【調略】ここはやっぱりあのセリフで
いつも誤字報告ありがとうございます。
また作者の至らぬところ間違え、知識などをお教えくださり大変助かっております。
それだけ愛読していただけているのだなぁ、と、感謝の気持ちでいっぱいです。
初投稿でこれだけの御支持をいただけるとは何たる幸せ。
これからも頑張ります。
倒れない程度に頑張ります(^▽^;)
1549年11月下旬
上野国八斗島の渡し。料亭豊受
松田盛秀(北条の外交担当)
この料亭の二階の窓からは、この渡し場とそこに併設されつつある河岸に無数の桟橋、そこに留めてある大小の船が一望できる。
ここはつい一年前まで、普通の渡し場であったとか。北武蔵と上野を繋ぐ重要な渡し場であるにもかかわらず、那波家はあまりここを重要視しなかったらしい。舟役(船の通行料)を取るだけであったという。
なんと愚かな。
じゃが、発展させようにも食うにも事欠く有様で、開発などできなかったのじゃろう。
それがどうじゃ。治める者が変わった途端にこの勢いで発展して居る。
関宿(利根川水系の一番の要衝)程ではないにせよ、ここでは多くの舟役・津料も取れる。
しかし、新しい支配者である大胡は全く舟役を取らないばかりか、大量の銭を投じてここを発展させ河船衆の集まる街にしつつある。遡上する荷はここで小舟に積み換え、西上野の河川に運ばれていく。
いわば西上野の生死を握っているわけだ。
大胡は益々繫栄するであろう。また風魔を頻繁に入れ草を増やさねばならぬ。
「御待ちのお方が見えられました」
仲居が襖を開ける。そこから入ってくる若侍。これが大胡政賢であろう。
後ろから大男の側使えも入ってくる。こちらの供のものが思わず脇差に手を掛ける。それほどの迫力がある。
儂は眼で「控えよ」と合図を送り、大胡殿に向き直った。
「ようこそおいで下さった。北条氏康殿の使者の松田盛秀殿でよろしいかな?」
15にしては落ち着きのある物腰だ。眼の輝きもよい。体躯は小さいが声は良くとおる。
これが、垪和や那波を討ち取った武将か。当人が首を取ったわけではなかろうが、その豪の者を使いまわす力量と智謀、尋常ではなかろう。
こちらの被害も尋常ではなかった。この八斗島を赤く染めた惨劇が繰り広げられたらしい。兜首は全て討ち取られ、足軽雑兵は恐れおののき自ら増水した利根川に入り、遠く江戸湾にまで死体が流されたと聞く。
北条の武者がいなくなった時、大胡の兵は追撃をやめ、逆に仏にでもなったかのように水と米の飯を与えて引き払っていた船を呼び戻し足軽共だけを南岸へ送り返してきた。
それ以来、北武蔵は不穏な空気に包まれている。上野を恐れ、いや大胡を恐れること甚だしく。しかし、反面大胡を支持する向きもある。
このままではいかぬ。氏康様が儂に「大胡政賢を調略せよ」と下令したのも無理からぬこと。
「関東管領、北条氏康の名代として罷り越しました、松田盛秀と申すもの。以後良しなに」
「おお、あの伊勢盛時殿からの忠臣である宿老松田殿でござるな。こちらこそ宜しゅうお願い申す。して此度の御用は何でしょうかな?」
「先の赤石での戦、誠にあっぱれと我が当主が褒めてござった。このような武将が当家にも欲しいものであると」
「これはまた……スト……真っ直ぐな物言い。爽やかなることは好みでござる。では先の戦、川越も松山の事も、もちろん那波のことも許して下さると?」
「そう申しております。さらには貴方様のご器量を認め、西上野の旗頭として奉公していただければと。残念ながら婚儀の件はなくなり申したが」
まあ、素直に受け入れるとはこっちも思っておらぬ。どのように返すのか見たいだけじゃ。
「臣従いたせば、本当に……本当にあの流血を水に流してくださる?
本当に信じてよろしいのでしょうか?」
「そう申しておりました」
ついつい笑顔になってしまう。本当にこれで納得がいくのか?
