【箕輪】山城無くしてやる!
政賢くん。
現代にいれば、スポーツテスト恥ずかしいことに……
「い~もん。首の上さえあれば生きていける~♪ 政影~頼りにしてるよん」
1999年2月26日:群馬県観光案内サイト「DANVEY」
【VR動画音声より】
「……この辺りが箕輪城の本丸です。
空堀で二の丸と仕切られています。
幅は当時の長弓で狙い撃ち・甲冑を貫通できないように20間余りあります。
堅城として知られた箕輪城ですが、戦国末期になると山城は廃れ、交通に都合の良い平城へと移っていきます。
特に上野国は大胡政賢により交通網が整備されたことにより……」
1549年2月下旬
上野国箕輪城
長野政影
ひぃ~ひぃ~ひぃ。
殿が一歩足を進めるごとに、悲鳴のような呼吸をされている。
初めての山城だから仕方のない事なのか……
いや、それほど高い段差ではないのだが。
そろそろ体力をつけてもらわねば、いざというとき逃げられぬ。
「政影く~ん。いつもの様におぶってくれない??
もう足がガクブル。
あ、これは表現ミス」
一応背負子も持ってきてはいるが、周りの箕輪の侍がそれを見てどう思うか。
使うことは憚られる。
「殿、それほどお辛いのならば、先に用意された子馬を……」
「あれはだめ!
すぐ僕の頭を噛んでくる。
きっと見下してるんだぁ~」
動物は人のやさしさ等は通じるはずなのだが。
殿の優しさが伝わらないのか?
……多分、単に、面倒を見るのをさぼっているだけなのかもしれぬが。
(絶対、山城なくしてやる! だから一刻も早くハイウェイ作るんだぁ~)
また何かを呟いておいでだ。
「殿。儂が尻を押しますれば、もう一息頑張り召され!」
今回、護衛で付いて来た後藤殿が後ろから押して、やっと大手門などをくぐり業政殿との会見場所である建物についた。
中へ通されると、上座に業政殿が座り、太刀持ちと小姓2名が控えていた。
こちらは後藤殿が外で待機。
某のみ太刀を預け、殿の左に座った。
「此度は縁談の話。誠に感謝して居り申す」
殿がまず頭を深々と下げた。
「そのことで直接話したいと?
如何したのでござろうや。ご不満でもあろうか?」
「不満など滅相もない!
恐れ多くてびっくり致すとともにこれでよいのかと、思慮いたしました」
殿は、此度の案件をなかったことにしたい。
縁戚にならず状態での同盟を望んでおられる。
それもできれば密約。
「これではいかぬか?」
「はい。これ以上長野一族が結託すれば、いかがなり申すか?」
「……良い事ではないのか?
事に当たって一丸となれる。
来る北条戦にも結束して強兵を持って対抗できような」
「はて。上野勢は一丸となり北条と戦うとでも?」
それを聞いて業政殿の白くなりつつある髭が逆立ったように見えた。
「関東管領殿の命が下れば、北条の奴原で屍の山を築くのは我が西上野の国衆の務めではないか?」
「先の那波城攻め前の評定。無様でござった」
殿はあくまでも静かに涼し気に言う。
「あの中で、何人が本気で戦う気で居りまするか?
長野以外の国衆、某は見つけられませなんだ。
この状況で北条を相手取るのでしょうか。
しかも旗頭は、あの平井におわす傀儡殿。
お勝ちになる勝算如何程で?」
業政殿は、じっと殿を見ている。
怒り大声を出して席を蹴ると思ったが、ずっと見ている。
「では、其方は北条に寝返れと?」
「いいえ」
業政殿が不審な顔を成される。
「戦と寝返り。それ以外の道があるとお考えかの?それならばご高説をお聞かせ頂こう」
目を細め、嫌味を込めて殿をねめつけてくる。
へそを曲げる寸前と見た。
「では失礼仕り、某の策を……」
同日同刻
箕輪城
長野業政
儂とて、このまま北条と戦って勝てるとは思ってはおらぬ。
じゃが、250年の長きに至る関東管領殿への忠義、十有余年続いた北条との戦。
これを今更変え、コロリと転ぶのは坂東武者の矜持が許さぬ。
享徳の乱よりこっち、コロコロする奴腹の多い中で、忠義を尽くしてきたことが我が長野の誇り。
それもここまでとあきらめておったが、いずれ転ぶとしても、我が長野一族一塊で行動した方が同族相争うことはなかろう。
そう思い、最近頓に力を伸ばしてきた大胡、政賢は長野の血だが家として長野に取り込もうとした。
それが此度の縁組じゃ。
それを断ろうとするのか?
