【法則】法則は破るのが楽しい?
いつも誤字報告ありがとうございます。
何度読み返しても自分の目だけでは見つからないものですね。
1997年6月10日:クラタグループ合同新人研修会テキストP34
【ランチェスターの法則】
「本来は戦争研究から生まれたランチェスターの法則であるが、経営戦略にも応用できるので紹介する。
この法則には一次法則と二次法則がある。
一次法則では剣や弓を使用した戦闘においての、戦力差によって戦闘後残存する人数を計算できる。
二次法則は近代的な戦闘、つまり集団的かつ銃砲を乱射できるような戦闘に適用される。
概論として人数(能力)の多いほうが損害軽微で勝利するという……」
1997年6月11日:クラタグループ合同新人研修会テキストP35
【続ランチェスターの法則】
「昨日、戦力(能力)の多いほうが損害軽微で勝つと述べたが、その例外もある。
それを三次法則ともいう。
具体的には、敵の戦力を分断し、あるいは遊兵化することによって局地的な優位を得る事。
もしくは、敵よりも圧倒的に有利な条件、一次法則で戦う敵に対し二次法則の味方戦力で戦う事である。
例を挙げると剣で戦う軍勢に高火力の投射兵器をぶつけることに寄り……」
1548年8月30日午の刻(午前11時)
赤石砦南方4町北条方本陣
垪和左衛門太夫(なんだかおかしいぞ大胡の奴らは。と思い始めた先手衆大将)
総掛かりの法螺貝を鳴らして四半刻(30分)。
まだ長柄での激突が始まっていない。
弓合わせでこちらが押されている。
だが、弓兵もこちらが700と多いはずだ。
南正面には400もの弓兵を配備した。
ここにいる大胡はせいぜい1000。
そのうち弓兵は200もいればいいほうだ。
弓兵の養成には時間がかかる。
一人前に射撃ができるようになるまで1年。
速射・狙い撃ちなどができるようになるには10年以上かかる。
一昨年の川越と松山の戦では、150しか実戦に参加していない。
その時にも弓兵はいなかった。
弩弓を少しばかり使っていたようだが、弓兵をそう多く用意すれば長柄での近接戦で押し込まれるのは見えている。
そこまで馬鹿ではないはずだが……
しかし!
目の前に繰り広げられているのは何なのだ?
1町の距離での弓合わせ、先鋒の成田には200の弓兵がいる。
それが押されている。
押されるというよりも、見る見るうちに撃ち減らされていく。
矢盾を並べその陰に隠れつつ、時折立ち上がり狙いをつけて矢を放つ。
しかし敵はその立ち上がって狙いをつけている間に、矢の雨を降らせてくる。
そんな敵の攻撃に手傷を負うものが続出している。
先ほど使い番を走らせ、こちらも矢の雨を降らせよと伝えたが、すぐに戻ってきて「既に矢が尽きてきました。矢を送られたし」とぬかしおった。
矢を何本用意したのだ!?
一人30本以上用意するのが攻城の常。
それを言うたら「もう25本以上使ったとのこと」。
弓弦も切れていると。
これ以上は半里後方の小荷駄から持ってこねばならぬ。
ううむ。
それに比べ大胡の矢の雨は益々激しくなっておる。
一体何本用意したのだ?
