【縁談】いよいよモテキ?
結婚って、人生最大の決断ですね。
苦労もあるがそれ以上の喜びもある。
相手に合わせることを教えてもらいました。
1999年1月12日:とある結婚カウンセラーとクライアントとの会話
「……要するに現代社会における人権が普遍的な考え方と考えては歴史を正しくとらえられないのです。
もし貴方が戦国時代の武家に生まれたとしましょう。
自由恋愛で結婚できる人はほとんどいないはずです。
しかしその時代の女性が不幸だったと思いますか?
実はとても自由奔放に生きていたし、たとえ政略結婚でもその自分に与えられた場所、役目に自分の価値を見出したのです。
自分が変わっていくことも幸せの一形態だと思いますよ」
1548年9月上旬
上野国那波城
瀬川正則
殿のお達しに依り、旧那波領の内政全般を差配するよう仰せつかった。
そろそろ親父殿から離れて独立した仕事をすることを望んでいたため、喜び勇んで那波へ来た。
家臣は1名連れてきたが、もう60を過ぎた老臣なので頭が固く書類整理しかできないだろう。
その代わり、公園から飛び切り優秀な行政官を寄こすという。
そのものが目の前で三つ指をついて挨拶をする。
「華蔵寺公園から参りました。まつ、と、申します。
どうぞお仕事の事をお申しつけくださいませ」
まさか女子が来るとは思っていなかった。
だが殿のお墨付きがあるくらいだ。
きっと仕事はできるのであろう。
此度は実務の研修という事だ。
1~2年すれば殿の祐筆(行政書士のような仕事)として、戻るのであろう。
「で、では、これより殿による旧那波家臣と各地の庄屋への仕置をする。祐筆をいたせ」
「まずはね。
新田昌淳くん!
那波を落とした功で、楽隠居~。
でかい城郭付きお寺さん、華蔵寺で好きな本、いっぱい読んで楽して暮らしてね~
その代わり良い本一杯集めてね♪」
「ありがたき幸せ」
真田殿が、うんうんと嬉しそうに頷いている。
調略の際に、この条件で、との合意をしたらしい。
子息は武将としてよりも内政をしたいと珍しいことを希望するため、私の下で様々な仕事をすることになっている。
「つぎは~~~。……」
殿が次々と旧家臣と各集落の長(庄屋と名付けられた)に対して配置・村集落の年貢や賦役を確認していく。
まつはそれを確実に記述して整理していた。
なかなかの美形……コホン……
1548年10月上旬
上野国那波城
真田信綱
「いやぁ~。何度見てもここいら辺りは平地だね~。
赤城榛名があんなに遠いぃ~~~」
殿が、何度目かの感嘆の声を上げる。
急造ではあるが臨時の櫓を作り、四方を見下ろせる3重の建物を作った。
雨露を凌げる程度じゃが。
これから那波城の防備を固めるという。
縄張りの概略を記した見取り図を見て、ぶったまげた。
(儂もいささか上州訛りがうつってきたか)
今までの城郭の常識を全く覆すものであった。
「ここね。
2年くらいで20000の大軍でも跳ね返せる城にしちゃいましょ~。
でね、城代はとりあえず真田一族!」
「はっ。ありがたき幸せ」
この城は北条方へのにらみを利かせ、利根川・広瀬川・桃ノ木川の交通の安全を確保する要衝となる。
北条方が南から攻めるとすれば、ここを通らねばならぬ。
通らぬとすれば殿の親族である厩橋城を落とさねば大胡までこれぬ。
東は新田の由良殿の領地。
これで防備は整うはず。
儂はこの城の縄張りを任された。
大まかな縄張りは殿の着想じゃが。
その構造を知悉するものが、城主城代になるのが普通。
信州上田ではないが、儂の城となるかもしれん。
本腰を入れて、一世一代の堅城にせねば。
上田に城を作るときにはここよりももっと堅城に。
そのための精進だ!
「平地でもね。
いいお城作れると思うよ~。
お城はネットワー……うん、連携して初めて威力を発揮するから。
でね、ここと大胡・上泉城をハイウェイでつなぐの」
「はいうえいとは?」
殿は右の人差し指を口の端に当て、上を向いて一瞬考えたのちこうおっしゃられた。
「棒道、かな?
できるだけ速く移動できるように、真っ直ぐな道路を作るんだ~。
大分製鉄用のコークス作れるようになったので、タールが出ちゃうからこれで舗装、凸凹のない道にしようかなって」
つまり北条方がどこに来ても戦力を集中できるようにするという事か。
「内線作戦というんだ♪ 各個撃破、あーとおぶうぉ~~~~! しゅりーふぇ~ん!」
「で、殿。この城の見取り図にある空白ですが……」
儂は、途方もない玩具を与えられた餓鬼じゃな。
殿の戯言も耳に入らず、城の構造に夢中になっていた。
幸せものじゃ。
1549年1月16日
上野国大胡城
智円
今宵もまた昨夜に引き続き今後の方針を決める会議。
殿の隣には縦長の和紙に「目指せ。二枚舌外交」と書かれた物が吊るしてある。
「殿、二枚舌外交は危険ではござらぬか?」
何度も殿に問うてきた、当たり前の事を再び秀胤殿が口に出す。
現在、殿に縁談が舞い込んでいる。
それも二つ!
