金融
白戸三平先生がお亡くなりになりました。
享年89
この作品も「カムイ伝」などの影響を多分に受けております。
哀悼を捧げます。
なんかだんだんチートがとんでもないことにww
すぐには効果ない施策だけど、上州から飛躍するともうだれにも止められない政賢君でした。
当分、20時投稿になります。
よろしくお願いいたします。
ついでにちょっと作品名を変えてみました。
感想をお聞かせください。
2002年12月1日:近代日本金融入門
【鉄本位制】
「戦国時代末期において銭の不足に伴い、一時的に大胡政賢が使用した通貨制度。
日本の輸入貨幣:永楽銭の需要増加に伴い……
銭の毀損が激しく鉄で作ったとしても……」
1553年4月12日
上野国那波城
瀬川正則
銭がない。
いや、大胡には巨額の「帳簿上の貸付」がある。
倉の増築が追い付かないほど永楽銭が入っている。
が、最近その永楽銭が「支払われ」なくなってきている。
それらの商人にその理由を聞くと「永楽銭がない」そうだ。
「あちゃ~。
こんな東国のちっこい国衆だからくまええすとっくには影響ないと思ったんだけどね。
ショボン」
なにか殿には思い当たることがあったらしい。
「このままいくと日ノ本中が益々デフレ……物が作れなくなっちゃう。
作っても売れないんじゃ、産業が衰退する~~。
どうしよっか……」
「永楽銭が足りなければ、金銀があるじゃない……とはいかないのですな」
「なぜ、そのセリフまわしを知っている???? 」
「いえ、なぜか某の頭の中に浮かんできました」
「これは……要考察。
で、金銀はもっと足りなくてね。
いっぱい掘ろうとするとこれがまた、日ノ本以外に輸出する馬鹿……大名が出てくると思うんだよね。
それで大陸の永楽銭や南蛮の硝石と交換するの。そのため日ノ本の金銀が海外に逃げて行っちゃう」
某の見ているのは大胡のことだけだ。
殿は日ノ本中、いや唐天竺、そればかりか最近頓に話に上る南蛮などにも目が行っているようだ。
益々尊崇の念が沸く。
殿は「崇め奉られるのは嫌い。僕を超える、もしくは近づくように勉強して。僕だって気づかないこといっぱいあるんだし、僕がいつでもどこにでもいるとは限らないんだから」
というが、自然とそうなるのは詮無きこと。
「では代わりの銭を作るのはいかがでしょう? 」
「できればいいんだけどね~。
それ、帝の専権事項。
勝手に作ると益々「れえと」が複雑に‥‥
今ね、この前の献金のお礼として官位じゃなくて、銭を作る許可を貰うために智円のあんちゃんにお出かけしてもらっている~。それで」
「銭を作るのでしょうか? 」
「いあいあ。
銅が入手できませぬ~。
一応ね、桐生の山奥の足尾ってとこに、銅山がありそうなのはサンカの皆様に見つけてもらったんだけどね。
まだ掘れないよ~、あそこ大胡じゃないから。
なので、大胡にいっぱいあって誰でも欲しい物、何がある?
それなら銭の代わりになる~」
某は考えた。
思いつくものは、焼酎・石鹸・生糸、あとは鉄か?
「生糸か鉄でしょうか? 」
「うんうん。
布なんかは昔お金の代わりになっていたけどね。
すぐダメになっちゃう。
鉄で銭作ってもいいんだけどね」
「鉄は錆まする」
「そ~なんだよ~。
だから……おお、やっぱこれだよん!
鉄は使うとなくなっちゃうけどね。
絶対使うし、大胡で生産量を調節できる!
でね、紙でお金作っちゃうの。
この紙持ってきたら鉄何貫文分と交換しちゃうよ~と」
某は全く新しい仕組みを聞き、眼が回るとともに「それは上手く行くのではないのか? 」と直感で分かった。
と共に、問題点にも思い当った。
「されど、それではその紙を偽造する者が出るのでは?
あとは紙では破れたり、濡れたりして毀損?いたしまする」
「うん。
毀損は自己責任デス! はい。
で、偽造対策なんだけどここで帝の権威を借りるけど、ダメ押しでそれと共に伊勢神宮・熊野大社・稲荷神社・赤城神社の印を押すのです!
