第86話 路傍のすな
Amazonさんで絶賛発売中の処女作『タイムスリップ! 歴女コスプレイヤーはじめさん』が、先月どどんと読まれておりました。これまでに3000円ほど売り上げましたので、あと55年ほどで元が取れますね!
いや〜、長生きしよ。
おれごんの左手親指には、爪の根元に黒い砂つぶが入っていましてね。いえ、今はもうないので過去形なのですが。
たぶん幼少期に逆むけのところへ砂遊びかなにかで入って、そのまま体に取りこまれたものなんじゃないかと思います。
かれこれ40年? 皮膚を透過してずっと見えていて。ずいぶんと長い付き合いで。
ある日そいつが移動をはじめましてね。いままで沈黙していたのになんでか、爪の成長に巻き込まれたらしく。人体の神秘、みるみる爪を上ってくるじゃないですか。
んま、実際には爪の成長と同じに、数ヶ月かかって先端に達したのですが。痛みがなくてほんとうに良かった。
気づいたらなんの挨拶もなく居なくなっておりました。40年来の付き合いに、なんの別れの言葉もなく。
先日お話しした道ばたの花束と同じです。なくなってからの方が気になって確認してしまう。確かここにあったはず。
ほくろのような、黒色なだけに汚点とでもいうべき皮膚の下の砂つぶは、しかし身体の一部だった。
綺麗さっぱりなくなって思うのは、
「あいつどこ行ったのかなぁ」
道路でシャバを満喫、砂として元気にしてる。
それとも運よく田んぼや畑に?
室内で粘着のコロコロにくっついてゴミ箱行き、燃えるゴミと一緒にファイヤー?
そして残灰とともに再利用エコ舗装に?
おれごんは例のあの交差点を通るとき、いつも見やると思います。あの花束がいつか見えるような気がして。以前にも増して。これからもずっと。
親指の爪の付け根をさすりながら。




