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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★殿さまになっちゃうゾ★★
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【先物】銭が大事だよ。米転がしで大儲け。



 1990年3月上旬・大阪堂島先物取引所資料室展示会

 【我が国の米先物取引所由来】


「我が国の米先物取引市場は、堂島の米先物取引所が1622年、江戸政府の正式な許可を得て発足したのはよく知られています。


 しかしながら、江戸政府が発足するまでにも戦国期大胡氏が、米の相場を動かしていたという事実を知る人はそう多くはありません。


 その伝説的な取引は単なる物語だとされてきており、江戸期の創作であったと認識されていました。


 しかし近年「200貫の証文」という寓話が実話であるらしいとの見方が、当時の第一級史料の発見により…」





 1538年8月上旬

 上野国厩橋長野道忠屋敷

 長野道忠(人が好過ぎて騙されそうな主人公の大叔父さま。33歳)



 松風が4歳になった。

 相変わらず聡い子だ。


 手習いは賢祥殿がびっくりする勢いで上達したが、ある程度のところでそれ以上上手くはならないようだった。


「読めればいいのです~♪」


 と、松風は平気な顔をして言う。


 反対に算術は誰も手に負えないほど得手になっていた。今度は、実際の商売に使う算術が知りたいと言い出した。私の知る限りでは、倉入帳を管理している内藤殿しかいない。しかし、それではないという。


 何が違うのかは全く分からないが、商人の商売に使うものが知りたいというのだ。しかし伝兵衛には教えられることがひと月もしないうちに全くなくなったと言われ、うまやばし屋(越後蔵田屋が上野に出している店)の番頭に相談したが、言を左右にされ断られた。

 2~3歳の子供の遊びには付き合っていられないという表情が見て取れた。


 そんな時、お城の内藤殿の所に、飛び込みで商いの話を持ち掛けてきた行商人がいた。内藤殿は私の相談を覚えていたらしく、


「2歳の子供に商売の基礎を教えられるものなら、取引を考えてやってもよい」


 と、からかい半分で言われたらしい。


 だが、行商人も必死だ。

 新しい販路を開拓できるのなら何でもすると意気込んで我が家の門をくぐった。

 その結果がこれだ。


「叔父上。改まったお話がございます。聞いていただけませんか?」

「なにかな? 畏まって。何か妙案でも思いついたかな?」


 藤で編んだ円座に座り、畏まってこちらを見ている。笑ってしまいそうになるのは、4歳の割には頭が大きく、さらにはたまに後ろに転がる癖があるため、見ていて危なっかしい。


