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首取り物語:北条・武田・上杉の草刈り場でザマァする  作者: 天のまにまに
★★スカウトしちゃうゾ★★
31/262

【望郷】やっぱり上田城、作りたいよね

 1995年10月10日:中之条町岩櫃祭り参加者の会話


「歴女と言われる私たちは、おいそれと忍者なんかに魅力を感じてはいけないわ。

 この岩櫃城の魅力に比べたら、信繁なんか、信……幸村様~~~、やっぱり私、戦国時代のくノ一に生まれたかったですわぁ~……」



 1995年9月1日:冬木重工社史編纂室月報


「今月は冬木グループの礎を築いた冬木元頼が、初めて大胡筒の試射を行った日です。

 この発射音がこの冬木グループを全世界的な工業集団として繁栄させる号砲でした。大胡筒は当時の最新技術の粋を集めて、大胡領工業集落の技術者が5年の月日を費やし完成させたものでした……」




 1547年7月下旬

 上野国大胡城下寄合所

 真田幸綱(大胡に仕官したけど上田にどうしても帰りたい素ッ破の親玉)



 

 ふぅ。


 人にものを教えるとはこんなにも難しいとは思わなんだ。殿から仰せつかった親衛隊訓練兵への戦指揮や調略など。それから調略については儂もいろいろやってきたから、家臣一同に教えてくれと言われ、輪講と称して東雲殿や瀬川殿と入れ替わり教える立場になる。しかし、東雲殿や瀬川殿の話は、儂にとっても初めて聞くことばかりじゃ。嬉しいのう。


「それで、折り入って話ってなぁに?」


 殿がいつものように明るい笑顔で聞いてくる。

 言い辛い……


「素ッ破の者が、最近頓に信濃の事を報告してくるのですじゃ。それに寄りますれば……」

「佐久の事? 例えば依田さん?」


 ご存じであったか。殿の見立て、いつもながら感服する。まだ報告が上がっておらぬであろうに。


「はい。依田一族の笠原殿が佐久の志賀城で包囲されておりまする。上州富岡の高田様を通じて、上杉憲当(のりまさ)殿へしきりに援軍の要請をしております」


 殿は珍しく髷を弄らず、顎を捻りしかめっ面をして上を向いている。儂がこれからいう事を先に考えているのであろう。


「……やはり故郷は大事だよね。帰りたい?」

「……はっ。」


「佐久には親戚お友達は?」

「だいぶ……」


「だよね~。

 信・・晴信ちゃんは敗者には厳しんだよね。男は鉱山送り、女は……飯盛り女?

 人身売買かぁ」


 確かに殿の言うとおり、晴信殿の軍勢には奴隷を売り買いする商人が後を付いていくとの噂がある。高値で売り買いされているようだ。鉱山に送られたものは、多分二度と帰ってこれないだろう。


「辛いね。助けに行きたい?

 そして故郷を奪還したい?」


「……」



 儂は言葉が出なんだ。無理と決まっている。今の山内上杉家は川越の戦を境に、崩壊に向かっている。だからこそ晴信殿に臣従して、あわよくば上田に返り咲こうとしていた。あの悲惨な敗者を見て見ぬふりをして……

 それを殿に留められた。というよりも儂自身が決めたのじゃ。あのような悪になれんと。然らばここにいるべきと。


「悪には悪で対抗することも必要だよね。でもそれは今ではないと思うんだ。

 あと……」


 悪とは何を?


「1年、できれば3年待ってくれれば晴信ちゃんに一泡吹かせることはできると思うんだ。けど、それでも上田は孤立するよ……」


 それはわかっている。じゃが、このままではずっと上田には帰れんのではないのか? 仮に帰ったとして、態勢を整えている間もなく踏みつぶされるのが落ち。


 それでも帰りたいんじゃ。我が息子たち、家臣どもの息子たちを、上田原を駆けさせたい。


「晴信ちゃんを倒す。これしかない」

「!では暗殺を!?」


 素ッ破を使うおつもりか?


