準備(地図あり)
飛砲は竹製で分解して運んでいます。
サンダース軍曹は私のヒーローでした。
2005年12月30日:JBCTV:年末恒例時代劇スペシャル
【赤備えが来る! 】
「大胡政賢、最後の決戦、関ケ原。
そこでは様々な人間模様が繰り広げられました。
その中でも圧巻だったのは薩摩隼人の「敵に向かっての退陣」に立ちはだかった大胡勢の赤備えとの激突でした。
大胡の赤備えは対北条決戦の際で初めて編成され、それを指揮した者は当時最強を誇る……」
1553年11月末日未の刻(午後2時)
桃ノ木川渡し場西岸
大道寺盛昌
前方、川の東岸に布陣する大胡勢は2000余りか?
この北条10000に対抗するにはあまりにも寡兵。
しかし、この兵力差を大胡は幾度となく打ち破ってきた。
そのたびに驚き、何故か?という問いを皆が口にした。
少ない情報から得られたその実態は……
川越では機動しての攪乱。
松山では偽計と重装備の兵による突撃。
赤石では大量の弩弓使用と騎馬隊による大迂回と那波城調略。
館林では騎馬隊が鉄砲を使い殿を崩してから、大将の首級を上げた。
今ではその戦い方が分かってきたが、これだけ多彩だと対応に苦慮する。
少なくとも現在の最大脅威は「鉄砲」と「大胡の備え」であろう。
これを阻止して優位に持っていくために用意したものが3つある。
ひとつは「飛砲」。
先ほどはなけなしの火薬と油樽を使って敵を驚かせた。
驚かせることに意味があった。
あれは然う然う当たるものではない。
しかし城のような動かぬ敵に対しては強力な武器となる。
城と、あとは敵方の「矢盾」に対してだ。
京の応仁の大乱では、加茂川を挟み対陣した東軍と西軍との間では矢合わせにて決着がつかず、飛砲で矢盾を破壊し合っていた。
今回はこの西上野の河原に多い丸石に着目した。
これらをかき集め飛砲にて飛ばし、敵方に印地打ちをする。
普通の印地打ちは遠くても20間程度しか飛ばない。
しかしこの飛砲ならば最大で3町は飛ぶ。
一方的に叩けるはずだ。
鉄砲も有効なのは50間(100m)程度までだと分かった。
100間(200m)を超えると相当威力が落ちるという。
この鉄砲隊を渡河地点の向こうに狙いを定め、用意した5基の飛砲にて牽制しつつ渡河してしまい、そこへ鉄砲に耐えうる阻塞を作る。
その阻塞は2つ目の「竹束」と「鉄張りの矢盾」で急いで作り上げる。
竹束は真竹の程よい太さの物を大量に取れる春夏に事前に用意しておいた。
鉄張りの矢盾は最近出回り出した大胡製の鉄を買い(出費が馬鹿にならぬ!悔しいぞ)、薄くした板を全面に張り、重要な部分には2重に張った。
重さは30欣(120kg)を超えてしまったが雑兵4名で運べば何とかなる。
この重く嵩張るものは地場の人足を雇い、臣従を誓った和田に手伝わせて後備えと一緒に運ばせた。
そして二つ目の【大胡と同じ装備】。
「3間半の長柄」と「大盾」、「大胡胴」と「大胡笠」。
更には騎馬で機動できる備え。
敵の良いところは見習う。
それが当り前じゃ。
こちらは敵よりも圧倒的に数が多い。
数の勝負に持ち込むには同じ装備をせねばならぬ。
鉄砲は銭が無いので諦めた。
その代わり弩弓と投槍を装備した。
これで少しでも鉄砲に対抗できるようにした。
「向こうの配備を教えよ。ここからでは見えぬ」
殿は騎乗できないために敵の様子が見えぬ。
儂が教えなければならぬ。
これは若輩者には任せられぬ。
近くは見えなくなってきたが、遠くならばよく見える。
「大胡勢は旗差し物を立てませぬ。
唯一、後藤の備えだけは常に幟が立てられているので確認できますが、此度はここからでは見えませぬ」
「どこにでも突撃できるように次鋒にでも置いたか」
「左様かと。
川に沿って配置している備えは左(北)右(南)に500あまり。
中央(東)にも500あまり。
中央にはここから延びる平坦な道に架かる橋、それと中央奥に高さ2間(4m)余りの物見台がありまする」
どうやら「ここで」決戦をするらしい。
儂らは見事にこの場へ誘き出されたのか。
地の利がある敵のこと、仕方のないことだが。
こうなると何を仕掛けられているか分からぬ。
