首級(地図あり)
氏康くん、頑張り回です。
つくづく、自分の文才のなさに呆れかえります。
もっともっとよい表現があると思うのですが、時間が押しているせいもありそのままに……
あとで時間が有って気力が残っていたら改稿します。
2006年12月1日:戦国時代アニメ時代考証:とある偏屈者のブログ
「どう考えても火薬があるだけで爆発するはずがないのに爆発するアニメが多すぎる。
火薬は密閉空間で発火させないと爆発には至らないはずなんだが。
それに点火薬と導火線にも工夫が必要。
安定した性能など期待するのもおかしい。
要するに様々な試行錯誤をしない限り、そうそう簡単に有効な爆弾は作れやしない……」
1553年12月1日未の刻(午後2時)
上野国桃ノ木川決戦場北条方中軍後方次鋒
玉縄八幡
お味方が押されていると思っていたが、徐々に大胡勢が疲れを見せていたのか?
敵の中軍が崩れた。
罠か?
しかし、それでも敵方右翼との間にできた間隙を逃すことは出来ぬ。
北突入隊500に号令を掛ける。
「左翼突入隊、突っ込め!! 綱成様の仇を討つのは今ぞ!!!! 」
この日のために、毎日毎日、体を鍛え技を鍛え、そして心も鍛えてきた。
士分はもとより、今までは招集された兵であった農民兵も一緒になり毎日、日が暮れるまで訓練した。
手槍1本で、前線を突破しその後方に出る。
そして前線を後ろから襲い、裏崩れを起こさせることで大胡勢を一気に敗走させる。
これのみに特化し、錬成をしてきた。
皆、体に合った愛用の手槍を持ち、いつでも暴れまわれるよう体を解していたため、すぐに駆け出し前線を突破できた。
しかし!!
あの黒光りする一団はなんだ?
あの松山と那波で猛威を振るったという者どもか?
赤い肩の印が不気味に光る。
あれの対策は……
「皆の者! 前方の敵備え。甲冑が固い! 足を突け! 」
一斉に襲い掛かろうとするも、相手の槍が邪魔して足を突けない。
「槍を払え! 敵は片手で槍を持っている! 思いっきり薙ぎ払えば隙が出来る! そこを突け!!!! 」
皆が敵の槍を払った。
すると、味方の兵1人につき1人が槍と盾を捨て前進。
槍を元に戻そうとしているうちに接近して、分厚い段びらで味方を叩き伏せてきた。
逃げる訳には行かぬ。
槍の懐に入られたからには、槍を捨て太刀で応戦するも、全く歯が立たぬ。
そうこうするうちに槍を捨てなかった敵が前進してきて、槍を捨てた味方の兵を槍で突いてくる!
何とか直ぐに対策を考えねば崩れる!
回り込むしかない!
「敵の右に回り込め! 盾と槍が回せぬ方向じゃ! 足を使え!! 」
その時間を稼ぐために儂は数名を連れて、正面の敵の槍を次々に払い落としていった。
急に隣にいた兵が仰け反り膝から崩れ落ちた。
!?
顔に矢が刺さっている!
弩弓か!?
