プロローグ
新シリーズです。orangestarさんの『DAYBREAK FRONTLINE』を聞いていて思いつきました。
「いやー、ゲームか……。あんまり得意じゃねえんだけどな……。んー」
自宅のベットの上で悩んでいる少年、神崎 奏は、押しの強い二人の幼馴染に誘われて一つのゲームを始めようとしていた。
最新型VRMMO。リリースから三か月目にして総売り上げが百億を突破。完全に仮想世界に潜るフルダイブ型であり、作りこみが半端ない、リアリティやべえ、と好評なゲームだ。
奏はゲームのパッケージに目を落とす。
『Fantasy Front Online』―――通称“FFO”
銃と魔法の世界。ステータス、スキル、魔法といったものがあるが、メインは、現実と見分けがつかないほどにリアルな銃。科学と魔法のハイブリットとはこういうことか、という感想を抱くレベルらしい。
たしかに、銃は好きだ。そんじょそこらの同級生には負けないくらいの知識もあるし、ドバイに撃ちに行ったこともある。だが、ゲームは小学校以来していない。ましてや、VRなんて……。
ため息をつきながら、昨日の晩の会話を思い出す。幼馴染の一人だ。
由水 理慧。頭が特別よろしいわけではないのだが、整った容姿と天真爛漫な性格でモテている、可愛らしいポニテがトレードマークの少女だ。運動神経はいいんだけどな……。文武両道にはなれなかった。
『ほんっとゴメン! お母さんが中間テストの結果が上がるまでは没収、って言うから、次の中間……だから、少なくとも、二週間後までログインできなくて……。私達が誘っといてアレだけど、先に始めといて! 大丈夫。あの子はもうトッププレイヤーだから、手伝ってもらえばいいよ!』
『分かったから、少し落ち着け。そんで勉強しろ。じゃないと、一生ログインできないぞ?』
『う~……分かった! テストに向けて頑張るね! バイバイ!』
『おう、頑張れ』
「……まあでも、せっかく買ったんだし……。やるかぁ」
VR世界に入るため、ヘルメット型の機械を箱から取り出す。今回のために買った新品だ。艶のある黒いボディが美しい。しかし、このままでは使えない。当然だが充電が必要だ。
ヘルメットの他にも、手首、足首に着けるリングなどがあり、それらをつけながらヘルメットの充電を待つ。約十分ほどで100%まで充電される。その間に、軽く設定方法を見ておけばいいだろう。
そして本当に十分後、ピロン! という音が充電完了の合図を知らせる。よし、とヘルメットをかぶり、布団に寝転んだ。
―――〈Fantasy Front Online〉―――
目の前にタイトルが浮かび、光が溢れ出す。すると次の瞬間、俺の体は白い空間に投げ出されていた。
「んっ!? ん~~っ!! ……っと、地面あるじゃん」
足をつき、前を向いた。『――生体認証中……生体認証中……』という表示がされている。なるほど。全身が読み込まれてるのか。どういう仕組みだ? あんな輪っかだけでそんなことができるなんて。
『――認証エラー。一致する生体情報が存在しません。新たな識別情報を作成します』
今度は『新規作成中……新規作成中……』という表示が出て来る。へえ、現実っぽいな。これがゲームの中なのかよ。
っと、俺のデータを取得できたようだ。『完了』という表示が出て―――
「!? うわっ! ……っと。なんだ。一回一回落ちるのかよ……」
またも驚いたが、次はロール設定だ。
役割や職業と言ったものが無い代わりに、交戦距離、立ち回り傾向の二つと、使用武器、この三つの要素により構成され、それらを総じて『ロール』として呼ぶ……そうだが、ほとんど知らない。適当に決めるとしよう。
「んー、レンジは……まあ、中距離でいいか。クラスも……何がいいか分からん。とりあえず適当に暗殺者で。……最後は使用武器……か……」
おいおい。銃好きに銃を選ばせるだなんて……。一日潰れるかもしれねえだろ? つい、目を輝かせてしまうじゃないか。
初期選択武器は、自動小銃、機関銃、散弾銃、拳銃の四つだ。当然、マシンガンやハンドガンは重機関銃・軽機関銃、オートマチックピストル・リボルバーなどに派生する。
始めたばかりなので初期用の武器しか解放されていないが、あくまで見た目だけ現実の銃が存在しているようだ。もちろん、ロケットランチャーもある。これは、期待ができるな……。あ、これ見よう。
そこで俺は、未開放の銃一覧を覗く。どんなものがあるのだろう、と。
「……これは」
補足しておくと、俺は銃の中でも特に、ハンドガンが好きだ。スマートなデザインで、持ち運びがしやすい。その代わりに、装填弾数、射程距離、威力、それらを犠牲にした銃。俺は、そんなハンドガンが好きでこの業界に足を踏み入れた。
そんな中でも、俺が一番好きなハンドガンは、デザートイーグルシリーズだ。火力も十分。ほれぼれするフォルム。メジャーではあるが、やはり万人に愛されるものは俺だって好きになる。あとは、コルトガバメントとかも好きだ。
そして、現在は使えないにしても、それらのハンドガンが存在することを知った。それだけでも充分だ。いや確かに、見た目だけではあるが、そうだとしても、これは紛れもなくIMIデザートイーグルだ。
「決めた。使用武器はハンドガンにする」
……後に知ることだが、FFOの世界で、ハンドガンは人気が無い。なぜならば、アサルトライフル、サブマシンガン、ショットガン、スナイパーライフル等々、これらの制圧力が高すぎるからだ。
スキル、魔法のあらゆるものを駆使しても、やはりハンドガンだけではなかなか戦えず、結局はサブマシンガンに逃げてしまう人のなんと多いことか。
つい最近、運営が苦渋の決断の末にデザートイーグルを解放した。しかし、それでも尚ハンドガン使用者はあまり増えなかった。
この世界でハンドガンは弱い……。これが、この世界の総意であり、常識であった。
しかし、そんなこと奏は知る由もない。
「最後に、ステータスの割り振りか」
STR・DEF・AGI・TEC・MP・HPにそれぞれのポイントを割り振る。初期で与えられている量は30だ。いや少ないな。
「まあ、こんなもんか? 微妙だったらデータ作りなおせばいいし」
STR:5
DEF:0
AGI:15
TEC:5
HP:0
MP:5
「プレイヤーネームは……」
ポチポチッと、打ち込む。現実と変わらず、『カナデ』だ。
「よし。設定完了。じゃあ」
Game start!!
第零章はデカいプロローグみたいなものです。短いものをポンポンと投稿していきます。