一つは箕輪長野氏から。
もう一つはこともあろうに、北条氏康からだ!
殿の実力を知って戦うよりも懐柔に来たのであろう。
それと同時に同盟……いいや臣従に近い条件での和睦を結ぶことになろう。
仮の条件として、上野国の旗頭の地位を約束するという。
普通の国衆ならば、舞い上がって縁談を進めるであろう。
しかし殿は一切、北条に膝を屈する気はないと宣言している。
そのうえで北条に受けるとの返事を出そうとしているのだ。
「返事を出してその後、どういたす所存であろうか?」
「半年、引き伸ばす」
「それは聞き申した。軍備が整うまで時間を稼ぐとも」
使者が来るたび、言い訳を伝えて輿入れを伸ばす。
もちろん同盟は組まず、臣従もしないで時間を稼ぐのだ。
「しかし、それでは北条家臣が怒り狂うでありましょう。
世間も大胡は信用おけぬと。
縁の薄い由良などの心は離れていきまする」
秀胤殿が常識的な発言をする。
これが一番殿に聞かせたい、普通の者の考え方だ。
「それに嫁入りする覚悟ができた女子はいかがなさる?
半年も待たされて、もはや傷物とみなされるやも」
これを聞くと殿は、「うううううう」と唸って、髷をちぎりそうになるまで引っ張る。
「お嫁さんは業政ちゃんか、由良くんのとこから取るのが定石!
でもね……どうしても時間稼ぎしたい!
あと2年、せめて1年、半年でもいい!
1年後なら天候も味方すると思う!」
鉄砲隊の事を言っているのであろう。
あと2年もすれば全兵への訓練配備が整う。
兵も2000近くを運用できよう。
「本当にお嫁さんに来てもらって、臣従や~だよっ、っていうのは?」
「無理です!」
「ですよね~」
大体、縁組にて他勢力との結びつきを強めることもできるが、それが外交の幅を狭める事にもなる。
「殿、今一度確認いたしたい。殿はなぜ北条に楯突きたいのでござるか?
そして関東管領家と縁切りするお気持ちはございまするか?」
殿は顎を捻じり天井を向いてしばし考えた後
「北条に取り込まれると、多分、北からと西からの侵入者との狭間で良いように使われ、摺りつぶされる。
ここは草刈り場だからねぇ」
北とは越後の長尾の事か?
昨年末、晴景殿に代わり守護代となった長尾景虎殿か?
大層な、戦上手とか。
西はもちろん武田晴信殿でござろう。
こちらも戦上手。
「では、長尾殿と武田殿に臣従することもござらぬな」
「うん。それもない! 同じことです~」
拳を握り、はっきりと断言する殿。
「では、管領の上杉家とはいかがなさる?」
一瞬の溜めをおいてから、殿は立ち上がり
「この上野国から追い出しちゃう!! のだのだのだ~~~」
追い出すか!
首を取れば後顧の憂いはないが、逆賊となろう。
かといって主人風を吹れても困る。
未だ、主従の関係は崩れておらず、それに縛られている豪族国衆が多い。
外交がしにくい。
「そのためにも時間が欲しいし、東の守りも捨てがたい。
でも、西上野の要、業政ちゃんも押さえておきたい~」
「それはわがままと申すもの」
(レアコレクターの血が……ハーレムのゆめがぁああ)
何かの妄想をしているらしい殿。
外交は戦争の一形態、外交の延長が戦争とも言っていた殿が、何を迷っていらっしゃる。
「然らば、時間が稼げれば北条の嫁を取るという選択肢はなくなりまするな」
「……そうなるねぇ。しくしく。初のモテキかと思ったのに……」
拙僧は問題を絞っていった。
「時間が欲しい。
これを解決する方法を考えること。
それから西と東、どちらを優先的に守るか。
どちらが大胡にとって戦力となるか?でござるな」
「あ~、あとね。そこから外交、調略がしやすい方ね。
特にあいつを追い出す布石となる方」
戯れていても頭はしっかり動いていらっしゃる。
安心した。
その時、秀胤どのが発言した。
「既に上野の国衆は管領家から心が離れて、北条方に靡くのは時間の問題なのでは?
ではその者たちに上杉殿を追い出していただくのでしょうか?
その時わが大胡はどうすればよいかという事でござるな?」
「そうそう~。
たねちゃん切れるね~♪
北条に寝返らないようにするよりも中立を保って、管領が出て行ったら上野を乗っ取っちゃう。
これがもくひょ~。
そのための布石がお嫁さんなのです!」
だんだんわかってきた。
時間を稼いで、できるだけ他の国衆の手で上杉を放逐し、その後上野の国衆を糾合する。
そのためには求心力のある西の長野業政、東の由良成繁を押さえたい。
このどちらかを姻戚関係として引き入れる。
由良は縁が薄いからこちらを優先したいが、業政殿がどう動くかという事であろう。
では……
「時間稼ぎは拙僧が何とか致す。
殿は業政殿と膝詰めにて腹を割ってお話いたせばいかが?」
「それしかないよね~。で、時間稼ぎのあてはあるのん?」
拙僧は力を込めて言う。
「是。里見を動かし申す」
VICTORIAの外交が楽しいです。
イギリスの二枚舌外交が鬼だ!
タールの量については見逃して下せえまし……
一応、絡繰りがあります。
コンクリよりも現実味がありそう。