「いあいあ。それは悪い子ちゃんポイントが……うぷっ、悪名付きすぎ。戦場で倒す」


 そうなると非常に難しい。戦の隙をついての襲撃は、戦そのものがうまくいかねば事は運ばぬ。川越の戦の時は、夜戦でしかも戦働きの得意な風魔だからできたこと。それに氏康も戦上手。上手く嵌まった。それでも朝定様を討ち取れず、自害を許した。


「あのね。ここだけの話にしてくれる?」


 儂は頷いた。


「種子島って知っている? 今ね、これ大量に作る準備をしてるんだ。これがまたすごい威力で、50間先の鎧武者を軽々と倒しちゃうんだ~。今、試作品を作り中~」


 50間!


 素ッ破で襲撃するにしても、20間程度まで奥深くへと忍び込まねばなるまい。遠矢でも当てられるが、鎧は貫けぬ。


「これも時間とともに改良を加えるけどね。欠点があってまだ斬首作戦……ああ、晴信ちゃん襲撃だけど、それには使えないなぁ。

 だから最低3年。1年じゃあ、危険すぎるね。そのころになると多分、村上さんちとガチで決戦するんじゃない? そこを狙った方がいいよ~」


 儂は大急ぎで頭を廻らしたが、結論はだせなんだ。


「暫し考えさせていただきたい」



「いいよいいよ~。でも7月末には結論出してね。多分それまでには陣触れ出るから。その時に出陣するのなら準備早くしないとね。僕の手が届く範囲の人は何とかしてあげたいな」

 

 にこにこする殿を見ているはずの儂の眼は、まったく違う光景を見て、泳いでいたに違いない。







 1547年8月上旬

 信濃国佐久郡志賀城付近

 出浦清種(有名な出浦さんのおとやん。村上一族)



 目の前には米俵が10俵ずつ、草などで覆われて見えないように積まれている。合計100石余りになる。中身は半分が既に(ほしいい)に加工してある。

 手元の小さく織り込まれていた手紙と証文を改めて確認した。村上様からの指令だ。


「上田の御仁から米が届いた。佐久が落ちた際には皆を砥石と上野に逃がせ。その腰兵糧として俵の中にある糒を分け与えよ」


 上田の御仁。真田の幸綱殿か。5年前に武田に上田を追い出され、上野にて雌伏している。今は西上野の大胡にて厄介になっているらしい。


 最近は素ッ破を集めて、山伏とともに情報網を作り上げているらしい。儂にも誘いが来たが、これでも村上の一族。軽く見られたものだ。揚々誘いに乗るなどと思うなよ。銭に釣られて集まるものが多いと聞くが。


 そんな真田の手伝いをせよと義清様の命じゃ。もう、志賀城は持たぬ。

 後詰に来た関東管領殿の軍勢がいとも簡単に武田の別動隊に壊乱させられ、死傷者と捕虜を出して這う這うの体で逃げて行った。水の手も金堀衆に切られた。明日にでも総掛かりであろう。


 その後、男は鉱山送り、女子は飯盛り女として買われていく。殿は、この者たちを逃がせという。武田勢の後には、必ず奴隷商人が付き従い、敗残兵とその家族はその場で買い取られる。


 武田の本隊が帰郷した後の、ほんの一瞬だけ奴隷商人だけになるであろう。その隙を狙い、攪乱、逃亡させる。村上領に逃げ込ませるものと、上野に向かわせるもの。どちらかが囮の役目になるが、致し方ない。


 その際、逃亡を防ぐために、必ずや捕虜には食料は与えないでいよう。籠城にて体力が落ち、空腹の者が多いはず。そのものに粥を食わせ、糒と水を持たせる。そして少人数で分散して逃げるのだ。


 笠井と高田の者には、村上と上野の者の血縁が多いと聞く。その願いを義清様が聞き入れたのであろう。儂らにも知人はたくさんおる。きっと真田殿もそうに違いない。


 しかし、この大量の米と糒はいったい誰が仕込んだのだろう?この手紙を持ってきた山伏に聞いても、とんと見当がつかぬと言っていた。


 まあよい。これから大仕事ぞ。


 大脱出じゃ。








 1547年9月上旬

 上野国華蔵寺西工業集落

 冬木元頼(この人の家系は財閥になっちゃうのかぁ。やっぱ努力と運次第だね)



 初めての煙硝が運び込まれる。殿が入城してより5年。最初に始めたのが、厠の増設であった。牛馬の糞尿も大事だが、まずは人糞だとか。殿は青い顔をしながら厠の製作を指揮していた。以前、厠で怖い思いをしたせいであると苦笑いして、「でもこれ一番大事~」と必死で作業を眺めていた。


