追放
遂に北条編終了です‼
あと、感想受付をログイン制限なしにしてみました。
ちょっと怖いのですが、なろう様のユーザーでない方も多いということを知り、試しにやってみようかと思います。
自己肯定感が低い作者なので、ショックを受けると漏れなく武田編が書けなくなりますww
でも、率直なご感想をお待ち申し上げておりますm(__)m
2008年9月15日:金融豆知識
【サブプライムとシマイショック】
「……1998年に入ると住宅サブプライムローンを始め、オークションレートやカードローンなどの債券資産価値が暴落したことにより、優良なプライムローンや仕組債などを巻き込み、金融クラッシュを巻き起こした。
その大暴落のきっかけとなったのは日本の3大銀行グループである島井総合銀行の民事再生法適用であった……
これは日本の歴史に同じような出来事があった。それは戦国時代末期に大胡政賢の……」
1554年1月中旬
甲斐国躑躅ケ崎館
武田晴信
「誠に畏れ多いのですが、〆て98691貫文となりまする。」
御用商人の坂田屋が畳に額を擦り付けるような土下座をしている。
普段は商人との取引など、勘定方にすべて任せておるが、事があまりにも重大だとして儂に裁量を願い出てきた。
そのため、出兵の銭と兵糧が不足すると言われ、早々に上野を後にせねばならなくなった。
「なぜそのような多額の銭を払わねばならぬ。
報告では10000貫文を年利20割にてその方に預け、1年後にはその30000貫文を戻すという約定だったはずであろう?」
「はい。
左様にてござりまする。
しかしながら勘定奉行様に詳しい証文をお渡しする際にご説明させていただきました通り、年利が良いことには危険性を多少含んでおりました」
「どのような危険じゃ」
「この証文は有力なお大名様や身代の大きな豪商への貸付けを束ねたものでございまする。
有力なお大名様がそう易々と滅ぼされることはないと皆様が信じてくださり、この証文が行き渡ったのでございまする。
しかし、とあるお大名様の信用が落ちてしまい……」
それは北条と儂の武田のことか。
北条は確かに返せぬであろうな。
今回の出兵で膨大な借銭をしたという。
その証文が儂の所に知らない内に回ってきていたのか。
「そのような証文、知らぬ存ぜぬと言えば?」
「商いは信用第一にて。
そう致しますと武田様の信用は地に堕ちまする。
今後貸付どころか、米や塩を始めとする全ての商いの御相手が居なくなるかと存じまする」
「大名は皆、徳政令を出すではないか?これも同じであろう」
「はい。
ですが、この証文にも書かれておりますように、それを為さるとこの証文に御名前が載っている全ての方々との関係が悪くなるかと存じまする」
証文の裏書を見ると、そこには30以上の有力大名の花押と豪商の印が記されていた。
!!!!
儂の花押もあるではないか!!
そう言えば低利な利子で借財を行えると聞いた時に、花押を書いた覚えもある……
「貸し付けた10000貫文は返ってくるのであろう? 」
「申し上げにくいのですが、その手の証文が全て売りに出されておりまして、それを支払いするために先の数字になりまする。
よって5倍の利を乗せるための担保である10000貫文は差し押さえとなりまする」
坂田屋は更に額で畳を凹ませる。
「ええい。誰じゃ。
このような訳の分からぬ証文を作った者は!?」
「は。
東国証券取引所にてございまする。
美濃・尾張以東の商人の組合にて取りまとめましてござりまする。
今回は誠に大きな損害を被った方が多く、これからはその際の再保険の仕組みというものを作り……また、今回のお支払いも取引所の方で半額にさせて頂き……」
何か言うておるが、もう支払うしかないのであろう。
たとえ御用商人を坂田屋から納屋などに替えたとしても、物を買うのは納屋を通して東国の物を買うことになろう。
そうなれば納屋も買い付けできまい。
商人の世界でも戦が始まっておるのか?