 それでいて大人びた言葉も覚えてきた。普段は、語尾が伸びるのは相変わらずだが……


「はい。ここからは内密の話です。すべての戸を開け放っていただきたく」


 私は、落とし戸も全開にし、室内は上座の面の少しの壁だけが残り、あとの戸をすべて取り外し、柱だけになった。

 蒸し暑い今日も、これで少しは過ごしやすいな。これで聞く耳を立てるものはいないだろう。そうしてから改めて聞くことにした。


「叔父上が保管している関東管領殿の証書。それを使って軍資金を作りたく思います」


「!? なぜそんなことを知っているのかな!?」


 思わず、声が大きくなった。

 それを知っているものは、今は父の賢忠と兄・道安、それと私だけだ。


「御爺様が正月に某のところへ酔い覚ましに来られ、譫言(ざれごと)と言いつつも教えてくださいました」


 父上か。困ったものだ。

 その調子で、ほかにも漏らしていないか、あとで調べねばならぬ。


「それで、どうするのだ。あれは其方の母が身に変えて手に入れたものである。もしもという時に使うものであるが……」


「多分、これからもしものことが起きまする。来年の夏は各地で大洪水が起こるくらいの野分がいくつも日ノ本・特に坂東と畿内を襲いまする」


 真面目な顔で大事がこれから起こると、普通ならたわけたことと一蹴されることを言う。


 だが、この神童(最近はこう思うようになってきた)が言うことだ。

 なにか訳があるに違いない。



「計算を教えてくれている磐梯屋藤五郎に各地の伝承を集めるように頼みました。

 これまでの記録によれば、おおよそ日ノ本は5年おきに大災害に襲われています。

 各地の古老によれば、来年あたり何かが起きるとのお告げが多くのお社様から出ているとか。

 今年、米の買い付けをしておけば相当な利益が……」



 私は思わず声を荒げてしまった。


「あの証文は、そのような山師的なことに使うものではない! あの証文はな!!」


「お待ちください。商人の技をもってすればほとんど被害なく取引できまする。まずはお聞きくだされ」


 天井を見上げ、眼を瞑り、深呼吸をして心を落ち着けた。聞くだけ聞いて、また叱ってやろう。

 これだけは引くことはできない。


「商人は商品を安いところで仕入れ、その商品が高く売れるところへ持っていくことで利益を得ます。

 それは時期をずらすことでも同じことができまする。米は1年間ならばそれほど安くなりませぬ。それどころか秋に仕入れ、保管しておくだけで価値が高くなります。それをさらに安い陸奥や越前越中越後で仕入れ、高い地方に運ぶことでさらに利潤を上げることができます。


 具体的に言えば、陸奥においては不作でない限り銭1貫文で米4から5石が買えます。それに比べ坂東では通常銭1貫文で米1から2石です。

 坂東までの輸送とこちらでの保管を差配できれば、どんなに坂東が豊作であっても陸奥で安い米を買っておけば損はございませぬ」




 これを磐梯屋から聞いていた商いの手法から練っていたのか。しかし、陸奥が不作であればどうするのだ。



「その時は買いませぬ」


 当たり前の如く言う。

 考えてみれば後出しじゃんけんである。陸奥が豊作の時だけ買えばよい。あとは坂東の米が普通の出来であればよいし、豊作でも米どころの陸奥よりも安くならなければよい。


 買いたくないときは買わない。そこが常に稼がなくてはいけない商人との違いと言っている。

 そのあたりは既に計算してあるのだろう。それでいて逆に坂東や畿内が不作であれば米が高くなるので利益になるのだという。このような私には考え付きもしないことを4歳の子供が考えていたとは。


「磐梯屋もうまくいくと言っていたのか?」


「はい。商人の出番がないと言っていました。それと……」


 今度は何だろうか。


「証文ですが、それを元手に10倍の米を買います。200貫を手数料として支払います。その代わり運搬警備保管の全てを任せます。


 今年の秋、収穫米2000貫文分を再来年の夏から秋にかけて売りまする。もし来年が不作ならば、最低でも2200貫文以上で売れます」



「しかし、必ず売れるとも限るまい。また野盗に襲われるやもしれぬ」


「そのことですが、大店・商人司に保証してもらうのです。その手数料も含めての200貫文です」



 何とも隙のない図り事だ。舌を巻いた。


「このことは磐梯屋と保証人の商人司、多分会津の梁田屋以外には漏らさぬようにいたします。証文の存在も秘すことが必要でしょうから」



 ここまで聞くと、私も乗り気になってきていた。


 松風はいずれどこかの国衆を継ぐことになる。血筋が断絶することなど、よくあることだ。その時の立場を盤石にするために、今から少しは増やしておくのも悪くない。


 この証文は本人のものだ。

 ここまで賢くなっているのだから、大人として扱うことも大事だ。その伸びる可能性をたわめてしまうことは、私にはできない。


 しかし、これが4歳の童の考えることとは。

 益々先が楽しみだ。







 無粋な説明しますと、先物市場は1722年に開設されましたw



陸奥(東北地方)を米所としましたが、実際にはこの当時、現在のような生産高を持っていません。

しかし安いことは安かったよう(人口が少なかったせいのか?)なので、「とりあえず」その様にしておきました。

江戸時代の相場はもっと安かったとのことです。




 この叔父様。いいお父さんになれるけど、きっと怪しい金融商品には騙される(^▽^;)

 作者、投機は大失敗ばかりしたからこんな話書いています(笑)



【作者からのお願い】

 続きを読みたい!

 金大事だよね、絶対。

 自分こそ金儲けの夢を叶えたい!

 内政でチートしたい!


 そんなことを思われた方はブクマと、ここまでの出来を一つでもよいので★で評価していただくと大変励みになります。よろしくお願いします。

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