爆音
おつむのライトな武将は使いようですね。
戦場の中心へほうり込めば「何か」してくれる!
出挙の年利1000%はどうやら資料の読み方間違っていたようで、実際は200%程度だそうです。
稲の収穫率も200~300%だそうですので結構厳しい。
よって200%に訂正しておきました。
だから村長が頑張るということで。
2005年11月30日:JBSTV「明日のお天気」
「……次は関東地方の明日のお天気です。
東雲さん、お願いします」
「はい。
明日は日本海から冷たい風が吹き込んできます。
関東地方北部、特に群馬県などでは強風にご注意ください。
午前中は穏やかでも午後になると北からの空っ風が……」
1553年11月下旬巳の刻(午前10時)
上野国上泉城南西10町(1km)
官兵衛
「おらおらおら~~~~! かかってこんかい!!!! 」
相変わらず旦那の声はでけえや。
これだと北条氏康にも聞こえるんでないか?
北条の先鋒は西2町の所をこちらへ向かってくる。
その後ろに次鋒、その後ろに多分本陣だろうな。
ここからだと判らんがな。
多分、普通だったら先鋒から本陣まで3町ってところだろうが、この場所じゃあ長蛇になっちまうから倍の6町か?
それに北からのからっ風が音を流しちまうから、微かに聞こえれば御の字だ。
まだこの時期にしちゃあ風が弱い。
この雄叫びは北条の士気を落とすためにやっている。
矢を交わしたり干戈を交えたりするよりも遥かに効率的に敵の戦力を削れると殿は仰っていた。
言葉合戦の威力はすごいぜ。
普通なら士気を保つために先鋒が突入してくるのだろうが、昨日の大敗北で物見を出したり使い番を出したりして、そろりそろりと進軍しているのだろう。
さすが坂東の雄だな。
無茶はしない。
「がははは~~~!!
やっぱり臆病者じゃの~~~。
玉縄のもんもいるんか!?
お前らの大将は儂と20合も槍合わせ出来なんだぞ~~~!!
大将がそのくらいじゃ。
お前らには儂に向かってくる根性はないであろう!!
北条の精鋭が聞いて呆れるわ!!!! 」
おいおい旦那。
それいっちゃあ、敵の最精鋭の士気が上がっちまうじゃねえか。
旦那に言葉合戦はあまり任せられんな。
!
そうか。
今度はセリフを書いて渡すか?
……でも旦那のことだから、読み飛ばして適当に吠えるのが目に見える……
自由奔放、大胆不敵、猪突猛進、単純明快、明朗会計だからな、旦那は。
?
最後の言葉、なんだ?
なぜ出てきた?
まあいいか。
旦那が自分で名付けた槍の「大車輪」という技、ただ単に槍をぶん回すだけだが、それを敵にこれ見よがしに披露している。
いや、それは敵が来てからにしてくれよ。
無駄な体力使うんじゃねえよ。
もっとも旦那の体力は無尽蔵だからな。
気にせんでええか。
「旦那。そろそろ半町くらい後退しましょう」
「おう! あまりここにいてもしょうがねえな」
旦那が後退するために振り向いた時。
南から凄まじい大音響が響いた!
空っ風の風上に届く音だ。
始めて聞いたぜ。
雷様の太鼓が鳴っている。
間をあけて2回目。
その間にぱちぱちという音も聞こえている。
これは……
多分那波城の大筒が攻撃をしていている音だ。
こんなにデカい音なのか?
敵に気取られないように配慮してか、大筒の発射音は単発射撃の時しか聞いたことなかったが。
これで敵は城が爆発して落城したと勘違いする……はず……
「がはははははは!!!!
おう! 北条の奴ら!
今頃、那波の城を囲んでいるお味方は総崩れじゃ!!
さっさと助けに行かんかい!!