すると、政賢殿はこちらをねめつけ一言。
「だが断る」
(一度これやってみたかったんだ。きまったな!)
毅然とした態度で、断ってきた割にはぶつぶつ何かを言いながら、ニヘラと笑っている。よくわからぬ御仁じゃ。
とにかく全く取り付くしまがない事だけは分かった。
これでいつかは全面戦争となろう。まずは安中と小幡がいつ転ぶか。
その後は氏康様と宿老供とで協議じゃな。
1549年12月中旬
上野国平井金山城
長野業政(中間管理職は辛いよ‥…中間管理職なのか?黄斑よ)
安中と小幡が北条に寝返った。そして先程まで平井の金山城を攻めていた。
「遅い! 遅いではないか! もっと早く後詰いたせ。さすればあの憎き裏切り者、安中と小幡を討ち滅ぼせた!
お前のせいじゃ!」
最近、益々阿呆に磨きがかかってきたな。関東管領職が汚くなるわ。誰かに譲ってくれまいか。お主に忠誠を誓っておるのではない。その職に忠義を尽くしておるのじゃ。政賢殿の言う通り、越後の景虎殿あたりに引き取って貰えまいか?
「は。申し訳ございませぬ。この業政、不覚にござりました」
「ええい、もうよいわ。して、あ奴ら2人は滅ぼせるのか?」
無理じゃわい。
「残念ながら、それぞれ500以上の兵が堅城に籠っており、お味方3000ではなんとも攻めあぐねてしまいます。そうしているうちに北条が北進してきましょう」
「足利の長尾は家宰であろう。呼び寄せられぬのか!?」
「周りの由良などと諍いを起こしており、惣社の長尾に全て委ねるとのこと。惣社の長尾殿は白井とともに少々、腰が引けておりまする。憲当様、白井を通して越後長尾に助力などを下令してみられては?」
「そのようなことは、既に試みておる! あの晴景、言を左右にして動かん。不忠者め!」
こいつは餓鬼か? どうせ一方的に命令したのであろう。もう三十路前なのに世間の事は何も学ばなんだのか。
思えば哀れよ。それに比べ、政賢殿は50年生きている儂よりも老獪じゃ。
「今、無理をして小幡と安中を攻めれば、武蔵阿保の御岳城が危険でござる。攻城中は急には後詰できず落城の危険も」
「ええい、何とかならんのか!? 存念を申せ」
「然らば。上様に置かれましては何故大胡政賢殿をお使いなされぬのか? 北条への防壁となされてはいかがか。あの者は若いながら知勇兼備の名将とも見受けられまするが……」
儂が大胡と言ったとたんに、こ奴の眼がぎょろりとこっちを向いた。物の怪の取りつかれているのかと思ったわい。
「あ奴は人ではない。居てはいかぬのじゃ。この上野に、日ノ本に、この世に! この……にっ!!」
いったい、なにがこうまで言わしめるのか?
ひきつりそうなほど興奮している管領殿をしり目に御前を引きさがった。
1550年4月上旬
信濃国砥石山城
矢沢綱頼(この人も真田一族のスーパー武将なんですねぇ)
「よう来てくれた、兄者。久しいのう」
儂は実兄、真田幸綱殿に挨拶をする。
今は敵味方に近い立ち位置だが、昔から馬が合う。
殿をつけるのも気が引けるが、一応他家。
形式は大事じゃ。
「やはり冬を越してからの越山で良かったわい。
今少し早く来たかったんじゃが、命あっての物種じゃ。
しかし、4月でも冷えるの。
やっと信州に帰ってきた気がするわ」
真田は海野平での戦で、信濃を追われた。
儂は矢沢の家であったからそのまま村上の世話になったが、兄者は上野の長野業政殿の厄介になっていたと聞く。
その後の話は漏れ伝え聞くところによると、北条の大軍を寡兵にて派手に打ち破った大胡家という国衆に仕官したとか。あんなに上田を愛してやまぬ兄者が、なぜ上野の国衆ごときに仕官するのじゃ? 今夜は酒を交わしながらじっくりと聞こうか。
「して、村上はどんな様子じゃ? 意気軒高かの?」
兄者が持ってきた酒(なんとあのくそ高い焼酎じゃった)を酌み交わしつつ、お互いの近況を聞く。
「ああ、先の志賀城の生き残りがこの砥石城にて詰めている限り、武田はここを落とせんじゃろう。相当の恨みが積もっておる」
「……そうか。恨みか。儂も上田を追い出された時は怒り恨んだわ。
しかしの、今はそのような暗い心根から解き放たれたわい」
「なにがあったのじゃ?……大胡の殿か?」
「そうじゃ。人生が全く変わったわい。以前は調略などもどす黒い下心を持ってやっておった。
じゃがの大胡の殿に会って考えが変わった。相手の事を誠心誠意、このお方は何を望んで生きておられるのじゃろうか? そんなことを考え始めたのよ。お主に会うこともそれが目的じゃ」
なんと。儂を調略する気か?