敵の弓兵は矢盾に隠れて殆ど身をさらさない。
どうやら弩弓を使っているようだが、弩弓はこれほど連射ができようはずがない。
これは大量の弩弓を用意しているか、弓弦を引く役のものを用意しているか。
こちらが1本矢を放つ間に、敵は2~3本放っている。
もう軽く100本を消費しているはず。
そろそろ仕寄る頃合いか。
矢盾を吹き飛ばした大型の弩弓も、先鋒が「は、垪和様。自分はあの武器は見たことありませぬ」と言うておったが、当たらなければどうということはない。
すこし損害が出ようとも間合いが遠い時から散開すれば関係ない。
こちらは数で圧倒すればよい。
松山の時のような伏兵はできぬ。
前面にしか敵がおらぬとわかっている戦場。
長柄で勝負をつける。
気になるのは松山でやられた長柄の列の合間から放つ弩弓への対策が奏功するか。
それから、あの不気味な盾と段びらを装備した備えがどこで出てくるか。
これは注意せねばならん。
同日同刻
赤石砦東部正面
是政隊弩弓小隊背後
大胡是政
矢盾の列、ほんの少しの隙間から弩弓を放つ。
しかし兵が弩弓を保持しているわけではない。
角度をつけた台座に次々と配置・敵弓兵が姿を見せたときに合わせて引き金を落とした後、すぐに新しい弩弓に入れ替える。
その後ろでは臨時に招集した「農民兵」が弩弓に弓を番えている。
狙いはあらかじめ地面に差している目印を使い、おおよその距離を測り角度を決めている。
盲撃ちだ。
矢は前にいる常備兵1人に付き、500本用意した。
この正面だけで10万本だ!
鏃は鉄の大量生産で何とかなった。
しかし問題は矢の本体である細竹の大量入手だった。
いくら長弓より矢の長さが短いとはいえ、30万本以上の数だ。
しかしこれはサンカの手を借りて時間をかけ、それこそ日ノ本中の竹藪から取ってきた。
これを轆轤式の工作機械で加工する仕組みを、武具周旋方の活躍で完成させたのだ。
鏃の接合も爹児で補強したので短時間で済んだ。
北条方は短期決戦を考えているであろうから、それほど多くの矢を持ってくるとは思えない。
すでに手持ちの矢が尽きている頃だろう。
そろそろ仕掛けてくるはずだ。
来た。
矢盾に隠れて仕寄ってくる。
矢盾は思ったより少ない。
「よし、手順通り、訓練通り。
敵方を針山に変え血の河を作れ!」
兵はあらかじめ声を出さないように訓練してある。
親指を上に突き立てる、応という意思を示してくる。
振り返り矢倉に上を見ると、殿も同じように手で合図している。
あと少しだ。
敵は大型の弩弓を恐れて、早めに立ち上がり突進してくるだろう。
こちらはあらかじめ「全ての」弩弓、4000丁を東に向けて配置し、いつでも放てるように準備するだけだ。
20間まで仕寄った敵方中央(東に配置された)先鋒250が立ち上がり、一斉に突撃してくる。
北の200も同様に迫ってくるが、こちらは足元に凸凹と撒き菱が所々に散在している為、動きは鈍くなるはずだ。
南の那波本陣は矢倉への牽制で突出できずにいる。
殿の計算通りだ。
もう敵は5間先までに迫っている。
そろそろ行くぞ!
「是政隊! 敵東部正面中央、全力射撃!放て~~~~っ!!!!」
某の合図とともに弓4000本が、敵兵250へ目掛けて飛ぶ。
5間ならばそれほど拡散しない。
そして桶川胴の薄い部分なら焼きを入れた鉄でも貫通する。
一瞬後に、目の前前列敵兵たちが殆ど、針山になって倒れる。
後ろを走っている敵兵は眼を丸くして驚いた後、恐怖にひきつった顔になるのが見えた。
某は大きく息を吸い、力の限り叫んだ。
「是政隊!! 目標、東で恐怖に駆られている敵。突貫~~~~!前へ!!!!」
今度こそ、常備兵200が長柄を持って立ち上がり、敵に向かい突進した。
東部方面戦力比
200(常備兵)+200(招集兵)vs700
戦闘後
200+200vs450
同日同刻
赤石砦南西方垪和勢左翼
戸田頼母
松山の敵を取らねばならぬ。
あまりにもあっけなく負けた。
手の者も半数以上が手負いとなり、そのまた半数が死んでいった。
皆、伊豆で寝食を共にしたいい奴ばかりであった。
後で、垪和様は「失敗は誰にでもある」と慰めてくれたが、それで配下が生き返るわけではない。
100のもとからの手勢を元に、新たなる領地から徴収した足軽を訓練し250の備えを育てた。
此度は砦の西、防備の薄い柵を破壊しての侵入を指示された。
桃ノ木川と柵との間は50間もない。
しかし大した崖もなく、少人数なら侵入できると踏んでの作戦である。
その先鋒を仰せつかった。
後ろには柵の破壊とともに砦内に押し入る予定の兵600が控えている。
南正面の主力が弓矢合わせで苦戦しているようだが、こちらが柵を壊せば一気に情勢は変わる。
なんとしても成功させねば。
その時、最前列を行く足軽の姿がふいに消えた。
「殿! 前方に落とし穴。数名の被害が出ました!」
罠か。相当念入りに作ってあるらしい。
「落とし穴の向こうに尖った木をこちらに向ける障害物多数!」
松山の時のあれか。
やっかいだな。
「どのくらいある?」
「それが・・・行く手を完全に塞ぐように2重に」
!!!!