薄情もんじゃの~~~!!!! 」
あちゃ~。
それ言っちゃいけないって。
作戦が完全に崩れたな。
これからどう転ぶんじゃろうか。
もう俺には想像もつかん。
あとは殿さん次第じゃな。
旦那の尻ぬぐい、よろしく頼みますせ、殿さん。
俺は殿さんのいる本陣へ事情を知らせるべく使い番を走らせた。
同日同刻
北条本陣
大道寺盛昌
この平坦な道は驚くほど歩きやすい。
騎乗していてもそれ程揺れがない。
今、殿が乗せられている車(住民が大胡車と言っていた)で動いても、がたがたした揺れがほとんど無い。
殿の下令により1刻前に、粥を食べ終わって準備万端であった本陣を進め、昨日大胡に痛撃を食らった場所を通過し、前方に単独で陣を張っている大胡の先鋒、後藤透徹の陣前に止まった。
「いかがいたしますか、殿」
殿は周りのお味方の兵に気取られないように幌のついた馬車に、上半身を起こし座っておられる。
そして大胡勢を見た。
その前には同じ毛色の馬に乗った、同じ甲冑の影武者がいる。
その影武者には3つのことを指示した。
「普段の殿らしく胸を張ること。今の真似をするな」
今までは訓練だ。
同じ仕草をせよと3年間ずっと言い付け、練習してきたのはこの時のため。
「何があっても逃げるな」
この男、少々臆病なところがある。
周りを馬周りで固めるから安心せよと言うた。
「お前に戦況を報告するから頷き、それらしく何かを指示しろ」
口を動かさねば遠くにいる間者に気取られてしまう。
そろそろ馬周りには口止めせねば陣内に噂が立つやもしれぬな。
物見の言葉と各備えへの指令は直接使い番と言葉を交わさないと齟齬が生じる恐れがある。
「あそこで踊っている狒々は捨ておけ。」
「は。して、次は如何様な采配を」
「半数も物見が帰っておらぬようでは、実際に一番の難所、桃ノ木川の渡しまで行くしかなかろう。
午の刻(正午)になるまでには着くようにせよ。飛砲は後どのくらいで着く? 」
飛砲は既に分解してやはり町から徴発した車にて本隊の後、後備えに守られながら運ばれてきている。
この道が大胡の首を絞めるの。
やはり領国の道はあまり整備してはいかぬ。
儂は未の刻(午後1時)になる前には着くと殿に伝えた。
「このまま前進し川の手前にて陣形を整える。
横陣だ。
後備えは飛砲が届き次第、北へ向かい上泉城を囲め。
後備えの(笠原)信為に伝えよ。
もし銃撃が盛んなれば小勢に分かれ、大胡を急襲せよと。
あの者が好きな急襲じゃ。
うまくやれと申し伝えよ。
先鋒は(富永)直勝の備え。左翼は……」
まだまだ殿の頭は冴えておる。
弱っているのは体のみ。
大胡政賢、心してかからねばならぬ敵じゃが、まだ若い。
悪手を打つのを待ち受け、それに付け込むこと、殿の右に出る者はいなかろう。
儂がしっかりと知らせと下令を取りまとめねば。
その時。
落雷のような音が遠くで聞こえた。
ここではそれほど大きくは聞こえぬが、南の方角から聞こえたという事は那波城に動きがあったか?
城が爆破された音か?
それとも長綱様の軍に何かがあったのか?
「……今頃、那波の城を囲んでいるお味方は総崩れじゃ!!
さっさと助けに行かんかい!!
