ろ。あとは『憤怒』も」
と、ダンジョンに足を踏み入れようとした次の瞬間。
ドゥンッ……
「? なんだ? 何か目の前が真っ暗に―――」
そのまま、バタンと倒れてしまった。状態異常無効化スキルが働かないということは、まだ持ってない状態異常か……。
そのまま意識を失ってしまって、何が起こっているか分からないが、何かに引きずられている気がする。しかし、【不絶の混沌】により延々と回復されているので、微細なダメージは関係ない。
そして、突然目を覚ました。眼を開けるとそこは墓場で、お化け屋敷のような光景だった。思わず、頬が引き攣る。
「こういうの止めろよ……マジで……」
今にもログアウトしてやろうかと思うカナデだったが、ここはログアウト不可。というより、メニューも開けない。なんだここ。
「マップ見た時は、火山の近くにこんなとこなかったはずなんだけどなぁ……。ということは、特殊な領域か?」
特殊な領域……状態異常……とブツブツ呟くカナデ。もう少しで何か思い浮かびそう、と思ったその時だった。
文字通り、死神の鎌が首に添えられたのは。
『オオオオオオォ~』
「ッ! 近寄るなァ!!」
バッと振り返り、【黒龍】を連射する。流石の高火力であり、一撃で死神が消し飛ぶが、それは二つに分かれて襲い掛かってきた。実際に殺意はなく、致命傷を負わす程度しかしてこないはずだが、そんなことお構いなしにカナデは射殺しまくった。いや、致命傷でもだめか。
「もうやめろぉ! なんだこの悪夢! 止めてくれ―――あ?」
今の自分の言葉を振り返る。悪夢?
「っ、そうか! 状態異常の悪夢だ! だったら……」
悪夢の突破方法はユカから聞いている。一度辛い思いをしたユカが、気をつけとけ、と言うことで教えてくれたのだ。
「消えろ! 世界!」
地面に向け、黒龍を連射する。すると次第にピシッ、という音が入っていき、バリィンッ! と世界が砕けた。
眼前には溶岩溜まりが。寸前で目を覚ましたようだ。そして、自身を引き摺っている赤い男を睨む。マジ許さねぇ、と。実際にこのモンスターは引き摺っただけであり、悪夢は違う鳥のモンスターがかけたのだが、そんなことカナデが知る由もない。
「【極刑】」
高い防御力と大量のHPが自慢のモンスター、『死の運び屋』は、魔王の極刑を前に成す術もなく消えていった。
「ったく、面倒なやつだ。次にかかったら、高速で破壊してやる」
忌々しそうに悪態をつくカナデ。この時点でめちゃくちゃ帰りたかったが、二つのクエストがあるので帰らない。
「これは……上るのか?」
どうやら何階層かあり、それを上っていくタイプのようだ。面倒だな。
「まあ、最上階の不死鳥を倒せばいいんだし、さっさと行こう」
そこら辺にいた芋虫のようなモンスターを倒し、音もなく階段を上がるカナデ。そして、第二階層に上がった瞬間。
ドゥンッ……
「てめえぇぇぇっ!! またかああああっ!!!」
あまりの形相に死神の方がギョッとする。その間に世界を壊し、悪夢から脱出するカナデ。普通はそんな暇も与えられないはずだというのに、死神も魔王の怒りからは逃げたようだ。
ちなみに、これだけで『スキル:【悪夢耐性(小)】を獲得しました』という音声が流れて来る。悪夢脱出RTAが早すぎたせいだ。通常、二回程度では何も取れていないだろう。
そんなことを繰り返すこと十四回。この火山でウザかったのは『悪夢』だけだな、と呟くカナデは、最上階に来ていた。
普通ここは、高威力の『火傷』や硬いモンスター、回復アイテムの使用不可により、攻略難度が高い場所。しかしカナデは、それをスキルと装備のみで突破しているため、あまり気にならなかったのだ。
「さて、不死鳥とやら。羽とかそこら辺の素材を貰うからな」
扉を開き、不死鳥と相対する。やはり、燃え滾る翼を持っていて、想像通りの見た目だった。