1重でも厄介なものを2重か……
これを突破するのは容易なことではない。
これでは向こうにたどり着くまでに、合戦が終わってしまう!!
北条方左翼700、遊兵化
同日同刻
桃ノ木川西岸
甚兵衛
先ほど兵糧丸少しと水を口にしたが、汗が出すぎだ。
これだけ暑いと水を飲めば体がだるくなる。
水を飲まぬ訓練はしているが、その状態で敵と試合うのは不利になる。
向こうも同じだと思うが、大胡の殿さんが「これ舐めてから戦ってね♪」といって渡していた塩の塊を口に入れて溶かす。
兵糧丸よりも塩味が遥かに濃い。
ぐんと力が戻る。
有難い。
儂が潜む叢の左前、雑木林の下生えがかすかに動いた。
風魔だ。
これは囮か?
斥候であることは間違いない。
ここまでの距離、およそ15間(30m)。
間には荒れ地が広がっている。
元は河原であったのだろう。
ここを損害なく前進することは不可能だ。
まだ、風魔にはこちらがこの方面に伏せていることは気取られていないはず。
あの斥候を躱せば本隊が姿を表すはずだが、もちろんこの繁みを捜索するはずだ。
どうする?
ここは石がゴロゴロしていて穴は掘れなかった。
ただ草で体を目立たぬようにしているだけだ。
近づいてくる。
もう2間もない。
殺るか?
叢に入ってきた。
息を殺す。
すぐ隣、手の届くところまで来た。
足を掬い、下の石に這いつくばらせ呼吸を止める。
背骨と頭をしたたかに打ち付けて、敵は黙る。
素早く着物を脱がせ、儂が身にまとう。
気取られていないようだ。
先に遠目で風魔の合図を盗んだ。
ここでその合図を送る。
これで本隊が出てきたら、短弓で狙い撃つ。
どれだけ倒せるか。
それが後の戦いを左右する。
既に西からも包囲してある。
逃げても無駄だ。
こちらの人数も把握できぬまま大損害を出すことになろう。
風魔の人影が見えてきた。
よし。うまくいきそうだ。
桃ノ木川西岸
戦力比
素ッ破150vs風魔200
戦闘後
素ッ破120vs風魔80
風魔撤退
戦闘の大原則。
ランチェスターの法則。
これを破るのが戦の醍醐味ですよね。
でもこんな例外は何度も通用しません。
信長も桶狭間以外は敵の2倍以上の兵力を用意して戦場へ赴いています。
やはり天才だなぁ。
桶狭間が奇跡だと、邪道だと認識している。
戦は基本、始める前に結果は9分がた決まっているそうです。
弩弓の大量生産、実は最優先に実施しています。
人数不足を投射兵器で補う方針はずっと続きます^^
概算で6年間かけて1万丁・年1200丁・月100丁ですね。
百軒の農家が月1丁作っていますね。農家の夜なべ仕事。
他にも夜なべ仕事はありますが。
最初に鍬から始まり様々な鉄製品を購入製造していたので可能となりました。
(こういった設定を作品に入れると戦闘描写に集中できないと思いここに書いています)