と思った瞬間、足に激痛が走る。
目の前にいた敵兵が槍と盾を手放し、小型の弩弓を構えているのに気が付いた。
次に見えたものは……
赤く染まった空だった。
同日同刻
北条氏康本陣
北条氏康
「玉縄衆の突撃。
跳ね返され申した。
右から後藤透徹の突貫にございます。
左はあの鉄に覆われた甲冑武者の備えにて」
(大道寺)盛昌が状況を知らせてきた。
ええい。
直接見なければ、何も出来ぬ。
「指揮を執る! 馬を曳けい!! 」
「お辞めください! もし落馬しようものなら、お味方の士気が! 」
「儂の腰を鞍に結びつけよ。落馬はせぬ」
やっと戦場の景色が見えた。
なんとも拙い状況じゃ。
中軍が包囲され完全に士気が消し飛んでいる。
崩れようにも退く場が無い。
このままでは四方に逃げ散り、そのまま敵の餌であろう。
もう富永の指揮する中軍は今まで対峙していた正面の敵中軍の全力攻撃を受けて散り散りになってきているが、敵の本陣から派兵された足軽に西へ追い返されていた。
残る次鋒の玉縄衆1000へと突入を開始する後藤。
あの鉄武者の備えもそのまま次鋒として控えている残りの玉縄衆目掛けて突っ込む。
中軍は陣が完全に崩れている。裏崩れだ。立て直しはまず無理だ。
あの後藤と鉄武者を潰さぬ限り、中軍は役には立たぬ。
「本陣の騎馬武者を50ほど割いて中軍左翼に急行。
あの鉄武者の後背を衝け。
倒す必要はない。
慌てさせるだけでよい。
その後すぐに戻れ」
盛昌が指示を出す。
あの忌々しい鉄武者の備えはこれで一時的に無力化できる。
あとは敵の中軍がこちらの中軍を押し込んでくることを覚悟して対策を練る。
!!!!!!
盛昌め、何故気づかなんだ!?
ぬかったわ。
儂が最初から見ておれば、あの「左にできた間隙」、見逃すはずもない。
今は徐々にこちらのごり押しで敵右翼が後退し、開けた土地に出ている。
雑木林との間隙が出来つつある。
あそこを突けば包囲できる!
「鉄鎧の陣と後藤は玉縄衆に任せる。
本隊旗本より500抽出。
最左翼の間隙を突け。
右回りに敵右翼の後背に出て、敵右翼を包囲殲滅せよ」
敵の右翼は300も居まい。
後ろに兵500が回り込めば潰走する。
戦の終末が見えた。
その15分後
旗本500が北の雑木林との間に出来た間隙に突入する。
本陣も500に減ったが、もう敵の切っ先が儂の喉元に届く前に向こうの前線が崩壊するじゃろう。
そう思うた一瞬後。
カッ!
どどおおおおおん!!!!
轟音とともに左翼に突入した兵がこちらへ吹き飛ばされた!
続いて二回目の轟音。
あれはなんだ??
もしや、巨大な鉄砲か??
それはなんでもよい。
今見るべき、考えるべきものは、目の前に起きている「人であった赤い物」だ。
兵100近くが一瞬で吹き飛ばされたようだ。
勿論、士気は崩壊寸前。
他の備えの兵も愕然としている。
轟音と共に空いた穴からは敵の精鋭らしき200余りの新手が突っ込んできた。
全方面の敵が鉄砲を散発的に撃ち始め、それを合図に攻勢が強まり、こちらの備えに牙を剥いている。
ここまで大胡は余力を残していたのか。
半包囲されていく。
数の上で有利なはずのこちらが包囲されて手が付けられぬ。
総退却しかないのか?
ここまで来て潰えるのか?
儂の代で北条が潰える。
唇がぎりりと鳴り、血が流れる。
「後方の川向こうに敵、騎馬兵の集団およそ1000!!
後備えと交戦中!
周りを囲まれてお味方が見えません! 」
くっ!
やはり修理亮の騎馬隊は負けていたか。
もう仕舞じゃ。
引き鐘を鳴らさせようとしたその時!
どどどどどおおおおおおおん!!!!!!!!
耳がキーンとなり、何も聞こえなくなる。
今度はなんじゃ?
後ろを振り向いていた体を敵の方へ向けると、今まで居たはずの旗本の足元が大きく抉れている。
儂の前にいた100余りの精強な旗本どもが倒れ伏して居る。
地面に火薬を仕込んでいたのか??
あの平らな道路が大きく破壊され、そこに爆発した跡があった。
士気が残っている兵はどれほど居る?
周りを見渡しても怯え逃げ惑う兵か、腰を抜かしてへたり込んでいる者しか見当たらぬ。
「殿。ここはお逃げください!