「もうよい。支払おう。期限はいつまでじゃ」
「はい。来月の5日にござりまする」
「早すぎるではないか。それに今はそのような多量の銭など無いぞ」
「現在、銭が日ノ本で非常に不足しております。
そのため一時的に証文や、銭の代わりになる金利のかからない紙幣というものが作られておりまする。
これがその現物にて。
武田様の今年秋の収穫米への借財証文をこれに替えてお支払いして頂きたく」
坂田屋は側仕えに紙束を渡し、儂に説明を始めた。
「……その紙を持たれている方は、いつでも鉄と交換させていただくという証文となりまする」
裏には帝の許しを得ていることが書かれている。
そして伊勢神宮・熊野大社・浅間神社・赤城神社などの捺印がなされている。
「この鉄はどこで替えられるのじゃ? 」
「大胡政賢様の領地にて。しかし発行と交換には手数料が……」
これは大胡の物か??!!
あ奴。商人を操り儂を手玉に取っているのか!
この仕組みが、儂を撤退させたのか??
銭で領地を防衛とか、聞いたこともないわ。
「……そこで今回の損害を穴埋めできるような債権、武田様には小口の約定をまとめたものを、特別にご紹介して年に15割の……」
「要らぬわ!!!!」
1554年4月下旬
上野国厩橋城
上杉景信
関東管領上杉憲当様の護衛のためにこの厩橋城へ来た。
兵は僅か50しか連れてこれなんだ。
蔵田屋を始め、多くの商人が謎の証文(儂には全く分からぬ)を基に、長尾家に多額の借財があるとしてその返納を迫ったのだ。
景虎様はその証文を破り捨てようとして、重臣たちに止められた。
幸い2~3人の重臣がその場にいたため事なきを得たが、もし破り捨てたことが世間に知れたら、越後長尾の信用は地に堕ちる。
徳政の比では無かろう。
商人からの借財や米の取引は非常に困難となり、信濃・坂東への出兵すら困難となると諭された景虎様は、今回の越山を諦め儂にその任を託した。
そのため護衛の兵は数を抑えねばならなくなった。
流石に兵50では景虎様の名折れだ。
大胡殿に書状を送り管領殿の受け入れを頼んで、ご自身は無理に動かぬことを選択していただいた。
そして今。
なんと関白様に謁見している。
初めからこんなことが分かっていようものなら、景虎様自らが来るべきであった!
大胡政賢殿も左中弁になられて、その関白様のお傍に控えている。
関白様に次いで最も上座に座っている。
関東管領様よりも上座だ!
既に不穏な空気がこの大広間に流れている。
憲当様の額に「ピキリ」と音を立てて、血管が浮かんだ。
「兵部少輔殿。
畏くも帝に置かれては、この坂東の地にて起こる混乱で悩み苦しむ無垢の百姓をお哀れみになり、大胡左中弁殿と兵部少輔殿にこの地に安寧と繁栄を齎すよう密かに勅命を発せられましておじゃりまする。
今後忠勤に励まれるがよかろう」
なんと、密勅とな!?
幕府、足利義輝様はご存じなのか?
幕府を差し置いて兵部の者に勅など、聞いたこともない!
しかも兵部少輔よりも先に大胡左中弁の名前を挙げた。
うううむ。
そういうことか。
これはあくまでも、「民の安寧と繁栄を司れ」という密勅か。
だから太政官の行政を司る左中弁を通しての密勅ということか。
それを兵部少輔が補佐せよと!!!
これは辛辣。
関東管領殿の面子を潰しにきている。
よく、日和見を旨とする(権威としてのみ存在することで生き残ってきた)朝廷がそのような角の立つ勅を出したものよ。
だから密勅なのか。
公然の秘密。
漏らせば大逆。
憲当殿、これは詰んだか?
まさか今まで家臣であった、しかも12年前まで1万石にも満たなんだ国衆の風下に立てるか?
しかし席を蹴る無礼など出来まい。
「憲当殿。手を携え、この坂東の地に安寧を齎し帝の宸襟を安らかに致しましょうぞ」
政賢殿の顔が、明らかに嘲笑っている。
2間もない二人の間に、稲光が見えた気がする。
「こ……この儂が……お主の風下だと?
手を取るだと?!
お前が差し出す手など、死んでも取らぬ!
お主はこの世の者ではなかろう?!
物の怪じゃ!
いや、えいあいのえぬぴいしいではないのか?!
元々、このようなるーるは最初から承知しておらんわ!
お主はだれじゃ?
俺がお前に何をした?
もしやあの時の小僧か?
このげえむになぜ俺を……!!!」
何かを言おうとしていた憲当様は、泡を吹きながら脇差の鯉口を切り、2間の距離を詰めて政賢殿に振り下ろす!
