第80話 たぬき
たぬきが道路を横切りまして。ただ見送りました。
そのお姿の愛らしいこと。冬毛でモッサモサなのか、極端な短足。それがトコトコトコーっと。
彼か彼女かはわかりませんけども。生きてるなあと。暮らしにくい世の中で元気にやってるなあと。
住みにくいですよねえ、今。
それでも昭和よりはマシ、ですか? 大気汚染も水質汚濁もあの頃よりはいくらか。農薬も少なくて食べやすい。つまみ食いはほどほどに、農家の方が怒りますからね。
世界的に見ればあまりにも局所、もっともっとがんばれ人間、ですか。
捕まえられて食べられる時代もありましたから、その時代と比べていかがです?
ご先祖さまの恨み?
それはもう水に流さないとですね。いくつも世代を重ねたではないですか。一方的に捕食した時代は遠い過去。
え?
ヒト同士の争いはいつ水に流すのか、ですって?
それは痛い脇腹。
わたしたちが第2次と呼ぶ大きな争いからは3世代ほど重ねましたかね。まだまだ遺恨が残っています。現在も第1世代、争いの当事者の地域もあり。
なんという皮肉でしょう。自らでない身を思いやれる感受性が、他者からの攻撃により身近な人を喪うと裏返って敵意にかわるのです。
あるいは本能の部分でしょうか。支配欲。闘争心。
どうぞお笑いください、かくもヒトは愚かで残念で、複雑怪奇なんですよ。
でもね、ヒトは常に内面と戦っているんです。己の矛盾と。そんな滑稽さはむしろ好ましいとは思いませんか?
長い目で見てやってください。戦争や紛争の記述がなくなってゆく、そんな千年後の歴史の教科書を見てみたい、ですよねえ。
せめてあなたがたとわたしたちは今の関係でいましょう、ですか。
争わない、を続けることに意味がある、というわけですね。同感です。