某と影が残り、敵を引きつけまする。
厩橋に残している500が居れば御家の再興が! 」
そう言うと盛昌は、儂の乗った馬の轡を取り馬首を返し、馬の尻を叩いた。
儂は抗う気力も失せた。
振動で兜は脱げ、前屈みになり馬の首にしがみ付くのがやっと。
盛昌に指名された屈強な者10数名に守られ川を渡る。
南方2町では騎馬に囲まれた後備えが最後の交戦を繰り広げていた。
半分は赤い集団。
もう半分は緑色の集団。
ここまで自在に兵を操る大将がいるとは……
負けた。
初めてそう思った。
戦略で負けた。
内政で負けた。
調略で負けた。
諜報で負けた。
武具で負けた。
戦法で負けた。
武将で負けた。
そして
戦を失った。
その結果が、今、進行方向で返り忠をしたらしき和田勢が退き口を塞いでいる状況。
「もしや、そこの落ち武者。
関東管領北条氏康殿ではござらぬか?
馬を降りて大胡の殿に跪く気持ちがあればお助けいたす。
その護衛の者たちの命も儂の名誉をかけて保証いたす」
後ろから近づいて来た真っ赤な武者が大声で投降を呼びかけてきた。
周りの旗本たちは儂の顔を一斉に見た。
そして一人が儂の馬を引きずり、唯一の逃れ口である北へ向かって一緒に馬を走らせる。
残りの者は口々に最後の別れの言葉を儂に投げ掛け、赤い奔流へ突っ込んでいく。
止めろ!! お主たちは生き残り、氏政のために働いてくれ!
そう言いたかったが、もう声が出ない。
「殿。
最早これまで。囲まれましてござる。
御腹を召されるか、それとも敵陣に突っ込み果てまするか?
もうそれしかござらぬ」
最後までついて来た側使えが問いかけてきた。
周りには上泉の旗差し物を背負った農民兵らしき集団。
最後はもののふに首級を上げられず、農民に討ち取られるか。
「自刃は好かぬ。
武士として最期まで抗おうぞ!
それが北条の生き様よ!
続けぃ!! 」
腕に最後の力が宿った。
太刀を抜き、北西に屯する足軽に突撃する。
風上に向かい、最後まで風に逆らい駆け抜ける。
これが儂の生き様よ!
よく憶えておけ、氏政!
抗うのじゃ。
最後まで、最後まで!!
儂は農民兵に向かって太刀を振り下ろした。
「やった~~~~!
兜首らしき武士の首、この荻窪庄吉が討ち取ったぁ~~~~~。
これで俺も武士ぞ!!!! 」
申の刻(午後3時)
爆発直後の爆心地東30間(60m)
後藤透徹
ひい、びっくりしたわい。
ここまでぎりぎりでの爆発とは、聞いておらぬぞ!
まあ仕方ないわな。
導火線がまだ安定していないとか言うておった。
点火時期を計るのは容易な事ではないからの。
火薬を煉瓦の下に詰め込み、その場所まで誘き寄せた時に爆発するように点火するとか、儂にはどのような工夫をしたのか聞いても全く分からんぞ!
本来は危険すぎると、最後まで取っておいた手段じゃ。
それが儂と儂の部下を救った。
直前まで敵の精鋭に囲まれ、儂と一緒に突入した手勢100、半数まで討ち減らされていた。
儂の周りは敵兵たちで一杯じゃった。
己が手勢を庇うような余裕はなかった。
殿にいただいた朱槍をぶん回しぶん回し、敵を薙ぎ倒すが次から次へと囲んでくる。
生まれて初めてこれはいかぬ、と思うた。
その時を見計らったかの様に、その爆発があった。
周りを見渡すと、既に敵兵は散り散りになって逃げていく最中だ。
手はずでは騎馬隊と後備兵がこいつら残敵を掃討することになっている。
殿の仰っていた、なんて言うたか「釣り野伏? 」を成功させたようじゃ。
殆どの敵は討ち果たせるであろうな。
周りで伸びている配下の兵たちに眼をやり声を掛ける。
「ようやったのぅ!