「!それと左右の備え前に丸い輪のような鉄の縄が置かれています。
螺旋のようなものです。
此度はあれが阻塞でありましょうな」
館林の時は杭と杭の間を縦横に張り巡らされた鉄の縄があったが、此度の仕組みはさらに扱い難いものであろう。
「その鉄の縄が中央にて途切れておりまする。
罠の匂いがぷんぷん致しまするな」
殿が顎を捻り暫し考える。
「左右は松林か何かが広がっているのか? 」
「いかにも。そうでござる。目に見える限りでは松林が続いております」
必ずや那波の時のように鉄の縄で仕掛けがしてあるのであろう。
「(山中)修理亮からの繋ぎは? 」
修理亮殿は此度用意された騎馬隊を任されている。
不慣れで捗が行かぬと嘆いていたが、「それどころではない。御一門衆が心して励んでもらわねば示しがつきませぬぞ! 」と発破をかけておいた。
今は別動隊として桃ノ木川を南下、大回りして大胡とこの渡河地点の間に出る手はずだ。
「まだでござります。しかしそろそろ報告のあった渡河地点に着いた頃。今しばらくかと」
風魔が1年前に探りを入れた際に見つけた浅瀬。
この流れの少ないこの時期は、徒での渡河も可能。
しかし遠すぎて本隊は行けぬと評定にて判断し、騎馬隊にて迂回、大胡の南方に出て陽動、あわよくば敵の後背、側面に横槍をつけることとなった。
「川幅と敵との距離はどうなっておる? 」
「川幅はわずか5間(10m)にて。
しかし河原が広く20間(40m)ほどありまするか。
敵は自然の堤防の上に布陣しておりまする」
「こちらの備えを同じく堤防の上に。
25間(50m)まで近づけ。
そこまでなら矢盾も持つであろう。
その後ろに5基の飛砲を設置せよ」
使い番にそのように指示、走らせる。
左右は2町(200m)しかない。
大軍の利が生かせぬ分、大胡の有利じゃな。
回り込めぬ。
しかし一旦向こう岸に渡りさえすれば、そこから数の力で押し込み回り込めるであろう。
同日同刻
桃ノ木川東岸
大胡是政
また厄介な物を持ってきやがったな。
厩橋ではまんまとしてやられた。
まさか火薬樽と油壷が飛んでくるとは思いも寄らなんだ。
おかげで俺の隊から3人重傷者を出してしまった。
あれがまた来たか?
厩橋の城まで飛ばしていたから、桃ノ木川程度では軽く飛び越すな。
2町(200m)は届きそうだ。
竹束などで防備されたら鉄砲では崩せぬな。
放ち始めたら無理せず引けと殿は仰ったが、悔しい。
穴を掘り、板などで屋根を作ればよいと具申したが、「ここ少し掘ると石がごろごろでしょ? 無理かなぁ。
他でやるね、それ結構いいあいであかもだから」と仰ってくれた。
「殿から信号。
第2線に退く用意をせよ、とのこと」
「了解と伝えよ」
殿の物見櫓からは飛砲の配備が見えるのであろう。
そろそろ第1射が飛んでくるということか。
事前の評定では、河原の丸石を飛ばしてくるであろうと予測した。
よって改良して量産できるようになった予備の大盾を各小隊にいくつか配備している。
これでは全く足りないが、ないよりかはましだろう。
とにかく桃ノ木川東岸近くに布陣しておかないと不審がられるからここにいるが、最初から第2線でもよい気がする。
殿のお考えだから何かあるのだろう。
いよいよ飛砲から石礫が飛び始めた。
また俺の隊かよ!
盾を持っていてもあれが当たれば怪我するな、これは。
着弾。
そこかしこで悲鳴と呻き声が聞こえる。
「メディ~~~ク! 」
なぜか衛生兵のことを呼ぶときはこう叫ぶことになっている。
殿の悪ふざけだろう。
もっと皆が笑える奴をお願いしたいが。
「殿より、後退せよと指示」
手を上げ、「はんどさいん」にて答える。
「ちぇっくめいときんぐつう、こちらほわいとるうく」と呟きながらはんどさいんをせよとか、付き合っていられないことばかりが取り決められている。
俺は勿論やらないが。
俺の兜の後ろには太い縦線で白塗りがしてある。
これが指揮官の印だ。
「これで味方からは指揮官がどこにいるか倒れていないかを確認がしやすいです、はい」とか言っておられたが、乱戦となったら兜の前も後ろも関係ないと思うがな。
まあ前立てのついている兜よりも目立たないか?