この者は。
「某の見立てでは、今後、まず安中と小幡が結託、平井を攻めると思いまする。
本来ならば那波が西上野の国衆を調略することと並行して揺さぶりをかけるはずでござった。しかし」
「おぬしが喰ろうた」
「はい。
そして安中・小幡は孤立いたした。
それで諦める2名ではござるまい。
必ずや北条に転びまする。
その際の手土産。それが初の平井攻め」
「じゃが、倉賀野は倉賀野衆の縄張り。
それ以外の緑埜(藤岡付近)は全て管領殿の直轄地。
もしもの時は後詰を期待できぬ。
それでも反旗を翻すか?」
「はい。
2名の目標を鑑みれば自ずと。
あ奴らは長野の下に付きとうはないでしょう。
決して。
ですから長野より先に氏康の馬前に膝を屈せねばなりませぬ」
「……」
何を言いたいのか……だんだんわかってきた。
「然るに長野が結束して居れば反旗を翻すのを憚られるでしょう。
攻められる危険がある。
ですが結束力が弱い、特に某の大胡既に兵1400がありますが、この旗幟が長野に染まらねば2名は平井を攻撃、寝返りましょう。
よってあ奴らの運命を握っているのは某と業政殿であるかと」
「……では、あ奴らを暴発させるために、婚儀は致さぬと
?それになんの意味がある?
長野だけで北条と対峙いたすか?
その後結局臣従か?」
この若武者、何が言いたい??
「単刀直入にいえば、狸寝入りしていただきたい。
某が北条と対峙いたす故。
無駄な損害を出さず、ここ上野を独立した勢力に!
そのために一時的に北条に屈してくだされ」
!!!
なんと大胆な。
そして自信過剰ともとれる策。
しかし揚々、この若武者を見殺しにするような真似、武士として容認できぬ。
「そのような自信があれば、一緒に戦えばよかろう!なぜいかぬ?」
「ここ、利根川の西側の地。南と北、どちらかから攻め込まれて勝てますかな?」
そこか!?
確かに西への備えは狭隘な山岳地帯で、奇襲・伏撃が容易。
じゃが北は全くと言ってよいほど、防備に使える地形がない。
南も幅の狭い鏑川・烏川程度しかない。
これを寡兵で守るのは至難の業。
しかし、利根川の東は違う。
白井(沼田)から厩橋(前橋)の南5里までは5間以上の崖がある。
その下流は数々の河川が合流し、とてもではないが徒・馬匹の渡河はできぬ。
もし渡るとすれば厩橋城の付近しかない。
そこには堅城、厩橋城があり長野一族が詰めている。
「しばし、狸になってくだされ。
そのうちあの平井の馬鹿殿が安中小幡だけでなく、北条の本隊に平井を追い出されましょう。
すると……今、秘密裏に越後の長尾へ救援要請を送っている管領殿が、兵を借りて舞い戻って来ましょう。
その時、悪者は安中と小幡。駆逐される。
いや、させる。
そしてほぼ長野のみが生き残れます」
なんという、深読み。
これを先にその存在を教えてくれた情報網で掴み分析したのか?