すると皆はどう思う? 」
それは畏れ多いし、神に祟られる、恩恵を受けられなくなると思えば、偽造する者は極端に少なくなろう。
「だから今、印刷局作っているわけ♪ お札と一緒ですね」
とりあえず、実施してダメならそれまでに銭の供給を増やせる方法を考えると、殿は続けた。
まさか大胡18万石が日ノ本の銭を動かすとは思ってもみなかった。
改めて振り返ってみると、東国すべての米の価格を大胡が決めてしまう仕組みがこんなに儲かるとは、うまやばし屋と父とで仕組みを考案した時には思いも寄らなかったのだ。
1553年7月中旬
上野国華蔵寺公園西工業町
冬木元頼
「親方。あと2万ほどでとりあえず完了だな」
工業局の鶴太郎に注文の確認をしに来た。
当初の予定である4里(16km)のはいうえい。
大胡を中心とした那波までの南道、厩橋までの西道を、ここで焼いた煉瓦で敷き詰めている。
煉瓦の隙間にはコークスを作るときに出るタールを詰めている。
街道の幅は2間半(5m)。
現在使用している大胡車が余裕をもってすれ違える幅だ。
大胡車はようやっと改良が施され、不整地でもバランスを取りガタゴトする上下の動きを、鉄製の車軸と制動装置で荷崩れを防止できるようになってきた。
それを馬や牛で引く。
この道なら1刻で1里は引けるので単純計算で4刻(8時間)で、朝に八斗島にて荷下ろしした物を夕方には大胡まで輸送できる。
ここ華蔵寺で作った鉄なども2刻あれば八斗島の集積所に届けられる。
兵の移動も横に4人並び1間ごとに縦隊を作ると、1000人の移動は5町(550m)の長さで済む。
これは大変重要だ。
大胡から後詰が1000人到着するとして、普通なら布陣するまでに1刻程度は掛かってしまうが、これなら横隊を作り展開するまでの時間はその10分の1くらいで済む。
ましてや常備軍の行軍速度はこの道なら1刻で3里(6km/h)は進める。
他の大名の行軍の2倍は速い。
苦労した甲斐があるというものだ。
「じゃあ、そろそろ高炉がつぶれる(壊れる)と思うんで、そっちの煉瓦作ってもいいですかね。
俺もそろそろ磁器を作らないと。
殿さんを待たせちまう」
??
殿が何かまた始めるのか?
「へえ。
今度は殿さんが絵付けをしたいとか言い出して。
都からお師匠さんを連れてきたとか」
また新しいことを始めたのか。
殿は本当にいろいろと手を出される。
人生を楽しまれているとつくづく思った。
次の日
鶴太郎
「昨日、言い忘れていました。重要なこと! 」
工業局で執務している冬木様の所に急いで飛び込んだ。
「どうした? 親方。
炉でも壊れたのか? 」
「違います。
もっと大変で。
石炭が足りません。
あと少しでも増産すれば限界です。
すでに輸送が追いついてねえし」
あまりにも高炉や反射炉、煉瓦を焼く炉が増え、高崎の観音山丘陵の露頭から掻き出してくる量では間に合わなくなってきている。
利根川を使用した九州の石炭の搬入も限度がある。
高崎の本格的な採掘をせねばそのうち生産が頭打ちになる。
まだまだ鉄や煉瓦の需要は多いだろう。
最近は建物にも使用するという案も出ている。
「高崎というと和田殿の領地か。
大々的に掘るとなると北条などの目が気になる。
今しばし我慢してもらうしかないが……
金堀衆の手配はしておくか。
承知した。
よう教えてくれた」
大胡のお侍は何かを自分で考えて仕事をしてくれる。
丸投げはしない。
無理なことはたまに言うが、それは無理と言うと数にして説明しろと言う。
こちらも我を通すためには見通しをしっかり作り、数でもって目標や成果を報告せねば、納得させられぬ。
これもすべて殿さまの真似しているだけだと言う。
どれだけのことを殿さまはしているのだろうか?
せめて趣味であるらしい磁器の絵付けぐらいは楽しんでもらうように、色々な物を作って差し上げよう。
赤城西側山麓
飛猿
ここ赤城西側山麓は北風が強い。
赤城と榛名に囲まれた地域よりも弱いが、それでも吹きさらしの峰筋は里者では立っていられぬほどになる時もある。
その強風にも倒されぬことを確認した後、実際の動作確認をする。
真田の殿の指示にて作った「腕木式信号機」。
狼煙では風の強い時や雨の時は使えぬ。
だが、これならば視界が悪い夜や霧の時以外は半里先まで見える。
我ら素ッ破のように目が良い者がここに配置されれば、沼田や岩櫃に異常が起きた際には我らが走るよりも素早く伝えることができる。
この信号機は柱に取り付けてある上下に回転する腕木をどの角度にするかで信号を送る。
見やすいように赤白の縞模様に塗られている。
また、手旗によるものも考案された。
こちらは移動できるので戦場などで使用される予定だ。
定期的な信号以外にも緊急な報せも繋げるように常駐する者を置きたいが、まだ人が足りぬ。
必要な時は大筒による音で知らせることも考えているそうだ。
山間なので音が籠り遠くまで聞こえる。
これでも十分危急の時は伝わるであろう。
とりあえず北への伝達設備は整った。
殿に報告しよう。
厩橋城下うまやばし屋
蔵田屋五郎左衛門
「久しぶりの大胡の殿さまですね。
この前は米の価格操作の仕組みを作った時でしたかな」
隣に座る梁田屋さんがにこにこしてほうじ茶を口に含む。
初めて大胡様にお会いしてから、東国の豪商と言われる商人を全てこの大商いに誘い終わるまで4年かかった。
昨年から米の値段を始め様々なモノの値段を入札して決めることになった。
ここ大胡・厩橋は東国の真ん中といってもよい場所にある。
人を走らせればいち早く情報が集まる。
どこで米の値段が高くなっているか?