次弾が来る前に第2線へ後退する。
いよいよこれからが俺たちの時間だ。
鉄砲の何たるかを教育してやる!
同日同刻
桃ノ木川東岸物見櫓
上泉秀胤
「是政隊、損害軽微。首尾よく第2線へ撤退しました」
「よかった~。ここへきちんと食いついてくれたね。これで狙い撃ちできると最高~」
これで、折角ここへ誘き寄せたのに防備が硬いと思われ、他の渡河地点へ行ってしまうのは避けられた。
第2防御線は自然堤防上に置かれた「有刺鉄線」を狙い撃てる距離にある。
その距離およそ30間(60m)。
もし有刺鉄線を排除しようと作業すれば、是政隊の鉄砲上手が他の者の鉄砲を順繰りに使い、作業する足軽とそれを指揮する武者を討ち取る。
当分はこれで相手を減らせるであろう。
この場所は既に耕地として耕されている地。
2尺程度なら掘り返せる。
各所に散在して10名程度の鉄砲使いが入れる掩体壕(是政殿が提案したものよりも簡易だが)を掘って土嚢を積み、立射ができるように深掘りされている。
鉄砲は銃口から火薬と弾を込めねばならぬ故、必ず立っていることが必要。
敵が弓だけでなく鉄砲を持っている場合には、こちらも相当な被害が出る。
この掩体壕はそれを防ぐと共に、こちらの兵数を悟られないような効果がある。
今回は簡易な野戦築城だが、長対陣ともなれば雨風にも強いようにこの上に天蓋をつけることになろう。
今回の場合は飛砲の狙いを定められないように分散しているのだが、吉と出るか凶と出るか……
「だいじょぶよん。時間を稼げばあの人とあの人とあの人が活躍してくれる~」
わざわざ伏せて言わなくてもいい気がするが、幾つも手が打ってある。
そのうち一つでも今日中に間に合えばよいだけだ。
あとは夜戦に気を付けよう。
もう1刻で日が落ち始める。
無意識に南の方を見やった。
同日同刻
本隊対陣地点より南東方1里
山中修理亮
無事、配下の騎馬隊800、桃ノ木川を渡河できた。
これより索敵をしつつ北上、弱敵ならば攻撃、強敵ならば迂回して敵主力の後背へ出てから攻撃を開始する。
順調なれば、あと半刻もしないうちに大胡勢に一泡どころか二泡も三泡も吹かせてやるわ!
討ち取られた味方の分を倍返しだ!
「申し上げます!
物見が帰って参りました! 」
「通せ! 」
物見がすぐさま近づいてくる。
「馬上より御免!
前方、整備された道を小荷駄が北上中!
その数50あまり!! 」
これはよい獲物ぞ。
幸先がいいわい。
「よし!4本の縦列、そのうち半数は二手に分かれ包囲殲滅せよ! 半数は手前にて待機。討ち漏らしを逃がすな」
皆の者が大声で歓声を上げ、速歩(12km/h)にて行動を開始する。
手には抜き放たれた太刀を持っている。
騎馬の威力は、その人間との体格差から来る威圧感と、上段から振り下ろされる太刀の威力だ。
苦手な長柄は回り込めばよいだけ。
これは虐殺になるな。
自然と皆の顔が獰猛になる。
「右手に敵!!!!
騎馬ですっ!!
数500!! 」
!!!
物見は何をしていた??
「旗差し物などはあるか? 」
「馬印は、……武田の?? 原虎胤!鬼美濃ですっ! 」
甲冑から旗差し物・馬具に至るまで全て赤で統一された赤い騎馬隊が、こちらの側面へ急速に近づいてきた。
儂は怯える配下を叱咤激励し、馬首を東へと巡らした。
武田の騎馬隊が「全員騎馬」ではなかったことは知っています。
でも、主力の武将が疲れずに移動できたのは大きいと思います。
足軽は大変だぁ。
北条の800頭の馬。
どこから湧いて出た??
そこらじゅうからかき集めてきたということでww
遂に騎馬戦闘になっちゃうのか?!
貴方の今読んでいるモノはラノベですww
とりあえず、大胡は耕地として耕されているとこ多いので、平地です!




