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第5話 おれごんは病気です

 本来はこんなマイナスで個人的なことを書くべきではないと。わかっていて、あえて吐き出します。ずっと王様の耳状態でいるのに疲れました。ここは切り株のあな、吐露して楽になります。

 それに年が明けてから読まされては新年早々空気を害しそうじゃないですか。クリスマス前では水をさすよう。何事にもタイミングはありますよね。今年の汚れは今年のうちにというわけで、ほどよい日にちに。


 おれごんはたぶん、軽微な病気をかかえています。ただちに生命にかかわるほどでない、日常生活に支障のないレベルの病気を。


 更年期障害でしょうか、加齢にともなう病気だと思います。お医者さんで調べていないので詳しくはわからないのですが、おそらくホルモンバランスだとか脳内伝達物質だとかが正常に働いていないのだと自己分析をしておりまして。


 怒りをね、失ってしまったみたいです。


 あの、ッカーっとなる、腹から沸きあがる抑えようのない衝動がなくなりました。嫌なことをされても「嫌だなあ」とフワッと感じるだけで、腹が立つということがなくなってしまいました。

 なんでしょうね、まるでオブラートの中で生活しているような。舐めたらとけるようなものの内側で、しかし厚さは1メートルはあるのかも。


 おれごんの気のせいと思われるかもしれません。ですが、人間の3大欲求と言われるもののうちひとつを同時に失ったと聞けばどうでしょう。生物の根幹とでもいうべき欲求をです。

 放置していればそのうち改善すると、のんきに構えていたら半年が過ぎ去りました。普通の生活がもどる兆候はようとしてあらわれていません。


 年齢を重ねればひとつふたつ身体に異常が現れるものです。今回がたまたまおれごんの番であったというだけのこと。

 あの硬いコンクリや柔軟な金属でできていてすらヒビや疲労は生じるのですから、生ものたるおれごんにガタがくるのは必定。であるならばそう慌てる必要もないのかなあと。


 よそ様に優しい人と映ればよいものの、なんだか感情の起伏にとぼしい人と受けとられているようです。はしゃぐこともなく、不機嫌になることもなく。

 これが半年で恒常的となり、まるでお坊さんのような心持ちで生活しているのですが、それはそれで問題ですよね。悟りをひらいていないおれごんは、誰かを導くことはありません。むしろ導いてほしい、ただ無気力なだけのヒトガタなんですから。


 もの書きにも少なからず影響はするでしょう。

 処女作と第2作は明らかに怒りに基づいて書かれたものでした。自らに対する、あるいは世の中に対する憤りを燃料にして作られました。

 第3作は感謝で。第4作は楽しみで描きました。振り返れば、実は3作くらいから下降線に乗ってでもいたでしょうか。ギラギラとした尖った気質は失われたような気がして。今のおれごんはロボを書けますか?


 いえ、もしかしたら。


 これまでの人生で小説には見向きもしなかったおれごんですから、急に『書いて残さねば』と思いついた時点で大事件ではありました。書こうと感じただけですでに変質であったのです。

 本当にそうであれば、4年前には今のレールに乗っていたのかも。

 だったら本線から分岐したのは4年よりもっともっと前。いつの間にやら目的地がすり変わっていたようです。


 子どもに対し怒っていたのが、真に叱ることができるようになった気がします。これは数少ないプラス面。

 しかし根気強く叱れないので、ポーンと指摘しただけになりがち。よくありませんねえ。教育にまで至っていないと感じてはいるのですが。

 こんなことで将来を正しく指し示すことができましょうか。いいえ、彼ら彼女らの人生は本来自らで切り拓くもの。であれば放置こそが正解か。

 ひとり悩んで、動けないまま。


 不調なのは間違いありませんから、ただちに病院へ行ったほうがいいのかもしれません。でもなんだかためらわれるのです。案外いまのほうが世のため人のためにはいいのかも、って。

 変人よりも無味乾燥のほうが他人様に迷惑をかけずに生きられるのではと。そのうちこのエッセイも改題せねばならないのかもしれませんね。ほら、頭にありますでしょう、変人と。


 いま、前髪がすごく伸びているんです、視界をしっかりとさえぎるほど。でもそれがちょうどよくって。以前は頰へと逃がしていましたが、今は重力に逆らわず。

 世界は、この隙間からのぞき見るくらいでちょうどいいのかなって。


 感情を失ったのではないのです。悲しくはなりますし、映画をみてワクワクしたり感動したりはできるんです。「ああ、まだ泣けるんだ」なんて、他人事のように感心しました。

 おれごんは、残った感情を握りしめて物語を書こうと思います。現状書けませんが、書こうとする意志だけはまだ、去ってはいないようなので。

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