なんの得がある?
村上の敵・武田は、上野の上杉と敵対して居る。そこを弱らせてなんとする?
「儂はの。望みのない刹那の戦は嫌じゃ。先に明るいものが見れられる戦じゃったら、命も惜しまぬ。
じゃがな、意地と復讐だけで命を粗末にするものを見るといたたまれん……と、大胡の殿は申しておった。
儂も同じじゃ。じゃからこれを持ってきた」
兄者は後ろに置いてあった一抱えもある包みを前に出した。
「これはの。上野に逃げ延びた志賀城の生き残りからの手紙じゃ。
100通余りある。
できるなら志賀城の生き残りの者に読ませてやってくれい。家族親族を残している者もあろう。その者に今一度考える機会を与えて貰えんじゃろうか。
この通りじゃ」
兄者が儂に向けて深々と頭を下げる。しかし、儂もこの城を守る足軽大将の一人じゃ。そのような文を預かり読ませることで、士気を下げるわけにはいかぬ。
「多分、今年7月ごろには晴信の健康が回復しよう。その際、真っ先に攻略対象になるのがここ砥石城であろう。その戦のあとでも構わぬ。もし家族一族一緒に安寧に暮らしたいものがあったのなら上野で歓待しようと殿の仰せじゃ。土地も只、年貢は4割じゃ賦役も少ない。そして戦に出る必要はない。極楽よ」
そのような事信じられぬが、もし真実であったとしてもそれがいつまで続くのか? 信州上州辺りは周りの強者に良いように翻弄される運命にある。それを問いただした。
すると兄者はこういった。
「大胡の殿はいずれ上野を支配、そして天下を平らげるであろう」
と。
儂は何も口を挟まず酒を飲むだけであった。
兄者をここまで心酔させる者はいったいどのような男であるか少しばかり興味が出た。
「おおそうじゃ、その焼酎はの。殿御自ら開発、製造したものじゃ。その肴、香ばしい干し肉も乳を固めたものもすべてお手製じゃ。お主に持って行けと言って三日ほど殆ど寝ずに作っておった。
そんなお方じゃ」
……もし今年、戦が起こりここを守り切ったなら、儂も会ってみようかの。
その御仁に。
少し興味が沸いてきた。
酒のせいで良い気分になったせいもあるかもしれんが。
上杉憲政
こ奴の一人称は書きたくない。
PCが穢れる。
(この作品のキャラのことですよ。実在の人物ははるかにましだと思います)
自分で創作しながら反吐が出る(T_T)
現在執筆中の原稿、遂に対北条決戦開始となったのですが、その関係上、第1話「決戦」の時期が1年早まり「1553年11月下旬」となりました。
ご迷惑をおかけいたしますm(__)m
【作者からのお願い】
続きが読みたい!
焼酎ってそんなに高級品だったの?(1555年までは超高級品です)
そんなに簡単につまみをすぐ作れると思えないとツッコミを入れたい!
やばいよ。砥石崩れはどうなるの??
そんな風に感じた方はブクマと★を1つでも結構ですので付けていただくと大変励みになります。よろしくお願いします。
作者、病弱故、エタらないように★のエネルギーを注入してください!なんとか最後まで書かせてくださ~い