薄情もんじゃの~~~!!!! 」
前方で意味なく槍を振り回している狒々がわめいているが、あれは言葉合戦か。
信じるに値せぬ。
「盛昌。
大至急、長綱叔父の軍へ使い番を。
何かが起きた。探らせよ。
必ず複数行かせよ。
悪い予感がする」
儂とは反対に殿は不審がっている。
殿の直観はいつも鋭い。
迷わず指示を出し、時間をずらせて違う道を通って向かわせた。
長綱様に限って大きな問題は起きないかと思うが、寄せ集めの軍だ。
何が起こるか分からない。
慎重を期して作戦を遂行していこう。
同日午の刻(午前11時)
那波城東馬出し
真田幸綱
先ほど、儂に付いて征きたいとせがんでいた息子の信綱を説き伏せ、ここから送り出す。
500の兵を預けた。
信綱にも馬は降りて行けと命じ、無理をせず「残敵掃討」をするように改めて指示した。
「よいな。
くれぐれも最優先は民の保護じゃ。
無理に敵を倒さずともよい。
いずれ逃げ場は無くなる。
そこを武者だけ狩れ。
それだけじゃ。
あとは在地の自警団に任せよ。
敗残の足軽雑兵に水と飯を配るはずじゃ。
これが一番大事じゃと殿も仰せじゃったろう」
まだ信綱は不満な顔をしているが、此度の任務をこなせばよい経験となろう。
兵500を指揮する大変さ。
儂もほとんど経験がないが、此度は分散しての行動。
それをいかにまとめるか。
東雲殿や秀胤殿が書物から例を出して教えていた。
それを聞いていれば大丈夫じゃ。
……憶えておらずとも側近に優秀な者を付けていただいた。
問題はない。
500が東へ向かい行軍していった。
城の周囲に転がっている赤黒いモノ。
これを自分たちが作り出したことを思い出し、改めて口を押さえ吐き気を催している者も多い。
時代が変わったのじゃ。
戦の様相が変化しつつある。
殿の手によって。
さあ、儂も出陣じゃ。
城には500の後備兵を残し、1500の常備兵を率い、北へ駆け足で進軍し始めた。
同日同刻
華蔵寺物資集積所
春
轟音が南から聞こえた。
どうやら那波のお城に配備されている大筒の一斉射撃のよう。
1里離れているのにこれだけ大きな音とは。
「春殿。手はず通りじゃ。那波は大丈夫そうじゃから殿の元へ大至急次の補給を」
そう。
手はずでは南から大筒の音が聞こえたらもう南は安全となるので、殿の本軍へ援軍と物資を送り出すことになっている。
私は焦らず、しかし急いで皆さんに指示を飛ばす。
これが遅くなれば多くのお味方が亡くなるかもしれない。
殿の事だから遅れても何とかしてくれそうだけど、少しでもお役に立とう。
だからこの目の前に並べられている【大筒】を大至急桃ノ木川に届けるよう指示を下した。
大筒が載せられた大胡車48両を10人もの屈強な男の人たちが綱を引きながら勢いよく駆け出した。
同日同刻
桃ノ木川の渡し場大胡陣地
上泉秀胤
南で砲声の音が聞こえた。
上手く引き付けて砲撃を出来たらしい。
腕木式信号機が、今度は支障なくその知らせを送ってきた。
「黙祷。
僕は大殺戮者だね。
1人殺すと殺人者、1000人殺すと英雄!
こんな考えはしちゃあいけないよ、秀胤くん。
地獄へ落ちるからね」
いつになく殿が暗い顔をする。
那波城の周りは今頃人の山が出来ているだろう。
もう動かない肉塊だ。
初めての試射の際見たその威力、並べられた甲冑が10近く一瞬で吹き飛ばされた。
それが今、那波では現実のものとなっていよう。
必要な事とは言え、その惨劇を起こすように指示したのは紛れもなく殿と某だ。
「これが戦だ」と言われればそうなのかもしれぬが、今までの戦とは全く違う世界だ。
殿の手により、どんどんとこの世が変わっていく気がする。
一人沈思黙考をしていると、後藤殿の隊を迎え入れた後、殿と話をしていた政影殿が北条の陣形が変わったことを伝えた。
後備えが上泉城へ向かっている。
「やっぱそう来るよね~普通は。さて僕はどう受けるかな? 」
決戦を前にして、いつも通りの殿か。
少しだけ緊張しているか?
指が震えている。
それを見越したかのような、政影殿の「ツッコミ」が入る。
この前、「やっとツッコミをできるようになった」と嬉しがっていた政影殿。
まだまだ時々なのだがと言われていたが、どんどん皆も変わっていく。
某も変わらねば。
「フラグは折ればいいっ! 秀胤! 皆に演説する! 準備を」
殿の言葉で、すかさず先に用意していた巨大な拡声喇叭の伝声管をお渡しした。
さあこれから北条氏康の首を獲る。
そのための今までの12年間だった。
きっと成功する!
やっと第1話に帰ってきた!
長かった!!
でも、まさかこんなに早く書けるとは思わなかったww