しかし政賢殿の背後から腕を伸ばしてきた大男の側仕えに受け止められ、そのまま脇差を取り上げられた。
その時、憲当様の右手首がボキボキッという、嫌な音を立てて不気味な形に折れ曲がった。
悲鳴を上げ転げまわる関東管領殿。
それを見て悦に入る大胡政賢。
知る限りにおいて、ここまでの憎悪を大胡殿が憲当様に抱く理由が見当たらない。
「何という無体を為さる?
兵部少輔殿!
殿上ではないが、官位の上の者に刃傷沙汰などもっての外。
これは帝だけでなく義輝殿にもお伝えして、裁可を頂かねばならぬ所業でおじゃりまするぞ!!」
これは拙い。
このままでは、関東管領職すら危うくなるやもしれぬ。
それよりも噂は万里を駆け巡る。
もう誰もこの男に付き従う者など居るまい。
大胡殿は河越の戦からずっと、関東管領に奉公をしてきた。
見事な勲功じゃ。
この上野国を北条から守ったばかりではなく、仇敵北条そのものを今、滅亡寸前にまで追いやっている。
その忠臣にこのような無体を働くとは。
景虎様すら、見放すのではないか?
「お待ちくだされ、関白殿下。
幸いにして某は傷を負った訳ではございませぬ。
少しばかり心に傷を負い申したが。
しかしこれでは帝の勅とは言え、このまま手を携えて、という訳には行かなくなり申した。
どこぞへ退転なされて隠居でも為され、余生を安寧にお過ごしになるのがよろしいかと存じまする。
関東管領の職はどなたか威のある方が継ぎ、その御方と勅に従うのが正道かと」
激痛で畳の上を転げまわっている男の耳には、今の言葉は聞こえぬであろう。
しかし大胡殿が自分の目の前にて右手で不可思議な動きをとると、突然関東管領殿の動きが止まり、大の字になって寝転がったかと思うと、すっと起き上がり頭を傾げ、
「ここは何処じゃ?何が起きた? ……儂は?何をしていた?」
まるで憑き物が落ちたような表情で周囲を見渡した。
手の傷はどうしたのだ?
全く気にしていないようだ。
「あなたは、よく頑張りました。
もう役目は終わりました。
ゆっくりお休みください。
ご苦労様でした。
ありがとう」
大胡殿が、なにか別の者に投げかけるような口調で、優しい言葉を掛けている。
ここにいる皆が儂と同じように困惑しているのが見て取れた。
いったい何が起きたのか?
その後、呆けたような憲当様を越後へお連れするために、儂は三国の峠を越えることとなった。
関白殿下が「そうなされ」と仰られ、越後で仏門に入ることに同意したのであった。
さて、此度の事。どのように景虎様に報告いたそうか。
旅の途中、頭が休まることはなさそうであった。
1554年5月上旬
厩橋城から大胡城へ至る高速道桃ノ木橋
長野政影
殿が桃ノ木川に架かる橋の上で水面を見ている。
橋の欄干に両肘を付き、たまにぶつぶつと小さく独り言を言っていらっしゃる。
あの厩橋城での上杉憲当様が起こした刃傷沙汰の後、大胡へ帰ったその晩から殿は3日寝込んだ。
きっと気を張り詰めていたに違いない。
以前から内輪では宣言されていた「関東管領を追い出す」という大仕事をやり遂げたのだ。
それはそれは疲れたに違いない。
しかし、寝込んでいる最中。
いつものうなされるような寝言が聞こえなんだ。
まるで死んだようにぐっすり眠っておられた。
息をしているか心配で、何度も枕元へ寄って確認したほどだ。
3日間の間、楓様と某、福の3人で面倒を見させていただいたのだが、此度に限って「ありがとう。やっと切りがついて落ち着いてきたよ。生まれた目的は果たせた。少し休むね。これからはずっと一緒だよ」と、はっきりと返事をなされていた。
「政影くん。
言っても分かんないと思うけど、第1キャンペーンが終了したので次はもっと大変になるよ。
僕としてはこれでもう十分満足したんだけど、後始末しないとだから。
でも今までの世界線が全く変わっちゃったから、シナリオの先が見通せなくなっちゃったんだよ。
これからは皆の力が必要です。
僕、これからはどんどん失敗すると思う。
みんな手伝ってくれるかなぁ」
半分も殿の仰ることが全く理解できなかったが、最後の部分だけは分かった。