これはかなわぬ。
その先を聞きたくなった。
「して、その後はどうやって、独立勢力となるのじゃ?」
「謙……景虎さん、強いけどまだ本人出てこれるほど領地が安定していないのでぇ~。
負けちゃって憲当くん、↓おっ持ち帰りぃ↑~~~♪
で、関東管領を殺さず、追い出せま~す!」
しゅぴっ、と音がするような勢いで立ち上がって右手を上に伸ばして・・・
なんじゃ?この軽さは??
「だから。お嫁さんもらえないんですぅ~~~ザンネン……」
今日はいろいろ疲れる。
何か今まで違うものを見ていたらしい。
この若侍も、上野の情勢も……
1549年3月中旬
上野国新田金山城
楓
先週、父上が嫁に行けと仰られました。
いつかはこの時が来るとは思っておりましたが、まだあと数年は先かと安心していました。
私は今年で15。
この年齢で嫁ぐのもよくあること。
しかし、いささか急なのではと思います。
まだ由良家には私しか子はおりませぬ。
母上が必死で止めたそうです。
嫁ぎ先は西上野の大胡家。
国衆としては大身だそうです。
つい先年、那波を平らげ勢いのあるお家だという事。
母上に言わせると、それでも北条を撃退したことで眼をつけられている危険な立場にいるとか。
この由良の家も北条に眼をつけられています。
だから一緒に力を合わせて対抗するために、私が嫁ぐと。
大胡の御殿様は、御歳15。
わたくしと同い年です。
それでいて隣の国衆を滅ぼした豪の者だそうです。
さらに多数の北条勢を跳ね退け、多くの者を討ち取ったとか。
きっと大男で髭が鐘馗様のような方なのでは、と、尻込みいたします。
できれば、お優しい方、明るいお方に嫁ぎたかった。
それも詮無き事。
「大胡の使者の方がおいていきました、姫様への御贈り物だそうでございます」
何でしょうか?
女子の喜ぶようなものを送ってよこしても、きっと側近の者が選んだものでしょう。
あまりうれしくはありませぬ。
玉手箱のような、螺鈿で飾られた四角い文入れをいただいたようです。
「何が入っているのでしょう?姫様、楽しみですね」
そうお付きの絹が促す。
結び紐を丁寧に解き、両手で蓋を外し中身を覗くと、中には沢山の手紙?
切封のついた立派な手紙が40通以上!
重なった手紙の一番上から封を切り読んでみました。
「……昨日、姫の輿入れ後の用意にと、街の木地総出で諸道具を作り申した。是非に使うてくだされ。勘定方・瀬川正則」
「……姫の好物が鏑漬けと聞き及び、場内にて畑を作り、蕪を作り始め申した。殿も泥だらけになり……武具周旋方・冬木元頼」
「……某は姫の手慰みになればと、お手玉を作り申した。またこれから貝合わせの絵を……東雲尚政」
「……儂は何もできませぬ故、今様の舞を披露したく練習中に候。次席家老・後藤透徹」
「……姫の健康を願い、今新たなる本草の組み合わせを調合いたして居る故、安心して大胡に……城代家老・大胡道定」
「だいじょぶ。こわくないよ~。みんないい人ばっかだから。ずっと幸せにするからね。新郎(仮)の大胡政賢です!」
……
この47通の手紙、全ての大胡家臣からとのこと。
びっくりするとともに、皆さま私が心細くあろうと思い、ご自分のできることを私のために準備してくださっていることに深く感銘を受けました。
何やら普通のお家に嫁ぐわけではないという事だけは分かりました。
ですが、心細さはどこかに逃げて行ったようです。
大胡と、大胡政賢さまはどのような所、お方なのでしょう?
戦国物のラノベで、よくある輿入れ。
他に(絶対?)ないストーリーにしたかったのです、はい。
大胡一家の面目躍如。
大胡の家臣団。
イメージは「風の谷のナウシカ」に出てくる風の谷の面々です。
あとは知る方もいないかと思いますが、「子鼠ニューヨークを侵略」のグランドフェンウィック大公国の面々です。
このシリーズ、すごく古い作品ですが、ぶっ飛んでいて面白いです。
イチオシおすすめ!