 大事なのは尿だと言い、それを溜める桶を大量に作った。あとはヨモギの葉と蚕糞の回収。蚕は沢山飼っているので問題ない。これを専用の「公衆便所」の軒下に穴を掘り層になるように埋めていくのだ。夏には掘り返しかき混ぜる。その繰り返しでようやっと今年初めての煙硝ができた。


 それに間に合わせるようにと、皆が汗を搔き掻き種子島を作り上げた。種子島そのものは既に2丁、堺から取り寄せてあった。

 問題はどのように大量生産をするかであった。昨年末、初めての高炉が稼働し、銑鉄を鋳型に流し込んで鉄材が作れるようになった。

 反射炉も稼働したので、様々な形の良質な鉄製品も作れる。


 しかし、そこからが難問であった。用意した轆轤式の旋盤がうまく作動しない。銃身に使う空洞の鉄棒の内部をなだらかにするための(やすり)の歯がすぐにすり減ってしまうのだ。


 この改良に半年かかった。とある職人が「油を付ける」ことを思いつかなければ、もっと時間がかかっていただろう。

 とにかく、間に合った完成品は元の種子島とはかけ離れた形をしていた。まずは銃身の下にある木製の部品が小さい。これは銃身の強度が増していることで為しえた。


 また、そこに収めるカルカ(弾込めに使う棒)を木製から青銅製に変えたことにより強度が増し、以前の種子島が勢いよく火薬を詰めるとカルカが折れて使用不能になるという事もなくなった。


 最大の違いは銃床である。種子島はその保持に右手にて銃尾を顎に押し付け固定していたが、これは肩で固定できるので狙いが付けやすくなった。

 更に狙いを付ける照星と照門。この凹凸の目印に合わせれば簡単に狙える。


 まだまだ細かいところは粗削りで完成とはいいがたい。特にまだ真っ直ぐ飛ぶ物が半分にも満たない。これから改良せねばならぬ。


 これらの事は大半が殿の仰せに従い工作したものであるが、至る所に職人たちの工夫がなされていた。それを見て大喜びの殿を見て我々も顔を綻ばせ、皆で一体感を感じたものだ。


 さて、これから目の前で、選ばれた撃ち手が構えて発射の時を待っている。

 殿の号令だ。


「あ~ゆ~れでぃ~?? ふぁいえる!!!!」


 遂に5年間の苦労が、轟音とともに発射された。






 戦国時代って悲惨なんです。なんといっても小氷河期で食料争奪戦!

 弱肉強食、ヒャッハー!な時代です。




 最初から銃床と照門付けちゃった……

 これで次はチャート掘ってくると、大変なことに!


 あと、自信はないのですが、当時の最強カルバリン砲などは一体成型の鋳造だったそうで。

 日本の刀鍛冶による、鋼製でも金棒に巻き付ける手法での製作よりも頑丈であるとしました。


 我が家は一家そろってNHKのブラタモリの大ファンです。

 白川郷の回で大規模な硝石生産施設が紹介されていて、これはすごい!と思ったことがありました。

 あそこだけで幕府と前田藩の需要を支えていたとは驚き。

 あとで出てくるのですが、作者の大誤解というか殆どの人が知らないであろう現実発覚。火薬の事調べていたら科研の研究報告書で「戦国時代後期の火薬は日本に限らず殆ど硝石を自給自足していた」!と出ていて。このストーリーが完璧に覆されたのですが、色々と工夫して整合性を出しています。







 最初「レディーパーフェクトリィ? ファイエル!」だったのですが、流石にパロディが過ぎると思い自粛。


 【作者からのお願い】


 続きが読みたい!

 作者のボケをもっと見たい!

 技術革新の行方を見て見たい!

 世界線の変更を見守りたい!


 そんな風に感じた方はブクマと★を1つでも結構ですので付けていただくと大変励みになります。よろしくお願いします。

 作者、病弱故、エタらないように★のエネルギーを注入してください!なんとか最後まで書かせてくださ~い




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 照門つけるなら照星もいかがでしょうか? といっても銃身に溝ないから意味ないか。
[良い点] そっかあ、お亡くなりかあ。ありがとう!や
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