「殿の行くところ、皆がついていき申す。
皆が手助けいたすでしょう。
これまでもそうであり申した。
これからもそうでありましょうぞ」
それを聞くと殿はにっこりと笑い、
「ありがと」
と言うと共に、再び川面に目を落とした。
「そう言えば、ここから僕たち2人の冒険は始まったんだよね。
そして冒険の第2幕もここから始めるよ」
それを聞いた某は殿と同じ水面に視線を向け、この場所で殿を庇って死んだ今は亡き父上に、殿が齢20にして30万石の大名になったことを心中で報告したのだった。
第1部:北条編完
やっと終わったぁあああ。
まさか第1部、こんなに早く終わるとは思ってもみませんでした。
それもこれも、皆様がお読みくださり評価をして頂いたことが、何よりの励みとなり成しえたと思っております。
改めてここに御礼申し上げます。
今後の予定ですが、11月20日に武田編をスタートしようかと思います。
その後は隔日で連載の予定です。
なにとぞよろしくお願い申し上げます。
感想欄には書いたのですが、この作品は作者が人生の中で巡り合えた小説・マンガ・アニメ・映画その他諸々の感動したシーンや設定を使わせていただいております。
完全なる創作ができるほど作者に才能は御座いません。
(最近はキャラが勝手に暴走するので一応これは自分の創作? )
だから「自分が読みたいものを自分で書いてそれを読んで楽しむ」つもりで書いております。
それがたまたま、多くの皆様の琴線に触れただけなのでしょう。
多分、この様な作風(戦場のリアルさと人間模様。歴史改変された世界線での視点)を待ち望んでいた方が多かったのでは? と思っています。
有難いことにまだまだ書きたいシーンやモチーフがたくさんあります。
今後もそれを書いていこうと思っています。
よろしかったらお付き合いくださいませ。
ちょっとだけ金融シナリオについて説明いたしますが、あくまでも思考実験です。
政賢君の意図は
先物市場と産業発展(贅沢品流通)で銭を使った商取引の拡大を目指す。
(備蓄銭=タンス預金の引き出し)
↓
債権を一般へ流通させる
(貯蓄から投資へ)
↓
保険を作る
(また受け。史実でもあった)
↓
サブプライムローンのような複合した債権を作る
↓
金融クラッシュに周辺大名と既成勢力(寺社・土倉など)を巻き込む
↓(敵にしたくない大名への貸し付けはまた貸し=更なる複合債権にして被害が及ばないようにする)
大胡札(兌換券)の普及を目指す
こんな感じです。
勿論、こんな簡単な流れにはならないでしょうけど(*’▽’)
面白く読めればそれでいいのでは?
と思い、書きました。
リアルを追及される方もいらっしゃるかもしれませんが、何度もいいますように「あなたの今読まれている物はラノベです」(^-^;
そこまで追求する必要性を感じませんし、このあたりが作者の限界です。
ご容赦くださいませ。
武田さんちのGDP適当に見積もって100万石=50万貫文だとすると、10万貫文の損害は……対GDP比20%??!!
現代日本のGDPが約500兆だから、一瞬で100兆円の借金が出来た!!
晴信君、涙目通り越して……「おのれ政賢、許すまじ!! 」ですよね。ほんと。
幕府という言葉はこの当時使われていないようですが、分かりやすいように使っています。
【大事な追記】
北条編を書き終えて武田編の下調べをしている時に、大変な間違えに気づいてしまいました。
しかし、これを直すと相当な加筆修正をしなければならなくなり作品の面白さを削ぐことになってしまいます。
少々、修正を加えましたが、やはり疑問が出てしまう展開となっています。
そこで、「大人の事情」が起きない限り、そのままとさせていただきます。
しかし、皆さまの常識を誤らせる恐れがありますので、ここに間違えと修正点を書き記します。
【アルコールは刀槍の傷には使えない】
医療においては常識の様です。
昔は消毒薬を塗っていたために誤った認識から設定をしてしまいました。
この作品を読むに当たり、お間違えの無きように伏してお願い申し上げます。