今後どう変化するかをそれぞれの商人が予想して様々な取引をする。
それで利益を出す者、損をする者もいるが、元の使い方は「保険」という仕組みだ。
秋に「この値段で買う権利」を手に入れるため。
「売る権利」も売買される。
そして、抜け目のないのは大胡の殿だ。
その売買に拘わり一定の手数料を貰うことになる。
博打でいう所の「寺銭」である。
これで一定の収入が毎月大胡の懐に入ることになる。
これがすごい収入となっている。
もう大大名など足元にも及ばぬほどの収入であろう。
「待たせちゃった~~? ごめんね~」
殿が入室し上座に座る。
前は「上座なんかやめて~」と辞退していたが、毎度のことで面倒臭くなったのか、今はおっしゃらなくなった。
「政賢様、本日は如何様な案を思いつかれましたのでしょうか?
ここまで足を運んでいる最中ずっとお話を聞くのが待ち遠しく思いました」
私が言うと、政賢様は熱いほうじ茶を飲み「アチアチ」と言いながら話し始めた。
「うんうん。
今度も面白いこと思いついちゃったんだぁ。
策謀、策略の類なんだけどね。お金は儲かると思うよ。
でも民を困らせることにならないといいんだけどね」
いつも政賢様はどんなに妙案でも、民に迷惑がかかるかかからないかで最終判断をする。
「実はね、もう気付いていると思うけど、今年秋には北条との最終?決戦をすることになるよ。
その時には北条はもう経済的に土台がすっかり傾いているからあまり心配ないんだけどね。
だけど武田が出てくると思うんだ」
やはり秋か。
小田原の宇野屋さんからもそのような話が入ってきている。
甲斐の坂田屋さんからは、まだ何も聞いていないが……
「多分、まだ内密で事を運んでいると思うし、そんなに大規模な出兵はしないと思うけど、碓井峠を越えて来ると思う。
兵3000も来れば西上野の国衆は味方してくれなくなるなぁ。シクシク」
泣いた振りをしているが、多分勝算がお有りなのだろう。
それはこれからの話で分かるだろう。
「でね。兵3000以上来られると拙いんで、ちょっと細工をね~♪ 」
「では米の値段を吊り上げるとか? 」
「それやると甲斐信濃のお百姓さんたちが困る~。
だから、武田家の帳簿を直撃する策を撃ちまぁ~す! 」
何をするのでしょうか?
なんだかワクワクしますね。
「あのね。
武田の出した借入証書。この値段を暴落させるの。
すると……」
!
「武田には、誰も何も売りませぬな。
信用が失くなると当然そうなるでしょうな」
「うんうん。
荷止めよりもシビア……きついよ~きっと。
だからもう春からやっちゃおうかと。
それで来てもらったの。
みんなで武田の証文を空売りするの。
これ時間がかかるでしょ?」
いつもとてつもないことを考える方だ。
これでどちらが勝とうが、兵が無事であった武田の証文は暴騰。
戦の終わり間際に買い戻せば大儲けとなろう。
新たに借りるとすれば年利40割などということになろうか。
商人にはそれとなく寺や土倉・国衆に、一時的に売りつけるように示唆しておこう。
こうして政賢様は天下を裏から支配するおつもりか?
はたしてこの仕組みに気付き、対抗する大名は出てくるのであろうか?
気づけるのはあきんど的な考えを持つ者だけだろう。
気づいた大名国衆は大胡の味方にしていくのであろう。
それ以外は潰してしまうおつもりのようだ。
作者はきちんと理解していないと思うけど、上念司「経済で読み解く日本史」をちょっとだけ参考にしています。
これ面白いです。
日本最初の紙幣は山田羽書というものです。
伊勢神宮の門前町で使われました。
1600年ころです。
その当時はやっぱ、神仏の影響力は、パないです。
多分、書かないと思うので説明しよう!
政賢はワーテルローの際のロスチャイルドを二番煎じするであろうことを。
こいつ、つくづく噂・流言飛語使うの好きだなぁ。
まあ、素ッ破って結構それやっていたみたいだし、いっか。