みな鬼神の如しじゃった。
後の世に語り継がれるんじゃなかろうか??
それよりも皆酒の方が良いかのぅ。
儂はその口じゃい、わはははは! 」
少し皆に笑顔が戻った。
「なあ、官兵衛。
今宵はぶっ倒れるまで飲み明かそうぜ!
今日くらいお主も羽目を外せ!! 」
後ろにいるはずの官兵衛に話しかける。
……返事がない。
普段ならば、
「旦那。
それやるとまた奥さんに叱られますぜ。
娘さん達も臭い臭いとか煩い位、囃し立てるんでしょうね」
などと、茶化すはずだがよ。
改めて周りを見ると、俺とお揃いと言って作った官兵衛の青い手槍が地面から生えていた。
その下には……
真っ赤に血塗られた小さな体が一つ。
「お、おおおい。
官兵衛。
な、何このくれえでくたびれて寝転んでるんだよ。
おい、起きろ! 」
近づいて歩いていく自分の顔が蒼褪めていくのが分かる。
嘘だろ、おい!?
起き上がれよ官兵衛。
嘘でした、引っかかったな旦那、とか言って見せろや。
膝を突きながら官兵衛らしき姿にいざり寄る。
少し肩が上下している!
まだ息がある!!
「おい、しっかりしろ! 官兵衛」
儂はその小さな体を起こした。
官兵衛だ。間違いない。
「……旦那? しくじった。
もういけねえ。
ゴ。。フッ。
もう旦那の役に立てそうになくなっちまったなぁ」
「何言っているんだ!
まだまだ働いてもらうぞ!
俺の後ろを守るんだろう?
指図をするのがお前の役目じゃろう!?
そういう約束じゃなかったんか?! 」
「……ああ、そうだ。
お慶に……奥方さんに伝えて下せえ。
最後までお前の兄は旦那を守ったって。
後は頼むと……」
「!!??兄だと??
慶の兄なのかお前は??? 」
「ああ、ああ……こんな時は恥ずかしさを紛らわせてくれるセリフを使わないといけないそうだ……
あいむゆあぶらざあ……」
そして官兵衛の時が止まった。
儂は人生最大の友を失った。
その友を抱えたまま、心の底から溢れ続ける慟哭の音声を天に放ち続けた。
コー、ホー。
官兵衛の戦死は既定路線です。
キャラを作り出したときに決めたものです。
しかし……
自分の作品のキャラが死ぬのがこんなにも悲しいとは思ってもみませんでした。
キーボード打ちながら自然と涙が出てしまいました(マジで)。
本文に書くかどうかは分かりませんが、大筒の発火は導火線を短く細くして使用したようです。
導火線自体は地雷を製作するときに大分工夫がなされていました。
(太いのやら細いのやら沢山試作しました)
あとは発火薬を詰める穴が、安定性を重視し結構太かったという設定です。
先日、読者の方からお教えいただきまして、大砲の点火薬は「酒を霧吹き=口に含んでブ~」で湿らせてから発射!てな感じで、工夫をしたとかでもよいのでは、と思いました。
今後は或粉保流使用という方向で~
大胡は研究熱心だぁ~!
(でも結局、空っ風には誰も勝てない気がする。予測不能な時期に吹くからなぁ。それも超強風。立っていられないww)
配置は両翼にできるであろう間隙。
それぞれ18門を配置しました。
大きさは3匁(12ポンド砲、18世紀末のコルベット艦の主砲程度)。
散弾使用です。
砲架はまだ固定です。
赤い集団と緑の集団……
緑の方は「タヌキ」ではなく「キツネ」なんだけどなぁ。
結局、政賢君の作戦はソ連軍がお得意だった「2重包囲作戦」ていうか、釣り野伏orカンネーの戦いの変形バージョンでした。
あくまでもこの付近に密生した「松」林を利用しました。
だから前半は負けが込んでいて当たり前の所が……




