魔法
チャイムがなった。教科担当の先生がそそくさと挨拶をして出ていく。教室内は先生がいなくなったタイミングでざわざわとにぎやかになっていった。昼休みのランチタイム、私たち3人はいつものように机をくっつけてお弁当を広げる。
「でさ~、まじでやばいんだけどぉ」
お弁当を開けながら目の前の彼女が口を開く。
「いい感じだった男がまじでやばかったの! もう超チャラ男でさ、遊びに誘ったら10人ぐらい女連れてきて一緒に遊ぼうとか言い始めて。軽い男すぎ。マジ軽い世界かよ~って」
ケラケラと笑いながら意味の分からない単語を並べながらその友人はしゃべっていた。お弁当の入った巾着袋に刺繍でマキと書かれている彼女はみたままといっていいほどギャルだった。
「あんたの言ってることはほとんど理解できないんだけど」
あとどうでもいい、と言ってマキの隣に座る彼女は眼鏡を押し上げる。
「そんなこと言って、ホノカだって本当は気になるくせに~」
そう言って隣にいるホノカのほっぺをうりうりとつつきにいった。ああもう鬱陶しい! と手をどけようと必死の攻防を繰り広げているせいか、せっかく位置を戻した眼鏡がまた少しずれている。
「リオも自分だけ優雅にお弁当食べてないで助けてよ!」
手玉に取られたホノカはどうやら私に助けを求めていたらしかった。私は、昼間からお熱いねぇ~と茶化すだけ茶化して、今日のメインであるからあげをパクパクと食べる。だいたいこんな昼休みが私たちの日常だ。今日も今日とて、くだらない話に花を咲かせるぴちぴちの17歳なのだ。
マキはひたすらホノカをいじり終えると満足したのか、また話の続きを始めた。
「でさ、さっきの続きなんだけど、なんとかして彼氏うまく作れないかなー」
「マキは彼氏を作らないと死ぬ病気かなにかなの?」
はぁ……とため息をつきマキから解放されたホノカはようやくお箸をもった。
「でもさ~、うちら高校生じゃん? 恋したくない!?」
目をキラキラさせながらマホは続ける。
「なんかいい方法考えてよ~お願いだよ~」
足をばたつかせながら頬を膨らませる彼女。それを男に見せれば彼氏の一人や二人ぐらいできそうなものだが、それは黙っておく。
「魔法で彼氏を錬成すればいいんじゃない。それ以外は知らん」
私は適当なことをいって話を流した。
「魔法か……いいね! よしやろう!」
「っていやいや、どうやってやるのよ……」
マキが盛大に乗り気になっているところをホノカが大きくツッコミを入れる。
「えー、魔法、夢あっていいじゃん。やってみたーい」
なにも考えてなさそうな顔を浮かべながらマキは続けた。
「なんかこう指でひゅってすれば友達としゃべれるとか、ぴってすれば光るとか、あったらいいのになあ」
「なんのことか全然わからん」
マキの意味不明な言動が面白くて、ふふっと笑ってしまう。
「でも魔法っていいよね。非現実的というかなんというか、なんかそういうのってあこがれる」
「わかるそれ! 私も!」
「二人とも子供みたいなこと言って……」
ホノカに馬鹿にされたが、いやいや子供だしと二人して食ってかかった。
「にしてもなんでか知らないけど、こういうないものってほしくなるのなんでだろうね?」
私はそうつぶやいた。真っ先にホノカが答える。
「人間ってそういう風にできてるんでしょ。ほかの人が持っているとうらやましく見えるもんよ。男は髪伸ばさない人多いから、ロングの髪が好きになる的なやつよきっと」
ええ!? やっぱロングが人気なの? のばそうかなぁ、と別角度から驚いているマキ。ホノカはあきれながら続ける。
「自分の常識から逸脱したものはすごいように見えるのよ。アニメや漫画で起きている魔法がすごいように見えるけれど、私たちの世界だってすごいかもしれないのよ?」
ふーん、とマキはわかったようなわかってないような反応を見せる。
「そういえばアニメと言えばさ! 今季のアニメみた!? あのイテムがすごくて……」
ちょっと話聞いてんの? とホノカはまたツンツンし始める。こうして意味もないような、そんな風におしゃべりに花を咲かせていると、あっという間に昼休みの終わりが近づいていた。
「ではこれで、ホームルームを終わります。気を付けて帰るように」
そういって担任が帰り、帰宅の時間になった。私たち三人はバッグを持ちながら下駄箱へ向かっていた。
「疲れだあああ。5時限目国語は無理だってぇ」
マキとホノカはこれから部活動だ。私は帰宅部なのであとは家に帰るだけだった。
「部活めんどくさいぃ~」
「まあまあ、そんなときもあるよ。頑張れ」
「リオに会えないのさみしいから学校さぼって一緒に帰る」
マキはがしっと私にしがみつく。
「あんたさぼりたいだけでしょ。大会近いんだしさっさと部活いくよ」
いや~! ホノカにひっぱられてマキと私はずるずる一緒に引きずられていく。引きずられながらマキは続ける。
「こんな時に魔法のアイテムがあったら家に帰ってからでもおしゃべりできるのになあ……」
「ああ、昼休みのアニメに出てきたあれか」
「そう、スマホ……だっけ? あれがあれば二人とも家にいてもおしゃべりできるのになあ」
「まあ、ほら架空の話だから、それにまた学校で会えるでしょ。部活頑張ってきな」
私は二人に告げて下駄箱へ向かい、二人は体育館へ消えていった。最後まで名残惜しそうに手を振っているマキと少し照れながら手をふってくれたホノカに別れを告げ、再び下駄箱へ向かった。
まあ、あると便利そうだけどなあとさっきのアイテムの話を思い浮かべながら靴をはく。
「まあ、考えてもしょうがないか」
今をときめく女子高生なんだから、私はもっと現実を楽しまなきゃね、と一人決心をし、指をパチンと鳴らす。どこからともなく宙を舞いながら現れた箒に私は腰をかけ、箒の柄の部分をつかみ、ひゅんと空へ舞う。バランスを取りながら、夕焼けの空を背景にして、空を飛びながら帰路についた。そうして私のいつも通りの学校での一日は、終わりを迎えたのだった。