『フォオオオオオッ!!!』
「盛り上がってるみたいだな。だが、そんなに時間をかけるつもりはないぞ。【災厄伝播】!」
ちなみに、黒龍には【バーストアタック】をセットしたので、これまでのような連射ができる。ユカと別れてからスキルショップで買い、セットしたのだ。
一般的なプレイヤーは二つの枠を、反動が強くなるが代わりにSTRが強くなる【パワーアタック】と、その反動を抑える【反動制御】にするらしい。しかし、ハンドガンが他の銃に並ぶためには【バーストアタック】をつけるしかない。火力はどうにかしよう。
「とりあえず、喰らっとけ! 【ピンポイントアタック】!」
パァァンッ! という間延びした音が響き、二発の弾丸が宙を駆ける。そしてそれは不死鳥に突き刺さり、HPバーの五ミリ程を削った。
「あー、うん。この調子なら、あんまり時間はかからないかな?」
『フォオオオオオッ!!』
「ごめん。煽ったわけじゃないんだよ。うん」
そう言いながらも、右手は忙しなく動き、不死鳥を狙い続ける。不死鳥も広い空間を飛び回り、こちらにブレスを吐いてくる。
「ッ、炎のブレスか! 火傷無効を持ってても、ダメージは無効化出来ねえからな!」
無音で駆けまわり、不死鳥の背後を取る。恐らく、体は触れられないだろう。燃えてるし。だから、しっかり銃で応戦する。弾ならいっぱいある。買ったから。
「ん? そんなに高くまで行くな。攻撃が届かんだろ。降りてこいや」
『ファアアアアアッ!!』
羽を広げ、炎の弾幕が発生する。空襲喰らってるみたいだ。が……
「それは予習済みだ。悪かったな!」
混成魔獣の巣にて回避し続けた炎の弾幕。確かにアレよりも弾幕の密度は大きいが、避けられないことも無い。周囲からダンダン! ジュウウウッ! という音が聞こえるが、気にせずに弾丸を打ち込み続ける。
不死鳥のHPバーが半分まで減った時、不死鳥の行動パターンが変わった。
「なんだ? 何を……ッ!?」
部屋全体を覆う巨大な焔を生み出す不死鳥。そして、それを落そうとしているのだ。避ける空間が無ければ高いAGIも意味が無い。
「絶対に喰らう攻撃なんてもんがあってたまるか! どっかに回避方法が……」
と周囲を見回しているうちに、その時がやってきた。太陽が落ちて来たのかと錯覚するほどの炎が辺りに広がる。見ると、どうやら、先程の攻撃は状態異常をばら撒く範囲攻撃だったようだ。実際の威力は無いと。持っててよかった【火傷無効】!
「焦らせやがって……許さん! 【ピンポイントショット】!」
パァァァンッ!! パァァンッ! と弾丸が飛ぶ。結構削った。あと一割ほどだ。
よし、もうそろ終わるな、と思っていると不死鳥が突進の姿勢に移る。その身からは蒼い炎が吹きあがっていた。
「やっべ、より高熱じゃん。じゃあ、こっちも高火力で終わらせよ」
左手に『終ノ刃』を装備。純粋なSTRのみ発揮する。そもそもスキルはまだ使えないし。
『フォオオオオオッ!!!』
「よっと! これでっ、撃破ァ!」
突っ込んできたタイミングに合わせ、少しずらしてこちらも突撃する。そして、ギリギリのタイミングで回避し、それと同時に攻撃を叩き込んだのだ。
STR200に【災厄伝播】、慣性ダメージ含めて、420は超えている。これだけの威力だ。当然、HPバーは全て削られ、不死鳥は灰となった。
「ふー、終わったか。さて、羽が落ちてるはず……ん?」
見ると、灰が一つに集まっていき、再度不死鳥の形を作っているではないか。流石の再生イベントにカナデは驚き、黒龍を打ち込む。しかし、その弾丸は身に纏う黒い炎に阻まれ、届くことは無かった。
『ヴァアアアアアッッ!!』
「……うそん」
これこそが、不死鳥の由来だった。
この火山の攻略については掲示板でずっと話題になっています。みんなの悩みです。




